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公爵家五男の異世界行脚  作者: ナカタクマ
第2章~月華の下で踊る貴族と狩人~
31/63

章閑話:オルトウェラの冬物語 其の五

お読みいただきありがとうございました。

評価とブックマークの方よろしくお願いいたします。

下の☆マークの所を五つになるようにポチッと押すだけの簡単な作業です。

良いねと感想の方も、より良い作品作りの為の参考としてお願いしたいと思います。


 最初に動いたのは疫病蜘蛛(レギナ=ペティス)


 自身の身体の周囲に、六本の槍毒(ポイズンランス)を出現させ、それを順にカイサル目掛けて発射させた。


 特異魔法『毒魔術』による攻性魔術だ。


 カイサルは腰に差していた剣を抜き、疫病蜘蛛目掛け前傾姿勢のまま走り出し、槍毒による猛威を身体能力だけで避けていった。

 ハードルを飛び越える様に、走り幅跳びのロンダートの様に、体操競技の空中捻りを加えながら。

 パルクールの如く、アクロバティックに避けることでその照準を定めさせない。

 

 当然疫病蜘蛛も、ただ魔術を撃っているだけではない。

 疫病蜘蛛自身も丘から駆け下り、カイサル目掛けて突っ込んだ。


 疫病蜘蛛の口から毒玉(ポイズンボール)が発射された。 

 しかし、それはカイサルに向かうこと無く、カイサルと疫病蜘蛛の中間地点に撒かれた。


 カイサルの侵攻ルートを妨害したのだ。


 まるで、先程カイサルが使った『岩壁』の戦術を真似る様に。

 それでも、カイサルは止まらない。

 当然、疫病蜘蛛も止まらない。

 毒の地帯を軽々と潜り抜け、丘を駆け下りて。


 遂に衝突した。


 疫病蜘蛛の鋭爪が、カイサルを袈裟切る様に襲う。

 カイサルは、それをストライカーのゴールパフォーマンスの様に膝から滑り込むことで回避する。 

 滑り込んだカイサルは、次の一手の為体勢を立て直す。

 が、その頭上から槍毒が降り迫る。

 カイサルは超人的な反射神経で、それを寸前の所で躱した。

 

 いや、躱せなかった。

 そして、一瞬の怯みが次の攻撃を許してしまった。


「グッ…なめるなぁああ!!」


 一瞬の出来事だった。


 瞬時に豪級氷結魔術『氷界(アブソリュート)』を使用し、疫病蜘蛛の二十の四肢を氷結させ、瞬時に距離を取った。

 

 距離を取ることに成功したカイサルだったが、脇腹を抑え吐血した。

  

「グハッ…」 


 疫病蜘蛛が束縛から逃れようとしている間に、自身の状態を確認する。


 槍毒による出血、そこから体内に浸食した猛毒。

 脚の横薙ぎを喰らった事による肋骨の骨三本骨折、緩衝剤代わりに間に挟んだ左腕上腕の骨折。

 全身に打撲痕、顔には複数の擦り傷。

 胸当てにはヒビが入り、マントは破け。

 銀髪を束ねていた結束が解かれ、髪は乱れている。


「はぁ……はぁ…」 


 常人ならば満身創痍。

 いや、絶命しても可笑しくない状態。

 

 カイサルは目を伏せ、自分の最期を悟った。  

 いや、その目には有余る活力が満ちていた。 

 

 今この瞬間、己の生を全身で感じている。 

 

 心なしか、笑っている様に見える。 

 自分の状態が悪くなれば成る程、その胸の高鳴りが露出していった。 

  

「……退屈だった戦場に、こんな大華があったとはね。」 

 

 疲れ果て、満身創痍のカイサルの顔に焦燥や恐怖は映っていなかった。 

 

「この世界には……まだまだ私が知らないことが多いな。」  


 その目は少しずつ力が満ちていった。


 疫病蜘蛛が氷結の束縛が解かれた。

 奇声を上げ、カイサルを激しく威嚇している。


「申し訳ないが……私はまだ死ぬ時ではないんだ。」


 カイサルは地面に剣を突き立てた。  

 

 そして、目を閉じ。

 静かに詠唱を始めた。


『我が汝を求めるとき汝も我を求めん 水面の波紋は天降る雫へ 灰燼は荘厳なる大地に帰す 理を創る者だけが理を破壊し 大いなる精霊の加護は大いなる父の御許へ 破壊と再生の狭間で彷徨う亡者に救い手を 我の行く道に栄光がもたらされ 愚者の行く道には没落が待ち構える 全知全能の化身を身降ろし 万物を統べる王と成る』 


 それは、数多ある特異魔法の中で唯一詠唱が必要な魔法。

 その特異魔術の継投が統べる全てを集約させた魔法。

 カイサル・スノウ・グリバーが『指揮者(コンダクター)』と呼ばれる所以の魔法。


 究極鑑定術『混沌之王(クロノス)』 


 今から数分。

 世界は、彼の掌の上で踊ることになる。 

 

 

ーー


 

 究極特異魔法。

 その存在だけが、御伽噺の様に語り継がれてきた。

 常人には、到底辿り着けない領域で行使される原初の魔法。

 それを使用できるだけで、その者は神級魔導師と認定される。


 嘗て大魔導師と呼ばれたドヴォルザーク・ゼル・エンデコルは三つの究極特異魔法を使えたと逸話が残っている。

 魔獣の海を干上がらせ、天を操り大地に恵みをもたらし、野蛮人からの侵攻を食い止める為に大地を競り上がらせた。

 そして、彼を信奉しに追随した者達の子孫に安住の土地を与える為に国を作ったと。


 究極特異魔法とは、その単体だけで敵を震え上がらせ味方に富をもたらすことが出来る。



 神級魔導師カイサル・スノウ・グリバー。


 この事実を知る者は、カイサルともう一人だけ。


 鑑定術の真髄は『全てを見通せる事』 

 『混沌之王(クロノス)』は未来を見通す。


 身体内に魔力が満ち蒼眼が徐々に紫眼に変わり、発色していった。 

 その瞳に映るのは、禍々しい奇声を上げる疫病蜘蛛。 


爆撃(エクスプロージョン)』 


 今回の戦いで、初めてカイサルから先手を取った。


 通常の『爆撃』だった。


 当然、疫病蜘蛛はそれを避けた。

 身体を右にズラした瞬間、二度目の爆撃を受けた。


 豪級に満たない威力程の『爆撃』は、疫病蜘蛛の脚を捥いだ。

 何故、豪級にも満たない魔術でそんなことが起きたのか? 

 理由は、疫病蜘蛛の身体を幼体の頃から縛り付けていた『傀儡の首輪』にある。


 人間の場合、幼少の頃に指輪を付けたまま育てば、その一部だけ指輪によって骨の成長が阻害され、埴輪人形の様にクビレを作ることになる。 


 それと同じ現象が、疫病蜘蛛にも起きたのだ。

 堅く太い甲皮で構成された脚に、付け根のクビレという弱点が出来た。

 如何に『治癒術』で再生し、以前よりも強くなったとは言え、弱い部分は弱い。


 脚を捥がれた疫病蜘蛛が蹌踉けた先に『爆撃』が用意され、二度目の『爆撃』が疫病蜘蛛を襲い、更にもう一本脚が捥がれた。


『ギャキェッ…ギェアァアア!!』


 疫病蜘蛛は悲痛の叫び声を上げて悶絶した後『治癒術』で脚の再生を図った。


 しかし……


「無駄だよ、焼き切ってあるからね。」


 それは叶わなかった。

 既に爆撃により細胞は死滅している。

 

『ギィ……ギャアアアア!!』 


 爆撃が叶わないと判断した疫病蜘蛛は照準を乱す為、大きく地面を蹴り上げ、超高速で乱雑に多方向に走り出した。

 

 その傍らに、六本の槍毒。

 疫病蜘蛛は超近接戦闘に切り替えたのだ。


 魔力消費を抑える為、カイサルは接近戦を受ける。 


 疫病蜘蛛は一瞬でカイサルの元へ辿り着きすぐさま攻撃を開始した。


『左方向から大振りの振り下ろし、後に頭上から二本の槍毒、更に横に薙ぎ払う。』 


 混沌之王が未来を見た。


 カイサルは疫病蜘蛛の凶暴な一撃を、人混みを避ける様に肩を透かしただけで回避した。

 当然次の槍毒も、その次の槍毒も。

 そして、横から薙ぎ払われた攻撃を。


 剣で一刀両断した。


 カイサルの剣の腕は帝国式剣術を修め、北武流の等級は精霊級だ。

 如何に強固な装甲であろうと、脆い弱点を両断するのは苦ではない。

 ただ、タイミングが完璧に合えばの話だが。 

 ロデオに乗りながら針の穴に糸を通す様な作業を『混沌之王』が可能にした。


『ギャキェッ…!』 


 困惑する疫病蜘蛛。


『後方に飛び退くと同時に糸を発射する。』 

 

 更に未来を見る。


灼熱之流星(プロミネンスアードラ)


 無詠唱で放たれた灼熱の流星が、疫病蜘蛛が糸を放つ前に放たれた。

 無詠唱で放たれた為、威力を抑えられているが疫病蜘蛛の一部が焼き切られた。


 これが『指揮者(コンダクター)


 カイサルが戦場で指を差した先では、必ず音が鳴り響く。

 『爆撃』に爆音、それを喰らった者の悲鳴・絶叫。

 それが絶えることなく戦場内で続いていく。

 敵は、その音に恐怖する。

 今正に、友人達の命が奪われているのだと。

 敵は、その音に恐怖する。

 次に鳴る音は自分の身に降り注ぐかもしれない。

 『彼が示した先では、命が奪われる曲が鳴る』傭兵界隈で有名な話だ。

 彼が紡ぐ鎮魂歌(レクイエム)が終わるのは、敵が完全に息絶えた時。

 その様は正に、管楽器団(オーケストラ)を指揮する『指揮者(コンダクター)』。


 カイサルは蜘蛛の脚を一本一本削いでいった。 

 丁寧に、確実に、正確に捥いでいった。


 疫病蜘蛛はもちろん抵抗した。

 奇声を張り上げ、魔法を使い、肉体を最大限躍動させて。

 戦闘中にカイサルから学んだのか、細かい連撃で勝負を着けることに切り替えた。

 カイサルに削がれたとはいえ、まだ十以上もある脚をフル活用して。

 『毒魔術』で生み出した槍毒も、徐々に疫病蜘蛛の動きと連動していった。

 連撃と連撃の間を繋ぎ、カイサルのリズムを乱すタイミングで攻撃を入れる動きに変わった。

 ただ、闇雲に突っ込むわけでもない。

 互いのリーチを図って、適切な間、適切な呼吸を合わせて攻撃を入れた。

 

 彼女は、学習しているのだ。

 今この瞬間に、運命の宿敵と呼べる雄との戦闘の中で学習しているのだ。

 今までの彼女の人生は、ただ目の前にぶら下げられた餌を家畜の様に貪るだけ。 

 ただ、食べていただけだった。 


 それが今、目の前の宿敵との戦闘を経て。

 彼女の戦闘経験が満たされ始めた。

 荒れ果てた土地に雨が降る様に、スポンジが水を吸い上げる様に。

 彼女の中で欠落していた何かが、音を立てて満たされ始めた。


 通常、SSSランクの魔獣に此処までの動きをされたら、帝国騎士団を三個師団投入しても呆気なく殺されるだけだろう。

 現に目の前の怪物は、戦闘中に学習し戦闘中に成長しているのだから

 疫病蜘蛛のスペック自体も上がっている。

 しかし、驚くべき事は疫病蜘蛛の戦闘考察力が上がっていることだ。

 カイサルが『混沌之王』を使ってやっていることを、疫病蜘蛛はその高い演算能力で、自力でやろうとしているのだ。

 実際、カイサルの攻撃を何度か避け、反撃を入れる動きを見せている。

 カイサルの動きを予測して、避けられない様に攻撃を入れようとしている。


 しかし、その全てをカイサルの『混沌之王』が見抜いた。

 疫病蜘蛛の動きも、狙いも、その真意すらも見抜いた。


 しかし、そんな化け物にも限界は来る。


「ガハッ…!!」


 先に限界が来たのはカイサルだった。

 吐血し、その場に蹲った。


 魔力切れだ。


 『混沌之王』を維持する為には、膨大な魔力消費を必要とする。


 戦場の全員が戦慄した。


『ギゲャッギギャギャ…!!』 


 疫病蜘蛛はその様子を見て、嬉々とした奇声を上げた。

 この機会を逃すまいと飛び上がった疫病蜘蛛は、大きく口を上げてカイサル目掛けて食らいついた。

 


ーー



 全員が見た。

 カイサルが喰われていくのを。

 全員が感じた。

 自分達の死を。

 全員が決めた。

 目の前の怪物に抵抗する覚悟を。

 全員が前に進んだ。

 英雄の死に報いる為。


 次の瞬間。


 疫病蜘蛛が立っている地点が蒼白く光った。


「彼処で……息子が私の勝利を待っている。

 帝都で妻と…子供達が私の生還を待っている。

 領都で子供達が……私の土産話待っているんだ。 

 だから負けられない、負けてはいけないんだぁああ!!」

 

古代魔導具(アーティファクト)機動』


 カイサルの手で蒼白く光っている指輪は、帝国が所有する八つの古代魔導具の内の一つ。

 帝国が所有している古代魔導具は八つの内、五つが帝国筆頭公爵家(ペンタゴン)の各家に下賜されている。


 カイサルの指輪は『アルメディーナの涙』 


 使用者の魔力を全回復させる。


 カイサルは叫んだ。

 今までの人生で、一番高らかに声を荒げた。

 その顔は、英雄が死地に飛び込んでいくそれと同じだった。

 

 既に『混沌之王』は解けている。

 未来予知はない、身体は限界を迎えている。

 魔力が回復したからといって、気力が全て回復したわけではない。

 満身創痍、立っているのがやっとの状態。

 大きな魔法一つでも使ってしまえば、忽ち気絶して倒れてしまう。 


 ならば、魔術ではなく剣術で目の前の敵の命を絶つしかない。

 

「オォオオオオオオオオオオオオ!!」 


 一刀が疫病蜘蛛の中に入った。 

 一刀、また一刀。

 未来予知を使わず、その堅い装甲に確実に剣を入れていった。

 同時に小さな『爆撃』をいれ、確実に再生させないことも成功している。 


『ギィギャァアアアアアア!!』 


 疫病蜘蛛は、最後の抵抗とばかりに『毒魔術』を広範囲にぶちまけた。


閥開(ばっかい)』 


 北武流奥義『閥開』

 その一撃は、ぶちまけられた毒溜まりと共に疫病蜘蛛の身体を吹き飛ばした。


『ゲ…ギゲァ…ギギャギャ……』

『爆撃』

『ギギャッ…!」


 失った身体を再生させまいと『爆撃』でその身体を焼灼した。


 疫病蜘蛛は既に身動きが取れなくなっていた。

 ひっくり返された亀の様に、ただ無抵抗に悶えるだけ。

 

 カイサルが一歩、また一歩と疫病蜘蛛に近づいていく。


 剣を上段に構え、一直線に振り下ろした。


 こうして、狂乱(マッド)科学者(サイエンティスト)達の自由研究による産物は、その命を大地に返した。


 大地を揺るがしかねない歓声がドッと沸いた。  

 無論、帝国軍によるものだ。


「……また、新しい発見があった……あの子に良い土産話が出来た……」


 カイサルはそう言い残し、大歓声に溶け込むようにその場に倒れ込んだ。


「父上ぇえ!!」 

 

 いち早くカイサルの元へ駆けつけたトーラスがそれを受け止めた。

 それもそうだ、古代魔導具(アーティファクト)を使っても、カイサルの傷が完璧に癒えるわけではない。

 カイサルには、既に槍毒の攻撃による毒が体内に回っている。

 身体の内も外も、既にぐちゃぐちゃだ。


「神官を連れてこい!!早く!!」 


 父親の治療の為、神官を呼びつける息子の声はカイサルには聞こえなかった。

 しかし、その顔はどこか幸せそうだった。



 この後は、帝国軍によるナルカン残党掃討戦が行われた。

 そしてその後のナルカン侵攻戦に関しては。

 ナルカンの魔術兵器の未知数さ。

 帝国の矛たるカイサルの負傷。

 これらを理由に延期された。


 結局カイサルは一面を取り留め、驚異的な早さで回復した。

 

 そして、この戦いは帝国軍兵士の間で有名になり、その様子を盗み見ていた旅の楽士によって唄にされた。 


 愚者の路(スタルタスヴィア)の近くで行われた、怪物と英雄の物語。



英雄の路(アルゴスヴィア)



ーー



 帝国軍とナルカン軍の戦争が決着を迎えた日の夜。

 

 何処かの森林地帯の中に設けられた地下室。


 中には簡易的なベッドが五つ。

 飲料水が入った革袋。

 味の薄いパン。

 カッチカチの干し肉。


 そして、人影が四つ。


「ああ……やっぱり駄目だったか。」 


 口を開いたのは黒髪のモサモサツイストパーマに無精髭。 

 質素で貧相な服装に何処か気品がある色男。


 ナルカン情報員、ディートリヒ。


 彼は今し方『通信』の魔導具を通じて受けた、自国と帝国の戦争の顛末の報告を受けていた。


「はっ……こりゃ予想以上だな、カイサル・スノウ・グリバーは話以上の化け物だ……」


 お手上げと言わんばかりに天井を見上げ、笑ってみせるディートリヒ。


「それで、ディートさん。」

「ん、なんだ?」

「自分達これからどうしましょうか?」

 

 そう言ったのは、ディートリヒの部下の一人。

 彼は、ディートリヒが情報局に就いた時から今日まで同じ仕事をしてきた。

 

 

「どうするって?」  

「このまま国に帰っても、いずれ帝国の奴らが来ることは目に見えています。だったらその前に我々だけでもーー」

「つまり、国を裏切るって事か……?」


 部下の進言を遮ったディートリヒの声色は、低く薄暗いモノだった。

 部下の男は、その様子になんとも言えず青筋を浮かべ冷や汗をかいた。

 失言をしてしまった。

 国家反逆罪で切り捨てられても可笑しくない。

 もしかしたらこの場で殺されるかもしれない。


「い…いえ……そういう訳ではーー」 

「だよな!そうしよう。」 

「は……」


 何とも快活に結論づけたディートリヒ。

 国を裏切るかどうか、自分の人生を決める一大事というのに


 まるで、天日干しした布団の中でぐっすり睡眠を取った日の朝を迎えた様子だ。


「いやーよかったよかった。お前ならそう言ってくれると思ったよ。お前等もそれで良いな?」

「いやいやいやいや!」 

「え、いや、ちょっと、ディートさん!」

「そんないきなり!?」

「ん?なんだよ。」


 自国が壊滅の危機に陥ったというのに、まるで新喜劇の様な掛け合いをする一行。   


「まさか、国を裏切るのですか!?」

「裏切るも何も、国が俺達に何かしてくれたことがあったか?

 お前等の中に、国に家族を残してきた奴はいるか?

 何の未練も無いのにどうしてあんなクズ共に諂わなくちゃなんねえんだ?

 正直、俺は今回の件が終わったら国を出ようと思ってた。

 お前等とは、一緒に臭い飯を食った仲だから、一応話だけは持ってきただけ。

 どうするかどうかは、自分達で決断しろ。」

「………まさか、この為にアレを?」

「…ディートさんは、こうなることを?」 

「ああ、そうだよ。」


 部下の三人は黙り込んだ。

 それは、国を裏切るかどうかの決断で悩んでいたわけではない。

 ディートリヒの予想が当たっていたからだ。


 此処に来るまで、ディートリヒ達はある場所から品を調達をしてきた。 

 それを調達した主旨を最初は理解できなかった三人であったが、この事態まで予想していたと言うことは、ナルカンが帝国に負けることまできっちり予想していたということだ。

 

 三人は情報局に所属する人間だ。

 当然、疫病蜘蛛(レギナ=ペティス)の存在は知っていた。

 彼等は、勝てると思っていた。

 勝てないまでも、帝国に多大な被害を与えると思っていた。

 しかし、帝国に与えた損害は西部の一部分だけ。

 これには、情報局に属することに多少自身のあった三人でも予想外の出来事だった。

 

 しかし、その全てがディートリヒの想定内だったというわけだ。

 

「わかりました。ディートさんに着いて行きます。」 


 一人が決意を固めた。


「自分も行きます!」

「私も行きます!」


 ディートリヒは、三人の顔を見て我が意を得たりと片側の口角を上げた。

 

「よし!そんじゃ、行くぞ。」 


 四人は外に出て、馬車の中から調達していた品を地面に転がし、火を付けた。

 中には、四人分の死体が入っていた。

 四人は人間の肉が燃える匂いを感じながら、死体を燃やす火を囲みナルカン軍所属を表す品を全て火の中に放り込んだ。 


 暗闇の中を照らす一筋の光は、彼等の未来を照らしているのか。

 はたまた、消え入りそうな脆い未来を表しているのか。


「これから、俺等どこに行くんすか?」 

「あ?んなの決まってんだろ。」


 夜の闇に消え入る黒煙を見上げながら、ディートリヒは微笑んだ。


「帝国だよ。これから面白くなるぜぇ。」



 ディートリヒ・ヴァン・フェルベイン

 いずれ、帝国史残る程の事件を起こす男。

 しかし、世間はまだこの男の名を知らない。



ふう、長かったですね。

お付き合い頂きありがとうございました。 

二章の内容とはあまり関わりが無いですが、その次辺りから重要になってくると思うので、載せさせて頂きます。

あとは、本編の方もボチボチ進めていきたいと考えています。

二章のタイトルが出ちゃっているので、それで推察できる方もいらっしゃると思いますが。

震えずに待っていて下さい。  



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