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公爵家五男の異世界行脚  作者: ナカタクマ
第2章~月華の下で踊る貴族と狩人~
40/63

第二十九話:二つの会議

総合PVが一万超えました。

本当にありがとうございます。


そんな報告をしたところでなんですが、筆が進まず本当に申し訳ないです。 

ちょっと、そろそろ、本腰を入れて改革案的なモノを考えたいと思います。


後、物語冒頭の話何話かの改訂を考えています。

初めての読者が入りやすいように、今後も読んで頂くように少しずつ変えていきます。 



「さてと、作戦会議を始めようか。」 


 アニマルセラピーを経て立ち直った俺は役所に行き、そのまま領主室に通された。 

 中央の机には、レーメンの全体が把握できる青写真の様な図が置かれている。

 役所には、既に俺以外のメンバーは揃っていた。


 俺、ワグ、アルマン、レヴィアンナ、エレイネ、この五人だ。


 スティアは、部屋の端っこでロキとノートの面倒を見ている。


 本来はここにレーメンの警備隊長も加わるはずなんだけど、公爵家の騎士であるアルマンが加わったことによって、その下に組み込まれることになった。


 因みに、他の若い騎士達はそのままレーメン中を見回っている。

 何か見つかれば良いと思うけど、きっと何も見つからないだろうな。


 別に、彼等に無駄働きをさせようなんて考えてない。

 見つかったら見つかったで、何か手がかりになるかもしれないしな。

 しかし、見つからなかったで今以上に『鎖の狩人(ガラナック)』への疑いが強くなるだけだしな。


 どっちでも良いなんて事は言えない。

 どっちでも良いなら、圧倒的に『鎖の狩人』と関わらない方が良い。


 確かに、この三年間であいつらが招いた悲劇がこの北部に強く根付いているかもしれない。

 それで言ったら、今回の誘拐事件が最たる例だ。

 その所為で傷ついた子供、崩壊した家族、失った命なんてのもあるかもしれない。


 それでも、俺は極力関わりたくない。

 数万に及ぶ他人よりも、たった一つの自分の命の方が大切だし、自分の力を見誤って足を踏み入れた先で周りの人間を傷つけるなんて愚行は犯したくない。

 

 だから、今でも心の奥底で『鎖の狩人』が関わってなきゃ良いなと思ってる自分がいる。

 いや、関わらないで下さいと懇願している自分がいる。 


 さて、俺は東区から直行したから先程までの黒マントを羽織った状態だ。

 アルマンも同様に、前進甲冑で身を包んでいる。

 エレイネは、コルセットスタイルのドレスだ。

 レヴィアンナさんは、ナイスな腰付きを強調するパンツスタイル。

 しかし、いつみてもこの人は最高だな。


「それで坊っちゃん、今回アタシまで呼ばれたって事は、それなりの連中が絡んでるってことでよろしいかい?本来は政治畑の人間の領分に、アタシ等冒険者が関わるなんて珍しいからね。」


 開口一番にそう言ったのはレヴィアンナだ。

 見る人によっては、公爵家の三男としてある程度人目を集めている俺に些か不躾な物言いかもしれないが、これが彼女の通常運転だし俺はこういう接し方の方が、気が楽だ。


 彼女が言った通り、冒険者が相手をするのは基本的に魔獣や護衛の仕事をしたときに野党の相手をするぐらいだ。

 まあ、それの負荷が半端ないのは確かなんだけど。


 こういう領内のゴタゴタなんかを解決するのは、そこの領主や寄親の貴族。

 所謂、政治家の本分なんだ。


 理由は簡単だ。

 そういう事件の解決の方が、領民や他の貴族にアピールが出来るからだ。

 前世でも、世間的に知られている事件を解決して市長に立候補する警察庁の長官とか海外ドラマに居たからな。

 そんな分野から離れている彼女を今回のユークリスト戦線に入れることって言うのは、やっぱりそれぐらいの連中を相手にするかも知れないって事だからな。

 

 大陸剣議席、序列第41位『潜奪(ヴァストーレス)』。

 その戦力を今回は期待したい。

 彼女の専門が対人能力かどうかは分からないが、大陸剣議席にまで入るその実力は生半可なものじゃないだろうからな。


「ちょっと待て、なんだその言い方は?」


 そこに待ったを掛ける者が一人。

 何を隠そう、アルマンだ。


 アルマンは、不躾な物言いをするレヴィアンナに対して少しだけ気を立てているようだ。

 座っているレヴィアンナの前にズイッと乗りだして、身降ろしている。 

 

 眉間に皺を寄せ、彫りのある顔つきに更に暗雲がかかっている。

 

 アルマンはレーメンに来てから少し様子がおかしい。


 と言うのも、いつものアルマンだったら沈黙を貫き、上の者の命令を黙々と実行するって印象が強かったんだけど、この街に来てからその印象を返上しようかと思うことがかなりある。


 まずは、最初に被害者家族との面会だ。

 沈黙している彼等に対して少し威圧的というか、気遣いの出来る男アルマンでは無かった。

 いつもなら、相手を気遣いながらも背中で語る男って感じだけど、あの時はそれこそ碌でなしの上位貴族のガキの護衛をして甘い汁を啜る騎士って感じだな。


 もしかして、相手が平民だったからだろうか?

 もしかして、アルマンは差別主義者なのか?


 いやいや、ただ平民の貴族の区別を付けているだけだ。

 この世界では常識の部類だし、差別主義者なんて言葉を使って大袈裟に騒ぐことは無いだろう。


 それに、差別主義者ならワグと一緒に訓練なんてしないだろう。


 そんな考えはよくない。

 アルマンは、この五年間程見てきたがグリバー本宅に居る人間の中で最も誠実な男だ。

 自分を律し、常に鍛錬を止めること無く精進している。

 人間不信の懐疑の塊であるワグが騎士団薙いで唯一認めている男というだけで好感が持てるというのに、今回の数回の行動だけで彼の全てを決めてしまうなんて、アルマンに対して不誠実すぎないか。

 信じてやるんだ、ユークリスト・スノウ・グリバー。

 ここ半年以上、毎朝ブートキャンプを付けてくれるアルマンのことを信じるんだ。


 しかし、となると、アルマンに何かしらの問題が発生しているのか?

 この感じから見ると、何か焦っているのかもしれないな。

 

 しかし、何を焦るというのだろうか?

 もしかして、アルマンも今回の事件について思うところがあるのだろうか?


 まあ、正義を自負している者ならば人攫い組織に対して、腹に一物や二物ぐらい抱えていても可笑しくはない。

 

 さて、話は戻ってそんなアルマンとレヴィアンナが睨み合っているのだが。


「如何に其方がこの街の冒険者組合を仕切っているからと言っても、ユークリスト様はこの帝国の筆頭公爵家に名を連ねる御方。守るべき礼儀というのは守って貰おう。」

「あらそう、此方は呼ばれてきたんだけどね。それに、アタシと坊っちゃんは既に知らない仲じゃ無いんだよ。守るべき礼儀の前に、知るべき常識を身に付けてから口を開きな。クソガキ。」

「ッ…何ーー」

「はーいはーい!!アルマンもレヴィアンナさんもそこまでにしよう!!」

 

 俺は、NBA選手顔負けのトラッシュトークを展開している爆発寸前の火薬庫に水を掛けた。 

 

 アルマンの主張も一応は理解できる。

 ほら、漫画とかでも格的なモノから命がけの決闘なんて展開もあるからさ。

 それを守る為に一つ前に出たんだろうな。

 本来ならばワグの仕事だ、お前は何してんだよ。


 レヴィアンナさんは『クソガキ』って。

 いや、長寿の森林族(エルフ)にとってアルマンなんて子供の様な感じかもしれないけどさ。

 あと、俺の方が迷惑を掛けているのが多いから全然態度と描きにしないんだけどさ。

 後、思った以上に辛辣なこと言うんですね。

 五反田辺りでSM嬢とかやってましたか?

 ボンテージに鞭を持ってるタイプの嬢を。


「まずアルマン、今回は僕からレヴィアンナさんに個人的な協力を頼んだんだ。僕の為に前に出てきてくれたのかもしれないけど、それ以上やるのは僕の顔に泥を塗るのと一緒だからね。」

「はっ申し訳ありませんでした!!」

 

 俺に軽く注意されたアルマンは、直ぐに謝罪をした。

 アルマンには、事実を伝えた方が簡単だ。

 もっと言うなら上からの圧力的なヤツだ。

 根っからの軍人だから、俺の言うことは大抵聞く。


「それから、レヴィアンナさんもあまりからかわないで下さいね。今は非常事態になるかならないかの瀬戸際なんですから。こんな早い段階で内輪揉めなんて御免ですよ。」

「わかってるよ、ちょっと遊んでみただけさ。」


 もちろん、レヴィアンナにも注意した。 

 アルマンに注意してレヴィアンナに注意しない、なんて不公平だからな。

 まあ、直角九十度の謝罪をするアルマンと反して、悪戯な笑いを浮かべるだけだけどね。

 

 俺に迷惑を掛けられている、彼女の気持ちの一端が垣間見えた気がする。


 しかし、俺の注意を受けたアルマンは少し不満そうだ。

 何があったのか知らないが、アルマンにはアルマンの良さがあるのだから、そこを詰めれば良いのだと思う。

 

「それでは、本題に入りましょうか?」


 そんな様子を眺めていたエレイネから、いつもの朗らかな顔つきで会議の開始を提案される。

 仲裁に入ってくれても良いと思うんだけど。


「はあ。それじゃあ、改めて。これが、今回の『レーメン人攫い事件』の捜査本部だ。まずは、此処に来る前までにそれぞれ調査したことを報告し合おうか。アルマン、よろしく。」 

「はっ、東区以外の三区の状況を報告します。北区では、誘拐現場と思しき場所を発見しましたが、それを裏付ける物証は見つかっておりません。西区、南区は現場の候補が多く一つに絞りきれずにいます。現在三区とも人海戦術にて捜索を続けております。」

「わかった、ありがとう。」 

「はっ!」


 指名されたアルマンは、帝国軍人の敬礼姿勢を取って聞き取りやすい声色と口調で報告した。

 うん、これがアルマンの良さだよな。


「それでは、次にレヴィアンナさんお願いします。」

「よし。アタシは、この前坊っちゃんから相談を受けて組合(ギルド)でも情報を集めたよ。実際に特異魔法に適性のある魔導師を雇って調査もした。それで分かったこともいくつかあったよ。」

「……続けてお願いします。」


 不穏な空気を醸し出すレヴィアンナに、俺は少し間を置いて続きを促した。

 本当は、言って欲しくなかったけどさ。


「ああ、連中の中にも『魔導師』がいるね。」


 先程までの軽い態度とは打って変わって、鋭い目つきで放たれたレヴィアンナの言葉に、場は一瞬沈黙した。


 前にも説明したと思うが、この世界の戦士にはいくつか段階がある。

 魔力の循環で身体能力を強化して戦う『魔剣士』

 魔力の発現により魔法を扱える『魔戦士』

 魔力の複合により一段階上の魔法を使える『魔法士』

 魔力の個性化により他の魔法と一線を画すことが出来る『魔導師』


 『魔導師』の言葉は、暗に特異魔術を扱える人間がいるということを指している。


 正直、聞きたくなかったな。


「……聞きたくない言葉ではありますが、ここに居る全員に共有しておきたいことがあります。」


 俺は、ここに居る全員に『鎖の狩人(ガラナック)』が今回の騒動の裏に居るのではないか、という推測を伝えた。

 まあ、此処に来るまでは推測だったけど、レヴィアンナの報告によってそれが若干確信に傾いてはいるけど。

 四分の一の希望を交えて話をしているが、全員の反応がいまいち悪い。

 自分の心の中に抱えていた物を、俺の言葉によって引きずり出されたようだ。

 やっぱり三人とも、もしかしたら程度にその存在を感じていたのかもしれない。


 まあ、当たり前っちゃあ当たり前だよな。

 三人とも、この北部の地にを拠点に活動をしているのだから。

 自分が受け持つ地に蔓延る犯罪組織を認識していないわけが無い。 

 そして、その凶暴さや残虐さは俺よりも知っていることだろう。


「『鎖の狩人』……ですか。確かに、帝国北部から聖教国に掛けて活動範囲を広げているという噂は聞いています。しかし、ここレーメンは公爵領都カトバルスの膝元。」 

「流石の連中も、『指揮者(コンダクター)』に後ろ足で砂をかけるような真似はしないと思っていたんだけどね。まさか此処まで来ていたとは……」


 エレイネとレヴィアンナも、『鎖の狩人』を警戒していたようだ。

 レーメンの街を預かる立場であるエレイネや冒険者組合の支部長を務めるレヴィアンナは、俺よりも『鎖の狩人』について知っていることは多そうだ。


 まあ、俺は年がら年中引き籠もって自分の好きなことをしていただけ、だけどな。

 もちろん、あの誘拐事件から一年ぐらいは自己防衛も兼ねて情報を集めていたりしていたけど、心的外傷後ストレス(PTSD)障害の所為で睡眠時間がままならなくなってからは、情報集めに精を出せなくなっていた。


 まあ、それも言い訳に過ぎないのだと今なら言えるな。


 出来るだけ早くあの事件を忘れて、ぐっすり眠りたかった。

 『鎖の狩人』の事を思い出す度に、あの時殺した男の顔がちらついていた。

 だから、そこから目を背けていたかったんだ。


 しかし、思った以上に真剣な雰囲気になってしまったな。

 『事件は会議室じゃ無い、現場で起きてるんだ!』って言いたかったのに。

 そんなこと言える雰囲気じゃ無くなってるな。

 

「あの男もいると思うか?」


 そう口を開いたのはワグだ。

 いつもは基本的に無表情なワグだが、その目には闘志の炎を宿しているのが分かる。

 ワグも『鎖の狩人』の構成員の一人、ナーベリックと関わったことがある。

 ほんの少ししか手を合わせていないはずだが、その力は未知数だ。

 もちろん、俺が関わったのもあいつ一人だけなんだけどさ。


「確信を持って言えるわけじゃ無いけど、いると考えた方が良さそうだね。」 

「話の腰を折って申し訳ありません。ユークリスト様、あいつとは?」


 俺とワグとのやり取りに疑問を感じた、というよりもついて行けなかったアルマンから質問が飛んできた。

 アルマンはこの数年間、公爵本邸で若手騎士の教官に徹してきたからな。

 『鎖の狩人』の存在は知っていても、その内情までは知らないのだろう。


「僕もほんの少ししか知らないけど……そいつはナーベリックと名乗ってた。三年前、僕の誘拐した連中と一緒にね。」 

「……あの時、ですか。そいつの力量を聞いても宜しいでしょうか?」

「あの時は、僕も魔力切れで意識が朦朧としてたからね。確実なことは言えないけど、父上から逃げられる程の実力だよ。」

「なっ……!?それは、つまり、議員(ランカー)レベルの実力者だということですか?」

「わからないけど、確実に言えるのは、この中の誰が挑んでも父上からは逃げられないよね。」


 半分冗談、半分皮肉のつもりで言った俺の言葉にアルマンは驚愕した。

 大陸剣議席序列第三位『指揮者』から五体満足で逃げ切ったというのは、それほどの衝撃を与える言葉なんだろうな。

 俺の場合なら『ゼッペンリッヒの外套』を使って、逃げ切れるかもしれないが、餅投げの勢いで『爆撃(エクスプロージョン)』を多用するマジギレモードのカイサルから逃げ切れる自信は、一ミリたりともない。


「まっ、それも加味してアタシが呼ばれたんだろう?」

「はい、それがレヴィアンナさんをお呼びした理由です。正面衝突する必要はありませんが、万が一遭遇した時逃げる為の保険として備えておいて下さい。」

「了解した。」


 ここでレヴィアンナも、自分の役割を理解したらしい。

 いや、確認って方が近いかな。

 

 そんな様子を、壁にもたれ掛かりながら見ていたワグだが、一瞬だけ顔を歪めた。

 部屋の中に居る誰にも見えないぐらいのタイミングで。


「では、それぞれ事前の情報共有も済んだようだし、そろそろ本題に入りましょうかね?」 


 重い空気と重い腰をゆっくり持ち上げたエレイネから会議続行が提案された。


「そうだね、それじゃあ本格的に捜査会議を始めましょうか。事件は会議室じゃなくて現場で起きているんですから。

「あら、ユーリ坊っちゃん。面白いことをおっしゃりますな。」


 ほんの少しの緊張感と、やっと言えたという開放感から少し気の緩んだ状態で捜査会議がスタートした。

 


ーー



 そこが何処かは誰も分からない。

 しかし、彼等は知っている。 

 

 そこは暗く湿気ており、所彼処から鼠の囀り声が聞こえてくる。 

 細く足場の悪い道の先に小会議場とも思えるスペースがあり、その中心には円卓が一つ。

 中心には、黒いアツミゲシを思わせるクロキストの花が一輪だけ供えられている。

 そして、それを囲むように六つの椅子が置いてある。


 まさに闇夜の円卓。

 その表現が的確だと言えるほどの円卓を囲んで三人が互いを見つめ合っている。


「むふむふ、それで、それで、居るのね!居るのねぇ!!」

「ええ、もちろん来ていましたよ。」

「ああん!もお、なんでそんな大事なことを言わないの!?なぁんの為に、このマダム・ローズがこんな田舎まで来たと思ってるのよぉ!?」


 見つめ合っていると言うよりも、かなりエスカレートしている。

  

 自らをマダム・ローズと名乗った女。

 年の頃は中年程で、その容姿は一億歩譲ったとしても美麗とは言えない。

 着る物では、誤魔化すことの出来ない出っ張った腹。

 根元から毛先まで綺麗に染め上げられた白髪。 

 眼には、目力がありエレガント味を含んでいる。

 顔の中心で、存在を主張している大きめの鷲鼻も特徴的だ。

 全身を純白の羽毛で作られたファーコートで包み。

 その内側には、豪勢なドレスを着込んでいる。


「申し訳ありませんねぇ。しかしマダム、貴方が北部(ここ)に来たのは単に誘拐した子供の管理をお願いする為ですから。それを努々忘れないで下さいね。」

「安心しなさいミスターナーベリック、既に運び出す算段はついていおりますわ。あと数日経てば、この田舎ともおさらば。ああ、早く帰って私のベイビーちゃんと戯れたいわぁ!!」


 自らを抱きしめるように悶々とするマダム・ローズ。

 

 彼女は『鎖の狩人(ガラナック)』が幹部の一人。

 その立場において、主に人身売買や売春を扱っている。 

 普段は聖教国で仕事をしている彼女だが、つい最近自信の耳に届いた噂の真偽を確かめる為に、この地まで足を運んだのだ。

 そして、それが真であるということに今これ以上ない高ぶりを覚えている。


 そんなマダム・ローズに対して、薄らと笑みを浮かべながら見つめる男。


 彼の名前はナーベリック。

 全身を黒のローブで包み込んだシルエットだけが認識出来る。

 それ以外、容姿に関しての情報はない。

 

 彼も『鎖の狩人』が幹部の一人。

 その立場において、組織内外の輸送に関わっている。

 彼は三年前に起きたユークリスト・スノウ・グリバー誘拐事件の一端に関わっている。

 というのも、誘拐自体は彼の本意ではなかった。

 ただ、自分が密輸や郵送に使っている商会の一商人が起こした厄介事の尻拭いをしただけであった。

 しかし、それでも『北部の神童』と呼ばれるユークリスト・スノウ・グリバーに関わったことは、彼にとって大きな収穫があったと考えているらしい。


「貴方にそう言ってもらい光栄です。」

「でもぉ!ミスター、貴方がベイビーの存在を隠したことは、まだ許して無いわよぉ!」

「ええ、存じて上げておりますよ。それに、別に許して頂かなくとも結構です。」

 

 飄々とした態度のナーベリックを指さしながら、マダム・ローズはそう言った。

 美に執着している人間とは思えない程、酷く顔を歪ませながらナーベリックを睨んでいる。


 対照にナーベリックというと、そのローブの下から薄らとした笑みを見せるだけ。 

 二人の間に何があったのか、それを知るのは二人だけ。


「なあ、んなことよりも例のガキをどうするか……じゃねえのかよ?話が無えんなら、俺は帰るぞ。」

 

 剣呑とした空気の二人の間に入ったのは、この場で最も若い男。

 つい先程まで、レーメンの東区にてナーベリックと共にユークリストを監察していた男である。


 名前はリキュール・デュアル。

 年の頃は、二十代にも届かない若者だ。 

 両の目の下には涙のタトゥーが入り、その上には扇形のタトゥーが入っている。 

 一目で、ピエロメイクであると分かる。


 下町のゴロツキを思わせるような顔つき。

 鋭い桑染色の四白眼。

 煤竹色の髪は、サイドとバックを刈り上げトップはオールバックに掻き上げられている。

 眼があった瞬間に喧嘩を吹っ掛けられそうだ。 

 なんだったら、いくらか金を巻き上げられるかもしれない。 


 街中でこんな奴とすれ違った日には、次の日から金銭を隠して歩こうと決意するだろう。


 男は『鎖の狩人』の暗殺を仕切る幹部の一人である。

 数ヶ月前に暗殺部門を仕切っていた幹部の一人を殺し、現在の座に就いている。 

 

 そんな無礼な男の言葉により、三人は今回の議題に移ることとなる。


「恐らく、ここ数日はこの街の警備状況が変わるでしょう。人員動員数に始まり、警備位置の変動、巡回のルート変更や、実際に何人か手練れを配置するかもしれません。」 

「その辺りが妥当でしょうね。まあ、数に物を言わせて木偶をどれだけ配置したところで、私達の影を踏むことすら不可能でありましょうが……ミスターナーベリックは何か懸念があるので御座いましょう?」

「くふふ、懸念と言うよりも期待と言った方が的確ですかね。」 


 まずはナーベリックが、レーメン内の警備状況の変化について推測を立てた。

 しかし、その様子にいつものような剽軽さと混じった何かを感じたマダムは疑問に思ったようだ。


 ナーベリックは『鎖の狩人』内でも異質の存在だ。

 匿名性の上から匿名性を被せたような男であるナーベリックは、『鎖の狩人』内の仕事でも殆ど顔を出さない。

 密輸送関係の仕事は、組織内でも最上位の案件にしか適用されないからだ。

 というか、ナーベリック自身が最上位案件しか扱わない。

 そんな彼が、オルトウェラ帝国筆頭公爵家『銀雹公爵』のお膝元レーメンの街で、たかが子供攫いに参加すると申し出た時、マダムはそれを訝しんだ。

 

 そして、それと同様の感覚を先程のナーベリックの話し口調からも感じ取ったのだ。


「……期待?」

「ええ、以前会ったときよりも彼が成長していれば、更に新しい何かが出てくるのではないかと……」

「前から気になっていたのだけど、ミスターは一体何が気になって公爵家の三男を贔屓しているのかしら?」

「それは、俺も気になってたぜ。たった一度しか会ってねえのに、なんでアンタがたかが八歳の貴族のガキをそこまで目に掛けるんだ?」

「さあ、何ででしょうね?共有の知人がいるとかですかね?もしくは、同じ人間に師事しているとか。行きつけの喫茶店が同じだとか。」


 リキュールがそれに乗っかりナーベリックに問いかけたが、ナーベリックはそれを飄々と交わした。

 

「………一応言っておきますが、私は別に彼が『北部の神童』などと言われているから注目しているわけではありません。あんなモノは、自分の家門を優秀に見せたい愚物なら大方やっていることです。私は自分で判断し、彼に目を付けているのですーーーーーあ、横取りはダメですよ。」


 自分の家門を優秀に見せる為に、自分の光景が如何に優秀か噂を流すのは貴族界隈ではよくあることだ。

 無論ユークリストにまつわる噂は、グリバー家が流したものでは無い。

 ユークリスト自身を見た教育係や、パーティに参加した貴族達が話したことが一人歩きしたに過ぎないのだ。

 それに応じて『北部の異端児』という噂も流れていたのだが、それは愛嬌の部類だろう。

 

 ナーベリックが、三年前の出来事でユークリストに何を見たのか知らないが、その執着に近い感心は人形を抱きしめている子供の様だ。

 

 そんな様子を見てリキュールは、少しだけ薄ら笑いを浮かべる。 

   

「横取りっつってもよ、俺等に噛み付けば容赦は出来ねえ。それぐらいアンタでもわかんだろ?」

「ええ、分かっていますよ。しかし、貴方に彼の相手が務まりますかねえ?」

「……おい、アンタまさか、たかが貴族のガキに俺が劣るって言いてえのか?」

「はあ、ミスターデュアル。貴方もう少し、その乱暴な口調どうにかならないかしら?同じテーブルに着くなら、それなりのマナーを身に付けるべきだわ。」


 『鎖の狩人』の幹部たる自分が、たかが八歳の貴族の子供に劣ると暗に言われたリキュールは眉間に皺を寄せ、こめかみに筋を浮かべてナーベリックの言に噛み付いた。

 自尊心を刺激されたのだろうか、その顔つきにはハッキリと怒りの相が浮かんでいる。

 リキュールはテーブルに肘をついて乗りだし、銃の形にした手をナーベリックに向けた。  

 そんなリキュールを咎めた、というよりはリキュールを見て呆れているのがマダム・ローズ。

 

「はっ、おいマダム。マナーの前に強者がこの椅子に座んだよな? んで、俺はそこに座ってる。なのに、この男は俺が八歳のガキに負けるなんてほざいてやがるんだぞ!」


 そんなマダムに対しても、不機嫌を露わにするリキュール。

 何をもって、自分よりも格上と見られる相手を包茎野郎と揶揄するのかは知らないが。 


「大体、今回の計画だって俺の力が無きゃ実行できなかったはずだ! そこの小児性愛者(ペド)ババアならまだしも、俺がちんちくりんなガキ程度に遅れを取るわけがねえ!」


 怒りの火がついたリキュールが次にマダム・ローズに噛み付いた。


 次の瞬間。

 部屋中に轟音が鳴り響いた。

 その下には、先程まで三人が囲んでいた円卓の残骸が散っていた。

 その中心には、クロキストの花弁。


「調子に乗るんじゃねえぞ!! 口に気を付けな、クソガキ!!」

「ひっでぇ面だな、そっちの方が好感もてるぜ!!」


 大凡、その半生を美に対して注いでいる人間とは思えない程顔を歪め、リキュールを睨み付けるマダム・ローズ。 

 その反対に、これまた楽しそうに顔を歪め眉をつり上げてマダムを睨み付けるリキュール。


 全てを押しつぶす重圧と、突き刺すような殺意、その二つが相反する空間はに常人が居たならば卒倒失禁不可避だろうが、この場に居合わせたもう一人の人物も常人とは遙か程遠い場所で息をしている人間の一人であった。

 

「…………そこまででお願いしますね。」

「「ッ……!!」」


 その言葉が聴覚を通じて脳で認識する前に、二人の首筋に冷たい感触が走った。

 ピタリと付けられたそれは、鋭く光る刃物だった。


 そして、二人の肩の上には嘗てカイサルとの戦いで見せた娼婦と樵の人形が乗っていた。


 さっきまで怒髪天を突く勢いで上っていた血は何処に行ったのか、二人はその頬に冷や汗を浮かべて声の発信源たるナーベリックの方に視線を向けた。

 ローブの下から見える口元は吊り上がっているはずなのに、何故か笑っている気がしないのは二人の気のせいでは無いだろう。


「さてと、私たちも暇では無いので、急ぎ本題に入りましょうか。」


 打って変わって、声色を一瞬で明るいモノに変えたナーベリックに調子が狂わされる。 


「……ちっ、くそ……」  

「しっ失礼しましたわ、大声を上げるなんてはしたない真似を……」


 完全に鎮火しきれず自身の中に燻る火を感じ、目に見えて不服そうに顔を歪めるリキュール。

 それとは反対に、持ち合わせたハンカチで冷や汗を拭い取ろうとするマダム・ローズ。


 裏社会の人間として、己の身一つで生き抜いてきた。

 生き抜くことこそを至上とし、その為には自分の全てを利用し他人の全てを奪う。

 

 そんな人間達が集まるのが『鎖の狩人』。

 仲良しこよしキャッキャウフフのサークル活動とはいかず、幹部と呼ばれる人間もその例に漏れない。

 互いに面識はあれど、常にその背中を狙い合っている。

 自分が組織内で大きな影響力を持つ為に、常に目を光らせているのだ。


 かく言うリキュールも、その背中を狙ったからこそ今の地位に居座っているわけだが。

 反対にマダムの方は自身の戦闘能力に自信が無いのか、直ぐに態度をあらためた。


 自分の分と引き際を弁えるのも、裏社会で生き残る一つの手段である。


「それでは改めて、楽しい楽しい悪巧みと洒落込みましょうか。」 


 こうして、二つの会議は幕を開けたのだ。

 


ーー



「……ユークリスト。」 


 会議が終わった俺たちは早速、それを実行する為に役所から出ようとしていた。

 アルマンは、既に若手騎士の元へ行き指揮をとっている。

 

 レヴィアンナは、その立場が少々特殊だからな一応組合待機ということになった。

 しかし、分隊を任せる警備隊の連中に閃光弾に魔道具を持たせてある。

 これは、普通に市販で売ってるやつだ、俺は作ってない。

 効果は単純で、強い光を発するだけのものだが、それが発射されれば直ぐにレヴィアンナが駆け付けられるだろう。

 組合はちょうどレーメンの街の中心に近い位置にあるから、下手に動くよりは良いと思う。


 冒険者に依頼を出すって案もあったけど、ただでさえぶっつけ本番の作戦に、いらない指揮系統を組み込むのはどうだろうか、という意見が出たから公爵騎士団だけで対応することになった。


 スティアは留守番だ。

 最初はかなり抵抗してたけど、役所が一番安全だと言い聞かせた。

 それでもゴネたから、全部が解決した後デートを約束した。  

 あの子が少しあざとくなっている気がするのは、俺の気のせいだろうか?


 さて、俺も行かないとなって所で呼び止めたのがワグだ。


 今、この廊下には俺とワグの二人だけ。

 ノートは先に出てるし、ロキにはスティアの護衛を頼んだ。


 その面持ちは、いつもより真剣そうだ。

 そういえば、さっきもあんな調子だったな。

 

 会議中、ワグは壁際にもたれかかり一言も発しなかった。

 別に珍しいことじゃないが、何かあると顔に書いてあるのがわかる。


 アルマンと訓練し、他の騎士と交流が出来たワグ。

 その表情は、以前よりも多くのものを語ってくれる。

 何を考えているかはわからないが、何かを考えていることはわかる、みたいな。

 限りなく具体的に近い抽象的とでも言うんだろうか。


「どうしたの?」


 当然、俺は聞いてみることにする。

 聞き返されたワグは、その表情を変えることなく一点に俺を見つめていた。


「俺は……信用できないか?」

「え……」


 そんな意外な問いに、俺は一瞬呆気にとられた。


 信用できないかだって?

 しているに決まってる。

 スティアが道中言った通り、ワグに対して俺は家族に近い感情を持っている。

 そりゃあ、最初は『魔闘術』を扱うワグが面白くて近づいたというのはある。

 それでも、ワグを信用しなかったことなんてない。

 

 だから俺は、直ぐに訂正しようとした。


 と同時に、これをこのまま言葉にして良いのだろうか?

 という疑問も浮かんだ。


 俺は、つい先日自分の行動により人が傷ついている現状を知った。


 何故ワグがそんなことを考えるに至ったのか。

 それを知ることが出来なければ、また人を傷つけてしまう。

 ワグは寡黙な男だ、こういう男を傷つけることは正直ルルティアよりも厄介だ。


 しかし、どんな言葉を掛ければ良いのか知らない。

 皆忘れているかもしれないが、前世からの俺は基本的にコミュニケーション能力が無い。

 特殊な友達は居るが、それは普通の友人としてだ。

 今世に入って、貴族社会である程度揉まれはしているものの、それはあくまで建前や社交辞令といった部類のモノばかりだ。


 身近な人間の心持ちを汲んで、気遣う言葉を出す為のものでは無い。

 

 こんな時の俺が出せる手段はいつも一つだけだ。

 

「僕は、ワグに絶対的な信頼を置いている。これから何があっても、その信頼が揺らぐことは無いよ。」 

「………何があってもか?」

「ああ、何があってもね。」


 ただ正直に言うこと。

 結局、それが俺の出来る唯一の方法だった。


 まあ、前回はそれが最悪の方向に飛んでいったんだけどさ。


 人間関係に関しては、これしか俺に手段は無いと思う。

 上手く相手に嘘を付く方法を学んでも、人心掌握術を学んで上手く言葉を引き出したとしてもだ。

 自分の都合の良いように言葉で人を操ることはしないと思う。

 それが、前世である程度の良識を持っている俺が出来る最大限の一線かもしれない。

 後、正直に言うと後ろめたさがあるってのも理由の一つだよな。


 というか、それが一番だよな。

 後ろめたさマックスで、人と会話なんてしたくない。

 

 今後、俺が如何に成長しようとこれだけは変わらないな。


 ワグは俺の言葉を受けて、更に眼に力を加えて問い返した。  

 当然、俺は確信を持って返事をした。


 ワグに対する信頼は揺らいでいない。


 これは本当のことだからな。


「…わかった、その言葉、忘れるなよ。」 

「ああ、うん。わかったよ……」


 ワグはそう言うと、俺を置いてスタスタと歩いて行った。

 あれ、これだけで良いのか?


 まあ、ワグに何があったにせよだ。

 この場でその何かが悪化しなくてよかった。

 

 そんなことを考えながら、これから行うことに一抹の不安を抱えながら。


 俺達は、月華の下のレーメンに揃った。



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