8話
空気が美味い。
それがアイクル村に対する評価だった。
シャルロットはウルキアの手掛かりを求めて、かつてウルキアがあった土地にある村について聞き込みをした。その時に皆が必ず口にした言葉がそれがだった。
「アイクル村? あぁ、そうだな……。のどかで、自然が多くて、空気が美味い。あとは……空気が美味い」
ーーどんな所って聞いて、空気が美味いって2回言われる村なんて初めてね……
何もないとか、田舎だとか、そう言った事は言わずに、気を遣ってなおそのくらいしか出てこないのがまた泣ける。
ウルキアがかつて存在した土地には、現在アイクル村という小さな村が存在していた。そのアイクル村の西に向かうと広大な森が広がっており、かつての妖精帝國は森と小さな村だけという見る影も無い姿になっていた。
ーーまぁ、怪しいのは森の方よね。
シャルロットは、村へ向かう乗り合い馬車に揺られながら今後の方針を考えていた。
村での聞き込みもしてみようとは思うが、何かありそうなのは森のような気がしていた。
ーー何か知ってる村人がいれば話は早いのだろうけど、そうそう上手くはいかないわよね……
森の探索となると、かなり大変そうだ。長期戦も覚悟しておかなければならないだろう。
ーーとりあえず、到着したら美味しい空気でも味わいましょうかね。
「空気が美味しいっ! ……美味しい、のかなぁ?」
リーゼロッテはアイクル村に到着すると深呼吸をした。ここに到着するまでに空気が美味いという評判を聞き、どれほどのものかと思ったのだ。
ーーまぁ、そうだよね。
田舎特有の都会より空気が美味しい、というレベルの話だった。リーゼロッテ自身、辺境出身のため特別美味しいとも感じなかった。
あまりにも話をする人みんなが言うものだから、そんなにすごいのかと思わず少しだけ期待してしまった。
シャルロットが一緒であったなら、やっぱりね等と共に笑いながら良い思い出になったかもしれない。そう思うと寂しくもあった。
いつもよりテンション高めに声に出しても、空気の美味しさは変わらないし、寂しさが吹き飛ぶわけでもなかった。
ーーとりあえず宿の確保かな。
村の人に聞き込みもしたいし、森についても調べたかった。
村の入り口からは、畑と民家は見えるが宿屋らしきものは見当たらない。少し不安に思いながらリーゼロッテは村に足を踏み入れた。