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公爵家五男の異世界行脚  作者: ナカタクマ
第2章~月華の下で踊る貴族と狩人~
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第三十話:収獲物は何処へか

本当にすみません。本当にすみません。本当にすみません。本当にすみません。

言い訳するつもりはありません。

本当にすみません。


後、余談ですけど。

先々週に出てきた『鎖の狩人』のピエロメイク野郎の名前はリキュール・デュアルです。

正式な紹介が抜けてたなと思って、付け加えておきます。



「……それで、今日も収穫は無しか……」

「……申し訳御座いません。」



 あれから三日経った。



 捜査会議を終えた俺達は、さっそく作戦を実行した。

 

 作戦は至ってシンプルだ。


 レーメン内にある四つの区域の警備巡回を増やす。 

 その中で意図的に警備の穴を作る。

 そこに来た連中を捕縛する。 


 何をしてくるか分からない連中には、これぐらいシンプルな作戦が良いと思ったんだ。

 南区に関しては、誘拐ポイントが多すぎるからアルマンを配置している。

 俺は、ノートとワグと共に東区に来ていた。


 検閲を増やすという案も出た。

 子供を誘拐できようが、結局レーメンから出られなければ人海戦術でなんとか探せるのではないかと思ったからだ。

 

 しかし検閲を増やすことなら、既にエレイネが行っていた。 

 そして、収穫は全くのゼロだったらしい。


 かなり厳しい検閲まで行ったらしい。

 荷物の検査は一つ一つ別個で行って、いくつかの商会から苦情が来る程だという。


 しかし、その所為かはゼロ。

 全くの空振りだったらしい。


 そこまで聞くと、正直嫌になる。

 魔法を使う相手に犯罪捜査のあれこれなんて通じるわけないし、そもそもどんな方法かも分かっていないのに、そこに追いつこうとするなんてもっと無理な話だ。


 だから、連中のミスを誘う作戦に決まった。


 しかし、しかしだよ。

 この三日間、全くの音沙汰無しだ。

 ホント、全くの音沙汰無し。


 連中の誘拐頻度から見て、ここ数日当たりに引っ掛かると思ってたんだけど全くのゼロだ。


 俺達の存在はとっくにバレているから、連中が逃げ出したと考えるのが妥当なのか? 

 もしかして、もうこの街には居ないのか?

 それなら、こっちは問題ない。

 寧ろ、願ったり叶ったりの状況なんだけどな。


「いや、別にアルマンは悪くないよ。寧ろ毎晩遅くまで巡回してくれてありがとう。」 

「……お気遣い痛み入ります。」


 そんな俺は、今夜も今夜でアルマンから今日の成果を聞いている。

 前回皆で会議をした会議室で、だ。

 報告をしているアルマンは、本当に申し訳なさそうにしている。

 初日の報告では、敬礼姿勢で立ったままだったんだけど、三日連続となるとアルマンの虫が治らないのか、しっかり跪いている。

 やめてくれと言ったんだけど、思いの外強情なアルマンを動かすことはできなかった。

 顔は俯きになってその表情は見えないが、力の入った拳を見れば、その心内は押し並べてわかるというものだ。


「確かに、成果を出せないのは痛いけど、実際被害はないわけだから、そこまで落ち込むことはないと思うよ。向こうにも向こうの事情があるんだよ。」

「……しかし、このままユークリスト様がこの街に留まることになれば、ルルティア様との和解も遠のいてしまいます。」


 アルマンの口からそんなことを言われた。

 

 これで、俺の中で一つ腑に落ちたことがある。

 この街に来てからの、アルマンのアルマンらしからぬ行動。 

 その全てが、早くこの問題を片付けて、俺とルルティアを和解させるものだったんだ。


「……気遣ってくれてありがとうね。」

「いえ、出過ぎたマネを失礼しました。」


 それから、報告が終わったアルマンは部屋から出て行った。

 もう一度巡回をするそうだ。

 

 身体を壊して欲しくないけど、アルマンみたいな愚直な人間は自分の気が済むまで作業に没頭した方が良いのかもしれないしな。


 俺は一人っきりの会議室で、窓辺から見えるレーメンの街を身降ろしていた。

 しかしそんなのも一瞬で、俺の目は直ぐ上空に移ることになった。


 天翔る夜空一面に宝石を散りばめたような、儚げに燦爛と輝く星空があまりにも美しかったからだ。

 その景色を見てしまったら、現代日本の常套句『月が綺麗ですね』が霞んで聞こえてしまいそうな程だ。

 この景色を見る為に北部地域に隠居する、なんてヤツはいないだろうか。

 現代社会を生きている人間には大凡お目に掛かることのない絶景に、俺は一縷の希望と慰みを求めているのかもしれない。


 普段は誰かが俺の近くに居るが、今は俺一人だけ。

 ワグとノートは部屋の外に居るが、ロキとスティアは俺の部屋で待っている。


 しかし、ここにも俺を気遣ってくれる人間が一人いる。

 あの忠誠心には、いつか応えないといけないな。


 しかし、それに応える為にも今回の問題を片付けないとな。

 

 さっきいった通りに、もしかしたら既に人攫い共はこの街から離れているのかもしれない。

 それなら、既に今回の目的であるあの子供達の安全確保に繋がったのではないだろうか。

 

 そうなったら、俺がこの街に留まる理由はない。

 さっきアルマンが言った通り、直ぐにカトバルスまで帰ってルルティアと仲直りしよう。

 それが、今の俺の優先事項第一位なのだから。


 でも、それは出来ない。

 確実に、あの子達が安全だとわかってからでないと帰れないからだ。


 だからこの状況は、俺としても非常にもどかしい。

 いつまで立っても連中が顔を出さないとなると、俺はこの街にずっと釘付けされることになるからな。

 確かに、何処かで踏ん切りを付けて帰らないといけないけど。

 俺がそのタイミングを誤れば、いらぬ被害を生むことになるからな。

 慎重に吟味して、見極める必要がある。


 しかし、本音はとてつもなく帰りたい。

 今すぐ帰って、ルルティアに謝って地下室に引き籠もりたい。 

 なんと言って謝るか、許して貰えるのか、そんなことまでは考えが及んでいないけどさ。


 しかし、どうしようか……

 このまま何も無いとなると、何処かで踏ん切りをつけて帰るしかないよな。


 だけどここまで来ると、本当にこの件に『鎖の狩人』が絡んでいるのか怪しくなるな。

 実際、俺達の思い過ごしってパターンもあるし、主に俺のだけど。

 その確率の方が高いよな、もうそういうことにして帰ろうかな。

 

 だって三日だぞ、三日。

 何かしなきゃいけないことがあるのに、それが急を要することなのに何も出来ない時間が過ぎるのを待つだけの状況が、こんなにももどかしいなんて知らなかった。

 前世で大学に通っていたときも、大抵のことは急を要することなく済ませていた。

 まあ、論文とレポートはいつも時間ギリギリまで提出しなかったけど。

 

 あ、なんかあの星達が俺に早くカトバルスに帰りなさいって言ってる気がする。

 ほら、星と星の輝きの狭間から、俺を楽園へ誘う手がこんにちはしてるよ。

 あー、早く帰って地下室に籠ってラーメン作りたい。

 そろそろ本格的に寒くなるからな、一発豪快に啜ってやりたいぜ。


 かくして、この胸に広がるモヤモヤを何処にも放出することが出来ないまま俺は、レーメンで四日目を迎えることになる。



ーー


 

「ユークリスト様、今日は私と一緒にお出かけしましょう!」 


 今日も今日とて街の調査に向かおうとしていた俺だが、その矢先にスティアから提案があった。 

 捜索が本格化してからスティアは日中俺と一緒に居たが、日を重ねる毎の俺の焦燥のようなものを近くで感じ取っていたのかもしれないな。


 スティアの格好は、前回レーメンに来ていたときに買った綺麗めの服だ。

 白と紺を基調とした膝丈までのワンピース。

 胸元には、嘗て俺が買った碧色のブローチ。

  

 スティアは、断られる事なんて頭にないようだ。

 もの凄くいい顔で俺の方を見てくる。

 

 しかし、俺もここ数日で根を詰めすぎていたのかもしれない。

 スティアに誘われたとき、思いのほか心が軽くなっている自分がいる。

 スティアが俺を誘っているのは、単に自分が若干放置気味になっている事に対する焦燥だったり苛立ちだったりしているのかもしれないけど。

 それでも、俺は少し嬉しかった。

 ここらで、息抜きも必要かもしれない。


「そうだね、そうしよっか。」  

「ッ……はい!」


 その言葉を聞いてスティアの表情が一気に晴れた。

 昨夜見た星空とは対象にある、快晴の空を切り取った一輪大華の様な笑顔だった。

 俺が今までこの子と居たのは、この笑顔を守る為だったよな。

 いや、この笑顔が見たかったからか。


「ちなみに、ロキとノートは?」

「みんなワグの所に預けてきました!」

「あ、そうなんだ……」


 意外と用意が良いスティア。

 ロキとノートを押しつけられたワグが少し可哀想だ。


 俺は早速、外行きの格好に着替えた。

 と言っても、いつものお坊ちゃんスタイルの服装の上から『ゼッペンリッヒの外套』を羽織るだけなんだけどさ。

 このお坊ちゃんスタイル、動きづらいんだよな。

 もっと別の服を着たかったんだけど、朝一番にエレイネにとっ捕まえられてこの服を着せられた。


「……一応、あれも持って行くか。」


 俺は普段、自分の武器をノートの『異空間収納』の中に入れている。

 そっちの方が嵩張らないし、自分以外の人間からの不要な接触を避ける為でもある。

 『魔術銃(リボルバー)』なんて、その最たるものだしな。


 しかし、それ以外の時は殆ど武装せずに居る。


 俺以外の人間なら、それで通ったかもしれない。 

 みんな魔力力も一定にあるし、無くっても武術の心得がある。

 俺の場合、現在その両方がない。

 

 だから、簡単な自衛の手段が必要だ。

 ホントに、簡単なヤツが。


 魔道具作りの時についでに作った自衛手段を腰に差して、俺はスティアに手を引かれるまま領主館の外に出た。

 もちろん、エレイネ宛てに言伝も頼んでな。 


「それで、何処に行こうか?」

「えへへ、実はもう決めてあるんです。」


 そんなスティアには、既に行きたい場所があるそうだ。

 俺は、早速と言わんばかりに駆け出したスティアの後をついていくことにした。

 


 領主館を出た俺達は、同じ中央区にある大通りの店に来ていた。



 前回と同様にショッピングデートでもするつもりなのかと思ったけど、そうでもないらしい。

 いま、俺達の前にあるのは大きな翼の紋章が彫られた看板を構えた大きな店。 

 

 先日子供達に教えられた、英雄アストルフォン人形を販売しているフェゼイル商会だ。 

 あっちは東区の店だったから、こっちの店に比べれば小さいけど。

 差し詰め、ここはレーメン本店って所かな。

 しかしこれは………


「スティア、ここってさ?」 

「はい、フェゼイル商会です!」

「それは分かるんだけど、全然人が居ないよ。」

 

 先日東区で見た方が本店ではないかと見紛う程、今は閑散としている。

 『がらん……』とした擬音がこの場で木霊するぐらいだ。

 

 周りに人は居るけど、店の周りには人が居ない。

 商店街の中で一つだけ客が集まらないスナックを見ているようだ。


「むふふ、それはですねえ……」  


 そんな俺の疑問を予測していたのか、スティアは得意そうな笑顔を浮かべた。

 

「お待ちしておりましたぁーー!!」

 

 得意そうな笑顔を浮かべたスティアが口から真実が知らされるよりも先に、聞こえてきたのは歓迎の賛辞。  

 いきなり上げられた大声に、俺よりもスティアの方が驚いている。 

 まあ、これからサプライズをしようって時に邪魔されたらそうなるよな。

 

 さて、そんなスティアを他所に俺達の方へ近づいてきたのは、この店の店主と思わしき男。  

 小柄でカイゼル髭の生えた人の良さそうな笑顔の男が、両手を広げて俺達の方へ駆けている。

 

 ボディラインが見えないゆったりとしたローブ。

 肩から金の刺繍が施された掛け物。

 首に掛けられている、寒色の大きな宝飾品。

 俺から見れば背が高いが、実際の所は160センチ前後だろう。

 その低身長に反して、鼻が高く尖っている。


 口をあんぐりにするスティアの前を通過して俺の前に来た男は、そのまま俺の手を握り上げて上下に激しく振り上げた。  


「ようこそ公子様!! お待ちしておりました! 我がフェゼイル商会へようこそお越し下さいました! 私この商会の頭目を務めるマルチェン・フェゼイルと申します! 天翼人(アティカルス)の従者様もご機嫌麗しゅう、お二方とも以後お見知りおきをお願い致します!!」


 勢いよく名乗った男、マルチェンは俺の予想した通りフェゼイル商会の店主らしい。

 レーメン本店を任されているだけではなく、このフェゼイル商会全体の頭目らしい。

 

 しかし、頭目と言うからには些か小物感の凄いヤツだな。

 大きな身振り手振り、大袈裟な物言いにあちこちに視線を奪われる過度な宝飾品。

 よくこんなヤツが、レーメンで人気商会の頭目になれたな。

 

 しかし、しかしだ。 

 俺は、なんでこんな所に連れてこられたのか知らないんだ。

 俺は、横で恨みがましくマルチェンを睨み付けているスティアの方を見た。

 自分の楽しみを邪魔されたスティアは、ブツブツ文句を言いながらジト目でマルチェンを見ていた。

 

「……スティア、説明してくれる?」 

「へっ……! ああ、分かりました!」


 声を掛けられたスティアは、直ぐに説明に移ってくれた。


「今日は、ユークリスト様のお洋服を選びに来たんです!」 

「……お洋服?」


 ビシッと指を立てて宣言したスティアを見て、俺は呆気に取られている。


「ハイ、そうです。ユークリスト様の新しいお洋服を買いに来ました。」 

「洋服なら、本邸にいけば大量にあるよ。」


 俺の洋服を買いに来たというスティア。

 しかし、俺の服はカトバルスの公爵本邸に大量にある。

 ワンシーズン事に、大量の服を仕入れるからな。


「確かに本邸にはお洋服が沢山ありますけど、ユークリスト様が着るのは結局黒と白ばっかりじゃないですか?ユークリスト様は格好いいんですから、もっと沢山のお洋服を着るべきです!」

「そうで御座いますとも! その点から言っても、我が商会が揃えている衣服類はそのどれもが一級品に御座います、はい! 東部で取れた絹から魔獣の毛皮を加工した物まで、多種多様な品々を揃えております、はい!」

 

 スティアに背を押されるまま、マルチェンの鬱陶しいセールストークを聞くままに、俺は店の中に足を踏み入れたのだった。

 スティアに格好いいって言われちゃったよ。

 あと、こいつ『はいはい』うるせえな。

 

 しかし、フェゼイル商会か……

 前回俺は、アストルフォン人形が人攫い組織の手段に使われているのではないかと疑った。

 三日経った今でも、その疑問に対する正確な答えは出ていない。

 

 俺が立てた『鎖の狩人(ガラナック)』陰謀論の中には、連中肝いりの商会が関わってくる。

 三年前、俺が誘拐されたときに件の商会が迅速に『鎖の狩人』にコンタクトが取れたのも、常日頃から接触があったからだ。

 そこから海外ドラマ大好きの俺の脳から考え出されるのは、たった一つの推測。

 奴等は自分達の活動支援と縄張りを広げる為に、自分達のフロント企業となる商会を使っていると考えるのが普通だろう。


 現代みたいにネット環境が整っているのであれば『鎖の狩人』の行動範囲とフェゼイル商会の店舗規模をクロス検索して見れるんだけど。

 そんな情報、レーメンには無かった。

 役所にあるのは、レーメンの税収とかカトバルス関係の報告書だけ。

 勿論、冒険者組合支部の中にもなかった。

 帝国北部から聖教国に掛けての地図はあったが、その殆どが魔獣に関する情報ばかりだった。

 

 生憎のこと、ここは中世以下の文明発達しかしていない異世界だ。

 アナログで出来る作業には限界がある。

 商会に強行突破してエージェントグリバー直伝の尋問術を試したかったが……

 流石にそんな強行は、公爵家縁のものでも許されないらしい。

 レーメンの経済基盤を支えているフェゼイル商会との関係悪化は、避けたいともエレイネが言ってたしな。


 これは良い機会かもしれない。

 この商会に、後ろ暗いところが有るか調査をする。

 そう割り切って、楽しむのも一つの手だろう。


「さあさあ、これなんかがよろしいでしょう! こちらは、伝統的な北部貴族の装いを現代のモダン的な仕上げた品物でして、はい。 こちらは、森林族(エルフ)の伝統的なセネル模様を組み込んだポンチョで御座います、はい。 ああ、それは帝都で大人気の宝飾職人のブランディア・オベールの作品の中でも一級品でして、公子様の優雅なお人柄にピッタリで御座いましょう!」


 セールストークはさておいて、俺がここに来るまでの経緯をスティアから聞き出した。


 結論から言うと、スティアのユークリストロスが原因らしい。

 俺と一緒に何処か行きたい、けど何処に行こうか分からない。

 そこに領主館で働いている人達が、俺の服の色が少ないことを話しているのを聞いてしまったらしい。

 まさにこれだと、天命を受けたようだったらしい。

 それからは、領主館の人達に色々と協力して貰って今回のこの貸し切り紛いの強行に至ったらしい。

 いや、店内の様子を見る限り、こりゃもう貸し切り状態だな。

 店内には、俺とスティアとマルチェンと、その部下十数人が居るだけだった。 


 俺は、着の身着のままに色々な服を着させられた。


 伝統的な北部貴族が身に付ける帽子アンク。

 これは、トルコのフェズに似た形の帽子が魔獣の毛皮などでモコモコとした仕上がりになっている。

 これに貴族の服装として胸元がフリルのようになっているシャツの上に、ボディラインが分かるきっちりとしたジャケットを合わせる。


 森林族のセネル模様は、現代で言うところのアルプス地方のチロリアンに似てる。

 これをワンポイントに編み込んで、ちょっと可愛い感じのポンチョになっている。

 これには、少しゆったりとした、下町感のある服を合わせた。

 

 ブランディア・オベールの作品と言われている宝飾品は、本当に凄いと思う。 

 俺の拳大の、薔薇の形をした赤い宝石が強烈な存在感を放っている。

 よくここまで加工できたなと、帝都まで行ってオベール某と握手したいぐらいだ。


 もの凄く良い服なのは一目瞭然だった。

 スティアの反応を見る限り、これらが俺に似合っているのも分かる。

 まあスティアの場合、俺が何を着てもあんな顔をするんだろうけどさ。

 それでも何か、こう、何かが俺の中に引っ掛かっている。

  

「うーん、やっぱり遠慮するよ……」

「えっ……!?」

「何故ですか公子様!?」


 別に、何か言語化できる不満があるわけじゃない。

 寧ろ嬉しかった、スティアが俺の為に何かを計画していてくれたという事実が。

 でもこれは、俺の本質的な問題というか、やっぱり仰々しい色づかいの服装があまり好きじゃないんだよな。


 いや、分かってるんだよ。

 そこまで、多くの色を使っていないって事はさ。

 でもなんか、白と黒以外の色があると何か落ち着かない。

 厳密に言うと、自分が身に付けている物の中に何か強烈な主張がある物があると、落ち着かない。


 一つ目で言うところのアンクとか。

 二つ目で言うところのセネル模様のポンチョ。

 三つ目は言わずもがな、拳大の宝石だ。


 そんな俺の言を受けて驚いているお二方。 

 スティアは、ショックを受けているようで眉を八の字にして口をあんぐり開けている。

 マルチェンは、焦ったように頭を抱えて若干白目気味に驚いている。


「何かお気に召さない物が御座いましたでしょうか!? それでしたら、他にもご覧に入れていない品が多数御座いますので、どうぞ其方の方を……おい! 何をしている、早く公子様にピッタリな品を持ってこい!」


 マルチェンは本当に焦っているようで、更に勢いが増したように俺に詰め寄ってきた。

 周りに控えている従業員を怒鳴り散らしながら、せかせかとしているマルチェン。 

 公爵家の三男に取り入ることの必死さが、この視覚を通して伝わってきた。

 

 きっとマルチェンは、このレーメンを足がかりに今度は領都の方にまで出店したいんだろう。

 そして、その為には公爵家の三男である俺の推薦では居るのが一番手っ取り早いからな。

 ホント、どれだけ必死なのか、こいつの広がった鼻の穴を見れば分かるよ。

 わざわざ店を貸し切り状態にして、俺を店の中に引き入れたのに逃げられるなんて、口の中に入れた鰻に逃げられるようなもんだからな。


 しかし、これだけ器が小さいのに『鎖の狩人』と裏で繋がっているのか?

 うーん、どうだろう、ちょっと怪しくなった。

 だってこいつ、絶対ナーベリックと馬が合わないだろ?

 いや、あいつのことを知っているわけでもないし、これからも知りたくないけどさ。

 こんな奴が、あの唯我独尊変人と組んで人攫いなんて案件をこなせると思うか。

 こいつをみていると、俺の推測が本当に正しいのか不安になる。

 少し、被害妄想が過ぎたのかもしれない。 


 まあ、俺にはこいつの店がどうなろうと知ったこっちゃ無い。

 

 それよりも最も大事なのが……


「う……ひっく………」


 俺の直ぐ横で鳴いているスティアのことだ。


「ああ!! その、スティア、違うんだ!そういう事じゃなくてね、なんて言えば良いのか分からないんだけど……」


 俺はすかさず、スティアの決壊した涙腺を閉めに掛かった。


「ユーク……様に……うぐ……楽しんで……欲しかったのに……」

「勿論、十分楽しいよ! スティアが外に誘ってくれて連れてきてくれたんだから、楽しいに決まってるだろ!?」

「…でもぉ……お洋服…気に入らなかった……ですよねぇ……ひっく。」

「ああ、それは……」


 まただ、俺はなんて事をしたんだ。

 折角スティアが俺の為にしてくれたことをこんな風に無下にするなんて。

 この、阿呆の唐変木の童貞のクソッタレが。

 いい加減、学びやがれってんだ。


 俺はこの状況を打開する為の最善手は何かと考えた。

 スティアの決壊したダムに一瞬で栓をして、晴れ空のような笑顔に作り替える。

 そんな魔法のような打開策はないだろうか?

 この状況を一瞬で変えてしまうような……

 

 いや、うん、あれしかないのか? 

 というか、あれしか浮かばない。

 今までの俺の行いが如何に悪いかよく分かるな、追い詰められた結果これしか思い浮かばないなんてな。 


「えっ……!?」

「マルチェン!!」

「はっはいぃ!!」


 俺はスティアの肩を抱いて、マルチェンに指を指した。

 そして、戸惑いながら俺の横顔を見つめるスティアを他所に、目の前に飾られている俺用の服を見つめて、こう叫んだ。


「棚の端から端まで、全て買い上げよう。」

「あっありがとうございますぅう!!」


 俺がそう言うと、マルチェンは顔中の穴という穴から液体を吹き出して歓喜した。

 かなり汚いな。 

 しかしそんなことよりも、今重要なのはスティアだ。

 彼女の涙腺崩壊が止まっていないのであれば、最悪全商品返品もあり得る話だ。

 何せ、今俺は、一銭も持ち合わせていないのだからな。

 一切持ち合わせもないまま、端から端までくれなんて言ってるんだから、公爵家所属というブラックカードが如何に凄いのか改めて思い知らされる。


 俺はステージの上で狂喜乱舞するバンドマン並みにはしゃいでいるマルチェンを他所に、肩に抱いているスティアのことを確認した。


 慎重に、簾の狭間から外を確認するように覗き込んでスティアの顔は、戸惑っていた。

 顔を真っ赤に染めて、俺が買い上げた洋服棚から目を背けている。

 当然、俺の方にも顔を向けていない。

 

「あ、えっと、その……」


 言葉を途切れ途切れに戸惑うスティア。

 しかし、この反応も無理はないだろう。

 いきなり『棚の端から端まで下さい』と言い出せば、彼女が俺の身内じゃなくても驚いたはずだ。


「スティア、僕の為に色々考えてくれてありがとう。御礼にスティアにも何か買ってあげるよ。」 

「いっいえ、私は……もう、十分……」

「えっ、何?御免ね、聞こえなかったんだ……」

「ああ、もう大丈夫ですぅ!!」


 良識のある大人からの意見を言うと、こう言うのはあまり良くないと思う。

 だってそうだろ、金を出して喜ぶ女の子を侍らせるなんて、まるで俺が何処かの成金おっさんみたいじゃないか。 

 金を消費することでしか喜びを見いだせないなんて、どれだけ悲しい人生を送るつもりなんだ。


 でもそんなの、この子の笑顔の前では全くの無意味だと言っておこう。

 

 俺の腕から離れたスティアは、両手で頬を押さえながら『ああ、もう。』なんて呟いている。


 しかし、これ、今すぐ払わないといけないのだろうか?

 やべえ、気が大きくなると箍が外れてしまう典型的な童貞気質の俺にとって、この状況は非常に不味い。

 格好つけて思い切ってみたけど、今俺の背中にはナイヤガラのような汗がドバドバと大量発汗している。

 異世界ってローンとか組めるかな、カード払いとか効くのかな?

 なんだっけ、リボ払い?とかいけるのかな?

 ああ、ちょっと、実家に帰って叔父に確認取ってきても良いですか?

 今すぐ俺の権限で動かせるお金を確認してきても良いですか?

 もしくはあれだな、公爵家の三男が着ているという広告料代わりに無料で掠め取るか。

 うん、こいつ程度の器の大きさのヤツならば、それでも良いかもしれない。


 やってみようかな……うん、やってみよう。

 もし失敗しても、ちょっと気まずい空気が流れる程度だし『後で使いの者を寄越してお金を払わせるよ』と行ってトンズラすることだって出来るのではないだろうか。

 だって、この場に居るのは二人の子供だよ。 

 これだけの量の服を持って帰れるわけがないだろ、今は現金を取りに帰る体で一時撤退をして落ち着いて物事を考えられるようになってから、今回の奇行について解決策を考えよう。


「そっそれじゃあ、マルチェン、後で使いの者を寄越すから、詳しい話はそいつとしてくれよ!!」

「あっ、公子様ぁあ!!」

 

 俺は一目散に逃げ出した。

 スティアの背を押して、マルチェンに目もくれること無くただ只管日が零れる出口に向かって走り出した。

 実際あの服がどれくらいするのか俺は知らない。

 なんかさっき、後ろの方で『一日で四半期の売り上げが』とか色々と不穏な言葉が聞こえたけど。

 それも全部一旦置いといて、俺が浪費した公爵家の金庫をどうするか考えた方が良いのかもしれない。

 いや、まだあの服全部が俺の権限で公爵家の金庫から金を出せると決まっているわけじゃないんだけどさ。  

 どうせ、棚の肥しにしかならないと決まっている布切れを説教喰らってまで買うなんて、自分のやったことの馬鹿馬鹿しさが今でも尾を引いているな。 



 店から逃げ出すように出てきた俺達は、行く宛ても無いまま歩いていた。

 普通ならば、子供が二人だけで何処かに行くなんて危ないのだが、今は日中だし大丈夫だろ。

 それにここは中央区だ、この辺りではまだ誘拐は起きていない。

 レーメン内で唯一と言って良い安全地帯が、ここ中央区だ。

 それに現在レーメン内は、公爵家の騎士が昼夜問わず警備巡回が回っている。  


 それに、俺の警護ならば十分に居る。

 スティアは気づいていないらしいけど。

 まあ、俺でなきゃ見逃しちゃうね。 


「それで、そろそろ帰ろうか、スティア。」

「そっ、そうですね……」


 勢いで出てきた所為か、スティアとも気まずい空気が流れている。

 まあ、俺が買う買う詐欺をやらかしたんだと思ってるんだろうな。

 大丈夫安心しなさい、君の主人は詐欺なんてやらかす人間じゃないからさ。

 ただ、ほんの少しだけ相談して、ほんの少しだけ傷口を小さくしようとしているだけだよ。

 ホントに、スティアの気持ちを無下にして服を全て棚の肥しになる前に返品返金し、或いは市井に安値でばらまいて金を回収しようなんて考えてないよ。


 俺は周りを見渡して、周囲を確認した。

 自分達の位置を把握して、領主館に帰る為だ。 

 

「あ……冒険者組合が近くにあるね。」

「はい、そうですね…」

「ちょっと寄っていこうか、レヴィアンナさんと今夜のことで話があるからさ。」

「はい!」


 俺はスティアの手を引いて冒険者組合の方に歩いて行った。

 後ろから聞こえてくるスティアの声は、明るくいつもの調子を取り戻したようだった。


 俺としては、特に理由はなかった。

 レヴィアンナに話すことも無いし、冒険者組合にも用事は無かった。

 ただ、少し勝手が分かるところに行って冷静に考えたかった。

 器の小さい俺らしい、金の使いすぎという悩みを解決できる時間が少しだけ欲しかったんだ。 


「何すんのよ、はーなーせ!!」 


 俺じゃなくても聞き逃さないぐらいの声が聞こえたのは、その時だった。

 つん高く、少し攻撃的に強められた語尾が発せられたのは、冒険者組合の方向からだ。

 正確には、冒険組合の建物と隣接する建物の間だ。


 俺達は視線を合わせた。

 『行きますか?』『うん、行こう。』みたいな感じで、バッチリ意思疎通が出来ているのはこの三年間一緒に居た成果の一つだろうな。

 他にも色々ある、『ルルティア様が来ました』と言われたら『適当に追い払って』と言うと『ユーリ、またスティアに変なこと言ったでしょ!?』と返ってきたりな。

 後は、『今日の授業はサボって地下室に居るから、適当に誤魔化して』と言ったら『ここに居ましたか、ユークリスト様。』と、直ぐに見つかったり。


 あれ、そこまで上手くいってないと感じるのは俺だけだろうか?

 いや、上手く行ってる、俺とスティアの三年間を舐めんなよ。 

 言葉一つで、人差し指の動き一つで、アイコンタクトだけで簡単に意思疎通が出来ちゃうんだ。

 出来る、絶対出来る。


 少しだけ不安を抱えながら建物の角から中を覗き込むと、ここ最近見慣れた光景が広がっていた。

 というか、つん高く攻撃に強められた語尾を聞いたときからなんとなく予想がついてしまっていた。

 


 例の如く、子供達がチンピラに絡まれている。

 ミアが腕を掴まれて、他の子供達がそれを何とかしようとしている。

 カミーラだけは、怖くて身体が動かないようだ。

 ホント、この子供達は俺よりもファンタジーを満喫しているんじゃ無いか?

 師匠役の謎の鍛冶族に偶然出会って、魔法を習い始めて、誘拐事件の渦中に居る。

 そして、今はチンピラに絡まれている。


 地下室に籠って心的外傷後ストレス障害に悩まされている俺よりもファンタジーだな。


 主人公ポジションがあの子達にあるのか?

 なんか、ちょっとショックだな。

 別に張り合おうってわけじゃない、ただあの子達が主人公ポジションに居座ると言うことは、師匠ポジションであるトーリック。

 つまり、俺の死を暗示しているのだ。

 あるだろ?主人公達を守る為に師匠役が殿を努めて命を落とすあのシーンが。

 今のところ、俺は人の為に命を投げ打つ予定はない。


 しかし、なんでこんな所に子供達がいるんだ?

 だって、こいつらの遊び場は東区周辺だろ?

 それなのにこんな所まで遊びに来て、中央区が安心だって大人に言われたのか?

 全く最近の子供達は、危険よりも楽しいを取ってしまうのは好奇心旺盛の性なのかもしれない。


 いや、魔法を習っているんだからここに来てもおかしはくないだろう。

 レヴィアンナは忙しいから、自分から子供達の元へ出向くよりも子供達に来て貰える方が楽だろう。

 つまり、今はその帰りって所かな?

 現にあの子達の足下に、勉強資料的な書類も転がっている。

 あの子達は文字が読めなかったはずだけど、この半年で勉強したのか。

 

 まあしかし、そんな子供達を待ち伏せしていたのが、このチンピラ達ということか。

 だったら、そんな子供達に絡んでいる大人をみてみよう。

 

「てめぇらが、最近支部長(あの女)から魔法を仕込まれてるってガキ共だろ? だから、俺の商会で雇ってやるって言ってんだよ。 有り難く思えよ?」

「いーやーよ!! 誰もあんたなんかの商会に行かないわ!!」 

「ミアちゃんを放してよぉ!!」

「ガキは黙ってろ!」


 ふむふむ、大人は三人組か。 

 一人は細身の高身長の男、もう一人はガタイの良い男。

 もう一人の男は、奥の方で壁にもたれ掛かっているから顔まではハッキリ見えない。

 全員シャツの上に肩当てと胸当てを着用し、帯剣している。

 いや、奥のヤツだけ詳しく見えないけど格好が違うな。


 しかし、細身の高身長には見覚えがある。

 厳つい眼に高く尖った鼻。

 スキンフェードに刈上げた、パンプキン色のアイロンパーマ。

 年は二十代前後。 


 あれ、何処で見たんだっけ?

 

「ユークリスト様。あの人、フェイリーさんの婚約者さんです。」


 スティアも男の姿を確認したようで、男の素性を俺に教えてくれた。

 スティアは俺よりも記憶力が良いらしい。 

 侍女の勉強として、主人である俺関連のことは基本的に覚えるようにと最初の侍女教育で言われているらしい。 

 だから、スティアは俺のことなら基本的になんでも知っている。

  

 しかし、フェイリーの婚約者か。  

 フェイリーは、俺等がこの街に魔獣狩りをしに来たときに利用している宿屋の酒場で働いている看板娘だ。

 栗色のウェーブがかかった髪に、愛らしい笑顔が似合う。

 田舎に咲いた一輪の花という印象がある女性。


 そんなフェイリーに婚約者なんていたか?

 

「はあ、スティア。フェイリーに婚約者はいないよ。」


 何を言ってるんだと、呆れたような目を向けてスティアに答えた。

 まあ、スティアも子供だ、間違えることはあるだろう。

 ここは、大人である俺の寛大な心で許してやらんことも無いことはない。


「いますよぉ! ほら、この前ユークリスト様が酒場で喧嘩した人です!」 


 小声で少しだけ語尾を強めながら、スティアに指摘された人物を思い出す。


 俺がこの前、酒場で喧嘩した人……

 あ、そう言えば居たな。

 

 名前は確か…… 


「フェゼイル商会の跡取りであるこのグライム様が、てめぇら平民を取り立ててやるって言ってんだよ! 嬉しいだろ、俺様に感謝して敬い奉っても良いんだぜ? ていうか、そうしろ。」

「そうグラ……えぇええ!!」

 

 なんとか小声で留まることが出来たが、俺はいまかなりの衝撃を受けている。

 あいつ今なんて言った!?

 

 一つ、事実を確認しよう。

 あいつはグライムだ、先日俺達に喧嘩を売ってワグが華麗な手法で追い返したグライム。

 そんな男がここに居るのはわかる、だって身形からして冒険者的な活動もしているのだろうからな。

 

 そんなヤツがなんだ、フェゼイル商会の跡取り!?

 今し方竹下通りのぼったくり店のように、俺に大量の衣服を売りつけたフェゼイル商会の跡取りだと。

 そういえば、マルチェンの鬱陶しいセールストークに倅が何たらとか言ってたような言ってないような。 

 しかし、あんなに低身長な男からよくこんな高身長の男が生まれたな。

 いや、実際に生んだのは奥さんなんだろうけどね。

 まあでも、あの尖った鼻は完全に遺伝だな。


 しかし、ここでもフェゼイル商会が出てくるか。

 

 しんど、しんどいわ。

 あと、ちょっとイライラもしてきた。

 こいつにぶつけても良いかな?

 

 良いだろ?だって、今こいつ子供達に絡んでるし。 

 俺がこの街に来た目的はなんだ?

 それは子供達の安全を守る為だ、その為なら何でもすることを決めていた。

 そして、こいつはその対象となる行動を取っているわけだ。


 それ即ち、大義名分と免罪符が揃ったということだ。

 

 よぉし!!やってやろうじゃないですか!!


『ノート!!』

『ほいじゃぁあ!!』

「わっ……!?」 


 俺は直ぐにノートを呼んだ。

 あれ?なんでノートがこんな所に居るのかって?

 ここには俺とスティアしか来ていないのにおかしいだろって?

 まあ、現にスティアはなんでこんな所にノートが居るのか理解できず、きょとん顔だ。

 しかし疑問の答えは一つ、俺の護衛としてワグが一定の距離を保ってついて来ていたからだ。

 如何にスティアが用意周到に計画したとは言え、現在レーメンは人攫い組織が跋扈する危険地帯だ。

 そんな所に、公爵家所属の子供を単身で外には出さない。

 

 スティアに気遣って俺達に見つからないように、俺達が屋敷を出た後ワグ達がついてきていたのだ。


 さて、俺がどうして気づいたのかというと。


 道中、ずっとロキから念話を貰っていたからだ。

 『あるじー、ロキここいるよー』とずっと言ってきた。

 念話って、テレビのチャンネルみたいにオンオフできないのかな?


 まあ、話はそれとしてノートに来て貰った俺は『異空間収納』からあるものを取り出した。


「スティアはノートと一緒にワグの所に戻ってて。」

「え、ワグが居るンですか?なんで?」

「説明は後、ノートよろしくね。」

『うむ、任せるのじゃ!』


 まだ戸惑っているスティアをノートに任せて、俺は路地裏の方を観察した。 

 

 よし、先ずは計画を立てようか。

 あいつに責任だのなんだのの言いがかりつけて、俺が買ったフェゼイル商会の服を全て返品できるような計画を立てるんだ。

 いや、返品したらスティアが悲しむかもしれない。

 それなら、こっちが被害を被ることなくあっちに百ゼロの責任を負わせよう。

 そして、話をフェゼイル商会まで持って行って、お詫びの品としてあれらの全てを無料で掠め取ってやる。

 よし、そうと決まればしばしの時間が必要だ。

 お願いだから、それまで大人しくしといてくれよ子供達。


「きゃっ……!!」

「カミーラ!! このっ……!」


 男の一人が振り払った手がカミーラに当たり、彼女はそのまま地面尻餅をついた。

 そんなカミーラを見たゲイルは目をつり上げ、自分よりも遙かに体格の違う男を見上げて睨み付けた。


「んだぁ!?このガキ、女の前で格好つけたくなったかぁ? 盛ってんじゃねえよ!」

「うっ……!?」


 お着きの一人が、そんなゲイルに対して腰に指している両刃剣の柄の部分に指を掛けながら、そう言った。

 カチャっとなった音を感じたとき、ゲイルの顔が青ざめていた。

 同様の恐怖が、隣に居るオーウェンとそれを見ていたスティアに広がった。


 しかし、それを恐怖とは全くの別のものとして受け取ったものも一人。 


「ッ……!! 私の友達に何すんのよ!!」


 グライムに腕を掴まれながらその光景を目にしていたミアは、猫目とつん高い声を更につり上げた。

 友達が目の前で傷つけられたのだ、ミアとしては当然の反応だ。

 なんせ、その友達の父親の為に魔獣が闊歩する危険自然区域(レッドエリア)に入り込んだんだからな。 

 正義感の強い子なのかもしれないと思っていたが、その通りらしい。


 ミアはカミーラを突き飛ばした男ではなく、自分の腕を掴んでいるグライムの方に空いている手を向けた。

 魔力が感じられるようになった俺だから分かるが、その手にはハッキリと魔力が込められていた。 

 相手のグライムもそのことに気づいたのか、ミアから向けられた手を見てこめかみから冷や汗を流した。

 圧倒的優位に立っていたと思っていた矢先に、自分へ銃口を向けられたのだから当然だろう。


火之球(ファイヤーボール)

「!?……んのわぁ!?」


 ミアの掌からグライムに向けて、ドッチボール程の大きさの火球が放たれた。 

 その火は赤い閃光を放ち、ミアの目の前に居るグライムの生命を脅かした。

 子供の撃った魔法程度の威力ならば十分に対処可能であるが、現在グライムに放たれているのはゼロ距離からの攻性魔術。

 しかも、感情の不安定な子供が激昂した結果生み出された攻性魔術だ。

 実弾の入っていない空砲の銃がゼロ距離で発射されると殺傷能力を帯びるように、目の前の荒々しい怒りの塊もまた例外ではなかった。

 その威力は未知数であり、まず当たらないことを最優先に考えないといけない。


 身体を大きく仰け反らせたグライムは、そのままミアから手を離し背面から地面に倒れ込んだ。

 

 反対に『火之球』の方は、呆気なく消滅した。

 これにはいくつか理由がある。

 まずあの子達は既に魔法の授業が終わり、既にある程度の魔力を消費していること。

 どれくらいの魔力量があるのか知らないが、そのコントロールは習熟度が上がらないと任意の魔力量を運用することは出来ない。

 それから、後は恐らくミア自身の魔法の腕の問題。

 この前も俺がトーリックだった時に会ったら、魔法のコントロールがなんとか言ってたな。

 

 そんな様子を見ていたグライムは、その表情を恐怖から一瞬で激怒に変えた。


「てんめぇええ!!」 


 余計な言葉すら出てくる前にその手は腰に指している剣に向かい、気づけば抜刀していた。


 ああ、これは変な方向に進んでしまったな。

  

「ぶっ殺してやる!!」


 顔を歪めたグライムが振り上げたその剣を見て、その場に居合わせた子供達の目から光が消えた。

 声を発する勇気もなく、足が震えその場で立ち尽くした。

 ただ、無力な空手が目の前で殺されそうとしている友人の方向に向けられているだけ。


 ある者はその口角を上げた、ある者は目を伏せた、またある者は自らに降りかかろうとしている刃を一心に見つめた。

 ………涙を流すことなく。

 一人の子供が鮮血を撒き散らし、その生涯を終えるとその場の全員が考えた時。


 キーンッと金属音がその場に響いた。


「そこまでにしたまえ……」


 同時に、曇った声が建物の間に反響した。


 一人が空を見上げた。

 自らが振り上げた両刃刀の行方を確認する為だ。

 既に男の手の中には無く、その手には空が握られていた。


 それ以外の者は声が発せられた方向を見た。

 それに遅れて、空を握ったチンピラも声が発せられた方向を見た。

 声を発した人間と、自分が握っていた両刃刀が同じ方向にあったからだ。 


 そこには、無機質な仮面を被った齢8歳児程の背丈しかない男が立っていた。

 空中に男から奪い取ったであろう両刃刀を浮かべて。




 はあ……やれやれ、結局こうなるのか。


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