第14話:魔術銃【リボルバー】
11話の方で説明している、魔法の等級に関しての表記を少しだけ改訂しました。
そちらの方もご確認下さい。
本格的に、読者の方々がつき始めたのでこういった改訂の回数も減らせるように善処したいと思います。
【魔術銃】
モデルはC社のパイソン.357マグナムの6インチ。
俺の知っている中で一番カッコいいデザインを選んだ。
シングルアクションリボルバーだ。
リロードはスイングアウト式
左側のラッチを引くと、薬室部分が外に出る。
エジェクターロットで残った薬莢部分を押し出して交換する。
本当はダブルアクションにしたかったが、俺の体でダブルアクションを扱うとなると照準がブレたり最悪打てない可能性もあるからな。
シングルアクションは、後ろのハンマー部分をコッキングすることが手間になるが、ハンマーのスプリング圧縮分の圧力が無くなって、トリガーが軽くなり七歳の俺の体でも、問題なく引き金を引くことが出来る。
オートマチックもいいなとも思ったが、そこまで複雑なものは作れない。
もちろん、銃も俺にとってはマシンの部類に入る。
普通なら、そんな品をいとも簡単に作れるわけがないが。
これも、俺の前世の特殊な友人たちの影響のお陰だな。
そいつは、FPSゲームが好きだった。
理由は、一番近くで銃が見られるからだそうだ。
目の前で銃を撃ったような気持ちになるなど、犯罪者予備軍の様な事を言っていたが。
そいつ曰く、銃を作るのは簡単だという。
土台と、銃身と、引き金と、撃針があればなんとかなると。
話半分に聞いていたが、いつの日かあいつが俺の元に、自作の銃を持ってきたことがある。
大学の3Dプリンターで作ったとか言ってたな。
何て物を作ったんだと、喧嘩になる寸前だったが、そいつは銃が好きなだけで、銃弾を作る気にはならなかったらしい。
それに3Dプリンター作の銃は、暴発しやすいとも言ってたな。
ともあれ、俺はそいつのお陰で、拳銃に必要な構造が頭の中に入ってしまっているということだ。
これは、俺の転生した時に得た、ギフトのようなもの。
俺の転生前の記憶は、今世の記憶とは全く別の記憶に分類されるということだ。
思い出そうと思えば、幼かったころの記憶まで思い出すことが出来る。
何故、ギフトという表現をしたかというと、そう考えたいからだ。
俺にも、主人公補正なるモノが欲しい。
ーー
【魔術銃】を取り出した俺は、ラッチを引いてミスリル銃弾の確認をする。
試作で造った魔術弾の数は全部で百。
そのほとんどが、下級魔法だ。
本当はもっと作りたかったが、ワグの脚甲を作るのにも使ったからな。
無駄遣いは出来ない。
「ロキ!敵との距離は!?」
『もうすぐ来るよー』
距離を聞いているのにもうすぐとは、やはりこの辺りもしっかりと教えないとな。
これが分かっただけでも、今回の意味はある。
「誰かあぁああああああああああ!」
さっきよりも声がこちらに近づいてきた。
それと同時に、20メートル程先の樹の陰から人影が、こっちに向かって全速力で向かってきた。
それは、子供だった。
俺と同じぐらいの。
黒髪短髪の男の子、背中に大きな木でできたハンマーを担いでいる。
体はでかいが、あの中で一番泣いている。
茶髪の長髪の男の子、腰に二・三本の短剣と肩に軽そうな荷物を担いでいる。
とにかく必死そうだ。
茶髪長髪の女の子、弓を持ってはいるが、矢筒は持っていない。
この子も泣いている。
赤茶色の短髪の女の子、剣を持って集団の一番前を走っている。
その子が俺達の方に気づく。
と同時に、体のでかい奴もこちらに気づき大声を上げる。
「前にもなんか居るぅうう!」
忘れていたが、今の俺はあの気味の悪い仮面を着けている。
必死に逃げた先にこんなのが居たら、人生の終わりを悟るしかないだろ。
「止まっちゃ駄目!あいつに追いつかれちゃう!」
「グオオオオォオオオオオ!!」
赤茶色の少女が止まるなと全員に発破をかける。
彼らを追いかけるように、さらに後方、樹木を薙ぎ倒しながら此方に迫ってくる黒く大きな影。
全身の毛が逆立ち、鋭い牙と爪を備えた。
怒大熊がその輪郭をこちらに見せた。
俺なんか軽く一呑みにされてしまいそうなほどデカい。
「あんた達も、逃げないとあいつに殺されるよ!!」
俺の近くを走りすぎながら、茶髪の少年がこちらに警告を残す。
俺はその警告を無視して、魔術銃のハンマーを引く。
魔術銃に左手を添えて、ゆっくりと怒大熊に向けて照準を合わせる。
魔術銃は、【陣紋式】の刻印が施され、魔力を込められたミスリル製の銃弾を、魔晶石で造られたハンマー部分の衝突による魔力反応を生み出すことにより魔法が発射される。
「喜べ、怒大熊。お前が栄光ある、俺の実験対象第一号だ。」
【火弾】
魔力反応により、魔術銃の前に魔法陣が現れる。
銃弾の底に刻印されている通りの魔法陣の中から、ラグビーボール大の火球が発現し、こちらを食い殺さんと迫ってくる怒大熊に向けて発射された。
火薬による発砲音の代わりにより、キィーンと金属同士の共鳴音が鳴る。
風鈴の音にも似た、安らぎを与える音に近かった。
それは、火球を目で追うよりも怒大熊を見た方が分かりやすいぐらいの速さで、怒大熊の横っ腹を抉った。
悲鳴を上げる暇すらなかった。
こちらに向かっていた、怒大熊は糸が切れた人形のように、その場に横たわった。
血は出ていない。
焼き抉られると同時に焼灼されたのだろう。
怒大熊に近づき、その生死を確認する。
どうやら本当に死んだようだ。
「ふう、終わったね。」
一瞬だったな。
思った以上に強力な武器を生んでしまったらしい。
だから、銃は怖いんだよな。
何かしらの安全対策が必要だろうな。
俺だけが使えるように、プログラムする必要があるな。
俺は、スティア達の方に振り向く。
スティアは前方で構えているワグの体から、ひょこりと顔を出して此方の様子を窺っている。
他にも、こちらの方に逃げてきた少年冒険者たちも唖然とした様子でこちらの方を見てくる。
樹の上で、様子を見ていたロキに【念話】の魔法で待機を支持する。
【念話】はパッシブスキルのようなもので魔力消費がない。
待っている二人の方へ歩いていく。
「大丈夫ですか?ユークリーー。」
「リリカ、ワーグ終わったよ。大丈夫だった。」
スティアの発言を遮るように言うと、スティアもハッと気づいたように口を噤む。
「大丈夫です。トー、リック様。」
「ああ、問題ない。」
魔術銃をホルスターに仕舞い、二人の下へ駆け寄る。
「ちょっと、そこのあんた!」
その前に、少年団の方から俺に向けて声がかかる。
目線を向けると、先ほど発破を掛けていた赤茶色の髪をした少女が、此方の方を睨んでいた。
「なにか?」
「そっその熊は、私たちの獲物よ!私たちが先に見つけたんだからね!」
「だったら何だ?」
このガキ、まさか獲物の横取りを企んでやがるのか?
勝手に押し付けといて、かっぱらおうなんて虫が良すぎだろ。
「だから、私たちにも素材をもらう権利があるわ!」
「はあ………」
なんて厚かましいのか。
と思ったが、こいつらにも何かしらの事情があるのかもしれないな。
正直、あまり素材の方はこだわってない。
それに、身に着けているものを見たところ、こいつらはあまり裕福ではない。
つまり平民だ。
魔法も十分に使えない年齢なのに、危険自然区域に入るのには、かなりの事情があるのだろう。
というか、良くこんな所まで入れたな。
殆ど奇跡に近いんじゃないか?
「ミア、ダメだよ。私たち何もしてないんだから!」
「そっそうだよ!はっ早く謝らないと、怒られるよ。」
「すみませんでしたぁあ!」
此方が口を開くよりも早く、隣にいた大柄の少年と茶髪の少女が、赤茶の少女を止めに入る。
茶髪の少年に関しては、既に土下座している。
この世界に来てはじめて土下座を見たな。
「だっだって、この熊があればゲイルのパパは元気になるのよ!」
赤茶の少女は、ミアというらしい。
そして、土下座している茶髪の少年がゲイルというのだろう。
そしてやっぱり、やんごとない事情がありそうだ。
「トーリック様、大丈夫ですか?」
こちらの方に駆け寄っていたスティアが、心配そうにしている。
「ああ、大丈夫だよ………それで、そちらの方はもういいかな?」
何かしらのやり取りを止め少年たちがこちらを見る。
気まずそうに、申し訳なさそうに、不満そうに、こちらを見ている。
このままじゃ平行線だな、別に渡さない選択肢もあるが、こいつらには色々と話を聞きたいことがある。
仕方がない。
「そうだな……まずは、自己紹介から始めようか。俺は【炭鉱鳥】のリーダー、トーリック。後ろの彼はワーグで、彼女はリリカだ。……そちらは?」
「えっ、えっと。僕の名前はオーウェンです。この子がカミーラで、こっちがゲイル。パーティ名はありませんけど、一応彼女がリーダーのミアです。よろしくお願いします。」
「カミーラです。」
「ゲイルです。」
「……ミアよ。」
体のデカい少年改め、オーウェンが一歩前に出て自己紹介をする。
若干みんなを守るようにしているのは、こちらをまだ警戒しているからだろうか。
しかし、守る為に一歩前に出ることはいいことだな。
悪い奴らではないようだ。
オーウェンは、丸目でたらこ唇の優しそうな印象だな。
カミーラは、垂れ目に泣き黒子の将来が期待できる美少女って感じだな。
ゲイルは、少し自信なさげに半開き目でこちらを伺っている。
ミアは、不機嫌そうな三角目で視線がきついが、さっきのやり取りを見る限り悪い子ではなさそうだ。
「君らの事情を聞かせてほしい。」
「……聞いてどうするのよ。」
「事情次第では、取引をしてこの熊の素材を君らに上げよう。」
「ッ!本当ですか!?」
素材をもらえると聞いて、少年たちの顔が少し明るくなったな。
ミアはまだ警戒しているようだが。
「ああ、その前に魔獣の解体を手伝ってくれ。あのまま放置していると肉の質が落ちてしまう。」
「「「はい!」」」
怒大熊はかなりでかい。
二トントラック並みだ。
二トンほどの重さは無いと思うが。
熊を担いで、森の中を移動するわけにはいかないからな。
空間属性を付与したマジックアイテムとかあればのに、そんなものは無いらしい。
異世界漫画の主人公なら、異空間収納の一つや二つ使えるものなのだが。
俺にはそういうのはない。
だから、解体はほとんどワグに任せている。
もちろんちゃんと手伝っているが、知らないことは経験でしかカバーできないからな。
代わりに、【分離】の魔法で血抜きをした。
ちびっ子冒険者たちの助けを借り、怒大熊の解体をしている途中に彼らの事情を聴くことが出来た。
聞くところによると、ゲイルの父親は病気にかかっており、その治療に怒大熊の胆嚢が必要だそうだ。
お金がなくて冒険者に依頼することが出来ず、自分たちで狩りに来たら見つかってしまい、こうやって逃げてきたということだ。
「つまり、欲しいのは胆嚢だな?」
「……ええ、そうよ。」
「それなら、そうと言えばいいのに。」
「なっ!あんた達みたいに怪しい仮面被ってる連中に、素直に『胆嚢下さい』なんて言えるわけないでしょ!?」
話をしていたミアが、バツが悪そうに顔を赤らめながら弁明する。
こちらの見た目がそうさせたのか?
まあいいか、これで彼女らの目的も分かったことだしな。
「それぐらいなら、やっても構わない。」
「えっ、本当ですか!?」
「ああ、その代わり。こいつと遭った場所を教えてほしい。教えてくれたら、追加でこいつの牙や爪もやろう、売ればいい金になるぞ。」
「ほっ本当ですか!?えっと、場所はーー」
兆しが見えたのか、ゲイルが嬉しそうに答える。
「場所は、この先を真っ直ぐ行った所です。」
「それは、川のこっち側か、それとも向こう側か?」
「こっち側です。」
「………そうか。」
これは、まずい事態なのか?
それとも何らかのイレギュラーか、危険度Cだから偶々、こちら側に入ったと見れなくもないし、いや。
「今日の狩りはこれで中止にしよう。」
「トーリック君、どうしたの?」
「いや、ちょっと気になる事があってね。皆もそうした方が良い。」
「ちょっと、どういうことよ。ちゃんと説明しなさいよ。」
突然の予定変更に、スティアは戸惑い気味だ。
まだ事態が呑み込めていない一同に説明を始める。
「この魔獣は本来ブレーメンの森の西南部に生息している。しかも、怒大熊は番で行動する習性を持っているのに、お前たちを追ってきたのはたった一匹だけ。つまり………いや、これ以上は話せないな。」
「最後まで説明しなさいよ!」
「なら、自分で考えろ。」
話を最後まで聞けなかったのか、ミアはかなり不機嫌そうだ。
仕方がない、これ以上は話せないんだ。
こいつらは、子供だ。
これ以上話せば、有ること無いこと親や周りの人間に話してしまう可能性がある。
俺の推察が間違っていたら、パニックが起きてしまう。
「とりあえず行くぞ。」
「あっ!待ちなさいよ。」
素材などの荷物を全員で分けて、樹の陰に隠れていたロキを回収して、俺達はレーメンの街へ向かった。
ーー
「それで、どうしたんだ?」
レーメン戻った俺達は、一旦宿の方に戻った。
受付嬢の女性に怒大熊の情報を渡し、食事を部屋に運んで早めの夕食を食べながら、小会議を開いている。
「あの怒大熊は、外的要因によりあの場にいた可能性が高いんだ。」
「がい?ユークリスト様、それは何ですか?」
スティアにとっては、まだ難しい言葉遣いだったのかもしれない。
「本来、あの怒大熊が番で行動することは言ったね?」
「はい。夫婦で行動するんですよね?素敵です!」
確かに、その習性だけ聞けばロマンチックなんだろうな。
スティアと思い出すように話を進める。
「もしも、あの怒大熊が見つかったのが、森の西側だったら番と離れただけで説明がつくんだけど。本来あの森の東側には危険度Cの以上の魔獣は生息していないんだよ。そこに番と逸れた個体だけいたというのは、あまりにも不自然なんだ。一応、ロキに周辺を探ってもらったけど、番の片方の気配はなかった。つまり、あの怒大熊は外的要因、何らかの別の力が働いて、あそこにいた可能性が高いということだよ。」
「ほぉ!なるほど。さすが、ユークリスト様!」
おそらく、話の半分ぐらいしか理解していないのではないか、と思うほどのオーバーリアクションを取るスティア。
これはこの二年間で調べて分かったことだ。
危険自然区域は、前世で言う処の迷宮に似たようなモノで、それぞれ階層のように区域分けがされている。
魔力の吹き溜まりのような場所が存在し、その場所を中心に生息している魔獣を【主】と呼び、その近辺にはそれ相応の強さを誇る魔獣が生息し、そこから遠ざかれば遠ざかるほど、生息する魔獣の強さが低いモノになっていく。
つまり、本来西側に生息している魔獣が、北側に来ることは殆どないんだ。
しかも、己が種族の習性に逆らってまで。
これは冒険者組合が発表している公式情報だ。
少し考え込んだようにワグが口を開く。
「なら、どうするんだ?」
「僕たちだけで調査してみたいけど、正直やれることは少ないね。西側に足を踏み入れられるほど強くは無いし、Fランクの冒険者がギルドのお偉いさんと会うなんて事は出来ないしね。」
確かに今日の怒大熊のように、正面から一対一で突っ込んでくる相手には、対応できるかもしれないが、西側の魔獣は強いうえに組織的に行動する。
一方に対応しながら、他方から攻撃が飛んでくる状況は命に危険が高すぎる。
それに下っ端冒険者と面会時間を取るほど、ここのギルド長も暇じゃないだろうしな。
「ユークリスト様ご本人が行けば、何とかなるのではないんですか?」
「確かに会えるかもしれないけど。結局は子供の言う事、証拠の無い話には人は耳を傾けないよ。」
「いいえ!ユークリスト様の話なら、みんな絶対に聞きます!」
ふんすといった態度で意気揚々に胸を張るスティア。
俺の話になると、スティアは自分のこと以上に張り切る傾向がある。
まあ、俺はスティアの主人だからな。
自分の主人は強い事は、従者としての誇りなのかもしれないな。
「ありがとう、スティア。」
「ふふん、当たり前の事です!」
「……具体的な対策は無しか?」
二人の世界を構築する寸前で、ワグの問いが入る。
俺は少しバツが悪い。
「いや、一応考えだけならあるよ。」
「どんなものだ?」
「明日は西側に調査しに行く。」
「「!!」」
さっき言ったことを思い出そう。
俺達は、西側に足を踏み入れられるほど強くない。
つまり、明日俺達は死地に足を踏み入れる。
驚く二人に俺は、自信満々の顔を向ける。
『麻紐でバンジージャンプしても死にません』と宣言する黒人インストラクターのような顔で。
白い歯を輝かせて。
ーー
ー三日目ー
三日目は、三人と一匹で【ブレーメンの森】を隔てる川の周辺で狩りを行う。
川の周辺は、偶に西側に生息している魔獣が寄ってくることがあるからな。
昨日、『西側に行く』と言い切ったときは二人にかなり反対されて結局、西側に一番近い川岸での活動に落ち着いた。
ここに来るまで、人面茸や、北部兎、黒猪などと遭遇して狩ったから、これで昼食は木の実や食用菜を使って美味いものが食べられるな。
さて、ここに寄ってくる魔獣の危険度、数、頻度で大体の調査が出来ると思っているが、俺がこの森に来たのは、今回これが初めてで正直言って比べるデータを持ち合わせていない。
所詮、素人にできることは見たことを上に報告する、それだけだな。
しかし、何も出来ないってわけじゃない。
一応俺は、この辺りで一番偉い貴族の息子だし、自分がやれることはやっておきたい。
民を守る、貴族の勤めだとカイサルが言ってたな。
「それで……どうしてここにいるんだ?」
「あ、あんた達だけじゃ危ないから、付いてきてあげたのよ!」
と、思ったのも無駄に終わりそうだ。
俺達の後ろを、ちびっ子冒険者たちに尾行されていた。
ちびっ子どもは、悪戯がバレたみたいに気まずそうにしながらも、その雰囲気はどこか楽しそうだ。
幸い、ロキは見られていないし、迂闊に仮面を外すことも無かった。
俺達の会話の内容も、聞こえていなかっただろう。
「ワーグ、周囲の警戒を頼んだはずだけど。」
「……敵意は無かった。」
こいつ、鎧で顔は見えないが、俺には分かるぞ。
こいつは楽しんでやがる、困る俺を見て楽しんでやがる。
今すぐ帰れと言いたいが、危険自然区域で子供を放逐するのは、良識ある人間として、咎めるな。
「ゲイル。だったか?」
「はっはい!」
気味の悪い仮面による突然のご指名に、ゲイルは興奮気味に返事をする。
「御父上の様子はどうなったかな?」
「あっ、げっ元気になりました!ありがとうございました!」
「そうか、それはよかった。」
ゲイルの父親の治療に立ち会うことはできなかったが、無事に事無きを得たようだ。
「それよりも、あんた!」
「ん?私か。」
友人の父親の容態よりも、ミアは俺に思うところがあったようだ。
ビシッと指をさし、腰に手を当て、乱暴な学級委員長みたいな感じだな。
「昨日のアレは何よ?やっぱり魔法なの!」
「まあ、似たようなものだ。」
「魔法が使えるってことは、あんたどこ貴族よ!」
ミアは、昨日俺が使った魔術銃に関心があるようだ。
ここで、もう一つ俺がしくじったことがある。
それが、魔法を使ったことだ。
前にも言った通り、子供の年代から魔法が使えるようになるのは、貴族の子息子女だけだ。
ホント、俺のやること成す事、穴だらけだな。
だがしかーし、俺にはちゃんとバックアッププランがある!
失敗から学ぶユーリ君だ。
「私は炭鉱族だ。君らと同じような背丈だが、君らの親よりも年を取っている。」
「炭鉱族の髪色と違うわ!」
こいつ、単細胞に見えて意外と博識だな。
いや、種族間の違いはこの世界だと常識なのか?
この辺りの調査も必要だな。
しかし、甘いぞちびっ子、嘘と作り話に懸けて、俺の右に出る者はいない。
一人の大人を失禁させた前科を持っているからな。
「私は、人間族と炭鉱族のハーフだ。髪色は人間のそれと似ているが、寿命は君らよりも遥かに長いんだ。」
「ふぅん。ハーフね、でも魔法は使えるんでしょ?それを私たちにも教えなさいよ!」
腕組みをして、仁王立ち、太々しいにも程があるが、ミアの年齢が愛嬌を持たせている。
ミアの発言に恭順するように、他の三人もこちらの方に頼み込むような視線を送る。
これがちびっ子たちの目的か。
確かに魔力を使えるようになれば、この子たちの可能性も広がるし、冒険者として生活するにしても、その生存率は上がるだろう。
だけど……
「こんな所で教えられるわけないだろ。」
「じゃあどこならいいのよ!?」
ミアの中に、断られるという選択肢は無いんだろうな。
しかも、今すぐやろうと言わんばかりの勢いだ。
正直に言うと、俺の実力で【祝魔の儀】は十分に行える。
この二年間で身に付いた魔力操作力があれば、彼女たちの手を取って魔力を通す事なんて造作じゃない。
だが、それからはどうしようもない。
俺はあと数日で領都に帰るし、【祝魔の儀】をするだけして終わったら、はいさようならなんて、カッコウの托卵よりも質が悪い。
面倒が見れない厄介ごとには、足を突っ込まないのが一番いい。
「そもそも、教える気なんて無いぞ。」
「どーしてよ!?」
少しショックを受けたミア。
他の子供達も、ショックを受けている。
正直に伝えたほうがいいかな。
「私達がレーメンに滞在するのは、あと数日だけだ。長期の指導が必要な魔法を教える事は、出来ない。」
「だったら、貴族の子供がやってる【祝魔の儀】っやつだけで良いわ!後は、私たちだけで何とかするから。」
ミアが握りこぶしを作って、張り切った様子で俺に宣言する。
しかし、平民の子供でも知っているということは、【祝魔の儀】は割とメジャーらしいな。
ふむふむ、元庶民の立場で生きていた俺は、貴族社会の常識というものに疎い。
基本的に俺の行動は、帝国筆頭公爵家というブランドで守られているから、気にする外聞や恥というものが基本的にない。
普通の行動をすれば、普通以上の生活を享受できる。
その生活の代わりに、俺はこの世界の一般常識みたいなものに少々疎い。
やっぱり、こういった市井に明るい情報源は必要だな。
この街に短いスパンで定期的に来れるんだったら、この子達に借りを作って情報を引き出すことが出来たかもしれないが。
そう何度も来れるわけではない。
頑張って、そうだな、二か月に一週間で一度が限界かな。
「断る。」
「なんでよ!」
これ以上は、鼬ごっこで終わってしまうな。
「素人且つ子供が、魔法を独学で学ぶ事は危険だ。知識ある者の指導がなければ暴走し、君等の身を滅ぼすだけではすまないからだ。」
「「「「…………」」」」
声色を落として、少し厳しい言い方になったかもしれない。
この仮面おかげで、怖さは二倍だな。
「……なによ。」
ミアが小さくつぶやく。
「あんたみたいな変な奴に教えて貰わなくても、あたし達で勝手にやるわよ!」
「あぁ!待ってよミア!?」
「ごっごめんなさい!」
飛び出すように来た道を戻るミア。
それを追いかけるちびっ子冒険者一同。
「追いかけなくて良いのか?」
ワグが少年達の後ろ姿を見ながら、俺に聞いてくる。
確かに、これじゃ放逐と変わらないな。
「そうだね、街の門までーー」
「きゃあぁあああああ!!」
子供達が帰っていった方向から悲鳴が聞こえた。
「くそっ、目を離したらすぐこれだ!」
ワグと共に、一目散に悲鳴の方向へ駆け出す。
樹を避け、木の根を飛び越え。
スティアも、魔力の【循環】による身体強化は出来ているようで、俺達の速度にギリギリ付いてきている。
茂みの先、視界に捉えたミア達は五匹のコボルト達に囲まれていた。
ホルスターに手を伸ばし【魔術銃】を構える。
「ワ-グ!左の二匹をやれ!俺は右の三匹だ!」
「わかった。」
ワグは両の手で、腰に差していた短刀を二本抜く事と投剣を一つの動作で行い、一匹のコボルトの胸の喉に剣が刺さる。
もう片方のコボルトが、倒されたコボルトに気を取られている隙に、一気に距離を詰めるワグ。
もう一方のコボルトが振り向いた時には、その頭は既に地面に転がっていた。
その脚甲を朱色に染めて。
俺は駆け寄りながら、走行ルートを変え、コボルトを二匹その斜線上に捉えると、コッキング済みの魔術銃を構える。
【土弾】
ラグビーボール大の岩石弾は二匹のコボルトの胴体を貫き、それ以上の大きな穴を開ける。
後ろの樹の何本かも横っ腹を抉られている。
もう一匹のコボルトは、自分以外が全滅したことを目の当たりにしたのか、狼狽えた後、全速力で逃げ出した。
「逃がすかよ。」
逃げるコボルトを魔術銃の照準に捉え、【土弾】の引き金を引く。
次に見たときには、頭が吹っ飛んでいた。
「……大丈夫か?」
「……」
殲滅が完了したことを見届け、魔術銃をホルスターに仕舞い、ミアの方へ近づき手を差し伸べる。
ミアはコボルト達の死体を見回した後、俺の方を見る。
その顔色は、恐怖と戸惑い、安堵が混じった表情になっている。
と思ったら、直ぐに顔を紅潮させて蹲ってしまった。
「おい、大丈夫ーー」
「あっち行ってよ!!」
手を振り払われた。
何て無礼な子供だ、親の顔が見てみたいと思ったが、そんな思いは直ぐに無くなった。
座り込んだ彼女の足下が、濡れていた。
可哀想によっぽど怖い思いをしたんだろう。、
「ユー、トーリック様!見ちゃダメです!!」
スティアが俺の目を覆ってきた。
乙女の危機みたいな奴だろうか。
頬を膨らませて、心なしか少し怒っているように見える。
他の子供達も、少し戸惑っている。
「はい、これを使って下さい。」
「……ありがとう。」
スティアは自分が身に付けていた外套をミアに渡した。
スティアが誰かの面倒を見る形で、人と関わるのを初めて見たな。
ん?そういえば、忘れていたがスティアの友達作りをレーメンで行うってのはどうだろうか?
確かに、領都とは違いリスクは高くなるが、それでも違う環境で友達を作れることは、スティアにとって良いことじゃないのか?
幸い、天翼人の事はバレていない。
『あるじたいへーん!』
『ロキ、どうしたの?』
一難去ってまた一難って奴か。
『ほかのこがおそわれてるー』
『他の子って、どんな子?』
他の魔獣が襲われている?
ロキから救難信号なんて珍しいというか、初めてじゃないのか。
『わからなーい、でも『たすけて』っていってるよ』
『ッ…!!』
『たすけて』、つまりその魔獣はロキと意思の疎通を取ったってことか?
それは、つまり……
「ワーグ!」
「……なんだ?」
すぐに、ワグを俺の元へ呼び寄せる。
ワグは俺の声色で緊急事態を察したようだ。
「詳しくは分からないけど、この辺りに元獣種がいるらしいんだ。」
「なに?危険は無いのか?」
ロキと意思疎通がとれる、即ち元獣種。
つまり、俺と契約が出来る、こんなチャンス見過ごすわけには行かない。
確かに、元獣種は危険だしワグの懸念はもっともだけど、助けを求めている状況にいる、ということは少なくとも危険は無いと考えて良い。
「それも含めて分からない。でもこれはチャンスだ、俺は行く。」
仮面越しでも伝わるほどの声色と、熱気をワグに向ける。
「………わかった。ガキ共は俺に任せろ。」
任せろか、こいつも変わったな。
「トーリック様!」
俺は、スティアの呼び声に答えること無く、ロキのいる方角へ駆けだした。
まだ見ぬ新しい仲間を求めてーー。
お読みいただきありがとうございました。
評価とブックマークの方よろしくお願いいたします。
下の☆マークの所を五つになるようにポチッと押すだけの簡単な作業です。
良いねと感想の方も、より良い作品作りの為の参考としてお願いしたいと思います。




