第15話:新たな従魔
引っ越しを考えています。
ブレーメンの森には、ロキに『たすけて』と言った奴がいる。
つまりここには、俺が従魔に出来る元獣種がいる。
正直に言おう、今の俺は最高にテンションが上がっている!
この森に異変があるかもしれないとか、そんなことは今どうだって良い。
新しい従魔が手に入るんじゃないかと思うとワクワクする。
俺の場合、初手が猿だったからな。
確かにロキは、可愛いくてとっても良い子だ。
ただやっぱり、異世界ライフの定番であるスライムとかフェンリルとかドラゴンとか、そんな従魔達と大陸中を旅してみたいモノだ。
希望としては、空系のユニットが良いな。
陸系は既にロキがいるし、恐らくロキ以上の陸系ユニットは居ないだろうな。
大陸を探せば、能力的に高い奴はたくさん居るかもしれないけど、俺の従魔という視点から見たときはロキ以上の魔獣はいないな。
生い茂る木々を避け、ロキと共に森の中を駆けていく。
前世で、雪からバイクで駆け下りる一人称視点の映像を見たことがあるが、これはそれよりも過激で苛烈だ。
木々の後ろに魔獣がいるかもしれないし、いなくても視界の外にある盛り上がった土、露出している樹の根に足を取られるかもしれない。
その辺りロキは楽で良いよな、木の上を飛び回るだけだからな。
スティア達から大分離れてしまったかもしれない。
幸い、まだ森の北側だし危険な魔獣は出ないと祈りたいが、ヤバい奴が出てきたら直ぐに逃げよう。
姿を見たことも無い未確認生物よりも、自分の七歳児ボディーの方が大切だからな。
いや、少しぐらい負傷した方がかっこいいのか?
漫画でも傷がある戦士や冒険者は、なんかバックボーンを背負ってそうで格好いいし、健全な男の子としては少し憧れるよな。
そうなると傷の場所も重要になってくるな。
目元に作って因縁の相手への復讐に燃える戦士風も良いな、背中に作って脱いだ時に大切な女に慰めて貰う歴戦の冒険者風か、顙に作って大いなる運命を背負ってる主人公風も良いな。
いやダメだな、家族が悲しむ。
特にルルティアは、只管泣き叫ぶだろうな。
屋敷を出るまでの二年間屋敷から出してくれなそうだ。
やっと分かり合えたというのに、俺の陳腐な妄想のせいで全てが台無しになってしまう。
「ロキ!その魔獣はどこにいるんだ!?」
『このさきだよー』
ロキの間延びするような返事に気を抜きそうになりつつ、樹海のようなというか樹海だな、それを潜り抜け漸く、少し開けた場所にいる魔獣の姿を捉える。
怒大熊だ。それも三匹。
襲われている魔獣の姿は見えないが恐らくアレで合っているだろう。
「見つけた。ロキも援護してくれ!」
『まっかせてー』
魔術銃を構える。
【土弾】
手前にいる怒大熊の頭が飛ぶ。
他の二匹が俺の方に気づいた、この調子でもう一匹!
【土弾】
無理だった。
二匹は素早く土弾を避ける。
あんな巨体のどこにそんな機能が備わっていたのか。
しかし、さすが危険度C魔獣って所か、正直今までが弱すぎたんだよな。
一方は右から、もう一方は左から迫ってくる。
「だったら、こうだ!」
【土弾】
左から迫る怒大熊に土弾を放つが、もちろんそれは避けられてしまう。
【土弾】
だから、さらに避けた先を予想して二発目で仕留める!
土弾は怒大熊の左顔面の半分と左肩を抉るように貫通した。
次もこのパターンでいける!
そのまま、俺は右から迫る怒大熊に向けて、魔術銃を構える。
カチッ
銃を撃っているときに一番聞きたくない音が聞こえた。
クソッしまった!さっきコボルトに二発使った後、再装填するのを忘れてた!
「クソッ!」
怒大熊はそのまま、鈍い音で地面を蹴り上げこちらに突進してくる。
再装填の為の時間を稼ぐ必要がある。
「ロキッ!」
『あるじーいっくよー!」
【変身】
『ガアァアアアア!!』
ロキは、魔法でその姿を怒大熊に変え、俺に向かってきている怒大熊の横っ腹に噛み付いた。
ロキの【変身術】の精度を舐めてたな、身体のサイズが全く一緒だ。
確か、【変身術】は足りない体積を自身の魔力で補うとか言ってたけど、僅か二歳の内包魔力で自分の10倍以上ある魔獣へ完璧に変身してしまうとは、あるじはちょっとジェラシーを感じているよロキ君。
土手っ腹に噛み付かれた怒大熊は、一瞬悶え身体を起こし、ロキに対応するために俺から視線を切る。
「よくやったロキ!もう、離れて良いぞ!」
『わかったー』
素早く薬室を横にスイングアウトする。
腰に下げてある銃弾袋の中に、無造作に手を突っ込んで一発だけ取り出して素早く薬室に込め、そのまま銃口を怒大熊に向ける。
ロキは指示通り素早く離れ、怒大熊の攻撃範囲から脱出する。
怒大熊は、再び俺の方に視線を戻す。
……もう遅い。
【風弾】
風弾は、至近距離から放たれた。
怒大熊は反応することすら出来ず直撃した後、内部から肉が削られる様に螺旋状に貫かれ、悲痛の声を上げた後、力尽きその場に倒れ込んだ。
「ふう、何とかなったかな。」
今回はマジで危なかったな。
魔術銃が思った以上に強力すぎて、用心することを忘れていた。
ホント、一歩進んで二歩下がる、進歩の無い男だな俺は。
そんなことはもうしないぞ。
まずは、再装填だ。
腰の銃弾袋から、銃弾を選び薬室に再装填していく。
さっきは無造作に選んだけど、次からは土弾に統一した方が良いな。
今使っているのは、下級魔法だけど込めている魔力量は、上級魔法並みだ。
地下で試し打ちしている時は、下級相当の魔力しか込めなかったけど、屋外でこれを初めて使って分かった事は、思った以上に威力が強いってこと。
上級魔法の威力を舐めていた。
そりゃあ、国に問題なく仕えることが出来ると言われているだけあるわ。
森の中では、火魔法系の銃弾は使えないな、土か風が今のところ実用的かな。
帰ったら複合属性の銃弾を作ってみよう。
全部の属性を試す必要があるな。
『誰かあぁあああああ!!たぁすけてええぇえええ!!』
念話がこっちまで聞こえてきた。
これは俺の推察なのだが、恐らく【従魔術】に適性がある者は、向こうが回線のようなモノを開きさえすれば、契約をしていなくても念話で会話することが出来る。
周りに他の魔獣がいないことを確認し、魔術銃をホルスターに仕舞い、声の発信源へ身体を向ける。
それにしてもどんな魔獣かな、
ドラゴン系かな?狼系かな?スライム系かな?ロキは猿だから出来るだけ被るのは望ましくないなあ。
いや、別に従魔はコレクションじゃ無いから、被っても仕方ないと思うんだけどさ
『助けてくれたら何でもする!靴を舐める!股を潜る!首輪だって付ける!檻にだって入るから!お願あぁあああい。助けてえぇえええ!』
一気に助ける気が失せた。
助けたとしてだ、こんな奴を従魔にして良いのか?
「股を潜る」とか人間社会を知ってる奴の言うことだぞ。
助けたくねえな。
『だいじょーぶだよー』
「ッ!」
俺が迷っている間に、ロキが件の魔獣の元へ行ってしまった。
まあ、今回はロキが見つけたようなもんだからな。。
『ひっひいぃいいいい!ディッ悪魔猿!いやだぁ!ワシャぁまだ死にたくないんじゃ!番いもいないし、まだ童貞なんじゃぁ!こんな処で死ぬなんて不公平すぎじゃ!せっかく群れを飛び出て自由になれたっていうのに、こんな何もないド田舎の猿の腹の中に収まる人生なんてよぉ!あんまりじゃ!精霊ズラトロクを恨んで死んでやる!死霊になっても生きてやる!ワシの人生はここからじゃあああああああ!!』
少年漫画の打ち切りのような、辞世の句ならぬ、永眠へのバンジージャンプを声高に叫び、自分の人生の終わりに唾を吐く謎の魔獣とロキの元へ近づく。
あの怯え声を聞く限り、一応仮面は外しておいた方が良いな。
「……ロキ、何かしたの?」
『ロキはなにもしてないよー!』
冤罪を駆けられたロキがプンプンと擬音が付いたように起こっている。
しかし、疑っても仕方が無い光景が俺の前には広がっているのだ。
そこには、青天井で煮るなり焼くなり好きにしろと言わんばかりに寝そべる梟がいた。
真っ白の身体の中心に、黒い葉の形をした斑点が付いた梟が。
『ねえねえ、おきてよー』
ロキは梟が寝てると勘違いしたのか、父親の休日を待っていた子供のように梟を揺さぶりだした。
かなり激しく、脳震盪になるぞ。
『やっ、やめっ、やめんか!このさ………あれ?』
我慢の限界を迎え、梟が目を開けたところで俺と目が合った。
「大丈夫?」
『お、お、おお……』
梟は未だにこの状況を理解できていないようだ。
無理は無い、死んだと思ったところに猿と小さい子供が目の前に居るんだからな。
『あ、あんたがワシを助けてくれたんか?』
「まあ、そうだね。でも見つけたのはその子だよ、俺の従魔のロキっていうんだ。」
『ロキだよー。』
『お、お、おお……』
目の前に現れたのが、天の使いでは無くただの子供と従魔だったことに驚き、現実に引き戻された梟が現状確認に移行した。
それにしても梟なのに一人称がワシって、ややこしい奴だな。
梟は自分が生きていることを噛み締めて、下を向き縮こまり感動しているのか。
『いよっしゃあぁあああああああ!!』
狂乱した。
『もう終わりかと思ったけどよぉ、まさかこんな事が起きるなんて!精霊ズラトロクに感謝だぜ!ありがとなボウズ、後ロッキー!これで、ワシは自由じゃ!ほな、さいなら!』
「……ロキ」
『はーい』
良い感じに締めくくって大空へダイブ!しようとでも考えたのか、勢いよく翼を広げる梟。
そんな事させる訳ねえだろと、ロキに脚を掴ませ拘束させる。
『な!なにすんじゃ!ワシは曙光梟やぞ!はよ離せや、イカした雌達がワシの求愛ダンスをまってるんじゃ!』
「助けてやって、はいさようならとはいかないだろ。というか、曙光梟って言うのは本当なの?」
エセ関西弁、エセ土佐弁。
何弁かは判断できないが、とにかく捲し立てる梟。
というか今、曙光梟って言ったか?
『そうや!ワシは由緒正しき曙光梟じゃ!それで、何が望や?言っとくけどワシは【祝福術】は使えん。ワシは群れん中でも落ち零れで通ってるからな。それが目当てなら助け損じゃな!』
曙光梟は希少魔獣の一種だ。
その特異魔術である【祝福術】は、それを受けた者に人生で一度だけ身に余るほどの幸運をもたらすとされている。
商人の国ドラクルスでは、曙光梟が祝福を与えたある商人が成した財で、国が建てられたとの逸話があり、商売繁盛を祈願する象徴、守り神として祀っている商会は今でも多い。
ちなみに危険度S。
しかしこれは戦闘力というよりも、その希少性、遭遇率の低さから由来しているとも言われている。
魔獣図鑑でも情報だけは載っているが、その鮮明なスケッチは載っていなかった。
鳥の姿というのは分かっていたが、梟だったとは。
【祝福術】が無かったことは少し残念だが、目の前に居るのは元獣種だ、みすみす逃がす訳にはいかないだろ。
「そうか……だったら、身体で払って貰うしか無いな。」
『へぁ……?』
「さっき言っただろ?首輪を付ける、股を潜るってさ。」
片眉を上げ人差し指をクルクル回しながら、満面の笑みを向けて面白そうに梟を見つめる。
梟は、先ほど自分の口から出たデタラメを思い出し、真っ白な顔に影が掛かっている。
『ああ、それは、何というか…その非常事態…だったからで……』
「でも、言ったのは事実だし。僕たちが助けたのも事実だろ?つまり……」
『うぅ……』
俺の言いたいことを察したのか、梟は俺の方を見つめる。
俺の従魔になれと直接言っても良いけど、こういう自我を持ってる奴に無理矢理契約することを強いても嫌々じゃ意味が無い。
『ワシにボウズの従魔になれと?』
「強要はしないよ。」
と、強要する気満々の笑顔を梟に向ける。
梟は『ぬぐぐ』と唸り、考え込んでいる。
「ちなみに、契約したら美味いご飯が三食付いてくーー」
『よろしくお願いします。』
食い気味に言われた。
白い羽が神々しく舞っている。
初めて掌返しが美しいと思ってしまった。
やっぱり、美味い飯は人類を繋ぐな。
「そっか、それじゃあ契約をしようか。」
『おっしゃ!やったるぞ!」
ロキは梟の足から手を離し、梟がこちらに寄ってきた。
従魔契約は簡単だ、契約する対象の魔獣に自分の魔力を込めた血を飲ませるんだ。
直接。
その際に魔力を吸われるんだけど。
「ちょっと待って。」
『ん?何じゃ。』
「僕は魔力が少ないんだ。曙光梟との契約なんてどれだけ魔力を取られるか分からない。」
ついさっき用心深くなると誓ったところで忘れかけていたことを思い出す。
魔力切れでぶっ倒れたら、それこそ他の魔獣に餌にして下さいと言ってるようなもんだからな。
『ああ、それは大丈夫じゃ。』
「どういうこと?」
『従魔契約で必要なのは、互いの意思じゃ。確かにボウズの言うとおり、一方的な契約やったらそれなりの魔力が必要じゃが、これは互いが了承しとる契約じゃ。必要な魔力は、人間の基準で言うならざっと1000って処じゃな。』
なるほどな、ロキの時は生まれたばかりだったし、ほぼ俺主導で行われたから、あんなに魔力を吸われたのか。
ていうか、こいつ博識だな。
童貞を拗らせてるって事は、それなりの年齢なのか?
「そっか、それなら大丈夫だよ。」
持っていたナイフで、手の甲に少しだけ切り傷を作る。
これ痛いんだよな。
怖いし。
アニメや漫画では、何事も無くやってるけどさ。
やっぱり痛いのは嫌だよな。
出血した手の甲を梟に差し出す。
「僕の名前はユークリスト・スノウ・グリバー。よろしくね。」
『ワシは曙光梟のノートじゃ。よろしくのうユークリスト!』
【従魔契約】
一人と一匹の間が白く光った。
貴婦人の手に口づけをするように優雅に俺の手の甲に頭を垂れるノート。
従魔契約を示す魔法陣が、梟改めノートの背中に浮かび上がった。
どうやら、こいつには名前があったらしい。
しかし、白い梟か。
転生系従魔のリストの定番とは言えないが、魔法使いに白い梟というのはやっぱり良いモノだな。
俺の額には傷はないし、両親は健在だし、蛇語はしゃべれないし、大いなる運命を背負っているわけでは無いけど、白い梟の主というのは何というか風情があるな。
読書室で大量の本に囲まれながら、質素だけど腰に全く負担が掛からないソファーに腰掛けて、傍らに立てている立ち飲み用のミニテーブルに年代物のワインを用意して、お気に入りの本を読んでいる俺と、窓際の宿り木に優雅に佇んでいるノートをモデルに絵を描けば家宝に出来るんじゃないか?
オークションに出品すれば、軽く億は稼げるだろうな。
シリーズ化するのも良いな、七歳児バージョンから歳を重ねていく毎に毎年一枚ずつ描いていくんだ。
ゴッホのひまわり的な存在になると俺は践んでいる。
ムンクの『不安』『叫び』『絶望』みたいになったら少しショックだな。
ともあれ、俺の新しい従魔に曙光梟のノートが加わった。
ーー
「ただい、ぐふっーー」
「ユークリスト様!!」
宿に帰ってきた俺はスティアによる熱烈なハグで迎えられた。
「もう、いきなり居なくならないで下さい……」
「……わかったよ、ごめんね。」
顔は見えないが、スティアの声が震えていることは分かる。
スティアは、俺がそばから離れることに免疫が無い。
この二年間で、少しでも彼女の傷を癒やそうと試みたが、逆に依存されてしまっているらしい。
少し、彼女を慰める時間が必要だ。
「……それで、どうだったんだ?」
沈黙していたワグから、今回の成果を聞かれた。
「ああ、面白いモノが居たよ。」
そう答えながら、部屋の窓を指さす。
俺は今動けないから、ワグにアイコンタクトをとって窓を開けて貰うと。
『呼ばれて飛び出て、じゃじゃじゃじゃーん!ワシがノートじゃ!!』
どこで知ったのか、古い登場句と一緒にノートが窓から部屋に入ってきた。
念話は俺にしか通じないのに、誰に向けて言っているのか。
大きく翼を広げリングインをポーズをとっている。
「こいつが新しい従魔か?」
「そうだよ、曙光梟のノート。」
「!……曙光梟だと?」
ワグも、情報だけはもちろん知っているようだ。
「曙光梟ってあの?」
話を聞いていたスティアも、もちろん知っていた。
彼女も俺に着いてる間に魔獣に関する知識が少なからずあるからな。
落ち着いたスティアを、近くのベッドに座らせて森で遭ったことを2人に話した。
「そうか……しかし、また面白いのを捕まえてきたな。」
ワグは、少し面白そうにこちらを見る。
「捕まえてはいないけど、二人にもこれから仲良くして欲しいね。」
「よろしくね!ノート。」
『よろしくのぅ、スティア!』
スティアの呼びかけに、翼を広げて答えるノート。
スティアに元気が戻ったようだ。
その日は結局、狩りに戻らずに街の観光などに時間を使った。
ロキとノートは部屋で食事を食べさせて、ワグは部屋で待っていると言ったので、スティアと二人でお忍びデートみたいになった。
変装を解いて外套を羽織り、街の露店や屋台を巡っていった。
スティアの顔も明るくなり、何とか彼女の元気を取り戻すことが出来たかもしれない。
ーー
ー四日目ー
「つまり、あれはお前の仕業だったのか?」
『仕業って人聞きが悪い。不可抗力と言うんじゃ。』
四日目は、ノートの情報を集めることにした。
出来ることと出来ないことをしっかり整理すれば、今後の俺の活動に役立てられると思うからな。
能力が分かれば、ロキに字を教えた時みたいにやるべき事も見えてくる。
ロキが生まれた時はカイサルに頼んでいたが、今回はロキに【鑑定】の魔法を使って貰ってノートの情報を整理する。
「ロキ、読めた?」
『よめたよー。んーとねー。』
■ ■
鑑定結果
種族: 曙光梟
名前: ノート
年齢: 30
性別: 男
出身: 未開地
健康状態: 良好
心理状態: 期待
魔力量: 50,000
基礎属性魔法: 水、風、土、闇
上級属性魔法: 烈風、霧
特異魔法: 音魔術、空間術
備考: 童貞
■ ■
ロキに字を習わせといて良かったな、決して達筆とは言えないが何とか読めるレベルだ。
しかし、なんだよ『備考:童貞』って特異魔術でもいじられるって可哀想。
ていうか30歳って、可哀想な奴だな。
30年間童貞か、俺なら発狂しちゃうね。
『あるじーどうてーってなにー?』
『………魔法使いのことだよ。』
ロキの純粋な疑問に遠い目をして答える。
少し心が痛くなった。
特異魔術もロキと同じで二つある、さすがSランク魔獣と言ったところか。
【音魔術】は攻撃にも傍聴にも使えて、色々と汎用性の高い魔法だと思うし。
【空間術】があれば重い荷物を持ち歩く必要が無くなる。
これは良いな、祝福術がどんなモノだったのか具体的には知らないが、今の俺にとっては、おつりが来るぐらいの能力なのは確かだ。
俺の場合は、能力上武器や兵器を持ち歩くことが多くなると思うから、手荷物を減らせる事は、とても都合が良い。
属性魔法が使えるのもありがたい、ロキは身体強化以外の属性魔法に適性が無かったからな。
代わりに、アホほど高い身体能力を備えているが。
生後二年でCランク以下の魔獣は敵なしだしな。
それにしても、出身は未開地か。
未開地は、オルトウェラ帝国の北東部にある広大な土地だ。
土地の広さで言えば帝国の方が広いが、そこに棲む魔獣は最低でも危険度Aの魔獣が野良で棲んでいることや、点在する遺跡には国が買えるほどの価値が付いている古代魔導具が秘められている逸話がある、人類未開の土地だ。
帝国も何世代か前に、未開地への調査隊を組んだことがあるが、結果は全滅に終わっている。
また、未開地に行くには北の【アルトバルス山脈】か、東の【ヤヅナベロ平原】のどちらかを経由する必要があり、帝国が東部攻略を進めている理由の一つに未開地攻略があるらしい。
今は、どうして未開地で育った希少魔獣のノートが、ブレーメンの森に居たのか事情を聞いている。
要約すると、ノートは未開地にある曙光梟の群れから飛び出し、アルトバルス山脈を越えて帝国北部にやってきたそうだ。
そして腹を空かせた所を、人間に見つかり檻に入れられてブレーメンの森の中を運ばれている途中に、何とか抜け出すことに成功したらしい。
空腹に耐えきれず餌を求めて飛び回っていたら、運良く餌を発見!テンションが上がって貪り尽くしていたら、ヤバい奴の巣だったことが分かって逃げ回っていたらしい。
「何が不可抗力だよ。お前を追っていたヤバい魔獣の影響で、西側の秩序が乱れたんだよ。幸い、小規模の影響しか無かったけど、最悪大暴走が起きても可笑しくなかったんだぞ。」
事情を知って、俺は呆れ気味になっている。
こいつの行動のせいで、この街が更地になっていたんじゃないかと思うとゾッとするし、冒険譚のように語る駄鳥に腹が立ってくる。
こいつ、焼き鳥にしてやる。
ともあれ、人為的な脅威じゃ無かっただけ良しとしよう。
『腹が減ってたんじゃ、仕方なかろう。』
少し申し訳なさそうに答えるノート。
でも、こいつの言い分も一理あるな。
確かに、空腹は人を奇行に走らせる、俺だって誘拐されたときにマフカの実を弄くってたから、腹を蹴られたしな。
仕方の無いことと言えば仕方の無いことだな。
「……その魔獣は撒いたんだろ?」
『そりゃ勿論じゃ!ワシの必殺技で気絶させたからな!』
「一応聞くけど、その魔獣の名前は?」
『獄妖狼じゃ!』
「ぶぅーーーー!!」
このクソ鳥がやりやがった!
俺は何てモノと従魔契約したんだよ!!
『おおい!ユーリ汚えぞ、何するんじゃ!』
ノートのクレームを無視して椅子から立ち上がり、仮面と外套を装着して部屋を出ようとする。
「ユークリスト様、どうかされたのですか?」
スティア達には従魔の声が届いていないから、いまいち状況が掴めていないらしい。
いつもなら、懇切丁寧な説明をしているが今はそれどころでは無い。
「今すぐ、この街を離れるよ!ノートはその窓から出て西へ向かってくれ。」
「何があったのか説明しろ。」
「だから、そんな暇はーー」
グワアアァアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!
事情を話す暇なんて無かった。
レーメンの街に住む人々へ、死刑宣告の咆吼が響き渡る。
ーー
部屋から出ると、組合支部内は蜘蛛の子を散らすように騒然としていた。
「おぉい!なんなんだ今のはよぉ!?」
「とにかく逃げるんだあぁああ!!」
「一体何が起きてんだよぉ!?」
「「「大暴走だあぁあああああ!!」」」
三日前に来た時は、歴戦を思わせる雰囲気を漂わせていた猛者達が、フロア内を走り回りあっちに行ったりこっちに行ったり、コメディーアニメの様に恐慌状態だった。
ある日の夜、釈迦が蓮の池を通してみた地獄の光景とはこの事だ、と言われても納得してしまうだろうな。
「クソッ、この緊急事態で使えねえ連中だ!」
七歳児らしからぬ悪態だが、この緊急事態だルルティアもきっと許してくれる。
ここレーメンの街は、隣に危険自然区域があるにしては比較的平和だった。
だからここに常駐している冒険者達は、大暴走への備えも免疫も無い。
それは何故か?
答えは、ブレーメンの森の【主】が大人しかったからだ。
森の西側では、高ランクの魔獣が自分たちの縄張り争いを繰り返し。
森の北側では、低ランク冒険者が腕試しに狩りには入る。
そうやって秩序が保たれてきたから魔獣の氾濫など、大暴走の予兆は無かった。
その均衡が崩れた。
駄鳥のやらかしたことが大きすぎる。
まさか、黒妖犬レベルの魔獣がこんなお隣さんだとは思わなかった。
【獄妖狼】はブレーメンの森の主だ。
危険度はSSS。
この世界に存在する冒険者や魔獣の強さを表すときの指標に、用いられる表現が危険度だ。
それらは、F~SSSまで段階付けられ上に上がれば上がるほど、希少価値、素材価値、強さ、技能、特殊さが上がってくる。
しかし、世界中どこを探してもSSランクに該当する人間も魔獣も存在しない。
ただ、SSSランクは存在する。
答えはただ一つ、格が違うからだ。
Sランクを、百人いや千人積んだところでSSSランクの一人にも敵わない。
それは魔獣にも同じ事が言える、Sランクを千匹積んでもSSS一匹にも敵わない。
さらに今回は、相手があの【獄妖狼】だ。
【獄妖狼】には逸話がある。
天地創造の時代に勃発した、善神・悪神間で行われた戦争で善神側の戦力を削ぐ為に、悪神が自ら生み出し放った猟犬だ。
黒い身体に、黒い牙と爪、闇の中で獲物に絶望を与える赤い瞳。
その全てが、命を刈り取るためだけに悪神から与えられた、この世の災厄。
数世代前に帝国内で流行した邪教が、獄妖狼をシンボルにしていたほど、この世の闇の象徴として広く認知されている。
曙光梟と獄妖狼がこの地に同時に居るなんて、何て倍率の高さだよ配当金率万券確定コースじゃねえか。
一応悪魔猿もいるけど、頭数には入れないでおこう。
慌てて仮面を被ってきたスティアとワグが俺に追いつき、三人で状況の確認をする。
「ユークリスト様、どうしたんですか?なんだか騒がしいですね。って何ですかこれは!?」
「ノートがヤバい奴を怒らせたんだよ!恐らく、というか確実に大暴走が起きる。」
「ええぇえ!スッ大暴走ですか!?だから、皆慌てて。って私達も逃げましょうよ、ユークリスト様!」
ノリ突っ込みの様に避難を催促するスティア。
気持ちは分かるし理解もしてる、俺だって目下暴れている冒険者を蹴散らして、今すぐ領都に帰って地下室に籠りたい。
スティアが毎食持ってくるシチューを楽しみにして、一日中物作りに励むんだ。
うん、その方が俺の性に合ってる。
これこそが本来の俺だよな。
でもそんなことは出来ない。
今の俺は貴族だ、それもこの辺り一帯を取り仕切る【銀雹公爵】の息子だ。
やらなくちゃいけない、この街に住む人達を守らないといけない。
それが今の俺の義務だ。
それに………
ーほぉらユークリスト。これがあなたのパパが治める領都っていうのよ。素敵なところでしょ?あなたもいずれ、お兄ちゃんお姉ちゃんと一緒にこの街とお隣の街を守るのよ。ユーリのような子供がずっと笑顔でいられるようにすれば、他の皆も笑顔になるの。その為には貴族である私達が、怖いことから皆の笑顔を守るの。兄妹なら出来るわ。私とパパの自慢の子達だからねー
俺が生まれてから一年半ほどの授乳期はマリアンヌが俺に付きっきりで世話をしてくれた。
抵抗はしなかった、ごちそうさまでした。
話は戻って、俺が乳離れし始めた頃、マリアンヌが帝都の屋敷に向かう前に屋敷の窓から見せてくれた領都の景色が、頭の中に蘇る。
マリアンヌは、まだ赤ん坊の俺に貴族のなんたるかの話をした。
当然、真っ当な赤ん坊には理解できない話であるが、俺の場合はその話をずっと覚えていた。
ある程度知っていることではあるが、実際に人に言われることとは違う。
今の俺は貴族で、この街には守るべきモノがたくさんある。
そんな人達の屍の上で安眠できるほど、俺は図太くともサイコでも無い。
賽は投げられた、やるしか無いんだ。
「ワグ、今すぐスティアを連れて領都に帰って、屋敷に居る叔父上にこの事を伝えてくれ。直ぐに騎士団を編成して、援軍を寄越してくれと。」
「ユークリストは、どうするんだ?」
「僕はここで、大暴走に備えるよ。」
「いやです!私もここに残ります!」
スティアは俺と離れまいと、必死に懇願してくる。
悪いことだと思うけど、今はスティアを危険から遠ざける必要がある。
「スティア、悪いけどーー」
「私は!ユークリスト様と一緒にいます!」
既に泣きそうになっているのを必死にこらえて、若干睨み付けるように俺の方を見るスティア。
「……わかったよ。じゃあワグもここに居てくれ。」
「公爵には誰が伝えるんだ?」
「それなら、宛てがあるから大丈夫だよ。取り敢えず部屋に戻ろう。この事態の対応策を考えるよ!」
「はい!」「おう」
蜘蛛の糸を求める罪人達は放っておいて、自室に戻って作戦会議を始める。
ーー
会議をするために部屋に入ったは良いが、どうやって会議を進めたモノか全く切り口が見えない。
小学校にあった『考える人』の像のように黙り込んで考え込む。
俺を待つように、ワグ、スティア、ロキ、ノートは今か今かと沈黙を守っている。
「それじゃあ、どうやって獄妖狼を追い返そうか。」
「ユークリスト様、もう倒す方法があるんですか!?」
俺の問いかけに開口一番スティアが眼を爛々とさせ、ちょっと楽しそうに問いかけてきた。
さっきまでの態度とは打って変わって、その様子は母親に物語を読み聞かせて貰う子供のようだな。
こういうときの彼女は、アトラクション待ちの列に並んでいるみたいで少し楽しそうだ。
俺と危機的状況を抜けてきたからだろうか、俺についてルルティアから華麗なる脚色を受けているからだろうか。
俺のことを、厄介事解決専門の猫型ロボットだと思っているのかもしれない。
悪いけど、俺の手持ちの袋から出てくるのは魔術銃の銃弾だけだよ。
なんだか、ワグもちょっとワクワクしている気がする。
まさか、SSSランクの魔獣と戦えることを楽しみにしているのか!?
やめろよ、今のお前の実力じゃ戦うことすら無理だ。
殺気に充てられて気絶するだけ。
勿論この中で一番強いワグがこうなってしまうのだから、俺の場合は失禁・脱糞のオプションも付いてくる。
まあ、どうせ死ぬんだからどんな風になるかとか関係ないかもしれないけど、絶体絶命の状況で重視することは『どうやって死ぬか』だよな。
失禁・脱糞はちょっと見た目的によろしくない。
皆には悪いが正直、俺の中に解決策なんて無い。
相手は危険度SSSと恐れられる、神話の世界の遺物だ。
さすがに悪神が放った猟犬というのは、魔獣図鑑なる古い本が故の大袈裟な脚色だと思うけど、俺は古本の情報は大概を信じる男なんだ。
実物を見たことがある人間がいないだけで、逸話にはそれだけのことを書かれるの理由があるんだ。
そしてその情報だけでも、レーメンに住む人間の凡そ9割が死ぬことになるであろう事は、容易に想像できる。
唯一の慰めは、絶望を感じる前に死ねることだろうな。
正直、逃げたい。
今すぐに逃げたい、東に隠れればいか、南の方に逃げれば良いのか、北は論外だなアルトバルス山脈しかないし。
行けるとこまで逃げようかな、最小限とはいえ生きるための、死への抵抗は出来るだろうし。
実際、俺みたいな七歳児が居たところでこの状況がどうかなるのか?
変わらないだろ、俺は面白道具を持っているちょっと毛色が違う、ただの七歳児だぞ。
確かに、何か奇抜な意見を言えば周りの人間の注意を引くことが出来るかもしれないがそれで終わり、頭の中が空っぽであることは直ぐにバレる。
いや、バレる前に皆死ぬな。
遺書でも書こうかな。
いや、獄妖狼が暴れ出したら帝国北部の全てが、いや帝国の地の上半分が更地になる。
遺書なんて無意味だろうな。
だから、まずは出来ることだけをしよう。
状況の整理だ。
ウチの駄鳥が俺との契約前に粗相をした。
空腹で森の中を彷徨っている途中に、獄妖狼の餌を貪り寝床を荒らした。
その後、黒妖犬は追いかけてきたが駄鳥が魔法で気絶させ、何とか逃げ出すことに成功した。
そしてその後、晴れて俺と契約となった。
借金のことを黙って結婚した女みたいな奴だなノートは。
『お金なんかで私達の間にある信頼は揺るがないわ』とか言って。
実際問題揺らぐんだよ、あいつにはこれから利子を付けて取り立てさせて貰う。
もちろん利率は十日で五割だ。
「いや、スティア。今回は戦わないよ、絶対に戦っちゃダメだ。」
「だったら、どうするんだ?」
神妙な面持ちで答える俺に、ワグは少し困惑したような顔を向ける。
「獄妖狼は日が上がっているときは満足に活動できないんだ。悪神が力を最大限発揮できるように、制限を掛けたって言い伝えがあるけど、重要なのは獄妖狼が来るまでに時間があるって事だよ。つまり問題は、それまでの時間に何が出来るかって事だよ。」
「それまでに他の魔獣が攻めてこないんですか?」
「大丈夫、それは無いから。」
「え?」
さっきまでアトラクション待ちの列に並んでいたスティアは、態度が一変してお化け屋敷の中に居る子供のようになっている。
ちょっと落ち込んだように上目遣いでこちらの方を見て不安を打ち明けるが、それを真っ先に否定され少し呆気に取られている。
「大暴走にもルールがあるんだ。そのうちの一つが、【能動型】の大暴走の先陣を切るのは必ず【主】もしくは、それに準ずる魔獣じゃないといけないって事だよ。これに関しては色んな記述書で記されていて、かなり信憑性が高い情報なんだ。」
「ということはつまり……」
「大暴走が起きるのは、日が落ちてからって事だな。」
情報の共有をするように会話を進める。
現在俺達三人は、同じ目線で会話をしていることが分かる。
『確かに、その情報に間違はねえぞ。ユーリは博識じゃ!』
『あるじはすごいんだよー!ロキもがんばる!』
後ろで従魔達の呑気な会話が聞こえる。
ロキは楽しそうにしているが、もう一匹は誰所為でこうなってるのか分かってんのか。
それよりも、さっきの情報整理の時に気になったことがある。
大したことじゃ無いかもしれない。
全く関係の無いことかもしれない。
それでも、有事の前に自分の中のモヤモヤを一つでも消しておきたい。
「そういえばノート、さっき獄妖狼を気絶させたって言ってたけど、それって本当なの?」
『ああ、本当じゃ!あの野郎動きがトロかったし、ワシの【音魔術】で一時的に気絶させてやったわ!』
『わぁ、のーとすっごぉい!』
『むふふ、そうじゃろぅ!ロキもいずれは、そうなれるじゃろう。』
『ほんとー、いつなれるかなぁ?』
アインシュタインが核兵器製作を武勇伝のように語るとこんな風になるのか、と思わせるほど饒舌に語るノートを見て、自分の中にマグマのような感情が沸々と沸き上がるのを感じている。
最悪、こいつを焼き鳥にして振る舞えば黒妖犬は帰ってくれるのでは無いだろうか?
選択肢の一つに入れておこう。
のほほんとロキと会話をしているノート。
仕方ないと割り切ろう。
こいつはこうゆう奴なんだと。
しかし、ここが糸口になるんじゃ無いか?
だって、相手は危険度SSSの魔獣だぞ。
Sランクが千匹襲いかかっても敵わないような魔獣が、たった一匹の希少性だけが理由でSランクになった魔獣の一撃に気絶までするだろうか?
何故?
ノートの【音魔術】がSSSランクに匹敵するほど強かった。
違う。
それが出来たら、ロキに助けなんて求めていない。
だったら何故?
Sランクの一撃で気絶するほど黒妖犬自身が弱っていた。
何故?
森の主を害することが出来る魔獣はこの場にはいない、ということは高ランク冒険者。
違う。
それなら冒険者組合に何らかの報告又は情報が行ってるはずだ。
それに、ブレーメンの森の主が獄妖狼だという情報すら無かったんだぞ。
つまり
獄妖狼自身に何らかの問題が起きている可能性が高い。
何故?
体調不良、病、過去の戦闘での古傷、食中り、寝起き、生理。
………魔獣に生理ってあるのか?
無いだろ、魔獣だぞ。
いやでも、人間とか猿には月経があるって言うしな。
てことは、ロキにも!?
いや、ロキは雄だし。
それにこうゆう事を考えるのは止めよう。
ぬいぐるみペニス現象だったっけ?
いや、あるかもしれないだろ。
魔獣の身体を解剖したわけでも無いのに、何事も決めつけは良くない。
でも魔獣にも成長期があったら、第何次成長期まであるんだろ。
10,20?
二桁は行きそうだな。
魔獣に寿命ってあるんだろうか。
「ユークリスト様?」
「なにやってんだ?」
「え?」
完全に趣旨から脱線し、自分の世界に浸っていた様子は従者二人には一人劇場にでも見えたんだろうな。
二人が心配した様子でこちらを見ている。
俺が発狂した様に見えたんだろうな。
おい、止めろ。
ノートにそんな顔をする権利は無いからな。
誰の所為だと思ってるんだ誰の。
恥ずかしさを咳で紛らわす。
「あーコホン、ちょっと考え事をね。」
「何か良い案が浮かんだんですか?」
「浮かんだというか、有るか無いかで悩んだというか。有ったモノが無くなったのか、そもそも無いと思ったモノが実は有ったのか。」
「……何が言いたいんだ?」
ソクラテス顔負けの問答法を繰り返していると、行き着いた先にあったのは若干不機嫌な顔をしたワグだった。
ワグもこの話は分からないらしい。
俺だって分からないしな。
そもそも、有った所で無かった所でこの事態を解決できるわけじゃないしな。
いや、何の話だったっけ?
そうだ魔獣の生理の話だ。
黒妖犬に生理の時期が来ているから弱っているかもしれないって話だ。
それは無いって結論になったしな。
しかし、それだったら何故ノートの一撃で危険度SSSの黒妖犬が気絶したのか?
他の要因があったのか?
ジェンガみたいに色んな要素が獄妖狼を削っていって、最期の一撃だけをノートが担当したとか。
それとも、獄妖狼って話自体が嘘でそれに似た危険度Sの魔獣だったとか。
獄妖狼だったが、成体ではなく幼体だったとか。
「………その、有ったかもしれないけど。何か理由があって無くなった……とか?」
「………」
不安そうに口を開くスティアの言葉が、俺の中にある知識と合致し問題を解決できるであろう突破口が、目の前に広がった。
考えればキーワードは目の前に転がっていた。
誰も知らないほど太古の時代から【主】として君臨していた。
自分よりも格下の魔獣の一撃で気絶するほど弱っていた。
その原因は獄妖狼自身にある。
これらから、導き出される答えは……つまり。
「スティア、ワグ。今すぐ組合支部長に会いに行くから、準備してくれ。」
「は、はい!」
「何か、浮かんだのか?」
「確かなことは言えないけど、上手くいく可能性はあると思うよ。」
俺は直ぐさま立ち上がり、二人に指示を飛ばした。
その顔は、さっきの発狂したと心配されるような顔とは違い、自信に満ちていたのだろうと、二人の顔を鏡変わりに伝わってきた。
『あるじーロキたちは?』
「二人も一緒だよ、早く隠れて。」
『よっしゃあ、行こうぜロキ!』
ロキの質問にも早めに答え、着ているローブを広げて入るように促す。
二匹がスッポリと俺のローブの中に収まっている間に、ワグとスティアの準備が完了していた。
「よし、それじゃあ戦場に行こうか。」
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