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公爵家五男の異世界行脚  作者: ナカタクマ
第三章〜其の闖入者に饗しを〜
58/63

章閑話:胎動する陰謀

第三章スタートします!

これからゆっくりお付き合いお願いします!


 カイサル・スノウ・グリバーの活躍により西部の戦争は一度終結を見せた。

 西武復興の為に一部の帝国軍と銀雹狼を西部に置いて、軍は帰還していた。


 オルトウェラ帝国帝都ギルサウド。

 

 大陸随一の広大さを誇るオルトウェラ帝国の中でも一番の繁栄を見せる其処は、大陸中のあらゆる文化が犇めき、共存している。

 

 その中でも目を見張るのが帝都の中心に聳え立つ帝城と、それを囲う『四季宮殿』と呼ばれる四つの後宮だ。


 そんな帝城を見上げる位置にある貴族街の一角には、平和という名の暇を持て余した貴族達の道楽として建てられた賭博場が運営されている。

 ルーレット、ポーカー、ダイス。

 身元を隠す為の仮面を掛けた貴族たちが、今日もまた娯楽に興じていた。


 その賭博場の奥にある部屋。


 晩餐会を催せそうなほど高級感のある長机は、等間隔に設置された蝋台の光に照らされ、黒光の光沢を放っている。


 今宵、その卓についたのは四人。


「それでは、この国の未来について話し合いましょう。」


 狐の仮面を付けた男の言葉で、会合が始まる。


「『未来』ねえ、アタシが求めているのは『利益』なんだけど。」


 鷹の仮面を付けた女は、ぞんざいな態度で水を差す。


「・・・・・・」


 騎士の面を付けた男は、沈黙の姿勢を崩さず。


「『皆の利益になる未来』我々が目指すのは正に其れでしょう。」


 大柄の猟犬の仮面を付けた大男が、野太い声で纏める。


「皆の、ね。聞こえは良いわよね。中身がスッカスカである事に目を瞑ればの話だけど。」


 鷹の女は、皮肉が好きらしい。


「ですから、それを本格的に詰めようという話をこれからーーー」


 狐の男の言葉を、鷹の女が遮った。


「本格的も何も、戦争はもう終わっちゃったじゃない!北部(おおかみ)の連中の増長はこれからもっと酷くなるでしょうね!このまま、第一皇子を担ぎ上げられたりなんてしたら、それこそ皆の利益なんて絵空事よ!」


 北部(おおかみ)とは、中央貴族が北部の人間を揶揄するときの言い回しである。

 その他にも熊や鷲など、その家の家紋に使用されている動物を捉えて名付けられている。


 鷹の女は、北部閥の人間が幅を利かせることを善としていないようだ。


 そしてそれは、この場に居合わせた全員の共通点らしく、女の言葉に核心をつかれ沈黙がやってくる。


「それは無い。」

 

 騎士の男が、沈黙を破る。

 三人の視線が、騎士の男に集中する。


 鷹の女が憎まれ口を叩かずにいるのは、男の素性が自分より高位にいるからだろう。


「第一皇子、あれは心底カイサル・スノウ・グリバーを憎んでいる。それは西部戦争の一件で、更に深くなるだろう。野望と自尊心だけが立派な愚か者だ。派手に立ち回ってくれるだろう。ならば我々は、その対立の陰に潜んで行動を起こすのみだ。」


 淡々と語る騎士の面の男。

 よく喋るな、と三人は思った。


 しかし、的を得ている事は間違いない。

 第一皇子であるガートレッドは軍による勢力拡大を唄いながらも、その軍の最高権力者である軍務卿カイサル・スノウ・グリバーの事を嫌っている。

 これは宮殿内の共通認識であり、自分たちが陰謀に勤しむのであれば、二人の対立の影に隠れるのは、至極当然である。

 まあ、一方的にガードレッドが嫌っているだけの対立であって、カイサル自身から何か行動を起こすような姿勢は無い。


「はあ、いっそのこと第一皇子と手を結び、あの男の力を削ぐ事が出来れば良かったのだがな。」

「我々の目的はあくまで、銀雹(スノウ)が持っている剣を別の者の手に渡す事です。それ以上の深入りは、あの男の不興を買いかねませんからね。」


 オルトウェラ帝国筆頭公爵家当主

 オルトウェラ帝国軍軍務卿

 大陸剣議席第三席『指揮者』

 親バカ

 

 カイサル・スノウ・グリバーの肩書は、一国に仕える臣下とてはあまりにも強大すぎる。

 主に、その圧倒的な武力が他の者に忌避感と恐怖心を持たせている。

 当然『皇帝の座を狙っている』と邪推する者も、昨今の宮廷内に見受けられるようになって来た。

 

 そして、この四人も例外ではない。


 四人の共通点はカイサルの存在によって広がる帝国内の波紋を危険視している事と、現在の帝国の政策で利益を得ている事。


 現在の帝国は内政に力を入れ、これまで築き上げた地盤を磐石にしようとしている。

 それは言い方を変えれば平和の治世であり、腐敗の始まりでもある。


 貴族というのは厄介な生き物で、生まれた時点で自分を特別な存在であると思い込み、だから利益や恩恵を受けるのは当然であると考え、それにそぐわない環境は忌避し、何としてでも利益を得ようとする。


 それが貴族という生き物だ。


 これまでの時代は他国に侵攻し略奪し、そうやって利益を得てきたが、内政に力を入れれば利益を得られるのは貴族の中でも一部の特権階級の人間だけ。

 『特別である自分が何も得られないのは可笑しい』そういう思考になった貴族は汚職に手を染める。

 

 この四人がそうであるかというのは指して重要ではなく、彼ら彼女らも自分の利益を追い求めている事に変わりはない。


「つまり、私達の目的は、現軍務卿の地位を別の誰か。欲を言うなら、私達の意見を聞いてくれる人形に渡そうって話でしょ?」


 カイサルが持っている地位と権力と武力は強大すぎる。

 今この瞬間に北部閥の貴族達が帝国から独立しようと動き出せば、止める術などない。

 そういった時は圧力を掛けるなり、陰謀謀略で足を引っ張ったり、果てには暗殺したりなどが彼等の十八番であるが、今回は相手が悪すぎる。

 彼の『突然変異の化け物』相手にそんな事をしてみろ、火薬庫の中で火打石遊びに興じた方がまだ生き延びる確率が高いだろう。


 自分達は表に出ず。

 自分たちの利益だけは確保する。

 カイサルにその存在を気取られてはならない。


 せめて、その地位と権力だけでも別の誰かに渡す事は出来ないか。

 更にそれが、自分たちの息がかかっていればなお都合が良い。


 それが、彼等が考えた最適解であった。


「その通りです、レディ。移譲先については、現在此方の方で用立てています。皆さんにはそれ以外の雑事に協力して頂きたい。」

「ちょっと待ちなさいよ!此方でって、そいつ絶対アンタ側の人間じゃない。自分だけ美味しい思いをして、私達は雑用なんて割に合わないわよ!」


 猟犬の男の提案に、鷹の女が噛みついた。

 

「この件に関しては、事前の取り決めとして了承があったはずでは?」

「だーから、それが一体誰かっていう話よ!本当にそいつはアタシ達の為に動いてくれるの!?」


 権力を渡すのは良い、しかしそれが得体の知れない人物であるというのは気持ちが悪い。

 鷹の女の懸念は、他の二人も抱えている事なのである。


 互いに目的は同じであるはずなのに。


「彼は・・・いや、あの方は、少なくとも軍務卿とは袂を分つ覚悟を決めています。そして、この事態を招いた責任すら自分にあると深い自責の念も持たれてーー」


 だから、それが誰かって話よ!!


 そう思った鷹の女だが、感極まった猟犬の男の様子に口を噤んだ。


「ーーーそれで、我々は何をすれば良い?」


 騎士の男には、そんな事どうでも良い。 

 

「簡単な実績作りと言いましょうか。」

「・・・つまり、裏工作を頼むと?」


 猟犬の意図を狐は察し、猟犬は頷いた。


「カイサル・スノウ・グリバーには致命的な弱点があり、そこを然るべき時に突けば必ず攻略できる。と、あの方は仰っていました。」

「つまり私達は、そいつが気持ち良く突けるように手助けをしろってことね?」

「ご明察です。」


 猟犬は懐から三枚の封筒を出し、それぞれ一人ずつに配布した。


「期間は三ヶ月。それまでに記載されている事柄をそれぞれ遂行して頂きたい。」

「三ヶ月?ちょうど帝都で戦勝祝いの式典が予定されていますが・・・まさかその時に?」

「ええ、全てが集まる式典が我々にとっての晴れ舞台となるのです。」


 それぞれが、それぞれの利益の為に動き出す。

 

 嘗て、帝都ギルサウドを『悪魔を孕んだ娼婦の腹の中』と例えた親バカがいた。


 胎動する、謀略が。

 胎動する、悪意が。

 胎動する、陰謀が。



ーー



 全てが上手くいっていたはずだった。

 全て自分の手の中にあるはずだった。

 

 大した労をせずに、盤上の全てが自分に向いていたはずだった。


 あの化け物が現れるまでは。


 なんなんだ、あの化け物は。

 男が手に入れた全てを食い散らかした挙句、恥をかかせたあの男の功績として屍を晒すなんて。

 

 あれからニ週間経った。

 帝都に帰り、飯を喰らい、女を喰らい、奴隷を殺し、受刑者を拷問しても。

 未だこの怒りは収まることを知らず、今なお激しい炎となって男の中で燃えている。


 ガードレッド・ジャック・オルトウェラ

 

 オルトウェラ帝国第一皇子である彼は、今回の西部戦争に於いて総大将を務め、その功績は多大なものになる。


 はずだった。


 SSS等級の化け物『疫病蜘蛛』

 ナルカンが作った化け物が現れるまでは。


 ガードレッドの人生は理想(おもいこみ)と現実の誤差により、歪に捻じ曲がりながら成長していった。


 第一皇子に生まれながら皇太子になれない。

 皇族の中で武に秀でているはずの自分が、皇族でない他の者より劣っている。

 自分が帝都の治安を治めても、誰も認めない。

 

 自分が生まれながら持っているはずの権利。

 自分が生まれてから今まで培ったモノで上げた功績。

 

 何をしても、誰も自分という人間を評価ぜず、評価されないのは自分よりも生まれが卑しい者が自分を理解しないからだ。


 ならば卑しい者などこの世に存在する価値はなく、高貴な者による支配こそこの世の理想の形である。


 ガードレッドは、そうやって歪んでいった。


 そんな彼の頭を押し付ける存在こそが、カイサル・スノウ・グリバーである。


 彼の存在が、ガードレッドを混乱させた。


 高貴な存在である自分が評価されないのは卑しい民衆の所為、しかしカイサルはその高貴な血を注ぎながらも力を持ち、民衆に慕われている。


 何故という疑問から目を背け、走り続けた。

 全てを踏み躙る覚悟で、しかしそれももう終わりに近づいている。


 戦場で醜態を晒し、それを見た兵士が帰還後周りの人間に流布している。

 既に何人か殺したが噂が止まる事はないだろう。

 自分の騎士団もほぼ壊滅状態。


 自分の目の前に掛かった梯子が、音を立てて崩れ落ちていった。

 

 もう何も無い、なら最後に、あの男に


「・・・ガードレッド殿下、至急のご報告故失礼致します。」


 扉を開けて入るのは、ガードレッドの近衛であるジャンロッド・ドーランド。

 高身長に引き締まった身体つき、藍色の髪を短く切り揃えた規律を重んじる軍人という印象を抱かせるこの男。

 先の戦場で亡くなったドーランド侯爵の跡取りであり、現在は第一皇子派の筆頭貴族である。


 ジャンロッドはガードレッドの部屋を見回し、一瞬眉を顰めた。

 部屋の中は、ガードレッドの精神状態を表したように荒んでいた。


 ジャンロッドの報告を聞いたガードレッドは馬に跨り、帝城の外に駆けていった。



ーー



「簡単な話だ、第一皇子さん。むかしむかし自分の子供がレースに勝つ為に皇族が作った犯罪組織があった。そいつは使っても良し潰しても良しの優れ物で、アンタはこれまでそいつの恩恵を受けてきた。自分の功績作りに潰し、組織は尻尾切りが出来る。本当によく出来た仕組みだ。だけどなぁ、俺みたいなまともな人間なら疑問に思うんだよ。『何故、大元を叩かないのか?』ってな。んで叩いてみたら、こんなデカい埃が落ちたってわけ。」

「・・・貴様らは誰だ。」


 そこは貧民街にある建物の中。

 戦闘の痕が残る地下空間。

 地面に伏せる大柄の男達。

 そしてその男達の上にふんぞり座る男と、その周りに控える三人組。


 烏の濡れ羽色に顔を隠した男は長々と事の経緯を述べ、巫山戯た笑みを浮かべる。

 股を広げ踏ん反り返り『この空間の主人』である事が一目でわかるその男からは、異質な何かが漂っている。


 そして男が言っている事は、当たっている。


 其処は帝都最大の犯罪組織『双頭龍(ウロボロス)』の本拠地であり、双頭龍を生み出したのは第一皇子派の貴族たちである。


 目的は裏の情報を集める為、裏工作の際に利用する為、そして双頭龍壊滅を第一皇子ガードレッドの功績とする為である。


 殺人、薬物、賭博場の運営など帝都の裏社会を仕切って来れたのも、密かに皇族の後ろ盾があったからである。


 だからこそ、今日までこの犯罪組織は繁栄を続けてきたのだ。


 そんな組織がほぼ一瞬で壊滅し、しかも裏側まで看破されてしまっている。


 ジャンロッドは、警戒を最大まで引き揚げる。


「此処が何処かわかっているのか!?」


 ガードレッドの怒声が木霊する。

 ジャンロッドはガードレッドの方に一瞬、目をやり小さく舌打ちをする。


「何故ここがとか、お前らは誰だとか、何が目的だとか、そんな下らねえ事よりも俺の質問に答えてくれよ第一皇子さん。」

「なんだと!?貴様ここでーー」

「殿下!?まずは彼方の申し出を聞きましょう!」


 顔面中に青筋を立てたガードレッドが抜刀しかけた瞬間、ジャンロッドが両者の間に入った。


 ジャンロッドが抱えている問題は二つ。

 上司が無能である事と、今後の雲行きが怪し過ぎて身動きが取れない事。

 上司の無能は仕方ないと割り切り、今後の計画を立てるべきであると瞬時に判断したジャンロッド。


 船長は変えられない、ならば船とその進路を変えよう。


「話のわかる奴がいるじゃねえか。そいつのこと大事にしなよ。」

「ぐっ、貴様ぁあ!」


 聞く者の神経を逆撫でするような口調で話す男の態度に、ガードレッドは再び怒り上げる。

 そんな様子を観察する男は、満足したように口角を上げた。


「俺の名前は・・・まあ、ディートとでも呼べば良い。さて第一皇子さん、改めて聞くぜ。答えは、ハイかイエスか勿論でよろしく。」


 ディートと名乗った男、元ナルカン諜報員であるディートリヒは内緒話でもするように、少し音量を抑えてガードレットに囁いた。


「アンタ、化け物殺しに興味はあるかい?」


 悪魔の囁きだった。

 この世で最も愚かな行為に誘うそれを、ガードレッドは待っていたのだ。

 ジャンロッドも言葉の意味を察し、ガードレッドの口を噤もうとする。

 しかし、そんな事は既に手遅れである。


 魔性の何かに魅入られた様な目で、ここに来るまでの死んだような男と見分けがつかない程猟奇的な笑みを浮かべたガードレッドが目に映ったからだ。


 それを言われてしまえば、もうこの男は引き下がることが出来ない。

 男の中に燻る火が、再び燃え上がっているのが分かるほどだ。

 例えその道中で仲間の屍を踏み躙ろうと、己の四肢が擡げ内臓を晒しても、自分はその歩みを止めることはないだろう。

 それだけがこの男に、未来の可能性を閉ざされた男に残された最後の可能性なのだから。


「話せ」


 胎動する、それぞれの生に向かって



お読みいただきありがとうございました。

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