章閑話:残された者たちより
お読みいただきありがとうございました。
評価とブックマークの方よろしくお願いいたします。
下の☆マークの所を五つになるようにポチッと押すだけの簡単な作業です。
良いねと感想の方も、より良い作品作りの為の参考としてお願いしたいと思います。
ーミアー
颯爽と窮地に現れて悪役を倒し、困っている人達の問題を解決して姿を消す。
物語に出てくる正義の味方っていうのは、きっとこういう人のことを言うのだ、と幼い私はそう思った。
死なない為に必死に走った、走って走って走って『もうダメだ』と思ったその時ーーー
不気味な仮面を被ったそいつは、何事もなかったかのように私達の窮地を救ってくれた。
お父さんとお母さんも、こうやって人を助けていたのだろうか。
ずっと、わからなかった事がある。
どうして両親は、私の元へ帰るよりも見ず知らずの他人を助ける事を優先したのか。
きっと、私よりも大切な何かがあったのだと自分を誤魔化してきたが、どうしてもそれがわからなかった。
そしてその思いが嵩張るほど、両親にとって私の存在はそこまで大切じゃなかったのだ、という考えが私の中に芽吹いていた。
そんな考えを否定したい。
だからだろうか、私が彼に惹かれたのは。
両親と同じ冒険者で、そしてどこか大人でミステリアスで正体がわからない。彼に私は惹かれた。
彼の名前はトーリック。
身長は私と同じ位だけど歳は私のお父さんと同じ位って本人を言ってた。
曰く、鍛治族と人間の混血らしい。
目の部分だけに彫りが入った、白色の気持ちの悪い仮面をしたその人は、上から目線の丁寧な口調で私と私の友達に話しかけたてきた。
後は、私と同じぐらいの年齢のリリカという女の子とワーグという護衛を連れていた。
彼は、私たちが今まで見たこともない魔道具を使って魔獣を倒した。
平民の子である私たちが見たことある魔道具なんて、井戸の滑車と街角の照明ぐらいしかないけど。
魔術と戦う彼の姿は、きっと両親もこんな風に戦ったんだなぁ、とそう想起させるものだった。
私は両親が戦っている姿を知らない。私が知っているのは、私が朝起きたときに笑顔でおはようと言ってくれる顔。
遊んで外から帰ってきたときに汚れた私の顔を困ったように笑いながら拭いてくれた。
私が眠る前に、絵本を読んでくれるときの優しい笑顔。
私の記憶の中の両親はいつでも笑っていた。
だからその時は、私も笑っていたと思う。
トーリックの事は、実はあんまりよく知らない。
最初は、彼のことが気に入らなかった。
上から目線の冷たい口調で、私の両親とはとてもかけ離れていたから。
どうせこいつも、私のことを煙たかった身勝手な大人達と同じだと思ったから。
しかし、彼は私たちの事情を知るとそうするのが当たり前と言わんばかりの様子で、私たちを助けてくれた。
ゲイルのお父さんに罹った病気を治す為、必要な怒大熊の胆嚢を分けてくれた。
悩んでいる人がいたらすぐに駆け寄って助ける、そんな両親の姿に少し似ていた。
だからだろうか。
会って間もない彼が大暴走に襲われるこの街を助けようとした時に、両親の姿を重ねてしまったのはーーー
私には両親が死んだあの日から抱えていた疑問があって、それが今なら解けるかもしれない考えた。
『逃げようとか思わないの?』
私は彼にそう尋ねた。
何故こんなことを聞いたのか?
それは、私が両親にそうして欲しかったから。
それでも両親は、戦場に向かった。
戦場で傷ついた誰かを助ける為に。
彼もその為に逃げないのだろうか?
『思うに決まってる。死地に飛び込む人間の気持ちは理解に苦しむ。』
彼のその言葉に、私は両親を否定されたような気分になった。
そんな彼に怒りを覚えながらも、それを表には出さなかった。
否定的なことを言ったのに彼は、あの両親と同じようなことをしようとしているからだ。
この矛盾のせいで、私は怒るに怒れなかった。
『それでも、守る人間がいる限り私は自分自身のために戦う。』
自分自身の為なのに、人を守るために戦う?
どういうこと?わからない?
両親はきっと違う。
自分のために戦うこいつとは、違うんだ。
二人は他人のために戦ったから。
だから死んだ。
私のために帰ってきて欲しかったのに。
『どうして他の人のために戦うことが自分のためになるのよ?死んだら何にもならないじゃない。』
彼に言っても無駄なのに、私はどうしても私が抱えたものの答えを欲しかった。
両親が死んだ理由が欲しかった。
『だったらなぜ、ゲイルの父親の為に森へを踏み入れたんだ。』
返ってきたその言葉に、私は答えることができなかった。
どうして、ケイルのお父さんを助けるために、危険な森の中に入ったか?
そんなの決まってる。
きっと両親ならそうすると思ったから。
私は未だに、両親の足跡を追いかけている。
2人と同じ行動をすれば、きっと答えが見つかると思ったから。
トーリックの言葉は、それが全てだと言っているようだった。
大暴走は被害を出すことなく収まった。
理由は発表されていないが、私たちは知っている。
彼が助けてくれたんだと。
根拠は無いけど、なんとなくそんな気がした。
街を出る前、彼は私たちにプレゼントをくれた。
私たちに魔法を教えてくれるよう冒険者組合の支部長であるレヴィアンナさんに頼んでくれたのだ。
私も、私の友達もその日は嬉しくて、1日中はしゃぎ回った気がする。
魔法は特別だ、本来の私たちがこの歳で魔法を習うことはできないはずなのに、彼のおかげで学ぶことができる。
当の本人は、それが当たり前だと言わんばかりの態度だったけど。
颯爽と現れて困った人たちを助ける。
そして、子供たちにプレゼントを残して、次の街に行く。
絵本で見た英雄そのものだった。
そう思うと、彼を見るだけで顔が熱くなって、胸がドキドキした。
友達と遊んでいるときに、彼の姿を探したりした。
魔法を教えてくれるレヴィアンナさんより、彼に私の魔法を褒めてもらいたかった。
両親が私を褒めてくれるのとはちょっと違う感覚は、むず痒くてちょっと心地良かった。
わからないけど、彼を嫌いじゃなくなったことだけは確かだった。
ただそれから彼と会うたび、私は自分の気持ちをごまかしたような態度をとっていた。
乱暴で、ちょっと声が大きくなって、素直に言いたいことを言えない。
本当はこんなことを言いたいはずじゃないのに、もっといろいろ見せたいものは言いたいことがあったはずなのに、素直になれなかった。
いつか、素直になれたら、彼に伝えるんだ。
ありがとうと、ちょっとごめんねと。
そして、この気持ちをーーー
レーメンで誘拐事件が起きて、私はそれに巻き込まれた。
痛いこと、辛いこと、怖いことが全て詰まったような体験だった。
他の子供たちも泣いていて、私自身も、もう自分の人生が終わってしまうのかもしれないと諦めかけていた。
でも、そんなことどうでもよかったんだ。
彼の、トーリックの死に比べれば。
公爵家の騎士団によって救出された私は、目覚めてから少し経って、彼の死を告げられた。
彼が私を助けるために、公爵家の騎士団と一緒にあの地下空間に入ったこと。
鎖の狩人という危険な犯罪者集団の幹部と戦って、命を落としたこと。
一緒に攫われた子供たちが、小さな人が助けてくれたと言っていたこと。
その全てが、トーリックという小さな英雄の死を裏付けるものだった。
嘘よ、どうして?なんで彼が?私を助けに?なんで私なんかを?どうしてきたの?
疑問をつけなかったけど、1つだけわかっていることがある。
彼は私を助けるために、あそこに来たんだ。
そして、私を助けるために死んだ。
私のせいで、彼が死んだんだ。
『いいかい?決してあんたの所為じゃないよ。』
レヴィアンナさんは、茫然自失となった私の手を握って元気付けようとしてくれた。
私には、その言葉が一切入ってこなかった。
両親は、私が知らない誰かを助けるために死んでいった。
あの人は、私を助けるために戦って死んだ。
どうして?どうして私が好きになった人は、私の前からいなくなるの?
お父さんも、お母さんも、そしてトーリックも。
私が好きになったから行けないの?私が好きになったから、三人は死んだの?
私が人を殺したかもしれない。
その考えが頭から離れない。
頭の中で、繰り返される。
私の声で、私の言葉で。
私が三人を殺したのだと、私が私に言ってくる。
あぁ、私があの三人に関わらなければ、私が生まれて来なければ。
三人が死ぬ事はなかったのに。
そこから数日が経って、私の体を回復した。
しかし、私は個人の部屋に引きこもるようになった。
部屋から一歩も外に出ず、永遠に近い沈黙の中で、ただひたすら窓から外を見てるだけ。
これでいい、これでいいんだ、と自分にいい聞かして。
怖くなった。
私の周りから人がいなくなることが。
今度は、あの子たちまでいなくなるのかと考えるだけで、手が震えて、投資ようもなく恐怖に駆られてしまう。
オーウェン、カミーラ、ゲイル。
いつもの三人が私を訪ねてきても、体調がすぐれないと言って帰ってもらった。
三人は、私が目覚めた人から毎日来てくれた。
三人もトーリックの死を悲しんだに違いないのに、私を元気付けるために毎日尋ねてくれる。
そういえば三人は、両親が死んだ時も来てくれたなぁ。
そんな三人も、私のせいで傷つくかもしれないと考えると、安易に会うことができなかった。
もう私と関わらない方がいい、それが三人にとって一番良いことなんだ。
きっと三人はすごく悲しむかもしれない。
きっとそうだ、三人はすごくいい子だから。
私の友達には、もったいないぐらいのすっごくいい子達。
三人と友達になれたから、私は両親の死から立ち直ることができた。
三人には本当に感謝している。
そんな三人から、私はトーリックと言う恩人を奪った。
今更、あの子たちに、どんな顔して合えば良いのだろう。
みんなはきっと励ましてくれる。
元気出してとか、一緒に魔法の練習にいきましょうとか、オーウェンのお家でおいしいご飯を食べようとか、きっとそういうことを言ってくれる。
自分たちが抱えている悲しみを必死に押し殺して、私が立ち直れるように精一杯やれることをやろうとしてくれる。
でも、それじゃダメなの。
それじゃあきっと、今度三人が傷つく。
私に関わったせいで、あの三人が傷つくのは嫌だ。
だからこのままこの部屋から出なければいい。
いつか私のことが、誰の視界にも入らなくなるその日まで、私はここにいればいいんだ。
そうすれば、誰も傷つく事は無い。
そう考えたところで、私は意識を失った。
目が覚めると、そこは孤児院ではなかった。
「あっ、ミアが目を覚ました。」
「ミア、ミアァアアア!!」
「ちょっと!オーウェンうるさい!ミア!ほんっとうに心配したんだからね!」
ゲイルは喜んで。
オーウェンは泣いて。
カミーラは怒ってる。
ああ、また私は、この三人に迷惑をかけたんだ。
目が覚めて考えたのは、そんなことだった。
「ねえ、ミア。トーリックさんの事は僕達だって悲しいよ。」
「ええ、でも、私達はこんなミアの姿を見る事がもっと嫌なの!」
「そうだよ!僕達がミアの側にいるよ!」
まだ意識がはっきりしていないのに、三人は次々と私に向かって励ましの言葉を掛けてくれる。
そうだ、私にはこの三人がいる。
ーーそれは、三人の親がまだ死んでないから言えることでしょ?
ああ、いやだ、こんな事、思いたくないのに。
思ったこともない、考えたくもないその言葉に蓋をするように、私は蹲った。
そんな様子を見た三人が、また心配してくれる。
こんな事を考えるぐらいなら、三人の近くにいる資格なんて私にはない。
私自身も、こんな気持ちを背にしたまま三人と一緒にいたくない。
もうやだ、このまま死んでしまいたい。
なんで私ばっかりこうなるの?
ずっと私にばかり悪い事が起きる。
誰かが私に罰を与えてるの?
じゃあ私は、誰を責めればいいの?
お腹の底にある怒りを、誰にぶつければいいの?
「はあ、こりぁ、見てらんないね。」
私たちの様子を遠巻きに見ていたレヴィアンナさんが、頭の後ろを掻きながら大きなため息をついた。
そして、内心憤慨した様子で、忌々しげに窓の外に視線を移した。
「アタシは悪くないよ。そもそもの『子供達の安全を』っていうアンタの意向には沿ってやってるんだからね。」
誰に言ったのか。
そう、呟いたレヴィアンナさんは私たちのほうに向き直ると口を開いて告げた。
「トーリックは生きてる。」
その言葉は、私がこの数日願い続けてきた言葉。
「「「「・・・へ・・・?」」」」
私達は声を揃えて、そう返事をした。
「今回、あの子が戦った奴が居た組織っていうのがちょっと危険でね、報復を避ける為に死んだ事にするっていうことなんだよ。」
え?なに?どうゆうこと?
うそ・・・だって、トーリックは死んだって。
私を囲んでいた三人に視線を移す。
三人とも、口を半開きにしてレヴィアンナさんの言葉を聞いている。
多分、私もこんな間抜けな顔をしているのだろう。
そんな三人の顔が、徐々に靄に染められていく。
おかしい。
視界を確保する為に目を拭うと、私の手は既にびしょ濡れになっていた。
自覚出来ないほど大量の涙が私の頬を伝っている事に気づいた時には、もう手遅れだった。
「あっ、あっ、あぐっ、あぁああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
部屋中に響き渡る絶叫は、私の力では止める事ができなかった。
だって、それほどの衝撃だったから。
私の様子を見た三人も釣られて泣き出した。
結局皆んな、同じ気持ちだったんだ。
まだ聞いてない事は多い。
レヴィアンナさんの言った事が、どこまで本当かなんてわからない。
ただそれでも、レヴィアンナさんがこんな冗談を言う人じゃないと言うことは分かる。
彼は、トーリックは生きているんだ。
今は、それ以上の事なんていらない。
その日は結局、私達は力尽きるまで泣いた。
後日、冒険者組合のレヴィアンナさんの執務室に行った私たちは、更に衝撃的な事を言われた。
「ーーーつまり、アタシの支部長としての権限と大陸剣議席の議員推薦でアンタら四人をドラクルスにある冒険者学校に推薦することができるって話だよ。この街から離れる事になるけど、身の安全とかは保証される。今回の事件に関わった連中がこのまま手を引くとも思えないし、他からちょっかいが出ないとも限らないからね。」
レヴィアンナさんの口から出た提案は、突然の事だった。
きっとまた、私を含めた四人は間抜けな顔をしているのだろう。
「当然、数年間は親御さんと離れる事になるし最悪、今生の別れになる可能性だってある。だからよく考えな。もちろんこの街の警備だって、領主の所と提携して改善をするつもりだよ。以前とは比べられないくらい住みやすい街にするつもりさ・・・ただアタシは、あんた達がこれ以上悪意に晒されない力をあんた達自身に身につけてほしいと思う。そして、それを教えるにはアタシには力不足だ。すまないね。」
ーーーこの時、レヴィアンナの言葉は紛れもない事実だった。
ユークリストに頼まれて子供達に魔法を教えたのは良いものの、レヴィアンナ自身は人間族の魔法に精通しているわけではなかった。
レヴィアンナが得意とする魔法体系は森林族のモノであり、それは子供達に習得させるのは困難だった。
同じ魔法であっても、全く勝手が違う。
似た競技でも、野球・ソフトボール・クリケットの三つが違うように、子供達に魔法を教えることはレヴィアンナにとって簡単なことではなかった。
ならば、魔法の使える冒険者を雇い教えさせればとも考えられるが、街を救った恩人のようなユークリストの頼みを人任せにする事は、彼女の信条に反していた。
そんな信条を曲げ、彼女は今回の提案を子供達に持ちかけた。
ゆっくり育てる事もできる。
ただそれでは、この子達の心に空いた穴が別の形で露出しかねない。
トーリックという存在を失ったこの子達には、団結しながら向かう次の目標が必要だ。
その存在すら霞んでしまう、新しい目標が。
自分には見つけられなかったそれが、いつかこの子達を癒してくれるかもしれないからーーー
その提案は、私達の人生を確実に変えるような。
そんな提案だった。
良くも悪くも、私たちの人生を変える。
良いことばかりじゃない、寧ろ悪いことの方が多いかもしれない。
ただ、何故か。
その言葉を待っていたのかもしれないと思うほど、心臓が高鳴っているのはどうしてだろうか。
「そこに行ったら、もう一度アイツに会えるの?」
「「「!!!」」」
私の顔を、驚いた顔の三人が覗き込む。
「・・・保証はないね。」
「それでも、此処にずっといても、アイツには会えないんでしょ?だったらーー」
『それ以上は、まだ言わないで。』
三人がそんな顔をしているのがわかる。
また私の我儘で、この三人を巻き込んでしまうのか。
でもごめんね、私はもう決めたの。
両親は、人を助けるために戦って死んだ。
アイツは、私達を守る為に姿を消した。
私が両親を守れたら。
私が自分と周りのみんなを守れたら。
みんな居なくならなかったはずなのに。
もう誰も失いたくない。
「私は行く!そしてもう一度、アイツに、トーリックに会いたい!!」
今まで言えなかった事を全て言う為。
今までの守られっぱなしから守る側になる為。
もう、私のような失うばかりの人間を増やさないために。
これが後に、大陸全土に名を轟かす冒険者パーティ『小さな英雄』のリーダー『灼華のミア』その冒険の始まりであった。
ーー
強くなった。
俺はそう自分で思っていた。
それが勘違いだと気づくまで。
ーワグ・ソトゥンー
ナーベリックとの戦いは熾烈であった。と思う。
奴の操っていた人形は魔力を纏い、赤子のような体で想像もできないほどの膂力を持っていた。
その上素早さが桁外れで、致命傷を避けるだけで精一杯だった。
そして奴自身、その陽炎のような身のこなしで俺の攻撃をのらりくらりと躱し続け、さらにその距離は遠かった。
ガキのように駄々を捏ね、本来の作戦を取り潰しておいて。
自分が情けない。
ただアイツに、ユークリストに外の世界を知ってもらいたい。
社交的でもなければ、公爵家以外を殆ど知らない自分が言えた義理じゃないのは百も承知ではあるが、それが望みなんだ。
それだけが、果てしなく遠い。
もっと強くなりたい。
そうすれば、少しでも近くに行けるはずなんだ。
ただ、方法がわからない。
最近、俺はアルマンとの稽古を通じて北武流の戦い方を教わっていた。
なんでも筋がいいらしく、それは俺も実感していた。
しかしダメだった。
もっと根本的に、自分の実力をあげないといけない。
俺の強みである、この格闘術を極める事。
そして、俺がまだ東部にいた時に祖父が言っていた『精霊の力』を身に付ける事。
しかし、其れをする為にはーーー
帝国ではない何処かでするしかない。
ユークリストに頼めば、東武流の使い手が見つかるかもしれない。
しかし、この国の軍部を預かる一族の人間が忌避されている流派の者を引き入れるとなると、いらぬ波風を立てることになるかもしれない。
ただでさえ、自分という存在がその要因になっているのだから。
これ以上、迷惑をかける事はできない。
だが、力が欲しい。
アイツを背に道を切り開き、他を圧倒する力が。
その為にはーーーー
いや、考えるな。
それは、アイツを裏切る事になる。
俺はこのまま、ユークリストとスティアの隣にいれば良い。
もちろん、強さを求める事を諦めるわけではない。
俺だけの強さを、求め続ける。
そういえば、スティアはまた訳のわからないことを言っていたな。
アイツの嫁になったとかーー
スティアはユークリストの事になると、頭の中が花畑になる。
めでたい奴だ。
侍女であるスティアが貴族のユークリストと結婚する事は、とても難しい。
それは、家族社会に明るくない俺にでもわかる事だ。
自分の意思だけで結婚相手は選べない。
公爵夫婦は仲睦まじい様に見えるが、それでも両者の家格は釣り合っている。
子を残す事だけが全てではないが、それを拒否するならそれ相応の対価を示すべし。
例えば、長女のフラムベリカは未だ結婚していない代わりに、公爵家の諜報機関の大部分を握っている。
元々公爵家が持っていた諜報機関はあったのだが、結婚をしない対価としてフラムベリカが提示した情報が、公爵家の有していたそれよりも遥かに優れていた為だそうだ。
ユークリストがそう言っていた。
だから、ユークリストがスティアと結婚するならば、それ以上の何かを家に提示する必要がある。
いや、あるかーー
あの時ナーベリックが言っていた事が事実なら。
スティアがその座に座ることは、十分にあり得るだろうな。
それに伴い、問題が浮上するかもしれないが。
まあ、貴族の婚姻なんて難しい事は俺には分からない。
それにそんな問題は、ユークリストなら解決できるだろう。
だが、当のユークリストにスティアと結婚する気持ちはあるのだろうか。
アイツは何処か、スティアの事を妹のように見ている節がある。
スティアの方が歳上なのにな。
まあ、スティアの言動にも問題があるとは思うが。
あとは、この事をユークリストに言うかどうかだな。
正直、情報源が情報源なだけに、気が乗らない。
しかしこれが事実であれば、それが露見した時にユークリスト達が後手に回されるのも事実。
それと同時に、スティアの扱いも変わるかもしれない。
まあ、それは俺が考える事じゃないだろう。
俺はただ、強くなる事だけを考える。
それが、アイツのためになるのだから。
この事は、いずれ時が来れば言えば良い。
とりあえず、今は、体を休めよう。
章閑話、まだまだ続きます。




