第13話:魔獣狩り
新編突入。
暗雲と喧噪が支配する森。
ここは【ブレーメンの森】、オルトウェラ帝国北部に存在する中規模危険自然区域。
『早く寝ないとブレーメンの森から魔獣がやってくる。』
これは北部の人間が、子供を寝かしつけるときに使われる、脅し文句に似た言い回しだ。
それほど、ブレーメンの森の夜は恐ろしい。
鳴き声、呻き声、唸り声、遠吠え、断末魔、奏でられる協奏曲は彼の音楽隊を軽く凌駕する程だ。
ここに足を踏み入れた者は、所彼処、四方八方から聞こえるあらゆる喧噪に方向感覚を狂わされ夜の闇へ導かれる。
彼らが誰かは知らない。
ただ、檻のような籠を下げた馬に乗り、ローブを羽織り、灯りを付けず、踏み入れてはならない場所に足を踏み入れている事は確かだ。
「クソッ!どこに行きやがった!?」
「せっかく連中から安全なルートを買ったのに、これじゃ台無しじゃねぇか!」
彼らが運んでいたモノは知らない。
しかし、危険を買ってまで独自のルートを使用しているところを見ると、彼らが運んでいた物がどんな者なのか、押し並べて分かるというモノだ。
「どうすんだよ!?アレにはもう買い手が付いてんだぞ!」
「俺に聞くんじゃねーー」
そこから先は聞こえなかった。
彼らも、協奏曲の一部になったのだろう。
何を探していたのか、もう知る者はいない。
運ばれていた者以外は。
ーー
現在、俺はロキ、スティア、ワグを連れて【ブレーメンの森】に向かっている。
期限は一週間。
既に屋敷の許可はとっている。
ルルティアは、かなりごねていたが。
帰ってきた時に土産話をして、また後日一緒に魔獣狩りに行くことを約束して、なんとか許可してもらった。
ルルティアには、公爵家が組んだ通常の授業と、令嬢教育がある。
通常授業を、現在は真面目に受けているが、それでもまだもう少しかかるらしい。
それよりも嫌なのは令嬢教育だと、散々愚痴を聞かされている。
帰ったら、たくさん魔獣狩りの話をしてやらないとな。
そうこうしているうちに、森の近くにある街【レーメン】が見えてきた。
【ブレーメン】の近くにある【レーメン】ってどんな安直なネーミングだよ。
レーメンの街は小さな丘を取り囲むように造られていて、上から六角形に見える形になっている。
建てられた城壁の高さは、森側を高く厚く、領都側を標準より低く造っている。
門の数も、領都側、帝都側、北側に通ずる門はあるが、森側は門は一つしか無い。
かなり重いヤツがある、大型の魔獣が滝のように押し寄せても耐えられそうな門が。
丘の上にある建物は、街を一望できそうな高さまで建設され、街から森を見渡すことが出来る櫓もいくつか建てられている。
丘を中心に十字状の大通りが通っており、ブレーメンの森から直送される食材を使った料理を出す屋台に、素材を使った反物屋・鍛冶屋などが建ち並んでいる。
「あんまり大きな街じゃないんですね。」
「確かに、領都に比べたら小さいかもしれないけど、上手く地形を利用した造りになってて、仮に大暴走が起きてしまっても、領都からの援軍が来るまで十分に耐えられる構造になってるんだ。万が一、森の【主】が出てきても」
大暴走は簡単に言うと魔獣の大氾濫だ。
危険自然区域内に収まることが出来ないほどの繁殖を起こしたり。
本来その地域に生息するはずの無い強力な魔獣の出現、そして【主】と呼ばれるボス魔獣による外部侵攻などを理由に起きる魔獣災害の一つであり、その規模如何では領内のすべての街が更地になることもあったそうだ。
ちなみに、
繁殖による氾濫などが理由の大暴走を【受動型】
【主】等の強力な魔獣が先導して起こされる大暴走を【能動型】という。
各貴族は大暴走による被害を最小限に抑えるために、防波堤代わりとして危険自然区域の近くに街を配置している。
そして、その大半の街の構造が対大暴走用に造られている。
スティアは、領都での生活に慣れているからそう思ってしまうが、ここレーメンの街も結構大きい、確かにあの丘よりも公爵家の屋敷の方がでかいけど、大量の魔獣から領都を守る防波堤としては、十分な大きさの街になっていると思う。
「ユークリスト様、ブレーメンの森の【主】ってどんな魔獣なんですか?」
「それは調べたんだけど、分からなかったんだよ。屋敷中の本をひっくり返して調べても【主】に関する情報が出なかったんだよ。」
スティアの疑問に手をひらひらさせて答える。
仮面で表情が見えないからな、身振り手振りで感情を表現しよう。
「つまり、あの森の主は人の歴史が始まる前から存在する太古の魔獣と言うことか?」
「もしくは、とても大人しい魔獣って可能性があるよ。実際、ブレーメンの森では【能動的】な大暴走が今まで一度も起きてないからね。」
「で、でも大暴走は起きているんですよね?」
目の前に危険自然区域があることにスティアは少しというか、かなり不安げだ。
確かに、レーメンの役割は防波堤だから危険が伴うのは当然だろう。
でも、その変わりに街としての防衛機能は領都よりも強固に造られている。
税金も通常よりも少なく取っていると、カイサルが言っていたしな。
リスクとリターンの問題だろうな。
「もしもの時は、皆で領都まで逃げようね。」
「はい!私がユークリスト様を守ります!」
「……お前も逃げるんだぞ。」
身体の前で拳を握り、張り切るスティア。
守るのはワグの役目なんだけどね。
スティアは領都を出てから、少し張り切りすぎている。
まあ、はじめてのおつかいみたいなモノかな。
そんな遣り取りの後に、俺達一行はレーメンの街に到着した。
「それじゃあ、まずは宿を取ろうか。」
まずは、この一週間の塒を探さないとな。
俺達は街に入ってから、まずは一番大きな建物を目指した。
通常、公爵家の人間が【ブレーメンの森】で魔獣狩りをするときは、街の代官が用意している別館のような場所に案内されるのだが、今回は街の方に俺の存在を通達していない。
理由は二つある。
一つ目が、俺の情報が思った以上に出回っている事だ。
これは、本当に予想外だった。
『【銀雹公爵】の五男は天翼人と、ナベロ人を従者にした。』と。
これが、騎士や使用人の間で噂になり。
その噂を、屋敷を出入りしている商人が聞きつけ。
その商人が、市井と貴族界に噂を流すことで、俺の噂が広まってしまったのだ。
そして、その噂を裏付けるようにグリバー主催のパーティに参加していた、貴族たちが俺の起こした騒動を吹聴している。
【北部の異端児】、俺のもう一つの渾名だ。
このおかげで、帝都では俺の婚約者の席争奪戦から降りる者もいたらしい。
二つ目は、冒険者登録をしたいからだ。
しかも、三人とも偽名で。
理由は実戦経験を積みたい事と、【錬金術】で作った武器の情報を隠すためだ。
さっき言った通り、俺の身元はある程度バレてしまっている。
そりゃあ、いずれバレることになるかもしれないが、バレる前に準備することはできるし、バレた時の対応策を考えることもできる。
まあ、時間稼ぎだな。
そんなこともあり、現在俺達は全身を外套で包んでいる。
スティアの髪色は特徴的だから、既に【錬金術】の【分離】を使ってメラニンを抜いて髪色を脱色してある。
ブリーチ済みだ。
勿論、髪色は直ぐに戻せるように保管してある。
彼女の髪を気に入っているからな。
それと、顔が見えないように口元を覆うマスクで顔も隠している。
ワグは、肌を見せないように鎧をつけてある。
全身を覆うようなゴツイ物ではなく、取り敢えず肌を隠せるものをって感じだ。
俺の場合は仮面を着けている。
犬○家顔負けの、かなり不気味なやつ。
後、帽子も。何処かの犯罪コンサルタントみたいだ。
ロキは、俺の外套の中に隠れている。
面白いことに、みんな俺の噂を知っているのに、俺の容姿は知らない。
ワグが領都中の酒場や、地域密着型の老舗など、情報が集まるところで話した結果と。
ルルティアとフラムベリカの情報を統合して、得た結論だ。
容姿なんかよりも、特徴的なものを身に着けているかららしい。
身に着けているってのは物騒な言い方だが、それが貴族の言い回しってやつなのかもな。
しかし、それならばとことん隠し通してやるのが一興って奴だよな。
と言っても、かなり悪目立ちしていることは間違いないと覚悟していたのだが、そうでもない。
俺の心配は取り越し苦労だったんだ。
というのも、ここレーメンの街にはいろんな種族の人がいた。
森林族、鍛冶族、獣之族
そのほとんどが、冒険者なのだろう。
みんな、帯剣したり、魔法使いっぽいローブを着たりしている。
そんな連中に囲まれていれば、仮面を着けている子供なんてあんまり珍しいものではない。
「はぁ~、俺たちの冒険が始まる。」
「……何言ってんだ?」
エベレストに登頂した気分で不意に出た独り言を、ワグに突っ込まれた。
「ワグは、この状況を前にして心が躍らないのか?」
「…………特にないな。」
「はいユークリスト様。私は、楽しみです!」
『かり!たのしみ!』
ワグはあまり気乗りではないようだ。
いや、あれが通常運転だな。
スティアは、領都の外に出られて少し嬉しそうだ。
やっぱり、普段の環境と違う場所というのは楽しいものだ。
それに彼女はまだ子供だし、こういう遠足みたいな行事は、心躍るモノだろう。
ロキは相変わらずだ。
好奇心旺盛でここに来る前も、道端にある花や、兎などの小動物に興味を示して、街に来るのが遅れた。
現在は、マフカの実を渡して大人しくさせている。
「さてと、ここが宿だよ。さっそく、入ろうか。」
足を止めた目の前にある建物が、この街で一番大きな建物で俺達が利用する宿だ。
どちらかというと、ホテルの表現の方が合ってるかもしれないが。
木造の五階建て、かなり規模が大きい。
話を聞いたところ、この建物は冒険者ギルドと兼任で建てられているらしい。
「わぁ!すごいですね、ひろーい。」
「………」
『あるじ、あれっあれなぁに?』
「あれは、赤顎龍の牙で作ったロングソードだよ。」
『どらごん!ロキもどらごんみれる?』
「見れるかもしれないけど、見たらすぐ逃げるよ。」
外套の隙間から外の様子を除くロキは、ギルドの壁に掛けられている剣に、目が留まったらしい。
正直、ドラゴンは見たくない。
逃げる間もなく死んでしまうからな。
将来的には、竜を倒せるぐらいまで強くなりたいが。
今の所は、ミルマエニソクテッタイだ。
建物の一階は、ロビー兼、酒場兼、食堂となっている。
俺達が建物に入ったところで、客全員の目線が集中する。
新顔だからだろうか、品定めをするような目つきで俺達を見てくる。
「ユークリスト様………」
「大丈夫だよ。」
スティアが不安そうにしている。
彼女は周りから注目されるのが、あまり得意ではない。
俺とワグはこの二年でかなり慣れたからな。
こんな、視姦プレイじゃ全く感じないね。
「この辺りじゃ見ない顔だな。」
「気味の悪い仮面だぜ。」
「顔がよく見えねえな。」
如何に、多数の種族が生活をしている街と言えど。
やはり、こんな薄気味悪い仮面を着けている子供は目を引くな。
まあ、何て事を気にしても仕方ないからなと思いつつ、俺達は受付の方に向かった。
受付では、受付嬢が各窓口を持っていて、そこで各々用事を済ませるらしい。
20代前半ぐらいの受付嬢の女性が、二度見した後に俺達の方に笑顔を向ける。
「いらっしゃいませ、本日はどのようなご用件でしょうか?」
「三人分の部屋を一週間分用意してほしい。」
仮面を着けると、少し声が曇るが問題なくコミュニケーションはとれる。
敬語で話そうとも思ったが、それが許されるのは仮面を着けていない七歳児だ。
正直こんなフォルムで、敬語を使う子供とか不気味でしかない。
だから冒険者モードの俺は、畏まった口調の老紳士風だ。
「お部屋の方は分けられますか?」
「いや、三人一緒で頼む。」
初めは分けるつもりだったが、その事を話すとスティアがごねた。
スティアは、屋敷でも俺の私室に一番近い部屋を使っている。
初めの頃は、一緒の部屋が良いと言っていたが、それは貴族的に宜しくないとして、一番近い部屋にした。
これも、スティアがこの遠征を楽しみにしていた理由の一つであり、その大半を占めている。
「承知しました。三階の部屋が空いているので………これがその鍵です。」
「ありがとう。それと、冒険者の登録もしたい。」
「かしこまりました。登録は三人分にいたしますか?」
「それで頼む。」
アナログ作業なのにかなり手際が良いな。
子供相手でも決して手を抜かない接客態度。
この人はプロの受付嬢だ。
「登録はお部屋に荷物を置いてからにいたしますか?」
「そうだな、みんなそうしようか。」
「はい!」
受付嬢から鍵を受け取り、説明を受けた三階の部屋の方に向かう。
部屋に入ると、外套に隠していたロキを解放し、全員で荷解きをする。
「それで、そのサルは隠し通すつもりか?」
「一応はそのつもりだよ。従魔って言うのは、良くも悪くも特徴的だからね。色々隠れてやりたいことがあるのに、身元がバレてしまうのはあまり宜しくないからね。」
ロキについては色々考えた。
【変態術】を使って、変装させたりとか色々な。
実際の所は、それしか浮かばなかったが。
それでも、何れ何処かから綻びが出てしまう可能性がある。
だから、初めから隠すことに決めた。
バレたら、開き直ればいいしな。
バレなかったら利益がある。
バレても不利益にはならない。
俺は、こう見えて貴族なんだ。
しかし、ロキは危険度Sの悪魔猿だ。
この情報が洩れれば、見えない所から余計な干渉があるかもしれない。
情報は出来るだけ伏せていた方が良いだろう。
『あるじ、ロキはいけないこ?』
隅っこでマフカの実を食べていたロキが不安そうな顔でこちらを見る。
まずい、隠していることで、ロキが負い目を感じたのか。
「違うよ、ロキはとってもいい子だよ。ただ、もう少し強くなってから、ロキの事はみんなに知ってほしいんだ。僕がロキの事を守れるようにね。」
『あるじは、ロキがいやじゃない?』
「ロキの事は大好きだよ。はい、マフカの実をお食べ。」
『えへへぇ、ロキもあるじだぁいすき!』
嬉しそうにマフカの実を頬張るロキ。
もちろん俺は、愛でるようにロキを撫でまわす。
皮が固いマフカの実を、皮ごといっちゃうんだもんな。
やっぱり、魔獣だ。
俺の可愛い相棒。
「ユークリスト様!私は!?」
俺達のやり取りを見ていたスティアが、顔を真っ赤にして、上目遣い一杯に此方を見てくる。
「もちろん、スティアは僕の家族だからね。」
「そっそうじゃなくて………!?」
欲しい答えじゃなかったのか、スティアは体をもじもじさせて、もう一度俺の方を見る。
「そっその、私の事も、好きです、か?」
なんだ、そっちの事か。
「もちろん、好きだよ。」
「……!!……!……!?……!」
スティアは目を目一杯広げた後に、言葉にならない喜びを、体いっぱいで表現するように飛び跳ねていた。
その喜びが10年後もあればいいな。
「………………いちゃつくのは終わったのか?」
やり取りの一部始終を見ていたワグが呆れたように、こちらの方にジト目を向けている。
「終わったよ、それじゃあ早速行こうか。」
ーー
冒険者登録は思った以上に簡単だった。
用意された冒険者カードのサンプルに、自分の血を一滴垂らすだけで終わった。
特に試験とかは無かった。
俺の名前を、トーリック
スティアの名前を、リリカ
ワグの名前を、ワーグにした。
かなり安直だな。
ちなみに、パーティ名は【炭鉱鳥】だ。
危険から避けらる願掛けみたいなモノだな。
リーダーはもちろん俺。
現在俺達は、【ブレーメンの森】の浅い位置に来ていた。
「よーし。それじゃあ、始めようか。みんな仮面は外していいよ。」
『あるじ、はやくはやく!』
人目に付かない所まで来たことで、被っていた仮面を外す。
結構これ窮屈だったんだよな。
周囲には、他の冒険者の気配はない。
他の冒険者は、ここよりも深い所まで行っているのだろう。
初めてのお散歩で燥いでいるロキ。
「わかったから、あんまり遠くに行っちゃ駄目だよ。ワグ、この辺りに魔獣はいるかな。」
「………この辺りにはいないな。」
「そうか、それじゃあもう少し奥に進もうか。」
ワグの索敵術はアナログ的なものだ。
魔獣の足跡を探したり、魔獣の痕跡を探したりと。
特異魔術には【索敵術】というものがあり、それが使えればかなり広範囲で魔獣の位置を知ることが出来るのだが、俺達のパーティにはそれを使える人間が居ない。
精霊文字を学んだら、そういう魔道具も作ってみたいな。
今回、新しい武器を作っていて思ったことは、モノ作りが心底楽しいってことだな。
カイサルからは、学院で勉強したいことを考えておけと言われているから、魔道具科を専攻するのも悪くないと思う。
ワグを先頭にスティア、俺&ロキのフォーメーションを組んで森の奥まで進んでいく。
もちろん、スティアも魔法は使える。
けど実戦となると、どうなるか分からないから、俺とワグで挟む形で移動する。
万が一の場合に備えて。
その辺りも、今回の遠征で慣れてもらいたい。
「……とまれ」
小さい声と、握り拳を作る『止まれ』のハンドサイン。
俺たちの間の緊張感が一気に高まる。
身を屈め、近くにある茂みを遮蔽物にして身を隠す。
これから戦いが起きるかもしれないと、スティアの体が少し震えている。
「ユークリスト、見ろ。」
「なになに?」
俺とスティアはワグの肩越しに、指しているものを見る。
そこには、俺の体の半分ほどあるキノコに四肢が生えた魔獣が歩いていた。
「人面茸だな。」
人面茸はこの世界の危険自然区域ならば、そのほとんどに生息している魔獣だ。
危険度F
この世界にとってのスライムだな。
「あれぐらいの魔獣なら、スティアの練習にはちょうどいいね。」
「ええっ、私がやるんですか!?」
突如の指名に驚くスティア。
悪いけど、チェンジは無しだ。
「大丈夫、いざとなったら逃げよう。」
スティアの手を握り、安心させるために笑いかける。
スティアは握られた自分の手を見て、顔を紅潮させた後、意思を固めたように頷く。
「私、頑張ります!」
意を決したように、隠れていた茂みの陰から、スティアがゆっくり手を出して、人面茸に狙いを定め詠唱を始める。
ー火の精霊の理を受け、火球を成し、目の前の敵を、打ち倒さんー
【火弾】
スティアから放たれた拳大の火球は、少年野球のピッチャーのストレート程の速度で10メートル先の人面茸の方に迫り。
途中から起動が変え、人面茸を横を掠った。
「ピギャッ!?」
【火球】に気づいた人面茸は、こちらを確認するとその面妖を怒りに変え全速力で迫ってきた。
「きゃあぁ!」
自分に迫ってきた人面茸に怯えたスティアは、そのままその場にしゃがみ込むとそのまま固まってしまった。
「ワグ!」
「任せろ。」
俺の指示で茂みから飛び出したワグが、スティアに襲い掛かる人面茸に蹴撃を入れる。
ワグの脚甲は俺の【錬金術】で作ったオリジナルだ。
薄めに軽量化されたミスリルで作られ、ワグの魔闘術の蹴撃を、最大限生かす仕組みになっている。
蹴撃を入れられた人面茸は、そのまま近くに生えている別に木に勢い良く叩き付けられた。
中身が少しだけ、周囲に飛び散っている。
グロいな、次からは短剣を使ってもらおう。
俺は、人面茸が絶命していることを遠目に確認すると、スティアの方へ向かう。
「スティア、大丈夫?」
「はっはい。ごめんなさい、ユークリスト様。」
「スティアは悪くないからね。まだ時間はあるし、もう少し頑張ろう。それに、スティアは攻撃魔法だけじゃないでしょ?そっちの方で頑張ればいいよ。」
「………はい、頑張ります。」
スティアは、思うような結果が出ないことで落ち込んでしまっている。
しかし、スティアにはもう一つ課題がある。
それはスティアの特異魔法【付与術】だ。
これは、天翼人に多く適性が見られる特有の特異魔法だ。
簡単に言うと、支援魔法の部類に入る。
武器に属性を付与したり、身体機能上昇を付与したりできる。
個人的には、これこそ天翼人が善神とやらから貰った恩恵なのではないかと考えるが、その真偽を知るものは、もうこの世界にはいないのかもな。
スティアは、【付与術】を屋敷の訓練場で何度か試みてみたが、いまいちイメージが掴めていないらしい。
実戦経験を積むことが出来れば、どうにかなると思ったがこの様子では可能性は半々かもしれないな。
『あるじ!つぎっつぎはロキがやる!』
さっきのワグの戦闘を、アトラクションか何かの様に観ていたロキは、目を爛爛に輝かせている。
「それじゃあ、次はロキにやってもらおうかな。」
『うんっ!みててみてて。』
その日は結局、スティアは魔法を当てる事すらできなかった。
反対にロキは魔獣狩りが楽しかったようで、自分から獲物を見つけて狩っていた。
もちろん事前に報告をもらって、許可した魔獣だけを狩らせた。
今のロキじゃ勝てない魔獣も、もちろんいるからな。
俺の出番はなかった、ほとんどロキとワグが狩っていった。
明日当たり
スティアは申し訳なさそうにしていたけど、それも少しずつ改善していけば良い。
心的外傷後ストレス障害を克服した俺が傍にいるんだ。
何とかなると思う。
スティアにも戦闘に参加して欲しいからな。
宿に帰って夜食を食べた後は風呂に入るんだが、これはプライバシー保護のため、スティアに先に入ってもらった。
『ユークリスト様と一緒に入ります!』と言われたときは、少し心が揺らいだが。
風呂から上がったら、全員で明日の予定を確認して、そのままベッドの中に入った。
ーー
ー二日目ー
ぐっすり眠った俺達は朝を迎え、簡単に顔を洗った後、部屋まで朝食を運んでもらい、みんなで食べている。
四人分頼んだ時は、かなり怪しい目で見られたが。
ここの朝食も、公爵家のモノに負けず劣らずおいしい。
危険自然区域直送の素材を使っているからか、新鮮さが売りの朝食になっている。
「今日は、北側の方に行こうか。」
「北側ですか?」
「そう、【ブレーメンの森】は南西部の山に、近づけば近づくほど強い魔獣に会う確率が上がるんだ。だから、今日は北の方に行って、手頃な魔獣を相手に魔法の練習をしよう。」
「………私の為ですか?」
昨日の事を引きずっているのだろうか。
スティアの今日の顔色はあまりいいモノではない。
「ちがうよ。」
「えっ?」
スティアが素っ頓狂な顔をしている。
「今日からは、俺の新兵器を使うからね。訓練場ではうまくいってるけど、実戦でどうなるか分からないから、簡単な魔獣を狩ろうと思ってね。ダメだったら、ワグに任せて逃げればいいし。」
少し気の抜けたような顔で答える
「その時は、俺も逃げるぞ。」
「おっと、騎士がそんなこと言っていいと思ってるのか?」
「お前が生きているなら、逃げても問題ない。」
確かにそうだが、俺の為に身を挺する騎士というのもやはり主人としては憧れるものだよな。
死なないに越したことは無いが。
『あるじー、ロキが、ロキがたたかうよ!』
「その時は、ロキも一緒に逃げるんだよ。」
『むうぅ、ロキはたたかえるもん。』
ロキはやる気満々の様だ。
やっぱり魔獣だからか、こうゆう好戦的な子になるのか。
前世でもあったよな、サイコパスは脳の一部がどうとか。
そんな研究があった気がする。
「わかったよ……というわけで、スティアのせいで僕たちの行動が変わるわけじゃないからね。魔法だって、練習では上手く出来ていたんだから、スティアなら出来るようになるよ。」
「そう、ですか?」
「そうだよ、初めて会った時は、こんなに敬語が喋れたわけでも、料理が出来たわけじゃないのに、今は全部立派にできるでしょ?だから、スティアなら何でも出来るって信じてるよ。」
「………はい。」
そう言うと、食事を口に運んだフォークを、口に入れたままスティアは目線を落として静かになった。
昔の事を言われて恥ずかしかったのだろうか。
それとも、まだ昔の話はタブーだったか!?
彼女の心の傷を抉ってしまったのかもしれない。
「あ、あの。スティア、大丈夫?」
「はい、大、丈夫です。」
「ふっ、泣かせたな。」
やり取りを見ていた、ワグから茶々が入る。
こいつは、本当に性格が悪いな。
ロキはそんなスティアを見ていたのか、だいじょうぶだいじょうぶと頭を撫でている。
やっぱり、女の子の心のケアは無理だ。
この二年で何とかなっているかもと調子に乗っていた。
心的外傷後ストレス障害が何だってんだ。
言ってただろ!実感のない共感は空虚な自己満足だと。
勝手に同じ経験したつもりになりやがって。
俺は、馬鹿だな。
何度同じ間違いを繰り返せば気が済むんだ。
その後俺達は、若干気まずい空気を残しつつ【ブレーメンの森】へ向かった。
「この辺りには別の冒険者もいると思うから、今日は仮面を外しちゃだめだよ。ロキもあんまり遠くに行かないでね。僕たち以外の人間を見たら、すぐに知らせに来るんだよ。わかった?」
『わかった!』
「それじゃあ、ワーグ。周囲の警戒は頼んだよ。」
「わかった。」
【ブレーメンの森】には北にある【アルトバルス山脈】から川が流れている。
その川により森は、北と西南部に分かれている。
北の方は比較的安全で、危険度は高くてもDランクまで。
今日の俺達の狩りは、北の方で行う。
早速、人面茸や樹之獣が出てきた。
準備運動がてらに、俺とワグが相手をする。
ロキも一緒にやりたがったが、他の冒険者の目も気にしないといけないので、ロキには見張りをしてもらっている。
ワグは魔闘術、俺は身体強化を使って。
スティアは、周囲にある薬草などの採集を主に行っている。
何とかしたいけど、無理強いすることはできないな。
その後も探索を進めているが、新武器お披露目の瞬間はなかなか来ない。
確かに打てる瞬間は何度かあったが、撃つ対象のランクが低すぎて撃つ気がなくなった。
ホームレスをエアガンでいじめる子供のような気分になる。
それでも収穫はある、この辺りに出てくる魔獣のリストが出来た。
危険度F
・人面茸:三十~五十センチほどの茸に顔と四肢がついている。
・北部兎:サイズは通常の兎と一緒、こいつの肉が入ったシチューは最高だ。
危険度E
・大狼:通常の狼よりも体はでかいが、頭がちょっとな。
・小鬼:群れなら厄介らしいが、この森にいるのは二、三匹程度の塊だった。
危険度D
・黒猪:通常よりも一回り大きい。前からの攻撃に強く、横・後ろからの攻撃に弱い。晩餐会のメインはこいつのステーキ。
・狼小鬼:狼男みたいでちょっと怖かった。
・樹之獣通常の樹木が魔力の影響で魔獣化。
「っと、こんな感じかな。」
「ユークリスト様、これは?」
『ん~なになに!?』
「……」
俺が書いているリストに興味を持ったのか、二人と一匹が、俺を囲むように近づいてきた。
「この辺りの魔獣のリストだよ。これ位の強さだったら戦っても問題ないけど、これ以外の魔獣が出てきたら、すぐに逃げよう。分かったね?」
みんなにリストを確認させ、次の狩場を求めて足を進める。
ロキは樹の上、ワグは地上で索敵をしながら、魔獣を見つけては狩り、魔獣を見つけては狩っていった。
スティアも、自分から手を挙げて頑張ってはいたが。
中々、思うような結果が出なかった。
「うぅ、ごめんなさい。」
「今日は当たったじゃないか、進歩しているよ。」
「………」
『あるじ!ロキはロキは?』
「ロキも上手になったよ。」
ロキは昨日よりもかなり狩りが上手くなっている。
元獣種の血筋という奴だろうか。
そんなロキを見てスティアは、さらに落ち込んでいる。
スティアだって上達はしているんだ。
ただ、それよりも早くロキが成長してしまっている。
悟○の舞空術を見てるビー○ルの気分かな。
「もうすぐ日が暮れー-「助けてえぇえええええええええええええ!!」
全員の緊張感が一気に高まる。
「全員戦闘態勢だ!」
俺とワグは、一瞬でスティアを囲むように配置を取る。
「ロキ!上から何か見えるか!?」
ロキには緊急事態にあった時は、樹の上で待機するように指示してある。
『こっちに人が走ってくるよー。』
「はあ!なんて面倒な。」
よりによってこっちに来るのかよ。
人様に迷惑に掛けやがって。
でもこっちは北側だ、襲ってくる魔獣の強さによっては、対処できなくもない。
「どんな魔獣か分かる!?」
『熊だよー。』
「くまぁ!?」
この辺りで熊の魔獣って言ったら危険度Cの怒大熊だぞ!?
なんでこんなところに居るんだよ。
取り敢えず、ワグにスティアを担がせてどこか遠くの場所まで逃げるか。
………いや、待てよ。
「よし、ワグ。スティアの警護を頼む。魔獣の対処は俺がやる。」
「……いいのか?」
「ユークリスト様も一緒に逃げましょう!」
「大丈夫だよ。それに、遂にお披露目だ!」
一人独走するように、魔獣が行かってくる方向に足を進める。
意気揚々と外套の中着こんでいる、ホルスターに手を当てる。
新兵器【魔術銃】
俺の頼もしい相棒だ。
お読みくださりありがとうございました。
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