第三十四話:駆ける腹の中
どうも皆様こんにちは。
一ヶ月以上更新をお休みし、既に読者が離れたのではないかと恐怖で指を震えさせています。
完全に私の怠慢で御座います。一切の言い訳は致しません。
これから誠心誠意執筆していきます。
よろしければ、また『公爵家五男の異世界行脚』をよろしくお願いします。
話の時間軸は、公爵家の大捕物の前に戻る。
フェゼイル商会レーメン本店の前に集まったのは公爵家騎士団とレーメンの警備隊。
その数は合わせて三十人で、残りの人材は周辺警備や住民警護の方へ回っている。
本店前にいるのは、俺を筆頭にアルマンとワグとレヴィアンナ。
そして、ロキとノート。
やっぱりロキって凄いよ、一度眠ってしまえば傷が直ぐに治ってし、流石Sランク。
普段がハッピーなお馬鹿さんだから忘れてしまうが、ロキも危険度Sの魔獣なんだよな。
これで『鑑定術』持ちだってさ、ズルいよな。
さて、次は各々の装いに触れていこう。
先ずは俺だ。
中に着ているのは白い通常のシャツ、そしてサスペンダーにガンホルダー。
黒のスリムズボンに革靴、それの上から『ゼッペンリッヒの外套』を着て全身を包んでいる。
ガンホルダーの中には魔術銃を差し込んで、腰には魔撃棒を差してある。
そんな俺の肩にはロキが乗っかっている。
魔囮については今回準備していない。
屋内騒動になると予想されるからな、広い範囲での自動旋回を主としている魔囮は狭い範囲では使いづらい。
後もう一つの魔道具に関しては既に身に付けている、お披露目までのお楽しみだ。
戦闘モードだと言いたいところだけど、実際はあまり変わっていない。
次はワグ。
怒大熊製の肌色のシャツに、茶色のテーパードパンツに皮ブーツ。
首からは東部模様のループタイを掛けて、足には俺お手製ミスリル製の脚甲だ。
出来るだけ装備品は少ない方が機動力が上がる、って本人が言ってたな。
三番目はアルマン。
公爵家紋章の狼に剣の絵が描かれている筆頭騎士を表す紋章、が描かれている甲冑で全身を身に包み、背中には大きな片手剣と片手楯が掛けてある。
なんか、こう、とっても雰囲気があるな。
特に、背中に駆けてる大楯に彫り込まれたレリーフが格好いい。
アルマンのスキンヘッドと相まって、手練れ感が半端ない。
いや、実際アルマンは手練れなんだけどさ。
最期がレヴィアンナ。
彼女は今回、対ナーベリックとして呼ばせて貰った。
胸当てには花柄の刻印が施され、ちょっとだけお洒落だ。
肩からはマントに似た外套を掛け、スキニー気味のパンツは良い感じだ。
前回見た大型の和弓は見当たらず、ガントレットを付けているのが特徴的かな。
翡翠色の宝石が嵌め込まれた、鉛色のガントレットだ。
それぞれが、今回の決戦において一番力を発揮できる格好というわけだ。
そんな俺達の目の前にあるのは、フェゼイル商会のレーメン本店。
忌々しきこの商会は、なんと人攫い組織と繋がっていたのだ。
仰々しい言い方をしたが、最初に予想したことが当たっていただけだ。
アストルフォン人形は、全然関係なかったけど……
それでも、一番最初の直感というのは大事にしないといけない、と改めて思った。
まあ、ここまで来たのだから全ては結果論だ。
そして、それは良い方向にも悪い方向にも語られる。
ここでスティアと子供達を助けたら、全てが丸く収まる。
逆に一人でも取り零せば、それは全て台無しになってしまう。
騒がしい喧噪を奏でる心臓へ、どうかこの瞬間だけでも止まって下さい。
いや止まったら大問題だから、なだらかに動いて下さい。
出来るだけ、俺が安らぎを得られるようにお願い致します。
そんな願いに反して、俺の心臓はバックバクだ。
何たって、これから大乱闘が始まるんだからな。
悪党達の巣に入って、切った貼った殺した殺されたの大乱闘がさ。
やっぱ、めっちゃ怖い。
それから俺達は、アルマンが爆撃のような勢いで口上を述べて台風のようにフェゼイル商会の中へ殴り込んだ。
「ノート『反響探査』だ。」
『任せんしゃい!!』
若手騎士達が勢いよくフェゼイル商会の家具やら棚やらを、矢継ぎ早にひっくり返していく。
どうやら、若手の連中はフェゼイル商会を今日で廃業に追い込む気らしい。
まあ、こいつらがやらなくても俺がやっていたけどな。
そんな嵐が凝縮したような空間の中で俺は、近くを飛んでいるノートに『反響探査』を指示した。
こんな騒がしい状態で『反響探査』なんてどうにかしていると考えるだろうが、俺にはしっかりと考えがある。
あの取り巻き野郎が俺達に自白したことは、フェゼイル商会と今回の人攫い騒動の関係ともう一つ。
連中はフェゼイル商会の地下空間を切り取って、そこに今回誘拐した子供達を収監しているということだ。
このレーメンの街は小高い丘を囲って出来ており、フェゼイル商会本店のある中央区はその丘の上にある。
つまり、連中は冒険者組合の地下シェルターよろしく、地下道を作ってレーメンから脱出しようという算段を狙っていたんだ。
要するに、エレイネがどれだけレーメン内の検閲を増やしても意味が無かったということだ。
文字通りの『灯台下暗し』を喰らっていたのだから。
地下トンネルを作って逃げ出すなんて、何処の麻薬カルテルだよって思ったのは内緒だ。
しかし、そこまで完璧に計画されていたとは。
もしかしたら、もうこの街からは逃げ出しているのかもしれない。
いや、それでも何処に逃げたかは分かるんだ。
この北部の地に生えている樹木を全て焼き払ってでも、スティアを助けだしてやる。
おっと、話が逸れたな。
つまり、何が言いたいかというと。
地下空間があるのなら、それに続く階段があるということだ。
階段があるということは、空洞があるということ。
空洞があるということは、その分反響する音にも誤差が出るということだ。
『反響探査』
俺の指示を受けたノートは、直ぐさま魔力を音に変えてフェゼイル商会の建物中に張り巡らせた。
音は、あらゆる場所を反射していった。
建物の壁から床まで、奥の部屋から在庫置き場のような場所まで隅々まで届いていった。
「音の反射がおかしいところだけを探してくれ、空洞があれば反対方向に衝撃が行っちゃうからね。」
『了解じゃ!!』
アナログで探すとなるとあちこちを叩く事になると思うが、今回は音の反響を調査するんだ。
出来るだけ音が跳ね返らない所を探そう。
物理学には明るくないからこれが間違っているかもしれない。
しかし間違ってても、次は軽いところを探せばいい。
二択のどっちかしかないから、間違ったら次に行こう。
『あるじーロキはなにすればいいのー?』
そんな俺とノートのやり取りを見て、ロキも自分の仕事を欲しがった。
なにも出来なかったことが尾を引いているのか、いつもよりやる気になっている気がする。
「大丈夫だよ。ロキにもしっかり働いて貰うからね。」
『うん、わかった!』
頭上に居るロキの頭に手を伸ばそうとするが、如何せん八歳児の身体、手が届かない。
苦し紛れでその背中に手を伸ばして撫でてやると、喜色の声でロキから返事が返ってきた。
『ユーリ、見つかったぞ!』
それから直ぐにノートから念話が飛んできた。
直ぐに結果を出すところは中々優秀だよな、こいつ。
「よくやったノート。ワグ、アルマン、レヴィアンナさん! こっち!」
「わかった……」
「はっ……!!」
「あいよ!」
そんなノートの先導に続いて、後ろにいた三人にも声を掛けた。
今回、地下の方に行くのは俺と従魔の二人と、この三人だけ。
他の若手騎士には、マルチェン他の従業員の捕縛を任せている。
後はまあ、地上のゴタゴタ全般はエレイネに丸投げだ。
事務仕事は、得意な人に任せるべきなんだ。
餅は餅屋ってヤツだな。
ノートが先導したのは、店の奥にある物置部屋のような場所だった。
埃の被った、全く使用した形跡が見つからない部屋。
「ここ……?」
『そうじゃ、その奥が怪しい!』
片翼でノートが示したその先は、部屋の角だった。
その場所だけ、埃を被っていないのが分かった。
「アルマン……」
「はっ……!!」
その一言で俺の意図を察したアルマンは、直ぐに背中に掛けてある片手剣を担ぎ上げ、地下階段の入り口だと思われるその床に叩きつけた。
何か鍵が掛けられているかもしれないし、入り口の所で誰かが待ち構えているかもしれないから、扉を打ち破ることが一番いいと考えたからだ。
アルマンに片手剣を打ち付けられた床は、薄氷を割るように粉々になった。
衝撃で粉塵が少しだけ巻き上げられ、視界がぼやけた。
そしてしばしの沈黙の後、地下に通じている階段が俺達の前に姿を現した。
「よし、全員覚悟はいいね?」
「「「………」」」
俺の問いに、全員が顔を見合わせ頷いた。
三人はそれなりの経験を積んでいる。
そんな三人にどんな覚悟を臨むのか分からないが、一応確認しておきたかったのだ。
「よし、それじゃあ……」
そんな三人の顔を見て小さく呟いた後、俺達は悪魔の口の中に足を踏み入れた。
ーー
地下道の中は静かだった。
そりゃ、秘密の地下道なんだから不特定多数の人間に知られるのは問題だからな。
知っている人間は少ない方がいいに決まっている。
「……全く人が居ないね。」
「……そうだな。」
「油断は禁物ですぞ、ユークリスト様。」
「賛成だけど、これじゃ拍子抜けもいいところだね……」
そんな俺の言葉を拾って、三者三様の反応が返ってきた。
ワグは退屈そうに遠くを眺めながらも、地面に転がった石ころを蹴飛ばして苛立ちを隠せていない。
アルマンは常に手を武器の近くに置いている感じだな、警戒心が解けていないのだろう。
レヴィアンナは警戒していることはしているのだが、その様子には強者の余裕がある。
ふむふむ、ちょっと面白いな。
しかし、それにしても人が居ないな。
あるのは、薄暗い地下を照らす為に立てられた松明が五メートル感覚程で光っている程度だ。
正直、入ったらいきなり中に居るゴロツキと戦うことを覚悟してたからな。
しかしまあ、これはこれで良いのかもしれない。
誰の血も見ることなく安心安全にスティア達の元へ行けることが一番なんだから。
しかし、そんな思いに反して俺の緊張は一向に解けることが無い。
寧ろ、足を進めるごとに高まっている気がするのは何故だろうか。
不正解だと知ってて飛び込む、バラエティ番組の二択問題に参加している気分だ。
ん、なんだろ、ちょっと安心感が出てきた。
そんな感覚の出所は、どうやら俺の背中に当てられた手からだった。
俺は、その手の持ち主を目で追っていった。
「……どうしたんですか?レヴィアンナさん……」
「ん……いや、ちょっとね……」
手の持ち主であるレヴィアンナに質問を投げかけたのだが、帰ってきたのは朗らかな笑いと曖昧な返事だけだった。
しかしなんだろうか、少しだけ落ち着いた気がする。
「気負う必要は無いよ坊っちゃん。ここにはアンタを守る為の騎士と従魔、そして何たってアタシがいるんだからね!」
快活に此方へ笑いかけるレヴィアンナ。
なんだろうな、ほんの少しだけ落ち着いた気がする。
「ええ、ありがとうございます。」
彼女の、なんというか、姉御肌的な部分がそうさせたのかもしれない。
俺の声にも元気が戻っていた。
そんな声が通るのは薄暗い地下道の一本道。
正直、俺の経験談から言うのであれば、こういう時が一番怖い。
まあ、経験談と言うより漫画や洋画の知識なんだけどさ。
こういう一本道を歩いている時に、天井が崩壊して生き埋めにされたり。
一本道の先から馬鹿デカい岩玉が凄い勢いで転がってきたり。
変な落とし穴とか、変な分かれ道の所為で分断されたりするんだよな。
それにこの世界には魔法があるから、それ以上のことが起きるかもしれない。
しかし、そんなことは言ってもここはあくまでも地下トンネルだ。
前世のメキシコ国境を越える為に作られた麻薬トンネルと同じなのだ。
味方が使うことを想定されているのだから、そんな殺傷的なトラップは置いてないだろう。
しかし、この松明達はどうなんだろうか?
ほら、こんな地下空間で火を燃やし続けるなんてさ。
酸素全部使い果たして、一酸化炭素が充満かもしれないじゃん。
酸欠はともかく、一酸化中毒なんてことになったら、中世以南の医療知識しか無いこの世界じゃ生きていけないな。
その辺は出来るだけ気を付けよう。
それにしても、空気がやっぱり少しだけ重いな。
レヴィアンナは、大陸剣議席に選ばれる程の実力者だから落ち着いているのが分かるが。
ワグとアルマンの方はなんというか、張り詰めている。
殺伐としているのが、前を歩いている此方まで伝わってくる。
二人とも、俺の緊張とはまた違う何かを背負っているのかもしれない。
レヴィアンナも二人のことを察しているようだが、二人ともいい大人なのを理由にしているのか、手を出すつもりがないらしい。
子守をするのは、子供の俺だけで十分だそうだ。
お、俺だって本気を出せばなんとかかんとか出来るんだからな。
そこんとこ忘れんなよ。
『あるじ、すちあのところはまだぁ?』
頭上にいるロキから、痺れを切らしたような念話が入ってきた。
ロキは昨夜のことを引き摺っているようで、今回は気合いが入っている。
口調としては、テーマパークまでの道中にいる子供の様だが。
「もうすぐで着くよ。ロキにもしっかり出番を用意しているからね。」
『うん、ロキがんばる。でんじゃらすでみんなをたすける!』
デンジャラスハンドのことが甚く気に入っているのか、ロキは拳を握りしめてファイティングポーズを取った。
『ユーリ、ワシにも出番があるのか?』
「いや、ノートはさっきので終わりだ。」
『何じゃと!?』
それに乗ってノートも質問してきたが、ノートにはこれ以上活躍の場面は無いと思う。
「だって、ノートは戦闘向きじゃないだろ?」
ノートの能力は基本的に索敵とか諜報向きで、実際の戦闘力は危険度CからBって感じだ。
確かに三年前獄妖狼相手に一発かまして逃げ果せたが、それは鍛冶場の馬鹿力というヤツで偶々出ただけのまぐれ当たりだ。
その証拠に力尽きて、単なるコソ泥程度に捕まっている。
暁光梟は希少性故にSランクになっている魔獣だからな、あまり戦闘は期待していない。
というか、ノートは俺の知恵袋だからそれ以外で貢献してくれればいい。
『むぅ、それもそうじゃがのう。ワシとて、戦いに参加したい時があるのじゃぞ。』
「……そういうものなのか?」
しかし、ノートの様子は既に臨戦態勢に入っているようで、その様子は声色からも分かる。
ノートもノートで、何か思うところがあるらしい。
『のーともいっしょにたたかう?』
「あ、ちょっとロキも……」
『うぬ、ワシもロキと共に戦うぞ!』
それに乗っかったロキは、遊び相手を見つけたみたいに楽しそうだ。
当然、ノートも胸を張って返事を返した。
こいつら、今から血みどろの争いに身を投じるってわかってるのか。
ちょっと危機感が足りないと思うけど、後ろの殺伐とした雰囲気と相殺している気がするから良しとしよう。
そんなことを考えていると、不意に笑みがこぼれた気がする。
「……おい…」
しかし、その緩和もワグの一言で緊張に逆戻りした。
というか、俺以外の人間は常に緊張状態だった。
俺一人だけが、少し気が抜けている。
いや、俺だって緊張している。
ここに居る誰よりもスティアを助け出したい、という意志があると断言だって出来る。
でも、どこか客観的というかなんというか。
まあ、こればっかりは人間性の部分にも関わってくるのかもしれない。
話を変えて、今は戦闘モードだ。
ワグが警告したのは、俺達の前方にある灯りだ。
真正面から漏れているわけではなく、俺達が進んでいる道の突き当たりの角を曲がった先から漏れている感じだ。
「あれは……」
「恐らく、連中が屯している部屋があるんじゃないか?」
目の前の光に対してアルマンが発した疑問に、レヴィアンナが答えた。
俺達は、それぞれ顔を見合わせて光の発信源の方へ歩を進めていった。
曲がり角まで10メートル程の位置に差し掛かって、音が聞こえてきた。
人間の話し声だ。
詳しくは聞き取れないが、何人かが屯しているようだ。
数人による会話と足音と、金属の接触音が聞こえてくる。
先程レヴィアンナが言った通り、これから先に人攫い組織の連中がいるのかもしれない。
いや、鎖の狩人の連中がいるのかもしれない。
そう考えれば、また緊張の糸が戻ってきた気がする。
鎖の狩人について、その全容は明らかになっていない。
幹部の素性や構成員の規模など、その事実は常に隠されてきた。
一部情報によると、聖教国が情報秘匿に協力しているかもしれないと憶測が通っているが、その真実は定かではない。
まあ、そんなこと考えても今は無駄だ。
大事なのは、この先に誰がいるかということだけだ。
もしかしたらナーベリックが居るかもしれない、もしくはあの白いファーコートを来た女がいるかも。
それか、昨日グライムと一緒に居たあいつが………
だったら、こっちから先手を取ってやる。
「話し声から判断するに、敵は大体……八から九ぐらいだね。」
索敵を得意としているレヴィアンナが、中に居る人数を推察した。
まあ、Sランク冒険者であるレヴィアンナの索敵なら確実だろうな。
別にノートの『反響探査』を使っても良いが、ここは時間短縮の為割愛しよう。
それに、自分達よりも遙かに手練れで経験を積んでいるレヴィアンナに対しての信頼とか尊敬もあるから、わざわざ自分達で確かめるのはやめよう。
「ユークリスト様、ここは私が……」
「いや……僕が先に行くから、皆は後についてきて。」
背中に掛けてある片手剣に手を掛けながら意気込んでいるアルマンを制するように、俺は先鋒を名乗り出た。
ここは俺が行かないといけないと思ったし、俺以外の適任は居ないと思ったからだ。
「なっ……ユークリスト様! 中にはどんな危険があるのか分かりません。ここは私が先鋒としてーーー」
そんな俺の申し出に驚いたアルマンは、声を最大限に小さくして最大限の身振りで答えた。
「アルマンは身体が大きいから直ぐバレるじゃん。ここが何処かも分かってないうちは、大きな音を立てない方がいい……」
「なっ……から……!!」
出来るだけ説明を省きたかった俺の言葉に、かなりショックを受けているようなアルマン。
悪かった、本当にそう思っているが、今はそこに構っていられない。
「しかし、坊っちゃんだけでは無理があるだろ? ここはアタシが……」
「大丈夫ですよ、二人とも心配しすぎです。ワグを見習って。」
当然この場一番の実力者であるレヴィアンナも名乗りを上げたが、それも却下した。
そこまでこの八歳児ボディが不安なのか、唯一口を挟まないのはワグぐらいだ。
いや、ワグ、お前は何か言えよ。
一応、俺の専属騎士を名乗ってるんだろ?
「ロキ、ノート、一緒に行くよ。」
『わかったー』
『ワシ等の戦場じゃあ!』
俺は、後ろにいた二匹にも声を掛けて『ゼッペンリッヒの外套』のパーカー部分を頭に被った。
そして裾の部分を広げ、二匹に入るように促すアイコンタクトを取った。
当然、二匹はこれに答えるようにすんなり入った。
後はこれに「古代魔導具機動」と小さく呟いたら完成だ。
と、その前に。
俺は、後ろから此方を心配そうに見ている二人の方を振り向いた。
未だに二人とも、俺にそんなことが出来るのか、というのが在り在りと分かる視線でこちらを見ている。
アルマンは公爵家所属の騎士だし、心配しているのは分かる。
しかしレヴィアンナよ、貴方は見ただろう?
この私が、危険度SSSである獄妖狼を追い返した勇姿を!
なのにその視線はどういうことさ、アッシを信用していないのかい?
そりゃ確かに、今回この街に来てから俺の弱い部分しか見せていないからそうなっているのかもな。
確かに、今回の俺はあまりカッコいいとは言えないだろう。
調子に乗った結果、手痛い竹篦返しをされまくっている。
しかし、これでも、腐っても、将来スーパーハイパーエクセレントイケメンになる男だ。
『古代魔導具機動。』
二人にも聞こえない小さな声で呟かれた声に反応して、俺の姿は足下から頭の頂点に向けて徐々に背景と同化していった。
「大丈夫……」
「「ッ………!!」」
その姿を見て二人が驚愕したのは言うまでも無い。
ワグに関してはここに来る前に散々見てたからな、今更驚かないだろう。
さてさてさて、俺もそろそろ本気を出す時が来たな。
なんて格好つけているが、ちゃんとするべき時はちゃんとしよう。
「俺だって、ただ守られるだけじゃないよ……」
その言葉が彼等の耳に届いた時には、既に俺の姿はその場になかった。
さて、漸く連中の顔を拝めるぞ。
ーー
「おら、これで俺の勝ちだ!」
「はっ、甘ぇな。ほらよ、俺の持ち札はこれだ……」
「なっ……!! おいおいそりゃねぇぜ、これでスッカラカンじゃねえか……」
「へへ、何だったら、俺が軍資金を貸してやろうか?」
部屋の中に居たのは、どこの街の路地裏にでも居るチンピラのような連中だった。
俺達が入ってきた方向を軽快している人間も居ないし、胸当てなどの防具を着けている人間も居ない。
それぞれ、自分の個性を出す為のありきたりな世紀末ファッションの洋風版の様な服を着ている。
結論から言うなら少しばかり残念ではあるが、少しホッとしている自分もいる。
これぐらいの連中なら、簡単に制圧できそうだ。
部屋の広さは大体、会議室2部屋分といったところだろうか。
十分な広さが取れており、中には八人程が屯している。
酒の空き瓶が転がっていたり、トランプの様なカードを使って賭け事をして居る人間も居る。
それぞれが、それぞれの暇つぶしに興じているように見える。
俺とロキとノートは『ゼッペンリッヒの外套』の能力である『不可視化』で、その存在がバレては居ない。
しかし、それにしてもこいつら全く危機感がねえな。
部屋は二つの道に枝分かれしている。
一つの方には、扉が備え付けられている。
もう一つの方は扉など無く、道が後ろの方に続いているだけだ。
恐らく、扉の方は誰かの部屋があるのだろう。
反対に、道だけの方は奥に続いているのかもしれない。
となれば、俺達が進むべきは奥の方の道だけど、扉の奥の部屋から手練れのようなヤツが出てきたらどうする?
いや、ここで考えても仕方が無い。
今の俺がやるべき事は、ここに居る大の大人八人を如何にして迅速に無力化するかだ。
それだけに集中すればいい。
そんなことを考えながらも、俺達は部屋の中心部に着いた。
屯している連中と、丁度等間隔になる位置だと思う。
『よし、ノート。準備は良い?』
『おっしゃ、まずはアレからじゃな!』
『うん。と、ロキもこれを耳にしてね…』
『はーい。』
ノートに指示を出して、ロキと一緒に準備を整えた。
もちろん、会話は念話で行った。
念話は俺達だけの秘密回線のような物だから、ここに居る連中にも聞かれないだろう。
俺とロキはそれぞれ耳に耳栓を付けて準備万端だ。
そう思った時、胸を辺りを締め付けるような感覚が俺を襲った。
この感情は知っている。
不安だ。
ここに来るまで深く考えなかったけど、俺はいまから戦いに行くんだ。
それは当然、ここに居る人間の殺意が全て俺に向くって事だ。
こっちから奇襲を掛けるとはいえ、絶対に安全なんて保障は何処にも無いんだ。
いや、そんなこと考えても今はしょうが無い。
それに、そんなことよりも大切なモノがこの先に待っているんだ。
俺はやらないといけない。
それ以外に道はないんだ。
不安は全て押し殺せ。
余計なことは考えるな。
自分の目的だけに集中しろ。
『よし、ノート始めろ。』
『まかせいっ!』
『沈黙之檻』
まずはこの部屋中に音を吸収する結界『沈黙之檻』を張った。
魔術的な備えに乏しいのか、連中はこれに気づく様子はない。
これを張った理由はたった一つ。
これからやることを周囲の人間・もしくは何処かに居る誰かに悟らせないようにする為だ。
『……やれ。』
『よっしゃっ!』
俺の掛け声に応じるように、ノートが『ゼッペンリッヒの外套』の中から飛び出した。
部屋にいた人間は、全員が同じ顔をして呆気に取られていた。
まあ当然、自分達しか知らないところに自分達の知らない魔獣が現れたらあんな顔をするだろうな。
あれ、何だあれ……みたいな顔だった気がする。
実感としては十秒ぐらいの間があった気がするけど、実際はほんの三秒ぐらいの出来事だった。
ゼッペンリッヒの外套から飛び出したノートは、その場から二メートル程上に上がった。
そして、状況が飲み込めていない連中の視線を釘付けにした状態から、魔術を放った。
『衝撃音』
俺達を中心に円上に広がった『ドンッ』という音の衝撃が、連中の三半規管を攻撃した。
『衝撃音』はノートが持っている『音魔術』で扱える魔法の一つだ。
その名の通りに衝撃波の様な音波を出して、相手に衝撃を与える攻性魔術。
因みに、獄妖狼から逃げている時に使った魔術がこれだ。
実際は効果範囲を絞って攻撃力高めにして、魔力を殆ど使い切ったらしいけど。
つまり、それなりの威力がある魔術ということだ。
音は直ぐに部屋の中に広がった。
部屋の中にいた連中は、魔獣であるノートの存在に気を取られるのも束の間に魔法を発動させようとしたノートに反応して抜刀していたが時既に遅しで、場にいた五人の人間が気絶した。
後の三人の内二人は耳を押さえて蹲っている。
海外ドラマで閃光弾を喰らったチンピラみたいな反応だ。
「くそっ、何なんだよ……!?」
残りの一人は、立ち眩み程度で済んでいる。
片方の手で頭を抑えて、少しだけ千鳥足気味に蹌踉けている。
こいつがそれなりの手練れなのか?
いや、『沈黙之檻』の効果の所為で威力が半減したのかもしれない。
それともノートの魔術の威力不足なのかは、分からないが俺にはそんなことは関係ない。
今この場で意識がある生物は、俺と従魔の二人以外許されないからだ。
俺は直ぐにガンホルダーから魔術銃を取り出し、即座にコッキングを済ませて立っている男の方へ銃口を向けた。
『水之弾』
先程の大きな衝撃音とは打って変わって『キーン』と涼しい音が響いた。
男は、そのまま自分の身に何が起きたのか認識する間もなく壁にぶち当たり、そのままその意識を地面に落とした。
威力は中級程度に抑えてある、油断している相手はこれで一発KOだ。
その後は、地面で蹲っている二人に一発ずつお見舞いした。
案の定、二人とも気絶した。
さてと、これでこの部屋の掃除はあらかた済んだかな。
俺は、一瞬にして静寂となった室内を見回した。
部屋の中にいた『鎖の狩人』の連中は、全員壁際でノびている。
この光景を目の当たりにして、俺の中に芽生えた最初の感情は安堵だった。
いやあ、結構苛烈な戦闘を予想してたけどなんとかなったな。
こう、なんというか、鮮血と怒号が散る戦場の中を大立ち回り、みたいな絵面を予想してたんだけどな。
よかったよかった。
しっかし『ゼッペンリッヒの外套』の不可視化は、えげつないな。
これだったら、大概の相手なら何とかなるんじゃないか。
今まで俺の近接戦闘に関して、アルマンズブートキャンプでやってきただけだ。
それも、公子である俺を傷つけないように最低限の配慮がされている訓練でだ。
正直、自分にどれくらいの対人戦闘力があるのか分からなかった。
しかし、この光景を見る限りそこまで心配する必要は無いのかもしれない。
すこしだけ、自信がついた気がする。
「ふう、お疲れノート。」
『うむ。ま、ワシが本気を出せばこんなもんじゃな!』
「全員倒しきって無かったけどね……」
『うぐっ……次じゃ次……』
『あるじー、ロキもたたかいたかったー!』
そんなことを考え一働きしたノートを労っていたら、外套の中から飛び出てきたロキから猛抗議が飛んできた。
どうやら、自分も戦えると思っていたらしい。
「ああ、ごめんね。次はロキにもお願いするからさ…」
『ほんと?』
「ほんとうだよ。」
俺の本音としてはロキに対人戦闘には加わって欲しくない。
しかし、ロキの好奇心旺盛な性格を考えれば、その時がいずれ来るのかも知れない。
それに、こんなのは単なる俺のエゴにしか過ぎない。
そんなことを考えながら、プンスカしているロキの頭を撫でて宥める俺。
「いやぁ、これはすごいねえ……」
「ユークリスト様、お怪我はありませんか?」
「……」
そうこうしていると、俺達が来た方向からレヴィアンナ、アルマン、ワグの三人がやってきた。
三人とも部屋中を見渡し、俺達によって倒された連中を確認している。
その間に、俺は懐に魔術銃を忍ばせた。
魔術銃は世に出回っていない異質の平気だからな。
出来るだけ人目に触れない方が良いだろう。
それが例えレヴィアンナやアルマンであってもだ。
ワグは当然知っているけど。
「いやー、心配してたんだけどね。完全に杞憂だったよ。」
「いえ、運が良かっただけですよ。」
手に嵌めているガントレットを調整しながら褒めてきたレヴィアンナに対して、俺は謙遜で返した。
しかし、腰付きのいい長身の美人がガントレットを付けているというのは、とても絵になるな。
スラッとした綺麗な肌の上を流れる絹の様に美しい碧髪、ロシア系のハッキリとした目鼻立ち。
あのスタイルを維持する為に何か特別なことをしているのだろうか?
森林族秘伝の何かが……もしそうならマリアンヌに教えてあげたいな。
後ルルティアにも、そうすれば仲直りできるかもしれないし。
フラムベリカは……既に知ってそうだな。
そんな中、俺は備え付けられている扉の方向に目を向けた。
この部屋に入って中を確認した時に、誰か入っているのではと考えたからだ。
しかし、さっきまでの戦闘音を聞いても出てこないということは大丈夫ということだろうな。
「それじゃあ、次に行きましょうか。」
一安心した俺は、スティアの元へ向かうべく三人に声を掛けた。
俺達がいた部屋から続いている次の部屋に辿り着くまで、そう長くは掛からなかった。
次の部屋の規模は、さっきの部屋よりも大きかった。
俺達がいる反対側には、奥に続く道が三つ。
しかし、それよりも変わっていたのは中に居る人数だ。
二十人は居る。
装備品も、さっきの部屋の連中が付けていたような路地裏のゴロツキ風ではなく、それなりの雰囲気がある。
それぞれが小手や胸当てなどの装備を着け、腰には剣が差されている。
身体の細部には、これまでの荒事で拵えたであろう傷が見え隠れしている。
恐らく、さっきの部屋にいた連中はアマチュアレベルで、こいつらはプロなんだろうな。
犯罪のプロ、この言葉がどれぐらいの脅威なのかは分からない。
だって見たことないしな、三年前のナーベリックはノーカンだし。
何だろうな、ここに来てから多少の緊張はあるものの、それが身体的には出ていない。
もちろん、精神的には緊張している。
しかし、それが手の震えとか激しい動悸みたいには出てきていない。
これが、この身体の性能的なモノなのかもしれない。
まあ、人類最強の息子だからな。
しかし、人類最強の息子でも魔力量は少ないし、武術もあまり得意ではない。
ガラスの器に鋼のメンタルか……たまったもんじゃないな。
そんな俺の視界に映っているのは戦線歴々とした犯罪者達の姿ではなく、この場に似つかわしくない一つの違和感だった。
白いTシャツに付いた、ケチャップのシミのような存在。
「……あの野郎、ここに居たか…」
「おい! あのガキと小人野郎はまだ来ねえのか!?」
その姿を目に写した時、俺の中で怒りが再燃した。
静かに燻り、心の内が膨らんでいくような。
そんな怒りだった。
此方から見て部屋の奥側に配置されているテーブルに、ジョッキを叩きつけながら怒鳴り声を上げたそいつは、グライムだった。
先日トーリックにボコボコにされたのが効いているらしく、四肢に包帯を巻き付け、顔も包帯で覆われ、その傍らには松葉杖のような長杖が立て掛けられている。
両脇には、娼婦と思わしき薄着の女性が二人程。
しかし、その表情は何処か雲が掛かっており明るくない。
グライムが言っているガキというのは、恐らくミアのことだろう。
そして小人というのは、まあ俺のことだろうな。
正確には、トーリックの事だ。
まあ、これでこいつが関与していたことが明らかになったことだから良いとして……
ここにミアが居ることも確認しないとな……
「あれは……フェゼイル商会のボンクラじゃないかい?」
「他にも、グリバー家直轄領にて出回っている人相書きにて見覚えのある輩が……」
「ユークリスト、どうするんだ?」
そんな様子を見たレヴィアンナも、当然グライムのことを知っている。
何たって、散々冒険者組合でデカい顔をしていてレヴィアンナ自身も手を焼いていたそうだ。
もちろん、今回の強制捜査の前にある程度の経緯は話してあるが、改めて確認したという感じだな。
アルマンは、流石といった感じだな。
北部地域にいるめぼしい犯罪者の人相書きは、一通り網羅しているらしい。
俺自身人相書きは見たことあるけど、あんまり自信は無い。
傷跡の位置とか、大体の年齢とか、使用している武器の情報とかぐらいしか乗ってなかった。
後は、使用魔術と使用武術の大体の等級。
アレを完全に記憶しているのか、凄いなこいつ。
ワグはワグで準備万端だ。
こいつは平常運転というか、まあ頼もしくはあるんだけどな。
期待しようか。
しかし、正直今はそんなことはどうでも良い。
あんな娼婦連中よりも大切な人が、この先に居るかもしれないんだからな。
いや、いる。
とにかく、グライムから聞き出すこと。
それが、今の俺にとっての最重要事項なんだ。
「よし、もう一度ーーー」
「待ちな、坊っちゃん。」
「ーーーはい?」
先程と同じように『ゼッペンリッヒの外套』による奇襲を計画し、ノートとロキを懐の中に入れようとしたところに、レヴィアンナから待ったが掛かった。
「どうしました? レヴィアンナさん。」
「いやね、あそこに居る連中はこの辺りじゃ名の通っているゴロツキだよ。さっき戦ったチンピラとは格が違うんだよ。」
「ーーーといいますと?」
レヴィアンナの警告を、俺は聞き返した。
あそこに居る連中が如何に手練れと言えど、俺達が負けるイメージが湧かなかったからだ。
『ゼッペンリッヒの外套』の外套があれば大抵の隠密行動は容易いし。
魔術銃があれば、大抵の防御は抜けると思ったからだ。
「坊っちゃんが用意している策は確かに協力だよ。しかし、それ一つだけなら直ぐに対応されてしまう。ああいう連中の一番厄介なところは、生き延びる能力にあるからね。」
「ふむ……なるほど。」
身を屈めながらも、空を指さす教師のような動作でモノを教えてくれるレヴィアンナ。
うん、確かに的を得ている。
俺としても、やっぱりそこは警戒しないといけない。
さっきの戦いで一種の万能感なんてモノを得ているかもしれないが、俺自身は魔力5000の八歳児なんだ。
俺にとって不確定要素がある限り、迂闊に踏み込んでいくべきではないか。
…………しかし。
「じゃあ、誰が行くんですか?」
それが急がない理由にはならない。
なによりも、こんな所に時間を掛けては居られないのだ。
そんな俺の熱視線を受けたレヴィアンナは、ニヤリとその口角を上げた。
「いるじゃないか、うってつけの奴がね。」
その肩越しに、楯を構えるアルマンの姿が映った。
その顔つきは覚悟を決めたというより、やっと出番を得たと言っているようだった。
「お任せ下さい、ユークリスト様。」
その声は、敵に気取られない為に最小限抑えたモノだった。
その目は、俺に何かを訴える為に最大限滾ったモノだった。
「よし、やれ……」
ただ自然に、その返答が出た。
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