第二十七話:エージェントグリバーの事件簿
弁当屋でバイト始めました。
三日目で、弁当六つぶちまけそうになりました。
一つ一つコツコツと続けていきましょう。
擦った揉んだの上に何やかんやあってレーメンに到着した俺達は、早速役所の方に向かった。
あの後、スティアとのフリーハグタイムは夕飯時まで続いた。
というか、寝ちゃった。
その後は、互いに冷静になってちょっと恥ずかしくなって。
まあ、後は想像に任せるけど。
そんな俺達は現在、中央区にある役所の方に来ている。
レーメンは、六角形の城壁に囲まれた街で中央の丘を中央区として、それを取り囲むように東西南北に区分けがされている。
中央区には、冒険者ギルドや役所の他に大手商会の店が構えられている大通りや、レーメン関係の仕事を任されている貴族の屋敷などもある。
そんな役所にある領主室を訪ねた俺達は、直ぐに領主室の方に通された。
随行している若手の騎士達は役所の前で待機させて、俺はスティアとワグとアルマン、ロキにノートも一緒に役所の方に向かった。
「お待ちしておりました。ユーリ坊ちゃま。」
「久しぶりだね、エレイネ。」
「ええ、本当にお持ちしておりましたよ。本当に、ようやくお目にかかれて嬉しいです。」
「あ、はは、その節は、ありがとうね。」
18畳程の広さのある領主室。
中央には応接用の長机とソファー。
片方の壁には、公爵家の紋章である銀狼の絵画。
もう片方の壁には、レーメンの全体像が描かれている青写真のような図が貼られている。
領主の執務用に準備されている机の後ろにある窓からは、レーメンの街を一望できるようになっている。
そんな領主室で俺達を待っていたのは、代官としてレーメンの街を治めているエレイネ。
元はカイサルの専属侍従として支えてきたが、持病の悪化により治療と養成も兼ねてレーメンで領主をしている。
帝都に残って治療に専念するという案もカイサルから出たらしいが、仕事をしたいというエレイネの断固とした態度に白旗を揚げたそうだ。
糸目の優しい顔つき。
顔中には皺が寄り、駄菓子屋のお婆ちゃんみたいな雰囲気がある。
色が薄れている栗色の髪を三つ編みに纏め上げ肩に掛け。
コルセットを使った古風なドレススタイル。
あんな物を着ているから持病が悪化するのではと考えたときもあったが、カイサルの侍女としての矜持と言って、そのスタイルを貫いているらしい。
しかし、そのお陰で常に両手には杖が備えてある。
開口一番に言葉でチクリと刺された俺。
これには心当たりがある。
俺はレーメンに来ていた過去三回、役所への訪問を全てブッチした。
なのに、公爵家の方へは俺が来たように報告してくれとお願いし、虚偽の報告をさせていた。
ホント、俺の軽薄な行動の被害者がここにも一人だな。
あんな事があった所為か、ちょっと心が痛い。
心を入れ替えていこう。
エレイネとは、公爵家本邸で行われるパーティで何度も顔を合わせている。
俺をユーリ坊ちゃまなんて言うのは彼女ぐらいだ。
祖母のいない俺にとって、彼女はこの世界の祖母のような存在じゃないかと認知している節もある。
しかし顔つき通り優しい人ではあるのだが、言うところはきっちり言うタイプの人間だ。
かつて、カイサルもかなりこっぴどく絞られていたらしい。
『私の道を整えてきたのはハルジオンだが、進む道を教えてくれたのはエレイネだ』
そう言っていたカイサルの表情が、晴れやかだったのを今でも覚えている。
「いえいえ、本当にいらっしゃって嬉しい限りです。今お茶を入れますね。」
「ああ、いいよいいよ。スティアがやってくれるからさ。ね?」
「はっはい!私、頑張ります。」
「あら、そうですか?では、御言葉に甘えましょうかね。」
領主として仕事をしているエレイネだが、元は侍女として最高の仕事をしていた。
こうして、客人が来るときだけでもお茶を入れてもてなすのが彼女の楽しみらしいが、今回はそのお楽しみをお預けさせて貰う。
こっちのスティアにも、仕事が必要だからな。
俺の侍女として、エレイネに実力を示して貰わないといけない。
というか、馬車の中での会話にお茶を入れるというモノがあったから、こうして提案させて貰った
エレイネは、これを笑顔で承諾。
俺はロキと一緒にソファーに座る事になった。
その対面にはエレイネ。
ワグとアルマンは、俺の後ろで手を後ろに組んで控えている。
エレイネは真っ当な帝国人で北部の人間だが、ワグの関してのヘイト感情はない。
曰く『他人を憎む暇があるのなら、主の為に何が必要かを考えたい』らしい。
合理的な仕事人間らしい解答でもあるが、彼女なりの優しさがあるんだろうな。
さて、そんなスティアだがノートに『あれ出してくれる?』と声を掛けて『異空間収納』から俺とエレイネ用のカップと盥のような物を持ち出した。
盥までは持ち上げられなかったから、ワグが手伝ってあげている。
緊張している様子だけど、その顔つきは何処かワクワクしている。
指名したこちらは、かなり緊張しているけどね。
そして、扉の横にある茶葉入れの方に行き、テーブルを使ってお茶を入れ始めた。
まずは、野球ボール程の水球を作る。
魔法で生み出した水は飲む事ができるが、込めた魔力がまちまちだと不味くて飲めたもんじゃない。
スティアは元々魔力運用が得意だ。
天翼人の遺伝的なモノなのか、魔力操作はとても旨い。
そして、同時に小さな火種を一つ。
野球ボール水は、直ぐに煮沸した。
そして水をポッドの中に入れ、さらに二人分の茶葉を入れていく。
そして、これまた手慣れた手つきで手際よく蓋をして蒸らす。
蒸らしている時間約二・三分の間に、もう一つ野球ボール水を煮沸させてカップの中に入れて全体を温める。
これはエレイネ用のカップだ。
何故俺のカップは温められないのか?
それは、俺が猫舌だからだ。
俺の忘れ掛けられている設定の一つ猫舌。
スティアはこの行程を、公爵家に居る頃から何度も熟している。
当然、既に体内時計的なモノも備わっている。
二分程経って直ぐにカップの中のお湯を盥の中に捨て、茶ごしを使いながら濃さが均等になるようにこまめに注いでいく。
いや、俺の場合少し氷を入れるから薄くならないように俺の方が若干濃いかな。
そして、均等に注がれた紅茶を俺達の方に持ってくる。
俺は自分の肩に乗っかっているロキをソファーに降ろした。
俺の方には、氷が三つ程。
これまた、スティアの魔力操作が成せる技の一つだな。
俺とエレイネは、それぞれ出された紅茶を一呑み。
猫舌の俺でも丁度呑みやすい温度になっている。
この温度の紅茶を淹れる為にどれだけ俺の舌を犠牲にしたのか分からないが、今ではそれ以上の価値があると思っている。
「うん、いつも通り。美味しいよスティア。」
「ッ……ありがとうございます。」
いつもなら砕けた態度で喜ぶスティアだが、今はエレイネの前だから耳を真っ赤にさせて礼を言うだけで終わった。
「ええ、大変美味しゅうございます。」
「ッ…あ、りがとう、ございます。」
当然エレイネからも賛辞が。
スティアは嬉しさを隠しきれず、言葉を途切れ途切れにして礼をした。
ふっふっふ、これが家のスーパーメイドのスティアですよ。
「それで……本日の訪問予定は先日の一報でいただいたアレですか?」
美味い紅茶で一息ついた俺達は、話の本題に入った。
「そうだね、と言っても少し憂慮する事があるから、それの確認かな。」
「それは、私にも言えないと?」
薄い眼の奥からこちらを覗き込むエレイネの眼がギラッと光った気がした。
俺が何かを隠している事はお見通しといった物言いと顔つきに、一瞬たじろいでしまった。
『また隠し事か』
そんな思いが俺の中に芽生えた。
ダメだ、隠し事をする事の竹篦返しをついこの間学んだばかりだろ?
ルルティア個人に隠し事をしなければ良いなんて考えじゃダメなんだ。
こういう些細な所から隠し事を辞めていかないと行けないんだ。
「いえ、実はーーーーー」
俺はエレイネに伝えた。
本名を伏せて冒険者登録をした事。
そして、コネを使ってあの子供達に魔法を教えてくれるようにレヴィアンナにお願いした事。
そして、最近レーメンに出没している人攫い組織にあの子達が狙われるのが心配だという事を。
深刻な顔つきで話を聞くエレイネを見て、俺は自分の行動の軽率さを思い知った。
自分の自己満足の為にした行動が、あの子達の危険になって返ってくるなんて思ってもみなかった。
また反省する事が増えた。
言葉にして責められてはいないが、その視線は俺を責めているように感じる。
こういう感覚は久しぶりだな。
高校生の頃イケてる連中の前を通るときはこういう感覚があった。
品定めされているような、嘲笑されているような。
ただただ自分の被害妄想の範疇を出ないが、その薄暗い感情は自分の底を方へ向かっていく。
一目散にここから逃げ出したいのは山々だが、これは俺のした事の責任だ。
俺がした事の責任は俺が取る。
唯一の自分ルールを守る事で、廃れきった自分の矜持を守ろうとする。
そんな事を思いながらも俺は今回の事情の全てをエレイネに伝えた。
エレイネは『ふむ、そうですか。』と言って、しばしの沈黙を部屋に流した。
きっと怒ってるんだろうな。
俺に対して失望しているのかもしれない。
そりゃ、エレイネはカイサルの専属侍従として長く側についていたからな。
人類最強、才色兼備、清廉潔白、文武両道。
これら全ての言葉を使っても辿り着けない境地に居るカイサルと比べてしまえば、俺みたいな奴は路傍の石ころや消しゴムの削りカスのような存在だろうな。
家族としての自覚や主観的な意見は弱いかもしれないが、あの人の息子として俺を見たときはどんな風に世間の目に映るのだろうか?
……とても、怖い。
俺の存在が別の人に影響を及ぼし、その人の株を下げる事になるなんて考えた事もなかった。
ルルティアとの一件が、また俺に色んな事を考えさせる。
もちろん、スティアのお陰で持ち直している俺がいる。
しかし、未だにルルティアとの一件に縛られている俺もいる。
そんな二人の綱引きがこの先も続くのだろうか。
「あの、ごめーー」
「謝罪の必要はございません。」
謝罪しようと言葉を発したが、直ぐにエレイネが遮った。
俺は困惑が残る顔を上げ、エレイネを見た。
普段優しい顔つきのエレイネとは違い、真剣な顔つき。
糸目は開き、瞳孔がはっきりと見えている。
正確には、瞳孔に映る自分の姿だが。
「今回の輩とユーリ坊ちゃまが成された事は全くの別物でございます。そこには、何も因果関係はありません。坊ちゃまが成された事は紛れもない善であり、件の輩が横暴を繰り返しているのはこの地を預かる私の不手際にございます。」
そして、ゆっくり口角を上がっていくと同時に開いていた瞼は閉じて、三日月型を成して笑いかけた。
「貴方のした行動は北部人らしい、いえ、銀雹の名に恥じない行為であると御当主様に就いた三十年を掛けて保障致します。」
「ッ……うん、そう、か。うん、ありがとう。」
エレイネにそう言われ、また心が軽くなった。
きっと、俺はこうして誰かの力や言葉を借りていくのかもしれない。
自分の力じゃどうにも出来ないもどかしさもあるが、今は周りの人間に恵まれている事に感謝したい。
『あるじーだいじょーぶ?』
「うん、だいじょうぶだよ。」
俺の変化を察したロキが、その両手で俺の手を握った。
それに答えるように、俺はロキの頭を撫でた。
ヒーリングペット的なアレかな?
俺は再びエレイネの方に目を向けた。
「それで、頼んでいた人達は役所に居るかな?」
「ええ、勿論で御座います。」
「そうか、それじゃあ連れて行ってくれ。」
「かしこまりました。」
そう言って、領主室を出た俺達はエレイネが用意したもう一つの部屋に向かった。
ーー
「それで、この人達が……」
「左様で御座います。件の誘拐事件で被害に遭った子供の家族です。」
「……そうか…」
「「「…………」」」
俺達が通された部屋にいたのは、十組の夫婦と小さな子供が四・五人。
俺が今回のレーメン行きをエレイネに一報入れたときに頼んでいた事の一つが、被害者家族を集めて欲しいという事だった。
犯罪捜査の基本である聞き込みを行うには、まず被害者家族からだからな。
何度も言うが、人攫い組織の解体を目論んじゃいない。
それでも連中の行動パターンを探るのは必須だ。
どういう行動を取るのか分かれば、こちらとしても対策が取りやすい。
出来るだけ多くの意見を聞きたかったから、たくさん集めて貰った。
しかし、改めてこう見ると人攫い組織に対して怒りが湧いても来るな。
これだけの人間の人生を壊したんだからな。
彼等の内何人かは既に憔悴しきっている者も居る。
かなり長い間、子供達を待っていたんだろうな。
「こちらは、グリバー公爵家三男のユークリスト・スノウ・グリバー様。この度はユークリスト様の呼びかけに応じてこの場を設け、皆さんに来て頂きました。」
「「「ッ……!!」」」
「マァマ、あのお兄ちゃんだぁれ?」
「しっ、静かに!」
俺の身元をエレイネが説明した瞬間、彼等の間に緊張が走った。
幼い女の子が俺を指さして母親らしき人に問いかけたが、直ぐにその手を下ろされた。
お嬢ちゃん安心してくれ、変質者じゃないから。
「どうも皆さん、今回は僕の呼びかけに答えてくれてどうもありがとう。」
「「「……」」」
「……?」
俺はエレイネに出された椅子に座り彼等に挨拶をした。
当然、貴族子息として格的な問題があるから敬語は使っていない。
しかし目の前の彼等だが、その視線はいまいち俺に向いては居ない。
困惑と緊張を孕んだ表情の先に、一体何を見ているのか?
不思議に思った俺はその視線を追ってみた。
ゆっくり、振り返ったその先。
スティアがいた。
「あ、天翼人……?」
「なあ、あれ、天翼人だよな?」
「なんでこんなところに…」
「やっぱり、髪が蒼いな。」
そんな囁きがチラホラと聞こえてくる。
「………」
当のスティアは自分に視線が集中した事を自覚したのか、冷や汗をかいて呼吸が浅くなった。
俯いて黙り込み、スカートの裾をギュッ握りしめている。
明らかに緊張しているのが分かる。
いや、アレは緊張とかそういう生易しいものじゃない。
自分の事に頭がいっぱいになって忘れていたが、スティアは今回初めて俺の侍女として外に出てきた。
確かに、公爵家の人達と会話をするのは慣れてきている。
魔獣狩りに行ったときなんかは、あの子供達と仲良く会話もしていた。
確かに俺と一緒に魔獣狩りをしていたときは、髪色を脱色して金髪に近い仕上がりになっていて、誰もリリカが天翼人であるスティアだとは思わないが。
それでも少しずつ、彼女のネガティブな感情が薄れてきているのは確かだ。
しかし、それは彼女の過去が一切拭い切れたと言うわけではない。
彼女の過去がなくなったわけじゃないんだ。
彼女を取り巻く環境は、未だ変わっていない。
くそ、軽率だった。
本来俺が真っ先に気づいて何か策を講じるべきだったのに。
俺は直ぐに、この場を抜け出す事を考えた。
俺は無理だとして、スティアだけでもこの部屋から出してあげられるようにしよう。
「ゴホンッ!!」
そこに待ったを掛けたのが、アルマンだ。
ただ咳払いをしただけなのに、場の空気を一蹴した。
威風堂々とした振る舞いは、堂に入っている。
全員の視線がアルマンに集中した頃合いで、アルマンが俺の方に顔を向けた。
「ユークリスト様、よろしくお願いします。」
「あ、うん。」
清々しい笑顔でそんな事を言うアルマンは、何処か腹黒い鬼教官のような雰囲気があった。
改めて、全員の視線が俺に集中した。
何故か今回は、これまでのような緊張は感じない。
「改めて、僕がグリバー公爵家の三男のユークリストです。彼女は僕の専属侍女のスティアで、こっちが僕の専属騎士のワグだ。この子達は……僕の従魔だ。今回は君たちが被害を被った事件についての事情聴取に来たんだ。」
改めての自己紹介にスティアとワグのことを添えてみたら、更に部屋がざわつきだした。
「やっぱり噂は本当だったんだ。」
「ああ、天翼人を捕まえて奴隷にしてるとか。」
「あのナベロ人が公爵家の専属騎士だと?」
「隣の大柄な方じゃ無いのか?」
「あの魔獣、いきなり暴れ出したりしないかしら?」
「ママァ、あのお姉ちゃんの髪きれぇ!」
「お願いだから、静かにしててね。」
なんて、もの凄く不名誉なことが囁かれている気がする。
誰だよ、俺がスティアを奴隷にしてるなんて噂広げた奴。
とっ捕まえて、訂正してやる。
いや、それもまた良からぬ噂を振りまく材料になるな。
「静まれぇえ!!」
うおわぁああ!!びっくりしたぁ。
ざわつきだした部屋の中に充満しだした喧噪をアルマンの咆吼が一瞬で掻き消した。
再度、部屋に集まった全員の視線がアルマンに集まった。
ざわついていた大人達の表情には、恐怖を孕ませている。
しかしアルマン、叫ぶなら一度でいいから教えてくれよ。
「ユークリスト様は、此度の事件についての調査に来られたのだ。諸君等には協力の為、質問に答えて貰う!ユークリスト様、失礼致しました。よろしくお願い致します。」
「あ、うん、ありがとう、アルマン。」
グイグイ来るアルマンに、俺は少々引き気味だ。
アルマンは、日頃教官として屋敷に詰めているからこうやって遠出できるのが楽しいのかな?
遠足ってやっぱりテンション上がるよな。
「まあ、さっきも言った通りだけど、誘拐事件について何か情報があれば教えてくれると助かるんだけど……」
「「「………」」」
アルマンが場を整えた?といっても、案の定俺の要求に彼等からの返事はなかった。
気まずい沈黙が流れるだけ。
彼等もまた、俺の事を訝しげに見ているだけ。
まあ、分かっていた事ではあったけどさ。
これはこの部屋に来る前にエレイネから言われていた事だ。
いきなり呼びつけて事情を聞き出そうとしても、彼等から聞き出す事は出来ない。
如何にこの土地に平民から領主への奏上がしやすいシステムがあろうとも、まだこの国の平民と貴族の距離は遠い。
彼等が口を噤んでいる理由は、俺が貴族であり尚且つかなり偉いからだろうな。
この国では、貴族位に属する者は当主の位を筆頭にその子息は一つずつ位を下げる事になっている。
子女の場合は、いずれ家を出て相手の家に入るという習わしから貴族位は下賜されていない。
グリバー家の場合、カイサルが公爵だからトーラスが侯爵、バレットが伯爵、俺が子爵って所かな。
俺、子爵だってよ。
上級貴族の一個下だけど、俺としては十分かな。
まあ、実際に爵位を貰っているわけでは無く、そういう扱いだって話だけどね。
しかし、彼等の立場に立って考えてみよう。
自分の子供が誘拐されて領主に奏上したところ、出てきたのはその領主が使えている家の当主の息子だ。
現代的な例えをするならば、自分の子供が誘拐されて警察に届けたのにやってきたのは、その事件を担当している刑事の上司の息子って所か。
めっちゃ遠縁じゃん。
従兄弟のはとこぐらい遠縁じゃん。
冷静に考えると、何でこいつ来たんだって思われるよな。
しかし、此方にもそれなりの事情があってきたわけで、彼等からの情報が非常に大切なんだ。
だから、ここは俺が一芝居打つ事にしよう。
俺は貴族で、それもかなり偉い貴族の子息で、それを自覚するんだ。
沈黙はびこる部屋の中で、俺は彼等から視線を離さずに言葉を発した。
「貴族と言えど、たかが子供に何が出来るんだ?」
俺の言葉にその場にいた全員が反応した。
自分達の考えを見透かされたと思っているのか。
俺は椅子の肘掛けに左腕で頬杖をついて、足を組んだ。
空いていた右手を、不躾に空中で振り回しながら再度言葉を続けた。
「しかも出てきたのが、良からぬ噂の立ってる三男か。長男ならまだしも何で三男なんだよ。そもそも貴族との話し方を知らないし。不敬罪に取られるかもしれない。話したところで解決するのか分からないのだから、口を噤んでいた方が賢明に決まっている。」
少し演技がかっている言い方かもしれないが、そうでもしないと注目は集められない。
そう言った辺りで、全員の関心が俺に集まった。
俺は一つ間を置いた。
この空白が俺への関心をグッと高める。
俺は元々の野暮ったい目つきを更に細めて彼等を見つめた。
「さっき言った通り、俺は公爵家の三男だ。事実として、お前等平民が後にも先にも言葉を交わせる人間の中で一番偉いのは俺だ。だから言葉を選ぶな、チャンスに食い付け。もう一度、子供の声が聞こえる生活に戻りたくないのか?」
酷い言葉だろうな。
傲慢で、他人を気遣うつもりなんて微塵もない。
でも、これが彼等に必要な言葉だと俺は思う。
結局他人を気遣ったところで正解は無い。
だったら、事実だけを伝える。
そして、なによりも困惑した人間に一番効くのが上の立場の人間からの『命令』だ。
戦場でも人殺しに迷った兵士に、上官命令を意識させて行為に及ばせる。
決して、責任をその人間に背負わせない為だ。
子供が誘拐されといて、何を責任と言い出すのかしれないが、これが一番手っ取り早い。
しかし、相も変わらず彼等から言葉は返ってこなかった。
全員が何かを隠すように俯き、此方から目線を逸らしている。
ああ、これはかなり酷いな。
こいつらから有益な情報は得られそうにはないな、と確信した俺は離席しようとしたが。
次の瞬間、マントの袖を引っ張る力が働いた。
当然、俺は振り返った。
そこには、先程俺が部屋に入ってきたときに指を差した少女がいた。
その右手には、手作りが窺える小さな人形があった。
「……お兄ちゃんが、お姉ちゃんをみつけるの?」
「!! クララッこっちに帰ってきなさい!!」
「………」
俺は母親と思しき女性を手で制して、クララと呼ばれた少を見た。
「……ん…」
四歳ぐらいの女の子は人形を俺に差し出した。
紺色の服を着た、笑った少女の人形だ。
綿を詰めた小さな布袋を縫い合わせ、髪や目鼻口なども布を切った張ったした粗雑な出来だが、子供が一生懸命に作ったんだろうな、という事が伝わってくる。
「これは?」
「これはクララの、お姉ちゃんのは茶色の。」
「そうか、約束はできないけど何かあったらすぐに教えよう。」
「うん、ありがとお兄ちゃん。」
少女は満面の笑みでそう言った。
必ず助けると約束は出来なかった。
子供は純粋だ、不用意な発言は避けるべきだ。
でも、この子は後ろで怖じ気づいた大人達とは違い踏み出してくれた。
だったら、最大限言える事を言おう。
「あ、あの……」
その姿を見て手を上げる者が一人。
壮年の無精髭を生やした男性だった。
痩せこけて、ここ最近拵えたと見られるクマも散見している。
「ほっ本当に、あんたがどうにかしてくれるのか?」
恐る恐る発せられた言葉には確かな決意が感じられた。
『どうにかしてくれるのか』
この言葉が定義する範囲がどこまで及んでいるかは分からないが、これにも応えないといけないのは確かだ。
満面の笑みを作って『もちろんです』と言うことは簡単だ。
しかし、そんなことは以前の俺でもしなかった。
公約を守らない政治家みたいには決してなりたくないからな。
俺は椅子から降りて彼等の前に歩み寄った。
そして少女から貰った人形を握りしめ、自分の心臓部に当てた。
こういう時に使う便利な言葉が、帝国北部にはあるからだ。
「溶ける事の無い誓いを。」
一切の曇りの無い真摯な顔つきで放たれたその言葉を聞いた彼等は、一瞬たじろいだ後次々に口を開いた。
俺の姿に何を見たのか知らないが、北部貴族のこういう言い回しは便利だなと思った。
しかし、言った事に嘘は無い。
もう二度と、自分の軽率な発言で人を傷つけるわけにはいかないからな。
自分の責任は自分で取る。
ーー
被害者家族への事情聴取が済んだ俺達は、次は現場調査に向かった。
実を言うと、被害者家族の話で実のある話はあまり聞けなかった。
そりゃそうだよな、彼らは現場に居合わせたわけでも無いし、自分で事件を捜査する技術を持ち合わせているわけでも無い。
彼等の口から発せられたのは、殆どが自分の子供に関する事だった。
容姿の特徴やどんな子供なのかとか、そんな内容の話が主だった。
実際に、彼等の情報で事件の調査は少ししか進んでいないだろう。
それでも、離した後の彼等の顔は少し活力が戻っていた。
俺には分かる、あの人達の心がまた暗いどん底に落とされるのだと。
全員が全員とは限らないが、確実にあの中の何人かはそうなってしまう。
そして、その報告は俺がすることになるかもな。
以前の俺だったらエレイネに押しつけてハイ終了、だったかもしれないが今は違う。
彼等の姿まで見届けることまでが、俺の責任になった。
勿論心は痛むよな、責めを負うかもしれない。
それでも、やると決めたからな。
さて、いま俺達は現場調査の為レーメンの東区行きに来ている。
レーメンは丘にある中央区を取り囲むように、東西南北それぞれ区を置いている。
いま俺達が来ているのは東区、レーメン内で一番人が住んでいる区域だ。
後カトバルスが近い位置にあるから、道がきちんと整備されている。
因みに、あの子供達が住んでいるのも東区だ。
出ている露天の種類もバランスが良い。
北区に行くと、鍛冶屋街がズラッと並んでいる。
西区は、冒険者用の魔獣解体場とか飲屋や武器屋、色街が並んでいる。
南区はスラム街やら孤児院とかが並んでいる。
南側の門は帝都から一番近いから、大通りは整備されているが治安が悪いのは確かだ。
被害者には南区に住んでいる子供も居るらしいが、身元が分からないらしい。
まあ、現代でもホームレスの身元不明の遺体なんかがかなりあるって海外ドラマでも言ってたしな。
役所に来ていた家族の殆どが東区と北区の人間だった。
今は俺とスティアとワグ、そしてロキとノートで調査を行っている。
アルマンには、他の騎士を統率させ他の現場に行かせている。
そして此処は、子供達が誘拐された現場と思しき場所だ。
回りの建物は全て背が高く、曲がり角が多数あって入り組んだ作りになっている。
「どうだったワグ?何か痕跡はあった?」
「いや、何処にも無いな。本当に此処で合っているのか?」
「うーん、子供達の目撃情報を辿って来たんだけど、ここが子供達が連れ攫われた場所だと、僕は思うんだ。」
「その根拠は?」
「僕が連中だったら、ここで実行するからね。」
少し声色を落として現実味を持たせて説明する。
丁度大通りからこの路地裏が見える位置に立って、大通り側を指さした。
「此処は、子供達が行き来する大通りから近いけど、大通り側から此方を見たときは死角が多い。周囲の建物も背が高くて間隔が狭いから、夕暮れ時になったら直ぐに暗くなる。あと通路も馬車一台分なら余裕がある。それに……」
「それに……?」
「いつの時代もクソ野郎は路地裏にいるもんだよ。」
「……ふ、それに共感するお前もな。」
「あー!今ワグがユークリスト様のことクソ野郎って言いましたよ!」
「うん、スティア。分かってるけど、それを言葉にしちゃダメだよ。あと、汚い言葉遣いはダメだよ。」
暗にワグが言わんとしていることを、スティアに言語化された。
『先生に言いつけてやる』と言う感じに、ワグに対してビシッと指を差して声を上げたスティアに、俺をやんわりとした言葉で注意する。
あと、スティアにはクソ野郎って言葉を使わないで欲しい。
「はっ!そうでした、すみません……」
俺の優しい指摘にしゅんとした様子で答えるスティア。
うん、可愛い。
「はっ、バカな奴。」
「ユークリスト様ぁ、今ワグがバカってぇ!」
「ははは、コラ、ダメだぞワグ。」
そんな様子のスティアを横目に、小馬鹿にするようにボソッと言い放ったワグ。
当然スティアは、俺に怒ってくれと言わんばかりの表情でワグを指さした。
俺は、子供同士の喧嘩を仲裁するように再度、注意した。
二人はここ最近、離れていた時間が多い所為か会話が多くなっている。
と言うよりも、自慢大会のようなモノが増えた気がする。
初めは、スティアがルルティアの元で勉強したことをたくさん話してくれた。
そこで『次はワグの番』と話を振ったワグが何も言わなかったところ『ワグはサボってた!』と言う風に、スティアが言い出した。
ワグも初めの内は相手にしなかったが、日々積もっていくスティアの勉強自慢に堪忍袋を切らしたワグが『今日は二十人をボコボコにした』と言ったところから、自慢大会の火蓋が切られた。
言い合いは言い合いだが、その物言いに棘はないし見ていて姉弟通しの愛らしいやり取りみたいだから、俺はほっといて見ている。
「それで、スティアは何か見つかった?」
「はい!これを見て下さい!」
「……なにこれ?」
小学生が虫を捕まえてきた様にはしゃぐスティアが俺の元に持ってきたのは、人形の腕の部分だけだった。
引き千切れているのか、ズタボロになっている。
と言っても、先程クララと呼ばれた少女が持っていたハンドメイドの人形では無くて、しっかりと職人の手が加えられたと見える仕上がりだ。
「これは、最近流行の勇者アストルフォン人形の一部です!」
勇者アストルフォンは、天地創造の時代に活躍した人間族の英雄の名前だ。
天地創造の戦争後に廃退した世の中で生きる人間族を先導して、襲い来る魔獣達からたくさんの人々を守ったとされている。
まあしかし、その後にアストルフォンの力に恐れを成した人間達と、アストルフォンを信奉する人間達で戦争が起きたりしたんだけどね。
結局アストルフォンは、人間達に争いを止めさせる為に自身が身に付けていた武器を置いて人里から離れていったらしい。
その後、英雄アストルフォンを信奉する人間達がアストル教なるものを立ち上げて大陸の三大宗教として考えられている。
アストル教は、魔獣から民を守ったという功績から冒険者に信者が多い。
本教会も冒険者ギルドの本部があるドラクルス共和国にある。
他の二つは帝国でもメジャーな善神を祀るホミス教と、後は南方の『アルマンヘイム神聖国』に聖地を持つムーシア教。
ホミス教に関しては、その教義の解釈から様々な分派に分かれていると言われている。
因みにオルトウェラ帝国内に布教されているホミス教は、至極普通の教義が多い。
まあ、無神論者蔓延る日本で生まれ生活していた俺が言う至極普通な教義というモノなんて、実際に神に仕えている人間にとって初歩の初歩なのだと思うが。
宗教への理解が浅い人間が考える一般的なキリスト教と言った方がしっくりくるだろうか。
『神は見ている』とか『懺悔すれば神は許しを与える』みたいなもの。
帝国内では宗教に政治的な力は与えられていない。
初代皇帝が考えた政教分離の理念に基づいて立てられた政策らしい。
うん、流石初代皇帝、宗教と政治が融合する危うさを知っているな。
しかし、倫理の一線がゆるゆるな中世の政治・宗教観念なんて簡単に崩壊するのが普通だ。
この時代には決して切り離せないモノだ。
「この前子供達と遊んだときに、このお人形を見せてくれたんです!」
「子供達って、あのミア達の事?」
確かに、前回魔獣狩りでレーメンに来たときにスティアには子供達と遊べるように暇を上げた。
最初は『じゃあデートしましょう!』と言ってたが、『次に来たときも遊ぶ約束をしてきました!』と笑顔で帰ってきたときは嬉しかったな。
しかしこんな物が流行っているのか。
「そうです!オーウェン君とゲイル君達と遊んだときです……」
そんな事を考えていると、スティアがグイッと俺の方に顔を近づけてそう言った。
子供らしく、ふて腐れるように頬を膨らませて、だ。
ん、俺何か言ったか?
しかし、俺はこの雰囲気を知っている。
ルルティアが俺の頬をぐちゃぐちゃにする前兆だ。
こういう時に言葉を間違うと、俺の両頬は欲張ったこぶとり爺さんのようになる。
「あ、ああ、そうなんだ。楽しかったって言ってたよね?」
「……ええ、とーっても楽しかったです。」
ふう、良かったのかもしれないな。
俺の口から戸惑うように発せられた言葉を聞いたスティアは、若干考え込んだ後直ぐにフンッと後ろの方を向いた。
手を後ろで組んで、手をもじもじさせている。
まあ、スティアは俺の侍女だから頬をぐちゃぐちゃにするまでは無いだろうとは思うけど。
それでも、こういう時に言葉を選ばないよりは選んだ方が良い。
「それで、それが何だと言うんだ?」
「ふふん、ワグはこれの凄さが分からないの?」
「はあ、ガキが誘拐された場所にガキの玩具があるんだ、何かはあるだろ?」
ワグを小馬鹿にするようなスティアの様子に呆れた様子のワグ。
ワグをおちょくろうとしているスティアの様子を見ていると、ルルティアの事を思い出す。
あの、自分が知っている事を他人が知らないと知った時、自分に教えるターンが来たんだと思ったときの顔。
ルルティアにそっくりだ。
ここ最近一緒に居たからな、言動が少し似たのかもしれない。
『あるじーなにもなかったよー』
『おーう、何も無かったぞー』
そうこうしていると、上の方から間延びした念話を飛ばしながらロキとノートが帰ってきた。
二人には、建物の上の方から何か見えないかと思って探らせてたけど何も見つからなかったらしい。
『ごめんねーあるじー』
「何も無かったんだから、ロキの所為じゃないよ。」
俺は、結果を出せなかったロキが可愛くしゅんとしているのを見てその頭を撫でた。
「魔法が使われた痕跡も無かったか?」
『無いのう、と言っても『探索術』が使える者が見れば結果は変わるし『隠蔽術』を使われれば、また結果は変わるのじゃがな。』
「ああ、探索系のユニットね。ウチにも一人ぐらい欲しいなぁ。」
「何ですか?そのゆにっとって?」
「ああ、新しい仲間的なヤツだよ……」
『あたらしいおともだちどこー!?』
「まだいないよ。」
探索系のユニットは俺が今後戦いに身を投じていく行かないにせよ必要な人材だよな。
いや、自分から厄介事に首を突っ込んでいく趣味は無いんだけどさ。
それでも探索系のユニットは必要だ。
例えば、俺に『ロミジュリ』的な恋人が出来たとしよう。
俺は夜な夜な屋敷から抜け出して彼女に会いに行くんだ。
屋敷を巡回する騎士達の眼を掻い潜って、俺の行動を不審に思ったルルティアの束縛を潜り抜けて。
そんな時に必要なのが俺の代わりに眼となってくれる探索系のユニットだ。
いや『ゼッペンリッヒの外套』があるからそもそも見つからないな。
しかし、隠密行動だけが探索系の仕事じゃ無い。
例えば何か、もしくは誰かを探すときだ。
探索系の魔法があれば、相手がどれだけ工夫を凝らしてもそれを看破する事が出来る。
いやノートの『反響探査』があるからそれは問題ないな。
だったら探索系は必要ないんじゃ無いか?
いや必要だ。
例えば『探索術』高位術士は、その場で使用された魔力痕跡を辿る事が出来ると言われている。
もしもこの現場で魔法が使われていたのなら、それを探る事が出来ていたのにな。
『探索術』に長けた人間は、特異魔法に適性のある人間の中でも割合が多い。
公爵家が抱える『銀雹狼』にも斥候として『探索術』の使える魔導師が一個師団に最低三人は居る。
今回の遠征でも一人ぐらいは連れて行きたかったんだけど、基本的に『銀雹狼』はグリバー公爵直轄領が抱えている戦線に詰めているから借りられなかった。
というか、借りると言っても彼等の所に手紙を届けるのに二週間以上掛かって、そこから彼等が来るのが二週間以上掛かる。
一ヶ月以上先になるのだから、無理な話だった。
若い騎士連中の中には『探索術』が使える人間は居なかった
だからこうして、人海戦術でアナログ捜査をしている
「しかし、ここまで探して何もないとなると、ここが現場か怪しくなるな………」
周囲を見渡しながらワグがそう呟いた。
その目つきは鋭く、とてもぼんやり見渡しているようには見えなかったが、俺はそっぽを向いていたので全く見えなかった。
「確かにね、出たのもスティアが見つけてくれた人形の腕だけだし……」
「ユークリスト様、これだけじゃダメだったんですか……?」
「あ、いや、そういう意味じゃ無いよ。」
ワグの発言の味方をしたのかと思ったのか、スティアが少し落ち込み気味で呟いた。
「ここが現場だとしたら、それ以外にも色々と見つかっているはずだってワグは言いたいんだよ。例えば、子供達の痕跡がもうちょっとあるとか、犯人達がこの場で犯行をしている痕跡とかさ。」
「……そうですか?」
「うん、スティアは凄く頑張ってくれたよ。」
ちょっといじけた感じに俺を見るスティアの視線を受けて、俺は戸惑いながらも言葉を返した。
スティアもまた、大人の階段を目の前にした一人の女の子なのだ。
言葉の扱いは慎重にしなければなるまい。
つい最近、というか昨日大火傷をしたばかりだからな。
「しかし、ここじゃないとなると、一体どこだ……?」
正直言って、ここ以外にも場所はある。
薄暗い路地裏もスラム的な場所も東久邇は存在するが、ここが一番条件の良い場所だと思う。
攫われた子供達は皆、平均的な平民の子供達だった。
つまり、好き好んでスラムや路地裏に近づかないって事だ。
しかし童心、冒険心的なモノはある。
そして、リスクマネジメントやらなんやらを考えた結果、大通りから近いこの路地を使うと持ったんだけどな。
特異魔法があれば何か分かると思ったんだけどな。
「……ん? つまり、そういう事か。」
そう言った俺に、全員の注目が集まった。
「ユークリスト様、何か分かったんですか?」
「いや、分かったんだけどなぁ、そうであって欲しくないっていうか……」
くそ、これがまだ残ってたか。
正直、この話をカミーラから聞いたときに頭を過ぎった事がある。
俺の中で認めたくなかった事だ。
というか、このまま何の接点も無く過ごせれば良いなと思ってた。
「……奴等か?」
口を開いたのはワグだ。
俺はワグと目を合わせた。
その眼が物語るモノ、俺には容易に想像できてしまう。
「ワグ、どういうこと?」
『あるじーどうしたの?』
『ユーリ、もったいぶらずに言うんじゃ。』
俺達の空気を察した三人が次々に疑問をぶつけてきた。
「痕跡が無い、つまり痕跡を残さなくて済む『特異魔法』を使える人間が関わっていると言う事だ。そして、特異魔法を使える人間を抱えている犯罪組織は、この帝国北部には一つしか無い。」
ワグがそう言った時点でスティアも心当たりがあるのか、その表情を曇らせた。
「鎖の狩人………」
次に口を開いたのは俺だ。
なんとなく俺が言わないといけない気がしたからだ。
遂にこの時が来た。
あれから三年強の月日経ったが、今まで一度もその姿を見せなかった。
俺がこれまで鍛錬を続けていた理由の一つが奴等だ。
奴らの名を口にしたとき、俺の脳裏に全身をローブに包んだあのいけ好かないクソ野郎の姿が浮かんだ。
決着を付けようなんて思わない。
組織の全容すら掴めていない連中の腹の中に入ろうなんて愚の骨頂だ。
氷山の一角を削っても、実際の外観は殆ど損なわれない。
それにああいう組織は、トカゲの尻尾のように直ぐ再生してまた活動を繰り返す。
ただ、それでも。
俺のやる事を邪魔する連中には容赦しない。
俺には、家に帰らないといけない理由があるんだ。
ーー
「しかし、そうと決まれば直ぐに対策会議を開かないとね。ノートこの手紙をアルマンとレヴィアンナさんに届けてくれ。」
『了解じゃ。』
この件に『鎖の狩人』が絡んでいるとは確信を持って言えるわけじゃ無い。
それでも、絡んでないと思って行動して連中と遭遇なんてヘマはしたくない。
常に最悪を想像して、最善を尽くす。
ユークリストの新たなルールの一つだ。
「それじゃあ、領主館に帰って直ぐに話し合いだ。」
「………あ…」
「………」
「ん?どうしたのスティア?……あ。」
「……誰よ、あんた達?」
路地から大通りの方に出た俺達は、遭遇したのだ。
今回のレーメン遠征の目的である、子供達に。
いつものトーリックとして、では無く。
ユークリスト・スノウ・グリバーとして会ってしまったのだ。
お読みいただきありがとうございました。
評価とブックマークの方よろしくお願いいたします。
下の☆マークの所を五つになるようにポチッと押すだけの簡単な作業です。
良いねと感想の方も、より良い作品作りの為の参考としてお願いしたいと思います。




