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公爵家五男の異世界行脚  作者: ナカタクマ
第三章〜其の闖入者に饗しを〜
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第四十八話:思い重い想い憶い

前回の話を投稿したところブックマークが減ってしまいました。確かにちょっと鬱気味な話だった気がします。でもその後評価ポイントが入ってて・・・読者の皆様全ての好みに応えるのは難しいと思いました。

これからもぼちぼち、自分の好きな展開で話を続けていけたら良いなと思っております。


 スティアが天翼族の王族?


 いや、へ?一体どうなってんの?


 修道女、ウルミアの口から出た事実の所為で、その場にいた全員が言葉を失っていた。

 

 ただ一人を除いてーーー


「ふむ、その話詳しく聞いてもいいか?」


 俺たち同様に、二人のやりとりを見ていたフラムベリカが声をかけた。


 ウルミアが一瞬フラムベリカを睨み、スティアに視線を向ける。そして何かを察したスティアが、コクコクと頷いた。


 許可を取ったと思われるウルミアは、フラムベリカの質問に答えた。


「貴様ら人族(ノーマル)が血縁や功績で支配階級を選ぶ様に、我々天翼族(アティカルス)森林族(エルフ)などの異種族と呼ばれる者たちにも王族が存在する。その証の一つが、この金眼だ。」


 そう説明され、俺は改めてスティアの両目を見る。スティアも俺の視線に気づいて一瞬目を合わせたが、恥ずかしそうにチラチラと目を逸らす。


 確かに俺は、スティアの眼を太陽の様だと思っていた。しかし、改めてちゃんと見ると金に近い色彩を放っている事に気づく。


 金色の眼と言われ思い出したのが、俺は数ヶ月前に会ったなんちゃって森林族を思い出した。

 まあ、アイツは確か祖森林族(ハイエルフ)だった気がするが、ファンタジー小説とかじゃ祖森林族は森林族の王族って設定があったよな。

 恐らく、この世界でもそうなのだろう。


「あの、ユークリスト様、恥ずかしいです。」

「へ?あ、ごめんごめん。」


 スティアが恥ずかしそうに目を隠す、それを見たウルミアがスティアの目を覆い『ガルル』と唸りながら威嚇してくる。

 コイツ、保護者みたいな事しやがって。


 フラムペリカが再び口を開いた。


「なるほど、皆聞いていたな?」


 全員が頷く。


「よろしい、この場で聞いた事は一切他言無用だ。この私、フラムベリカ・スノウ・グリバーの名に於いて命ずる。もしこの事実が露見した際は、何かしらの形で罰が降ると頭に置いておけ。」


 そう言ったフラムベリカの様子は、貴族然としていていつものおちゃらけた感じはしなかった。

 何かしらの形の罰ってなんだよ?怖すぎるって。


 フラムベリカのその言葉で、その場はお開きになった。俺は俺で色々整理したい事があったから、部屋に戻って休む事にした。


 あ、そう言えばまだ夕飯食べてねえな。

 まあ、屋台で買い食いしたから大丈夫か。


 俺は天井を見つめながら、先ほどあった事を考えていた。しかし、スティアが天翼族の王族だからって俺に何が出来るのだ?と考えたら、何もする事がないなと思い至り、この件について考えるのはやめた。


 俺はいつも通り、スティアの居場所であれば良い。あの子が、安心して生活できればそれで良い。


 部屋では、ノートがロキに先程の出来事を説明している。しかし、ロキはどれだけ聞いても理解できないようだ。

 まあ、子供に難しい話は理解できないだろう。


 そうして考えていると、扉をノックする音が聞こえる。


「ユークリスト様、夕食の準備ができました。」

「あ、はい、いま行くよ。」


 スティアではない侍女が呼びに来た。

 最近は、ずっとスティアがやっていた事なのに。

 まあ、当たり前か、今回の件で一番驚いたのはスティアだからな。

 

 俺は侍女の後ろを追ていき、食堂に入った。

 あの侍女、いいお尻してたな。子供目線だから、バッチリ尻に固定されるんだよな。

 眼福でした。


 そんな気持ちが、食堂に入った瞬間打ち砕かれる事になるとは。


「・・・何故、貴方が居るんですか?」

「スティカリリア様の近くにいる為だ。フラムベリカ殿の申し出により、しばし此方でお世話になる事になった。」


 スティアの横に控える様に、ウルミアが立っていた。まあ、また不法侵入されるよりはマシか。

 しかしまあ、フラムベリカも問題事を抱えるのが好きだな。

 いや、この人にとっては、それぐらいのハプニングの方が刺激があって、ちょうど良いのだろう。


 俺の目の前には、ニンマリと楽しそうに微笑んでいるフラムベリカが座っていた。


「悪い奴ではないだろ?」


 知らねっすよ。

 俺がウルミアについて知っているのは、ヤバい奴だって事だけっすよ。


 そんな事を考えていると、ルルティアが入ってきた。ウルミアの顔を見て一瞬、ぎょっとするが、すぐに平静を取り戻し咳払いをしながら席に着いた。


 今日の料理は、牛肉のステーキに赤ワインのソースを垂らした肉料理と、コンソメ似風味のスープ、北部野菜にチーズをまぶしたサラダとか、後はフルーツだった。


 俺はいつも通り、スープが適温に冷めるのを待つ。忘れられているかもしれないが、俺は猫舌だ。

 北部生まれの猫舌なんて、南部生まれの汗っかきみたいなものだろ?


 つまり、体質と環境が合ってないってことだ。

 うーん、こういうのを解決する魔道具を作ることも大切だよな。温度を保つ魔道具、もしくは設定した温度まで調節する魔道具とか。

 これから寒くなるからな、必要になってくるだろ。


 後ろに立っていたスティアが、いつの間にか俺の横に立っていた。頬を赤らめて、モジモジしながら上目遣いにこちらを見ていた。

 お腹でも空いているのだろうか?


 一瞬、背後から感じた殺気に身震いした。

 出所はわかってる、アイツだ。


「ゆっ、ユークリスト様。しっ、失礼します!」


 もじもじスティアが意を決した様に、スプーンでスープを掬い俺の方に向けて口を開いた。


「あ、あ〜ん。です・・・」


 恥じらいながら口を開け、揺れ動く金の瞳が上目遣いに此方を見つめる。夕暮れ色に染まった頬が熱を持っている事が分かる。


 時が止まるほどの愛らしさだった。


「へ?すっ、スティア、何してるの?」


 途端に俺も恥ずかしくなる。

 こんな事されたのは乳児以来の出来事だった。


「ゆっ、ゆーくりすと様の、お食事のお手伝いをしましゅ。」

「え、いや、そんな、大丈夫、だよ?」


 物凄く恥ずかしそうにそう答えるスティアの表情は、途轍もない破壊力を持っていた。

 俺の中にある可愛さの価値観が、真正面から破壊された気分だ。

 そんな様子を見ていたルルティアは食事を止め、フラムベリカはニヤニヤと此方を見守っている。


 やべえ、なんとかしないと、頭がバカになる。


 そう考えている間にさらなる追い打ちが、スープから湯気が出ているのを見たスティアが、それを口に近づけて『ふー、ふー』と冷ましてくれた。


 それを見て、俺の心臓が更に激しく動き出す。

 今自分がどんな顔をしているのか、想像もしたくない。


「はい、あ〜ん。」


 あぁ、もう理性なんてございやせんぜ。

 

 俺はあ〜んを頂いた。


「あっははははは!!良いなぁ、初々しいぞユーリ。普段は利口そうにしているお前も、年頃の男の子というわけだ!」


 俺らの様子を見ていたフラムベリカが、爆笑している。分かった、これを仕掛けたのはあの女だ。


「フラム姉、スティアに変な事を吹き込まないで下さいよ。」

「変な事とは心外だな。見事な愛妻っぷりだと思うぞ。」

「なっ!?愛妻って!」


 いきなり何を言い出すんだこの人は。

 愛妻って、そもそもスティアと俺は結婚なんて出来ないだろ。いや出来るけど、妾とかそういう立場になるし、そんな形でスティアと結婚っていうのもなんだか。


 いやいや、何を偉そうに上からモノを言ってるんだ。


「あいさいって何ですか?」

「めっちゃラブラブな事です。」

「めっちゃ、ラブラブ・・・・」


 解説バカすぎるぞ修道女!


 俺は咳払いをして、フラムベリカを睨む。

 後ろにスティアがいるから無言の意思表示になるが、フラムベリカは俺の意図を受け取った様だ。


「ユーリ、一度ちゃんと考えてみろ。」

「そっくりそのまま返しますよ。」

「ふっ、まあ良い。ウチは公爵家だ、如何に三男のお前といえど、最低でも子爵以上の家格の人間と婚姻する事が求められる。」

「ええ、それは分かってますよ。」


 それを聞いていたルルティアがナイフを落とす。


「結婚?ユーリが?」


 ごめんお姉ちゃん、今相手にしてる時間ない。


「しかし、どんな所にも例外は存在する。例えば、何世代か前に平民出身のS等級(ランク)冒険者を正妻に迎えた例や、希少な特異術に適性があった者を籍に入れた例もある。」

「はあ?」


 いまいち、話が掴めそうで掴めない。


「ユーリ、お前はこの手の話題なると途端にボケだすな。自覚が無いのも重症だが、ワザとやっているなら、もっと重症だな。」

「いや、本当に分からないんですよ。」

「後ろを見てみろ。」


 フラムベリカが指指した方向、俺は後ろを振り返った。真っ赤にした顔を両手で覆い隠し、指の隙間からこちらを見るスティアと、全力でガンつけるウルミアが立っていた。


 その時、俺の背中に嫌な汗が流れた。


「天翼族の王族というのは、例外になるだろ?」


 ああ、そうか、そう言うことかよ。


 スティアの様子が可笑しい原因が漸く分かった。


 あの地下室の出来事が終わった後、恐らくフラムベリカがスティアに入れ知恵したんだ。

 スティアの身元故に保証される、俺との結婚の可能性を。だからスティアは、今までやった事のないあんな事を。


 恥じらいながらも、一生懸命やってくれたのか。


 心臓が、本能が、理性が、ほんの少しの下心が騒めき立つ。目の前で恥じらう、この天使の様な少女に対して銅鑼を鳴らしている。あっ、除夜の鐘も聞こえる気がする。


 こんな子にこんな事されて、こんなに想われて。

 好きにならない方が、可笑しいのだろう。

 そうだ、可笑しいに決まってる。


 バヂッ、という音で現実に戻される。


 背中の嫌な汗が止まらない。

 

 俺は自分の対面上座っているルルティアを見る。

 バヂッバヂッ、と激しい静電気が威嚇している。

 その目の奥には、光が無い。


「ユーリ、お姉ちゃんの事はどうするの?」

「・・・・・・」


 どうすれば良いの!!!???



ーー



 ユークリスト様と結婚できる!!!


 ウルミアという人が、私とお父さんとお母さんについて色々な事を教えてくれたけど、私は混乱して全くわからなかった。

 でもその後、私の耳元にフラムベリカ様が教えてくれた事だけは、この先一生忘れない自信がある。


 ユークリスト様と結婚できる!!!


 私がこの公爵家に来た時からずっとユークリスト様が好きだった。大好きだった。

 お母さんはこんな気持ちでお父さんを見ていたのかと思うと、とても幸せな気持ちになる程だった。


 でも、その気持ちは次第に叶わないモノになるかもしれないと思い始めていた。


 貴族の家だから、公爵家だから、当然ユークリスト様の婚約者の話だって聞く事があった。

 始めは、そんな人達より私の方がユークリスト様の事を好きなんだから関係ないって思ってた。

 私の気持ちを、ユークリスト様も受け取ってくれると思っていた。


 でも、そんな事は関係なかった。

 それがユークリスト様が生きる世界なんだ。


 当然私は傷ついたし、それに気づいた日はずっと泣いてた。


 ユークリスト様が好き、大好き、だけどこの気持ちは届かない。

 ユークリスト様にギュってしたい、チューもして欲しい、だけどユークリスト様の手が私に向く事はない。私の手は、見えない何かに阻まれてしまう。


 その次の日も、次の日も、ユークリスト様と顔を合わせる。

 ユークリスト様の笑顔が、声が、その仕草が。

 全てが愛おしくて、私を諦めさせてくれない。

 ダメって分かってる、あの時ボロボロだった私を助けてくれたこの家の人達に迷惑をかける事だって分かってる。


 それでも良いと思うくらい、ユークリスト様の事を愛してる。


 だから、ユークリスト様の近くにいられるだけでは我慢できなかった。

 いつか私がユークリスト様と結婚できる様に、何か頑張らないといけないと思っていた。

 それが何かは、具体的には分からないけど。


 兎に角、私のこの気持ちをユークリスト様に伝える事が大切だと思った。

 私がどれだけユークリスト様の事が大好きか知ってもらって、私と同じくらいユークリスト様にも私のことを好きになって欲しい。


 でも、ユークリスト様に拒絶されるのが怖い。


 私の全てが破壊されてしまう。

 私の居場所が、無くなってしまう。

 だから私は、この一歩を踏み出す事が出来ない。


 ユークリスト様と離れる事が怖くて、近づく事が出来ない。


 でも、もう躊躇わない。


 ユークリスト様と結婚できるから。

 ユークリスト様のお嫁様になれるから。

 ユークリスト様を旦那様に出来るから。


 ユークリスト様と家族になれるから。



ーー



「スティカリリア様、お背中をお流しします。」

「そんな、様なんてやめてください。」


 スティカリリアとウルミアは浴場にて、その身体を清めていた。

 ウルミアは直ぐにでもスティカリリアを連れ出そうとしていたが、スティカリリアの様子とこの公爵邸の様子を見て判断するべきだと考えを改め、公爵邸に世話になる事になった。


 ウルミアの身分に関しては、フラムベリカの知り合いという体を取った。公爵家の長女であるフラムベリカの客となれば、誰も口を挟まないからだ。


 浴場に入り互いに身体を洗っていた二人は、まだぎこちない雰囲気である。


「いえ、貴方様は由緒正しきスカイハート家の生き残りであり、我々同胞の希望であるのです。どうかこのままで、ご容赦願います。」

「うぅ、じゃあ、分かりました。」


 頭を洗いながらウルミアが並べた言葉に気圧されたスティアは、渋々に了承した。

 この子供は、押しに弱いのだ。


「ありがとうございます。じゃあ、次は私の番。」

「そんな!スティカリリア様に、私の汚れた体を洗わせるなど畏れ多いです!」

「え、でも・・・・」

「どうぞ、スティカリリア様は湯に浸かって下さい。私も後で向かいます。」


 この子供は、押しに弱いのだ。


 湯に浸かったスティアは、まだ夢の中にいる様な感覚だった。ユークリストと結婚できるという事実は、それほどの衝撃だった。


 頭が呆けて、のぼせてしまいそうだ。

 いや、既にのぼせているのかもしれない。


 スティアは、自分の身体を洗っているウルミアの後ろ姿を眺めた。

 あの悲劇から生き延びた自分が、両親の次にあった同種族。


 背中にある数多の傷跡が、その道筋の苛烈さを物語る。剃り上げて髪が無くなった頭は、ここまで来るための覚悟を自分に語っている。


 自分に会うために、この人はこれだけの事をしてくれた。自分はこの人に、何をしてあげる事が出来るだろう。


 スティカリリアの頭の中は、そんな思い出いっぱいだった。


 一番良いのは、この人に着いていく事だ。

 そうすれば、この人以外の天翼族に会うことも出来る。きっとそこが、自分の居場所なのだろう。

 

 でもそれは、ユークリストと離れる事になる。

 それが、今のスティアにとって最も耐え難い事なのである。

 想い人と離れる苦痛と、二度と会えないかもしれない恐怖が、スティアの心を縛りつける。


 身体を洗い終えたウルミアが、湯に浸かる。


 悩みで心が一杯になっているスティカリリアと、口が上手い方ではないウルミアが同じ湯に入る。


 スティアの様子から何か考えているのを察するウルミアだが、それが何かは分からない。

 必然的に気遣い、必然的に沈黙する。


 そして、気不味くなる。


「「・・・・・・」」


 水滴の落ちる音だけが、木霊する。


「えーと、そのですね。」


 ウルミアが沈黙を破る。


「私達が一番に望むのは貴方様が幸せになる事です。ですので、此処に残るというスティカリリア様の選択も、当然支持しようと考えています。」


 それを聞きスティアの顔は明るくなり、そして暗くなった。


「でも、それじゃあ他の人達はどうするんですか?」

「他に散らばった同胞を探しながら、永住できる土地を探しそこから新たに始めます。」


 柔らかい表情で話すウルミアの目から、スティアを気遣っている事が伝わってくる。

 スティアと会う事が叶い、ウルミアの中で何か変化があったのだろう。


「あ、あの、私の事は、スティアと呼んでください。」

「あ、愛称で呼ぶなど、私には分不相応です。」

「いいえ、呼んでください!」

「でも、それは・・・」

「親しい人達は、みんなそう呼んでくれます。」


 それは、スティアなりの歩み寄りだった。

 ウルミアは、表情を綻ばせ頷いた。



ーー



 次の日も、スティアのアピールが続いた。


「ユークリスト様、汗をお拭きします!」

「ユークリスト様はい、あ〜ん。」

「ユークリスト様、マッサージしましょうか?」


 可愛さの乱撃で殺されそうだ。

 天よ、何故こんな可愛い生き物を生み出したのですか?私の心は、心臓は、その破壊的な威力に耐えられません。


 昼下がりの午後、俺は地下室で新しい取り組みを行っていた。


 新魔術の開発と、新しい魔道具の作成だ。


 現在俺が魔術銃で使えるのが、初級『(バレット)』系の魔術ぐらいだ。

 他にも魔術はあるが、咄嗟の状況で汎用性のある魔術がこれぐらいなのだ。


 だから今回は、咄嗟の戦いでも使える魔術を作ろうと思う。


 因みに、魔術の開発に関してはそこまで難しくない。魔術に関するイメージとそれに即した詠唱であれば、問題なく使用する事ができる。


 まあ、それと実用的であるかどうかは、別の問題だが。


 実際に年間何百と新魔術が考案されているらしいけど、実際に使える魔術はほんの一握りだ。


 だから大抵の魔法士達は『〇〇の精霊の理を受け〜』っていう定型分を使って詠唱を作る。


 こういうのを、定型魔術(ていけいまじゅつ)という。

 

 これとは反対に、定型分を用いない詠唱で発動する魔術を自律魔術(じりつまじゅつ)という。


 例を挙げるなら、バレットの専属騎士であるティティウスの『炎之園(フレイリア)』とかだな。

 

 定型魔術と自律魔術の違いは、質だろう。


 定型魔術は良くも悪くも平均的な質の魔術。

 詠唱者によって質が左右される自立魔術と違い、定型魔術は軍用魔術に使われている。


 自律魔術の質はピンキリである。

 作った人間専用のと言えば良いのか、イメージと詠唱がピッタリあっていないと、その威力により暴発することもある。


 フランチャイズの定型魔術と、

 個人経営の自立魔術と言ったところだな。


 俺が今回作るのは定型魔術の方。

 ある程度形にした後は威力を調整できるから、俺としてはこっちの方が向いている気がする。


『それで、何かアイディアはあるのじゃ?』

「うーん、まあ、考えてるよ。」


 俺が考えているのは、直線的な軌道の魔術ではなく変則的な軌道で相手を追い詰める魔術と、シンプルに相手を拘束できる魔術だ。


 素早い相手を止めるための魔術を作ろうとしている。


『のうユーリよ、ワシにはお主のやる事はこれじゃない気がするぞ。』

「これじゃないって、じゃあ何をすれば良いんだよ?」


 出来るだけ速い魔術の方がいいのか、それとも広範囲に影響を与える魔術の方がいいのか。


『そりぁ勿論、スティアの事じゃよ。どうするつもりなんじゃ?』

「どうするも何も、スティアの選択を尊重するに決まってるだろ。」


 範囲が絞られた方が威力は上がるよな。

 広範囲の方は、他の所にも影響を及ぼしそうで使い辛いかもしれない。


『はぁ、それでユーリは満足するのか?』

「満足って、スティアの為になる事が一番だろ?」


 相手を追尾できないかな?

 追尾する為の条件とイメージ、そんで詠唱がちゃんとしてれば出来るんじゃないか?


『ワシは、ユーリ自身がどうしたいのか聞いとるんじゃ。』

「だから、この件で俺の意思なんて関係ないだろ。」


 いや、既に追尾機能がついた魔術の例があるかもしれない。図書館に行ってみるか。


 俺は公爵家が所蔵している本がある図書館に向かう。行きの廊下でも、会話は続く。

 因みにロキは、訓練場にある案山子で遊んでる。

 

『自分の意思は関係ないと言っとったが、あの子が行う全ての事にお主の影響がある事は、一文瞭然じゃろ。』

「だからこそだよ。今回の事は、スティアが自分の人生を歩む良いきっかけになるんだよ。そこに俺の意思が介入してしまったら、本末転倒だろ?」


 図書館に入ったらどんな本を探そうかな。

 まずは魔術に追尾機能を付けるとかの研究本と、『陣紋式(じんもんしき)』魔術の発動について書かれている本を探そうか。


 忘れている人の為に言うと、魔術の発動は『詠唱式』と『陣紋式』の二つに分かれている。


 詠唱式は言葉を使うが、洗練されれば無詠唱もできる様になる。

 陣紋式は魔法陣を使うやつ、事前の準備と汎用性に問題はあるが魔力の消費がない。


 俺の魔術銃(リボルバー)に使っている弾丸が、陣紋式を採用している。


 魔術銃をグレードアップする為に出来る事があるなら、積極的に取り入れるようにしよう。

 

『なら、その考えをスティアに伝えるべきじゃ。』

「なんて伝えたら良いんだよ?」


 図書館に入って本を探す。

 俺よりも遥かに高い位置にある本を取るのは、一苦労だ。魔力で身体能力を強化して車輪付きの梯子を押しながら、本を探していく。


『大切に思っている事を伝えるんじゃ。』

「大切にって、いつもそういう態度を取ってるんだから伝わってるに決まってるだろ。何を、今更改まって。」


 本棚を探すが、目当ての物は見つからない。

 

『あの子は今不安になっとる。自分がユーリと離れてしまうかもしれんとな。』

「離れるわけないだろ、現に今朝だってあんなに可愛かったし。」


 追尾機能を付ける研究は、この世界じゃ行われていないのか?


『それは、勿論嬉しさもあるじゃろうが。一番は離れたくない気持ちの裏返し。お主の気を引きたいのじゃよ。』

「そんな子供みたいなーーー」

『あの子は子供じゃよ。そしてユーリお主もな。』


 本は、見つからない。


「・・・・やっぱ辞めた。」

『ユーリ、スティアの所に行くのか?』

「・・・お前なんで童貞なんだよ?」

『うにゃっ!?それは今関係ないじゃろ!!』


 廊下に出て、そこから訓練場に出た。

 弓の練習をしているルルティア達がいたから、俺は遠巻きに見守る事にする。


 ルルティアとスティアは、最近ああやって弓の練習をしているらしい。

 最初は弓が届かないとか変な所に飛ぶとか、そういう話をよく聞いていた。

 そこから届くようになり、当たるようになり。

 連続で何回当たったとか、真ん中に近いとこに当たったとか。

 そういう話を、笑顔で話してくれた。


 あの子の笑顔があれば、俺は十分なんだ。

 あの子がもう傷つかなければ、俺は良いんだよ。


 これ以上、あの子に何かを求めるなんて出来ない。


 的に弓を当てたスティアが喜んで飛び上がる。

 後ろにいたウルミアも、喜んでいる。


 俺は自分の部屋に戻った。


 特にやることなんてない。


 ただ、時間を貪っただけ。



ーー



 俺はスティアを呼び出した。


「ユークリスト様、御用はなんですか?」


 俺の部屋で、俺とスティアの二人きり。

 スティアはソワソワした様子で、その顔は明るい。ウルミアに合わせた効果だろうか。


「ウルミアさんと、少しは話せたかな?」

「はい、私の故郷について教えてくれました。」

「そうなんだ、僕にも教えて欲しいな。」

「良いですよ。えーとーーー」


 スティアは、俺にウルミアから聞いた故郷の事を話してくれた。まだほんの少しだけど、故郷の様子や暮らしぶりなんかを教えてくれたらしい。


 俺はスティアの話をただ聞いた。


 スティアは故郷での暮らしを殆ど覚えていないのだろう。その様子は、まるで夢物語を語る少女の様だ。


 いや、少女なんだ。

 本来いるはずだった場所を奪われた、傷ついた少女なんだよ。

 

「スティア・・・・・」

「・・・はい?」

「もし良かったら、ウルミアさんと一緒に行っても良いんだよ。」

「・・・・え。」


 この子は、本来いた場所に戻るべきなんだ。


「ウルミアさんの他にも、天翼族の人達がいるらしいんだよ。その人たちと会って見たらどうかな?そしてさ、此処以外場所を見て回ってみたら良いんじゃないかな?」


 スティアの様子が、顔色が暗くなっていく。

 言葉を重ねる度にスティアとの間に見えない壁が築かれていく様な感覚がする、心臓が締め付けられていく。

 自分がいま何を話しているのか、何が目的なのか分からなくなる。

 俺が願っているのはスティアの幸せなのに、いま俺がしている事は彼女を傷つけているだけだ。


「いや、別にこれでお別れって訳じゃないよ。この街を拠点にするのも良いし、定期的顔を見せて欲しいって気持ちもあるよ。ただ、同じ天翼族の人達と一緒にいた方が良いと思うんだよ。」


 空気が重い。

 俺の想いはどれほど彼女に伝わっているだろうか。恐らく、思っている事の一割も伝わっていないのだろう。


 憶い出されるのは、初めてスティアと会った時だ。あれから三年も経ったのか、早かったな。


 檻の中に捕らえられた、傷だらけで怯えながら俺を見つめていたスティア。

 言葉遣いを直すために、別の間違った言葉遣いで話すスティア。

 俺の為にシチューを作ってくれて、その反応に一喜一憂するスティア。


 どの彼女も、俺にとって眩しくて尊い。

 この子の笑顔を、一生守っていたくなる。


「・・・・・いやだ。」


 守っていたかった。


「・・・いやだいやだ。」


 でもそれは、俺の我儘なのかもしれない。


「嫌だ!!」

「ッ・・・!!??」


 耳を劈く叫び声が部屋中に響いた。


「ユークリスト様と一緒にいたい!ずっとずっと一緒にいたい!他の人の事なんて知らない、私はユークリスト様と居たいのぉ!」

「え?いや、スティア。」


 子供が駄々を捏ねるようにーーいや実際子供なんだけどーースティアが叫んだ。

 俺は衝撃を受けて、呆気に取られている。


「ユークリスト様の為にシチューを作って、直ぐに飲めるお茶だって出せる!ユークリスト様がゆっくりしたい時は邪魔しないし、ロキちゃんやノートとも仲がいいもん!!他の女の子に出来ると思う!?絶対出来ない!わ、私が一番なのぉ!」


 その訴える姿が、俺の心を打っていく。


「ユークリスト様におはようって言うのも、朝の訓練が終わったユークリスト様にタオルを渡すのも、ユークリスト様の後ろを歩くのも、ユークリスト様が授業をサボるのを見て、ユークリスト様が変な事してるのを見るのも、ユークリスト様が俺って言ってるのを聞くのも、ユークリスト様におやすみって言ってもらえるのも、私なの!ユークリスト様になでなでして貰って、ぎゅってしてもらって、手を繋いでもらって、ち、チューをして貰うのも!!全部私、私じゃないと嫌なの!!」


「私が一番ユークリスト様の事が大好きで、私が一番ユークリスト様と居るの!!これからもずっと、ずぅっと、一緒なのぉおおお!」


 こんな姿今まで一度も見た事ない。

 

「おっ、お尻が好きなら、私のお尻をーーー」

「わぁああーーー!!!それ以上は良いよ!」


 俺が止めた事で一度落ち着いたスティアが、顔を真っ赤にして俺に抱きついた。


「うっ、うう、うわぁあああああああ。」


 ボタボタと涙を流し、力一杯抱きしめてくる。


「よしよし、大丈夫。変な事言ってごめんね。」

「ユークリスト様、私これからもっと頑張ります。沢山勉強して、沢山練習して魔術だって頑張ります。」

「うん、無理はしないでね。」

 

 俺はスティアを抱きしめ返した。

 鼻水を啜る音がすぐそこで聞こえているが、まあ良いだろう。

 スティアの気持ちが聞けたことは良かったのかもしれない、ただこの選択が本当に良かったのだろうか俺には分からない。

 

 いずれ分かる事になる。


「ユークリスト様、私を捨てないでください。」


 いずれわかる事になる。



ーー



 夜になる。

 俺は考え事をするために夜風に当たっていた。

 場所は本邸の屋上、ちょっと雰囲気があって良いと思ったからここを選んだ。

 夏ももう終わろうとしている、そろそろ夜が寒くなってきたな。


 夏が終われば冬が来て、ちょうど年を越すあたりには寒期と呼ばれる季節がやってくる。

 要約すると、馬鹿みたいに吹雪が降りまくる期間が続き、その間は馬車での往来が出来なくなるっていうわけだ。

 

 だからその前に帝都で式典をあげて、寒期が来る前に帰ろうって事で式典が三ヶ月後になったのだ。

 戦勝祝いにしては期間が短いなとは思ってたけど、そういうわけだったらしい。


 俺は屋上に座り、これまでの事を考えていた。


 俺はスティアに対して、どう接すれば良いのだろうか?

 初めは傷ついたあの子を保護したかった。

 それからは俺の侍従として沢山頑張ってくれる姿を見て、正直俺は楽しかった。

 あの子はこの屋敷に来てから大半の時間を、俺と過ごした。

 ルルティアと何かする為に俺と離れるというのはここ最近の出来事で、それまでの二年ほどはずっと俺と一緒にいた。

 もちろんワグもいたけど、あの子は俺といるためにいたのだ。


 自意識過剰かもしれないが、俺はあの子に好かれている。

 近くにいる異性が俺しかいない所為かもしれないが、あの子は俺に好意を持ってくれている。

 あの子の顔は、恋をしている少女の顔は。


 俺にとっては眩し過ぎる。


「こんな所にいては風邪を引くぞ、ユーリ。」


 後ろからの声は、俺の肩に上着をかけてくれた。


「あ、フラム姉。」


 フラムベリカが、そこに立っていた。


「悩み事か?私が聞いてやろうか?」

「いえ、そんな、悩み事なんて・・・」


 フラムベリカが俺の隣に座る。

 夜空を照らす月光が、フラムベリカの銀髪を照らしている。なんか、ちょっと良い匂いがするな。


「ふむ、そうか。しかし、お前も罪な男だな。」

「・・・何がですか?」


 いきなり何を言い出すんだこの人は。


「以前言った婚約者の話さ。あの三人は身内の贔屓目なんて差し引いても優秀で、それに見た目も良い。」


 ああ、なんかそんな話もあったな。

 確か中央の子爵か伯爵かの令嬢と、南部の筆頭公爵家(ペンタゴン)である嶽嵐(ジレコフィル)家の令嬢だったよな。

 後、第四皇女、これは忘れよう。


「それに加えスティアもなんて、両手に花どころではないな。」

「はは、すごいですよね。」


 乾笑いで返すことしかできない。


「それで、お前は誰を選ぶんだ?」

「選ぶなんて、そんな事・・・」

「意外だな、てっきりスティアに飛びつくのかと思ったぞ。何か、スティアを選べない理由があるのか?」


 俺は考えていた事があった。

 それはずっと、あの時スティアを保護した時から考えていた事だ。

 最初はただ保護するだけ、いつかあの子を引き取る人が現れたら、あの子が本来いるはずの場所に戻れるなら、俺は身を引くつもりだった。


 ただそれまでの時間を、ほんの少しの青春を楽しみたかった。


 それが此処に来て、手放したくなくなった。


 スティアと一緒にいたいというのは、俺も同じ気持ちだ。ただそれは、ある一つの事柄に目を背けた時に成立する、極めて不本意な状況なんだ。


「理由、ですか?」

「そうだ、出来れば聞きたいな。お前が何を考えて、何を思っているのか。」

「うーん。」


 これは、転生して中身が成人している俺だから思う事なのかもしれない。もし俺が真っ当な八歳児なら、こんなこと考えもしないだろう。


 寧ろ喜んで、スティアとキャッキャうふふするんじゃないかな。


「いやー、別に大した事じゃないんですよ。」

「大切な弟に関して、大した事ないなんて事はないんだぞ。」


 フラムベリカは気づいているのだろうか。

 どうだろ?この人はたとえ気づいていても、そんな事ないってフリをするからな。

 そんで、こっちの言葉を引き出す事が上手い。


「誰にも言いません?」

「氷の誓いを立ててもいいぞ。」


 ほら、俺はもう話す気になっている。


「それじゃあーーーー」


 考えを整理して、俺は口を開いた。

 俺が思っている事を話す人は、この人ぐらいなのかもしれない。


「スティアは、別に俺の事なんて好きじゃないんですよ。」



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