第18話:獣達の饗宴~後夜祭~
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「……クリ…ト…ま……ユークリスト様。」
『あ…じ………ぇ……てよー』
目を覚ました俺は、泊まっていた宿のベッドの上に居た。
俺の目の前には、目一杯に涙を溜め込んだスティアとロキが居た。
俺が目を覚ましたのを確認すると、プレゼントを見つけた子供のように喜びだした。
「ユークリスト様!!良かったぁ、心配じたんでずよぉ!」
『あるじがおきたぁああ!』
「ぐほっ……!!」
決壊したダムの如く号泣するスティアとロキが俺にしがみつく。
正直、頭が痛い。
疲労困憊でぶっ倒れて、起きた直後にゼロ距離で騒がれてるんだ。
でも、二人の心配も解るから何とか我慢しようじゃ無いか。
よしよし、皆のユーリが帰ってきたよ。
ゆっくりと身体を起こしながら、二人の頭を撫でる。
「ユークリスト様、次は、絶対、私も付いていきます!」
『ロキもいく!!』
「僕は次が無いことを祈ってるよ……」
二人は次があると思い込んでる。
俺としては二度とこんな事はしたくない。
あったとしても、別の誰かに擦り付けて安全な所に隠れたい。
まあ、二人が強くなることはありがたいけど。
そういえば、ノートの姿が見えないな。
あの野郎逃げやがったのか?
見つけたら焼き鳥にしてやる。
ローストチキンにしても良いな。
中に大量のピラフを突っ込んで。
「起きたか……」
壁にもたれ掛かっているワグからも声が掛かる。
「ああ……何とか助かったよ。」
「………」
朗らかに笑いかけながらワグにそう答える。
通常ならここで話は終わりなのだが、何故かワグの視線がこっちに訴え掛けているのを感じる。
いつものジト目では無く、かなり強いメッセージが込められた。
そんな視線だった。
「もしかして、ワグ……怒ってる?」
「………」
ああ、これは怒ってるな。
かなり、ヤバいヤツだな。
前世の友人が、彼女とは違う女の子と遊んでいるのを彼女に見つかった時、あんな顔をされていた。
どれだけ謝っても許してくれない顔なんだよな。
「……次、こんな事があれば。」
「……」
「俺はお前の騎士を辞める。」
「…悪かったよ。もうこんな事はしない。」
「……ふん。」
こりゃ信用されてないな。
ユークリストは少し悲しいぞ。
しかし、前科者の信用なんてこんなモンだろ。
俺に出来るのは苦笑いで躱すことだけだな。
少し気まずい空気が、部屋の中を流れる。
俺にしがみついたまま俯いているスティアとロキ。
壁際にもたれ掛かっているワグ。
カオスだな。
まずいな、何とかしてこの空気を変えないと。
でも、今の俺の状態はあまり宜しくない。
絶好調とは言えないんだよな。
ぶっ倒れた後に、起き上がったばかりだし。
「ユークリスト様がずっと起きないから、ワグは心配してたんですよ。」
「……そうなのか?」
「おい、出鱈目を言うな。」
スティアがニヤニヤしながら言ってくる。
俺もそれに乗っかる。
ワグは顔を背けて、扉の方を見る。
「ん?ずっと、起きなかったって。僕は何日ぐらい寝てたの?」
「二日だ……」
「二日ぁ!」
待て待て待て待て!
確か、俺がぶっ倒れたのが四日目の夜だ。
そこから二日経っていると言うことは……
「そうだ、だから今日帰るんだ。」
マジかよ。
まあ、正直今回の遠征でやれることはもう少ないと思っていたから良いんだけどさ。
今日ぐらいゆっくりしてから、明日帰りたかったよな。
まあ、今日家路についても領都に着くのは明日になるだろうけど。
二年前に誘拐された時、カイサルとトーラスとフラムベリカが半日以下の強行軍で、ブレーメンの森に着いたって行ってたけど、完全にチートだよな。
トーラスの特異魔法で空気抵抗を無くして、全速力で向かった結果だって言ってたけど。
普通に行ったら最低一日は掛かる。
二日ぐらい掛けて帰っても良いかな?
いや、ダメだ。
ルルティアが心配して捜索隊を出すかもしれない。
そうなれば、グロリアが出てくる。
ワグはまだグロリアに勝てるほど強くは無いからな。
捕縛されてしまえば、また俺の有意義な地下室生活が脅かされるかもしれない。
コンコンッ
誰かが、部屋の扉をノックした。
俺に引っ付いていたスティアは、顔を上げると目を擦った後に「はぁい」と返事をしながら扉の方に向かった。
開けられた扉の向こうには、縄に括られたノートを担いだレヴィアンナが立っていた。
相変わらず唆られる腰付きだな。
ボディラインのハッキリしたパンツスタイルは相変わらずだが、この人にはそれが一番似合っている。
少し違うのは、柿渋色の毛皮のコートを大将スタイルで羽織っていることだ。
あれは、何の毛皮だろうか。
有名な魔獣の毛皮だろうか。
温かそうだな。
後、ネックレスをしている。
あれは、初対面の時に付けていたな。
鏃も元に造られてるデザインだ。
ノートはげっそりしながら項垂れてる。
何かあったのだろう。
いい気味だ。
こいつの所為で色々あったんだからな
「どうも、グリバーの坊ちゃん。従魔の曙光梟が騒ぎ始めたから、もしかしたら目覚めたのかと思って様子を見に来たよ。」
「御心配ありがとうございます。この通りピンピンしてますから、大丈夫ですよ。」
『ユークリスト!!無事で良かったのぅ、ワシは心配して夜も眠れなかったぞ!』
縄に括り付けられた駄鳥から念話が飛んでくる。
『だからのぅ、この拘束をいい加減外して欲しいんじゃ。そりゃあ、ワシだって最初はこんな良い姉ちゃんの近くに居られるなんて役得だと考えたんじゃがな。見てみぃこの尻を!誠に絶景じゃ!』
この野郎、自分の罪に目を瞑ってレヴィアンナを尻を愛でてやがったのか?
まじで考えよう。
うーん、ぼんじりぐらい切り取っても良いんじゃ無いか?
『せやけどな!この姉ちゃんワシのことをチラチラ見ながら「塩が良いか、タレが良いか」とか「先っぽ、先っぽだけなら」なんてニタニタしながら呟いとったんじゃ!ユークリスト、ワシが悪かった!もう二度と勝手なことはしないから許してくれぇええ!!』
レヴィアンナさんに預けたのがよっぽど堪えたのか、しおらしくなって帰ってきた。
元々、逃亡防止の為に飛び道具を持っているレヴィアンナに任せていたが、予想外の方向に結果が出た。
ていうか、レヴィアンナさん。
先っぽだけって、どっかのパパさん活動家かよ。
しかし、ノートはこれで調教済みだな。
これなら、ぼんじりを切り取る必要がなさそうだ。
『これに懲りたら、もう変なことするなよ?』
『委細承知した。だから、ワシを解放してくれぇ。』
「はぁ……レヴィアンナさん。ノートの面倒を見てくれてありがとうございました。何か、粗相は無かったですか?」
「ん?ああ、問題は無いぞ。私としてはもう少し面倒を見ても良かったが。」
レヴィアンナから向けられた視線に悪寒を感じたノートが、その色を白から黒ずんだ表情に変える。
もう発言する元気すら無いらしい。
近くに居たスティアが、レヴィアンナからノートを受け取り縄を解くとノートは直ぐに窓際に移動して、へたれこんだ。
ロキが近くに寄り、ノートを慰めている。
『ノートぉ、だいじょうぶー?』
『ロキぃ…ワシャ怖くて堪らんかった。これからは心を入れ替えて一緒にユークリストの従魔をしようなぁ。』
『のーともいっしょ?』
『そうじゃ、もう離れんぞぉ……』
しばらくはロキのセラピーが必要になるな。
「それで、レヴィアンナさん。実家の方に報告は……?」
「ああ、勿論。代官を通じて報告したよ。アルトバルス山脈から未確認の魔獣が来襲。既存の魔獣達と縄張り争いを始めたってね。」
これは、事前にレヴィアンナとの会議で打ち合わせていた法螺話だ。
内容は、まだ開拓や調査が進んでいないアルトバルス山脈から魔獣が来襲して、元々ブレーメンの森に魔獣達と縄張り争いで大暴走が起きかけたというものだ。
嘘は付いてない。
いくつかの真実を事実で隠して、脚色を加えただけだ。
実際に、ノートはアルトバルス山脈方向から来たし。
獄妖狼は、ブレーメンの森既存の魔獣だ。
そのせいで、大暴走も起きかけたしな。
うん、嘘は付いていない。
「ありがとうございます。それと、僕に関しては。」
「それも、安心しな。坊ちゃん達の情報は外部に漏れないようにしたよ。それにほら、本名用で必要になるギルドカードの原本も用意した。これで良いかい?」
「ええ、十分です。ありがとうございます。」
レヴィアンナが、ポケットからまだ名前が記入されていない真っ新なギルドカードを三枚取り出し、机の上に置いた。
後は、こっちの方で名前を書いて血を垂らせばユークリスト・スノウ・グリバーのギルドカード完成だ。
このギルドカードは、冒険者組合が所有する古代魔導具で作られていて、それ以外での偽造ができないらしい。
だから、組合の方に頼んで貯蔵している原本を貰わないといけない。
【偽装術】なる特異魔術があるらしいが、それを使ってもこのギルドカードは偽造できないらしい。
「しかし、獄妖狼相手によくぞあんな事考えて実践できたね。あたしが冒険者をやっていた頃も、あんなイカれた事を考える奴は一人も居なかったよ。
もうこの先一生、領都に足を向けて寝られ無くなったよ。本当に感謝している。」
イカれているなんて聞き捨てならないな。
危険度SSSの魔獣を相手にするのに特攻を頭に入れないなんて、この世界の人間の常識を疑うな。
いや、こういう発言は辞めよう。
今の俺には、侍魂なるものが根付いているからな。
死なば諸共だ。
「止めて下さいよ。元々そこに居る、ウチの従魔が原因なんですから。それに、ここは公爵家の領地です。貴族として当たり前のことをしただけですよ。」
「貴族として……か。だったら私も、ここの組合支部長として恩返しさせて貰うよ。」
そう言って、レヴィアンナは居住まいを正し俺の方に向き合った。
首元にあるネックレスを外し、俺の方に近づき跪いて手を取り、掌に包むように置く。
「大陸剣議席、序列第41位。【潜奪】。
レヴィアンナ・ホークアイ。
この先何かあれば、貴殿を支持し助力する事を此処に誓う。」
現状を理解できていない俺を放置して、レヴィアンナは立ち上がり、ニカリと笑った。
「さて、これで良いかな?」
悪戯が製鋼した子供のような獰猛な笑みを浮かべるレヴィアンナ。
まさか、レヴィアンナが議員だったとはな。
これは予想外だった。
「あのぉ、前から気になっていたんですけど。大陸剣議席って何なんですか?」
後ろで控えていたスティアから、素朴な疑問が上がる。
「大陸剣議席というのは、この大陸に存在する46人の強者の事をそう呼称しているのだ。」
壁際に居たワグが会話に参加した。
「どうして、46人なの?」
「太古の戦争で、善神の側仕えをした46人の部隊長に準えて造られたんだよ。」
「そうさ、南東のドラクルス共和国は知っているかい?」
「はい、商人の人達の国だって。この前、フラムベリカ様が買ってきた美味しいお土産も、ドラクルスで買ったって言ってましたよ!」
スティアの疑問に、俺やレヴィアンナも交って説明が始まった。
三ヶ月ほど前に、カイサルたちが帰ってきた時に一緒に帰ってきたフラムベリカが美味しい焼き菓子を買ってきた。
それをオレオクッキーみたいに北部の牛乳に付けて食べるのが絶品だったんだけど。
ルルティアと食べている処を見つかって、はしたないと言われてしまった。
仕方ないから、地下室の方に持って行ってこっそり三人と一匹で食べた。
スティアは、それ以来あの味を再現するのに躍起になってお菓子作りをしている。
それも美味しいんだけど、「まだまだです」と言って研鑽を積んでいる。
今もその味を思い出して、顔が朗らかになっている。
「そのドラクルスにある闘技場が五年置き発表しているのが、大陸剣議席に名を連ねる強者達だ。彼等は議員と呼ばれ、名誉ある二つ名が与えられる。」
「対人戦闘、戦での武功、魔獣討伐成績、その潜在能力。選考基準はアタシ達にも不明だが、五年置きに必ず発表されるんだよ。因みに、坊ちゃんのお父上である公爵様は、第三位の【指揮者】アタシなんかよりも格上さ。」
選考基準は一切不明だが、その序列の信憑性は高く評価されている。
国にとっては、他国に自国の武威を示すことにもなるし。
冒険者や傭兵にとっては自身の泊付けにもなる。
嘗て、その序列に納得できなかった国王がドラクルスに向けて戦争を起こしたが、ドラクルスはその国で一番の強者と呼ばれる者よりも序列の高い者を金で雇い、一騎打ちの末に勝利させることによってその信憑性を世に知らしめたとか。
なんか、魔法の鏡みたいで面白いよな。
鏡よ鏡、私より強い者はどこに居るの?
貴方よりも強いのは、蚊です。
何て言われたら、ちょっとショックだけど。
因みに、【指揮者】とか【潜奪】とかの二つ名は議席側が発表するらしい。
こっちにも選ばせて欲しいよな。
不名誉な二つ名が付けられるかも知れないだろ。
【おっぱい星人】とか【耳フェチ】とかさ。
さすがにそんな酷いモノは無いと思いたいけど。
【変態】とか【不能】とかは居たらしい。
可哀想に。
とにかく、その議席にはあらゆる者の名前が載っている。
国に仕官する軍人だったり。
貴族家に仕える騎士だったり。
用心棒に傭兵。
将又、道端の盗賊風情か路地裏のギャングだったり。
冒険者や神官だったりもする。
存在も知られていない強者や。
秘境の戦士もいたりする。
善行も悪行も崇高な信念も必要ない。
只、武さえ有れば全てを得られる。
その為に創られたのが【大陸剣議席】だ。
カイサルの序列は帝国一らしく、それもあって帝国の武の象徴として一部では崇められている。
「弟子入り志願がしつこい」とも言ってたな。
前回の序列が六位で、三年前の更新で三位になったらしいが、カイサルは自分よりも上の二人には一度も会ったことが無いらしい。
というか、自分以外の議員と会ったことが無いらしい。
大々的に発表はされているが、その人間の身元も考慮して行われる為、その全貌は明らかになっていない。
名前すら知られていない議員はこの世にごまんと居る。
その為、詐欺などにその名前が使われているらしいが、其処は信頼で成り立つ商人の国ドラクルスだよな。
しっかりと身分を示す血統書のような物を準備しているらしい。
それが、ドラクルスから大陸中の強者の元へ送られる。
恐らく、俺の手に渡されたこの鏃の形をしたネックレスがレヴィアンナの血統書なんだと思う。
カイサルは軍人だし、国に仕える身でもあるから帝国の武威を示す為に公表されている。
人間族で一桁に入ったと公表しているのはカイサルともう一人だけだ。
だが、カイサルより序列は下だ。
よって、名実ともにカイサルは人間族最強ってことになるよな。
パピーマジで凄いよな。
あの若さで、人間族最強だぜ。
いや、完璧すぎて鼻血が出るよ。
穴という穴から噴き出してるよね。
この話をしている時のマリアンヌの顔と言ったら、完全に雌の顔になってたよ。
まあ、聴いている俺もそれなりにヤバい顔をしていたんだけどね。
「ほぇ、ユークリスト様も選ばれますか?」
「いや、僕は何もしてないからね。それに、そんな物騒なランキングに選ばれたくないよ。」
「はっはっは!危険度SSSの獄妖狼を撃退しといて、物騒だって!?坊ちゃんも面白いことを言うね!歴代の議員でもそんなことが出来る奴は早々いないよ。」
豪快に笑うレヴィアンナ。
止めてくれ、純粋な子供を焚き付けるのは。
「わぁ!やっぱり、ユークリスト様なら選ばれますよ!」
「いや、選ばれたくないんだけど……レヴィアンナさんもスティアを焚き付けないで下さい。」
「む……そうか?しかし、序列というのはいつの間にか決まっているぞ。アタシの時もそうだったが、何時どこから連中に見られてるか解らないんだよ。【潜奪】なんて二つ名を貰っておいて、自分がどこから監視されてるのか解らないなんて笑い話も良い所だよ。」
確かに、自分の知らない所でランキングが付けられているのはあまり気分の宜しい物じゃ無いよな。
前世の高校時代、ヒエラルキーの上の方にいた一軍男子とかがクラスの女子を見て、7点とか9点とか付けていたのを思い出した。
「顔はいまいちだけど、体が良いな」とか。
「エロい声してるから加点しよう」とか。
入学式の日になると、新入生にも点数を付けていたな。
あの頃はなんとも思わなかった。
寧ろ、「あ、あの子は8点の子だ」とか「俺だったら7点だな」程度にしか思ってない。
多分これは変わらないだろうな。
誰かに言われて変えられるモノでも無いし。
習慣になってきていると言っても過言じゃ無い。
現に今だってレヴィアンナは良い尻をしているとか。
スティアは大人になったら絶対美人になるとか。
街を歩く美人のお姉さんに目線が移ってしまうとか。
ちょっと、あの冒険者の装備エロいなとか。
その程度のことなんだ。
でも不可解なランキングがあるというのは、厄介だよな。
まあ、俺が選ばれることは無いと思うけど。
コンコンッ
また誰かが扉をノックする。
来客の予定は無い。
ワグが一瞬、臨戦態勢に入る。
「アタシが呼んだんだ。」
それを手で制したレヴィアンナはそう言って、扉の方に向かう。
「坊ちゃん達、この街には何時までいるんだい?」
「それが今日中に帰らないと、姉が捜索隊を出しかねないんですよ。」
冗談染みたように言うと、それを聴いたレヴィアンナが少し気まずそうな顔をする。
「あー、そうなのかい?仲の良い兄妹で羨ましいね。それじゃあ、アタシはこれで失礼するよ。」
「え、あ、ちょっと……」
次の瞬間。
扉が蹴破られた。
レヴィアンナの鼻先を擦った扉は、勢いよく部屋の隅にまで飛んでいった。
襲撃だ。
一瞬でそれを悟った。
レヴィアンナを除く全員が臨戦態勢をとる。
まず、扉に一番近い位置に立っていたワグが直ぐさま抜刀し、襲撃者に襲いかかる。
しかしそれは、ワグの懐に入り両の手首を掴み拘束する。
「!? があぁああ!」
壁際に打ち付けられたワグは、蹴撃繰り出そうとするが。
それも、襲撃者の足によって防御される。
そこまで、一連の殺り取りが終わり。
ワグは、襲撃者への攻撃を止めた。
ワグがその襲撃者のことを知っていたからだ。
「お嬢様。鎮圧完了。」
そう言ったのは、赤茶色の髪を綺麗に短く切り揃え、公爵家筆頭騎士の身分を示す狼の紋章が入った胸当てを身に付けた体力馬鹿。
もとい、我が姉ルルティアの専属騎士であるグロリア・セブルニアだ。
その姿を確認した瞬間、俺の身体に悪寒が走った。
不味い、現状を一番知られたくない人がこの場に現れたんだ。
「ありがと、グロリア。」
ああ、この声だ。
この七年間で最も俺の近くにいた声の持ち主。
それはゆっくり、部屋の中に足を踏み入れる。
青と白を基調とした綺麗な服。
北部特有のバルムッサの花を、ドライフラワーにして飾り付けられている大きなボンネット帽を被った。
「ユーリ!お姉ちゃんが迎えに来たわ!」
ルルティア・スノウ・グリバー。
我が最愛の姉よ。
「あ、ル、ルル姉。どうして、こんな所に?」
予期せぬ役者の登場で俺は既にタジタジだ。
何とか笑顔を作ったつもりだが、不安がビッシリ詰まっている。
「どうしてじゃないわ!
大暴走が起こるかもしれないって叔父様に聞いて直ぐに、ユーリの事が心配で迎えに来たの!なのに、お役所の人はユーリのことは知らないって!
直ぐに分かったんだからね!
またユーリが変なことしてるって!
だから、エリーゼに変な人がいないか調べて貰ったら、変な仮面を付けた冒険者が居るって聞いて宿まで来たの!」
ビシッと擬音が着くほどの勢いで指を差し、鬼の形相で勢いよく説教を始めるルルティア。
こうなってしまえば、誰もルルティアの絶対領域に入って来れない。
ワグは既に拘束が解かれているが、近くのグロリアを睨み付けている。
エリーゼは、ゆっくり部屋の中に入った後にスティアの近くに行って、軽い挨拶をした後。
部屋の外に誘導している。
レヴィアンナはニヤニヤと少し面白そうにしている。
アンタが引き込んだんだろ。
助けてくれよ。
「こっ、今回は本当に、何もしてないよ。冒険者登録は、その、公爵家から離れて自由に活動がしたかったんだよ……」
「どうしてそんなことをするの!?
もしかして、お姉ちゃんのことが嫌いなの!
家族なのに!お父様達がこの事を聞いたら何て言うと思う!?」
「さあ、何て言うかな……?」
いつもなら、冗談で茶化したりしていたが今はそれが出来ない。
ルルティアに対してそんなことは出来なかった。
きっと悲しんでしまう、そう思ったから。
「もお………心配したんだからね。」
俺のしおらしい態度に、ルルティアの怒髪天を突くほどの憤怒が一気に降下した。
頬を膨らませて、後ろで手をもじもじさせている。
ジトッと此方を見つめる。
この人には、この先一生頭が上がらないな。
俺のことを此処まで心配してくれる人間を今世・前世を通してみても、この人以上の人は見つからないな。
俺の変わりに泣いて怒って笑ってくれる人だ。
俺はベッドから立ち上がり、ルルティアにハグをする。
思えば、俺からする事はほとんど初めてだな。
「ほら、僕は大丈夫だよ。会いたかったよルル姉。」
「……うん。お姉ちゃんも会いたかった。」
危険度SSSの獄妖狼を目の前にしても物怖じしなかったのに、家族の前では途端に普通の子供に戻ってしまう。
「ふふ、坊ちゃんは面白い人だね。」
レヴィアンナが恍惚な笑みを浮かべる。
「失礼します。ルルティア様、ユークリスト様。食事をお持ちしました。」
扉を失った入り口の向こうから、食事を乗せたトレーを転がしたエリーゼとスティアが入ってきた。
「さっ、一緒に食べましょう。」
「うん。」
扉の壊れた開放的な部屋の中で、俺達は食事を楽しんだ。
ーー
「ユーリは何食べたい?」
「僕はシチューが良いな。丁度北部兎の肉もあるしね。」
『あるじ、ロキはこれ。』
「ロキはホントにマフカの実が好きだね。いくつ欲しい?」
『たくさん!』
『ユーリ、ワシも食いたいぞ!』
「はいはい、わかったよ。」
俺達は食事を終え、扉の弁償代を払って帰り支度を済ませて宿を出発した。
曙光梟の事をどう言うか悩んだけど、ルルティアが初見で曙光梟の事を看破した。
再三思うのだが、ルルティアはちょっと直情的だが阿呆では無いんだよな。
小さい時俺の要望で屋敷の図書館に行った時、一緒に見た図鑑に書いてあった曙光梟の事を覚えていたらしい。
この人はこの人で、かなりハイスペックであることを改めて思い知らされることになったな。
当然【祝福術】の事も知っていたけど、使えないことを説得した。
現在俺達一行は、東側の門に続いている大通りの方を歩いている。
今夜の野営で使う食材をいくつか買っている。
買ったらノートの【異空間収納】に突っ込んでいくから、好きな物を選べる。
異空間収納の入り口は、ノートの影だ。
影を通して収納できるって、ちょっと格好良いよな。
厨二心を擽られる。
さて、今の俺達は変装を解いている。
ルルティアが離れてくれなかったからな、仮面を付けたまま一緒に行動すれば冒険者トーリックの身元がバレてしまう可能性が高くなる。
そうなれば、せっかくの隠蔽工作が無駄になってしまう。
変わりにローブを被って、基本的に人と接するのはエリーゼにお願いしている。
スティアの場合は、髪色が特徴的だからメラニンを抜いてブリーチ済みだが。
髪の色が変化したのを見たルルティアが『自分も』とはしゃいでいたからやったけど、既に金髪のルルティアには大した変化は無かった。
ワグもローブを被っている。
ナベロ人は、レーメンの街にも居る。
平民だったり、使用人だったり、奴隷だったり。
見慣れている者ではあるが、東部民の存在は帝国人に抵抗がある。
当の本人は気にしていないからいいが、あからさまに嫌な顔をした店主がいた時はイラッとしたな。
そいつの店では買わなかった。
ロキは、俺に肩車の体勢で乗っかり。
ノートは、ワグの肩の上に乗っかってる。
ルルティアはショッピングを楽しんでいる。
公爵家から色々な物を支給されているから物には不自由していないが、自分で見て回って物を買うのはやっぱり楽しいよな。
グロリアとエリーゼもローブを羽織っている。
「次は、あっちの店に行きましょう。」
「うん。」
食材を見て回った後は、織物屋に、武器・防具屋を見て回った。
大した物は買わなかったけど、店を回って商品を見るだけで楽しかった。
ルルティアは、見る物全部買うとか言ってたけど流石にほとんど使わない物を買うのは、もったいないから止めさせた。
俺とお揃いの仮面は無いのか探してたりしたな。
こんな風に家族と買い物をするのは楽しいな。
前世のことを思い出す。
俺は友人は確かにいたが、社交的な人間とは言えなかった。
だから、複数で外出する時は決まって家族がいた。
大体、母親と妹が買う物を選ぶんだ。
父親はそれに付いて行って。
俺と弟は二人で好きな所に行く。
大概が本屋の所に行ってたけど。
俺達が近くに居なくても、母親は必要な物を買ってたんだ。
超能力者みたいだった。
「………」
「スティア、これ欲しいの?」
「え?い、いえ、そういうわけでは無いですが……」
いま立ち寄っているのはアクセサリー店だ。
簡素に作られたアクセサリーが多いが、俺はこういうシンプルなデザインが好きだ。
確かに、貴族や商人御用達の宝石を扱っているようなアクセサリー店に比べれば劣っているが、こういう商人の手作り感がある物の方が風情があるよな。
宝飾品店の物は無駄に大きいし、ちょっと下品だ。
あと、二年前の豚野郎伯爵を思い出す。
スティアは綺麗な碧色のブローチに目を奪われたのか、それから目を離さない。
宝石を使用しているわけでは無いが綺麗なブローチだな。
スティアは俯き気味にブローチを見ている。
「綺麗なブローチだね。」
「はい……とっても綺麗です。」
「でも、こっちの金色の方がスティアに似合うよ。ほら、スティアの目の色と同じだよ。」
「いえ、私はそっちの方が……」
ファッションに疎い俺でも分かることは、宝石類は目の色か髪の色のどちらに寄せた方が、統一感が出て良いという事だ。
スティアの眼は金色だから、同じ色のブローチを勧めたんだけどどうやらお気に召さなかったらしい、もしくは碧色がよっぽど好きか。
「そうなんだ。すみません、これ貰えますか?」
「あいよ、銀貨二枚だ。」
「はい。」
お金が入った袋から銀貨二枚を取り出して店主に払う。
「ユ、ユークリスト様!そんな、良いですよ。」
「スティアには、たくさん世話になっているから当然のことだよ。」
俺は彼女の雇い主だからな。
当然のことだよ。
それに、家が欲しいって言ってるわけでも無いんだ。
こんな銀貨二枚のブローチなんて可愛い物だよな。
「でも、私何も出来なかったですよ……次何かあってもユークリスト様のお役に立てないかも。」
スティアも何かを気にしているのか、暗い声でそう呟く。
確かに、スティアは今回の遠征でも満足するような結果は出せていない。
色々張り切っていたが、ほとんど空回りで終わった結果だな。
それでも、スティアは料理とか俺の世話とかも十分にやってくれてる。
それに、こういうのは一夕一朝でどうにかなるような問題じゃないと思う。
大体それが出来たら、俺が自爆ベストを着る必要はなかったしな。
いずれ上手く出来るモノだ。
気長に待とうじゃないか。
「これは、スティアが日頃頑張ってくれてるからだよ。これからもよろしくね。」
「……はい、頑張ります。」
少し考え込んだ後に、ニッコリと笑うスティア。
これからも、あまり思い詰めないで欲しいな。
「さあ!次はこっちに行くわ!」
「ねえ、待ってよミア!」
聞き覚えのある声が路地の方から聞こえてきた。
路地の方向を見ると、仲良しちびっ子冒険者のオーウェン、ゲイル、カミーラ、ミアが通りの武器屋から出てきた。
スティアは子供達に気づいて話しかけようとしたが、自分の状態に気づき少ししょぼんとして話しかけるのを止めた。
俺がノートを従魔にした時、森からレーメンへの帰り道でスティアは子供達と仲良くなったらしい。
子供達は自分と同じような年齢で、俺みたいな奴の近くに居る事に興味を持ったのかたくさん質問をしたらしい。
質問に答えるウチにスティアも心の壁が無くなり、気軽に話せるようになったとか。
しかし、今の俺達は公爵家モードだ。
つまり、子供達にとっては全くの赤の他人だ。
それでも、少し嬉しいな。
スティアが自分から話しかけようとしたんだからな。
俺達以外に、そういう人間をもっと増やして欲しい。
これだけでも、今回この街に来た意味はある。
「行ってきて良いよ。」
「え?でも……」
「大丈夫だよ。ほら。」
ノートを呼び出し、【異空間収納】から俺とスティアの分の仮面を取り出した。
「ユークリスト様、ありがとうございます。」
「良いんだよ。」
仮面を付けて、ロキにマフカの実を上げてから、ルルティアに預けて子供達の元へ近づく。
「あ!リリカちゃんだ。トーリックさんも居る!」
「こんにちは。」
「何か買いに来たんですか?」
「………」
子供達は俺達に気づくと、それぞれ声を掛けてきた。
ミアだけは俺を確認すると気まずそうに顔を背けた。
この前のことを気にしているのだろうか。
大丈夫、俺は大人だからな。
思春期前の子供の考えることは分からないが、どっしりと構えて受け入れてやることは出来る。
今の俺は、温厚で大人な鍛冶族トーリックさんの設定だからな。
深い懐で君たちを受け入れることが出来るんだよ。
「今日は皆さんに挨拶をしに来ました。」
「挨拶?リリカちゃん達、どこか行っちゃうの?」
「そんなぁ、また一緒に森へ行きたかったのに……」
街を出ることを聞いて、子供達が残念がっている。
一緒に森へって。
君等は何もしなかっただろ。
俺とワグの負担が果てしなくデカかったからな。
爆弾を抱えて危険自然区域観光なんて御免だ。
「もう、此処へは来ないの?」
ミアが後ろから、俺の方を見て質問を投げかける。
「いや、ここは良い所だからな。また来ようかと考えている。」
「そう……また来るのね。」
ミアは少し俯き、口角を上げる。
ミアは、顔を上げると俺の方に仁王立ちで向き直り、ビシッと指を差す。
「次来た時は、私の魔法を見せてあげるわ!アンタに教えて貰わなくても、上達してみせるんだからね!」
「……君ならきっと直ぐに上達するだろうな。期待しているよ。」
「……ふん!当たり前じゃ無い。」
腕を組み、口をへの字にして少し得意そうにしているミア。
しかし、この子達に魔法を教える人間がこの街にいるだろうか。
ギルドとかに行けば、何人かいるかもしれないな。
カイサルとかに聞いたけど、別に平民が未成年時から魔法を習得しても罪とかにならないらしい。
それでも教える人間がいないのは、魔力を自在に扱える人間の人口が少ないからだそうだ。
あとは、魔法教育を幼少期から始めることにより貴族と平民の格差を作り、貴族の優位性を保つ所為だとも言ってたな。
俺個人の言い分としては、そんな事でしか優位性を保てない体制なんて滅んでしまえば良いと思っている。
話は脱線したが、つまり教える人間がいればこの子達も魔法を扱えるということだ。
そういう体勢が出来ればあの子達以前に、他の子供が危険自然区域に入ってしまった時の生存率が上がるしな。
どうにか出来ないかな?
……うーん。
「あ……」
「どうかしましたか、トーリック様?」
良いことを考えたかもしれない。
いや、分からないけど。
ローブの内側から紙と鉛筆を取り出して、壁際に行ってメモを取る。
この世界のペンと言えば、インクを付けて書く羽根ペン的なのがメジャーだけど、俺は【錬金術】を使って『なんちゃって鉛筆』を作り出した。
割と簡単だった。
オーダーメイドだから、シャーペンみたいに自分好みに細さを変えることが出来る。
まあ、使ったら潰れて丸くなるんだけどね。
これは、最近作ったからその存在を知っているのは、スティアとワグだけだ。
カイサルたちが帰ってきたら、プレゼントであげても良いな。
フラムベリカなら、どこかに売りそうだけど。
「何してるんだろ?」
「さあ……」
「紙に何か書いてるよ。」
「何て書いてあるんだろう?」
「知らないわよ。」
子供達のそんな声が聞こえてくる。
そうか、子供達は文字が読めないんだった。
この世界の識字率を舐めてた。
しかし、要件は粗方書いた。
「これを冒険者組合の支部長をしている、レヴィアンナという人に見せなさい。きっと力になってくれるだろう。」
「これ、何て書いてるのよ?」
「君たちの魔法習得の面倒を見てくれるように書いてある。」
「!! ホント!?」
「ああ、本当だ。」
「え!?なになに!?」
「僕たちも魔法を使えるの!?」
「やったぁあ!」
レヴィアンナに追加報酬を強請ることになったが、まあ良いだろう。
こっちには、鏃のネックレスがあるからな。
多少のオイタは許してくれるだろう。
子供達は飛び上がり、全身で喜びを表現している。
ミアも、皆と交ざり年相応の子供らしく喜んでいる。
「ねえ、トーリック!」
「ん、……何だ?」
「ありがとう!!」
その顔は、この数日間で見たミアの顔で一番良いモノだった。
赤茶色の髪よりも紅潮した顔を輝かせて、こちらに満面の笑みを向ける。
今までの、険のある表情とは違い可愛らしい女の子のそれとなっていた。
やっと、俺が知ってる年相応の女の子の顔になったな。
まあ、それぐらい嬉しかったんだろう。
「頑張って魔法を勉強してくれ。」
「「「はい!!」」」
手を振る子供達に見送られて、ルルティア達と合流する為に出店の方向に踵を返す。
「ユークリスト様、もうこの街には来たらダメです。」
いきなり、スティアからそんなことを言われた。
「ん?何言ってるの、スティア?」
「この街には、危険が一杯です。」
この街に来て、初めて聞くほど真剣なトーンで忠告するスティア。
確かに、今回の遠征では危険なことがたくさんあったな。
でも、毎回こうなるわけじゃないし、次来た時は大丈夫だろ。
「大丈夫だよ。次来る時は、こんな事は無いと思うから。」
「むぅう、そんなことを言ってるわけじゃ無いのに………ふん!」
最後の呟きは聞こえなかった。
変わりに、スティアが俺に腕に抱きついてきた。
「どうしたの?」聞いても答えてくれなかったし、別に悪い気はしないからそのままにした。
きっと彼女にも、どこか思う所があったのかもしれない。
仮の姿とはいえ、初めて出来た友達との一時的なお別れだからな。
大丈夫、ユークリストはどこにも行かないよ。
俺達は、その後ルルティアと合流し無事に領都への家路に着くことが出来た。
道中大した危険は無く、一夜明けて直ぐに領都入りが出来た。
帰った俺は叔父にレーメンでの事を説明して、直ぐに私室に戻った。
私室に戻った俺は糸が切れたようにベッドに入り、そのまま眠った。
獄妖狼との遣り取りで俺の中に残った残響は、未だ俺の中で鳴り続けている。
しかしそれは、また明日から考えれば良いだろう。
今は旅での疲れを癒やすことに専念しよう。
再び死線を潜り抜けた俺は、安らぎを得るように意識を落とした。
これで第一章の冒険者編終わりです。
書いてて丁度良い長さだなって思ったんですけど。
終わってみたら、短かったかなと思ったりですね。
後、ブックマーク押してくれた人達が10人を超えて総合評価の方も50を超えたんですよね。
名前も顔も知らない読者の方々、本当にありがとうございます。
数字が増える度自分のモチベーションが上がっているのを感じます。
承認欲求が原動力になる浅はかな人間です。
さて、冒険者編が終わったので、あと数話書いたら第一章は終わりになります。
これから、本格的にユークリストの物語が始まります!
色々予定していることはありますが、温かい眼で見守って、軽快な指使いで評価を星5まで押していただけると大変助かります。
どうぞこれからも、『公爵家五男の異世界行脚』をよろしくお願いします!




