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公爵家五男の異世界行脚  作者: ナカタクマ
第1章~暁の産声~
13/63

第11話:ユークリスト・スノウ・グリバー 7歳

来週の更新は少なるかもしれません。


 「ふへへ…………」 

 「おい、気持ち悪いぞ。」


 あれから、大した騒動は起きなかった。

 ナーベリックも『おめでとうございます。侍女の次は騎士ですか。では、また後日に。』と言って去って行ったし。

 結局あいつの狙いも何か、わからなかった。

 ああいう謎キャラは、いろいろ伏線が詰まっているから要注意のはずなんだが、公爵家の人脈を使っても、尻尾すら掴めない状況じゃどうにもならないな。

 【鎖の狩人(ガラナック)】っていう組織は、思った以上のものらしい。

 ていうか、スティアの時もワグの時もあいつが関わってくるな。

 恋のキューピッドか?


 いや、スティアはともかく、ワグの方は関係ないな。


 ワグの話に戻るが、俺自身がワグに何かしてあげたと誇れることは何もない。

 なのにワグは、俺の騎士と名乗りを上げてくれた。

 『どうして』と一度だけ聞いたが『気まぐれだ』と返されてしまった。


 おそらく、ワグの中で何か問題が解決したのだろう。

 以前の俺なら、ワグの問題に踏み込んで解決しようとしただろうが。

 今の俺は、出来る上司になりたいからな、部下の内面まで踏み込もうとは思わない。

 ただ、その解決の末に出した結論が、俺に仕えるになってくれた事はとても嬉しい。

 

 「いや、だってさ。ついに俺にも専属騎士と侍女が付いたと思ってさ。グリバーの人間として、一人前になった気がするんだよ。」


 現在俺はワグとスティアを伴い屋敷の門の方へ向かっていた。

 俺はいつものシャツにジャケット、後ロングパンツ。

 スティアのメイド服は、ゆったりとしたロングスカートで、頭の部分に花の形をした白いカチューシャがつけられている。とても可愛らしい。

 ワグは小麦色のシャツに茶色のロングズボン、そしてポイントは東部の民族模様をもとに作られたループタイだ。

 

 「ユークリスト様は、私たちが居なくても立派でした!」

 「………でしたじゃなくて、ですだろ。」

 「むむぅ、ワグのいじわる!」

 「親切に教えてやってるんだ。」

 

 スティアとワグは、こんな風にとても仲が良い。

 ワグは俺の推察通り、相手によって態度を変える人間ではない。

 こんな風に、スティアの言葉遣いに誤りがあればすぐに指摘するところもいい所だ。

 俺とは方針は違うが。


 「ありがとうスティア。二人ともすっかり仲良くなったね、うれしいよ。」

 「スティアがワグと仲よくしたら、うれしいですか!?」

 「うん、とってもね。」

 「えへへ、そうですかぁ。」


 とてもうれしそうに笑うスティア。

 ワグは相変わらず無表情だが、少し印象が柔らかくなった気がする。

 

 さて、なんで俺達は門の方に向かっているのかというと。

 それは、今日でカイサルたちが帝都の方へ帰ってしまうからだ。

 最後の見送りとやらに向かう。


 門の前では家族とそれぞれの騎士・侍従が待っていた。


 「父上、母上!」

 「ユーリ、寂しくなるわ。ちゃんとお手紙を書いてね。」

 「たくさん書きますよ。」

 「今回は、ユーリと稽古ができなかったが、次に帰ってきたときは、バレットやルルティア達と一緒に稽古をしよう。」

 「はい、楽しみにしています。」


 次に帰ってきたときの約束をして、カイサルは俺の後ろに立っているワグの方を向く。


 「大変だと思うが、息子の事を頼んだよ。」

 「………はい。」


 そういえば、ワグを戦場から連れてきたのはカイサルだと聞いたな。

 そう考えれば、カイサルも人種間問題にあまり確執は持っていないのか?

 とにかく、自分が保護した子供が息子の専属騎士になった。

 これだけで、何か感慨深いものがあるな。


 「ユーリ。」


 呼ばれて振り向くと、フラムベリカが箱を抱えて立っていた。


 「なんですか?フラム姉。」


 フラムベリカは持っていた箱を下に置き、付けられた錠を外して、その中身を俺に見せた。


 「………これは?」

 「魔獣の卵だ。」

 「「「「「ッ!!!!」」」」」


 魔獣の卵。

 そう聞いて一同が一斉に身構える。

 カイサル達も箱の中身については知らされていなかったらしい。


 しかし、目の前の卵よく見れば。

 去年あたりに、全身血まみれで持ち帰ってきた卵じゃないか?

 ここ数日、あまりに衝撃的な事がありすぎて忘れていたが、一番イカれているのはこの人だ。

 俺があの状況下で冷静に動けたのは、この人の行動により免疫ができたからだ、と言っても過言ではないだろう。

 

 「まあ、みんな落ち着け。確かに、これは魔獣の卵だがユーリ、お前の【従魔術】があればなんとかなるだろう。」

 「………つまり、こいつと契約しろと?」

 「頭の回転の速い子だ。記述によると、従魔術の初歩【従魔契約】は、魔力の量が多ければ多いほど強力な魔獣と契約することができるらしい。それに比べて、ユーリの魔力総量は少ない。」

 「はい、【従魔術】にとっては致命的だと思ってます。」

 

 従魔契約ができるのは、魔獣の中でも高い知能を有する【元獣種】のみ。

 つまり、それらと契約するには、それなりの強さと魔力が必要ということだ。

 しかし、俺は魔力総量が低く、正直【従魔術】の方は諦めて【錬金術】の方に専念しようかとも思っていたところだ。


 「しかし、魔獣はその生きた年数に応じて強くなる。そこでだ!お前の素敵なお姉さまはこう考えたわけだよ、生まれたばかりの魔獣なら、ユーリのように魔力が少なくても契約が可能なのではないか。とね。」

 

 てへっ、みたいに。

 でも、確かに筋は通っている。

 卵から孵った鳥が、最初に見た者を親だと認識するように生まれたばかりの魔獣なら、俺みたいに魔力の少ない者でも可能だろう。

 しかし。

 

 「フラムベリカ、それは生まれてきたのが元獣種だった場合だろう?」


 同じことに気づいたのか、カイサルも話に入ってくる。

 

 「父上、それなら問題ありません。」

 「ん?問題ない?」


 質問を予想していたように答えるフラムベリカ。

 一体何が問題ないのか、まだ分かっていないカイサル。

 いや、あの様子は分かりたくないと言ったほうが正確だろう。

 カイサルには【鑑定術】があるから、見ようと思えば簡単にその成否を確かめることが出来る。


 「これは、その元獣種の腹の中から取り出しましたから!」

 「「「「「はぁ!!」」」」」


 これで血塗れで卵を取ってきた理由が分かった。

 この女、有ろうことか魔獣の腹を掻っ捌きやがった。


 「ああぁっ!!姉上!まさか、それは悪魔猿(ディアマンク)の卵ではありませんか!?」

 「「「「「ディッ悪魔猿!!」」」」」


 驚天動地に引き込まれたように、大声を張り上げるトーラス。

 他の全員も、単語の意味を理解できたのか、俺の目の前に置かれた卵を警戒する。

 もちろん俺もだ。

 分かっていないのはスティアぐらいだろう。


 「さすが、良く分かっているじゃないかトーリィ。」


 悪魔猿(ディアマンク)

 危険度(ランク)AAの魔獣。

 領都の隣にある【ブレーメンの森】に生息していたのを、去年公爵家騎士団により討伐された。

 当初は、冒険者(ギルド)による大規模依頼(レイドクエスト)も検討されたが、公爵家が競売で優先権を買い取ったため、公爵家が先んじることができた。

 公爵家がと思ったが、目の前の品を見ると、フラムベリカ一人の資産で勝ち取ったんだろうな。

 大陸中にある組織と競売で勝つとか、我が姉恐ろしいな。


 「はあぁ、お前が討伐権を持ってきたときは、ようやく貴族としての自覚が出てきたのかと思ったんだがなぁ。」


 少し諦めたように、頭を押さえるカイサル。

 

 「姉上!あの討伐作戦では騎士団にも被害が出たのをお忘れですか!?」


 人命を使ってまですることなのかと責めるトーラス。


 「被害は出たが、死人は出ていない。悪魔猿の魔法だって、父上の魔法があれば楽勝だっただろう?」


 すべてを見透かしたように、にやりと笑るフラムベリカ。

 トーラスとカイサルは、また胃が痛そうな顔をしている。

 そりゃそうだろう。

 悪魔猿はAAランクつまり、その元獣種は一つ上のSランク。

 そんな魔獣に挑んだ理由は、単なる道楽程度だったのだからな。

 だって、俺に【従魔術】の適性がなければ、完全に地下室の肥やしになって腐っていたに違いないからな。

 魔獣の卵って腐るのかな。

 生まれてくるのは死霊(アンデッド)だったりして。


 「それで、これを僕にくれるわけですか?」

 「ああ、ただし交換条件がある。」


 在庫処分に付き合うだけでもありがたいのに、その上交換条件だと。

 我が姉ながら、なんとも厚かましい。


 「私が帰ってきた時に、【従魔術】に関するレポートを見せろ。それが、条件だ。」

 「……はぁ。わかりました。」

 「よし、取引成立だな。」


 冗談はよしてくれよ。

 大学の課題で、一番嫌いだったレポートを書けだと。

 レポート課題が有るか無いかで、講義を選んでいたほど嫌いなんだぞ!!

 

 しかし、従魔は欲しい。

 異世界ライフの定番は、やっぱり仲の良い従魔だろ。


 フラムベリカは、自分の企みが成功した犯罪者のような顔を俺に向ける。

 彼女にボッタくられたドラクルスの商人の気持ちが、今なら良く分かる。

 俺はフラムベリカから卵の入ったケースを預かった。


 「私のこの選択がユーリを、そして家族を守ることに繋がると願っている。」


 立ち去るフラムベリカからでた呟きは聞こえなかった。

 ただ近くに居たカイサルの顔が、少し切ないものだったのを覚えている。

 

 「それじゃあ、次帰ってくるのは年渡りになるね。三人ともいい子にして待っているんだよ。」

 

 「はい、お父様。」

 「お父様、大好き。」

 「いってらっしゃい、父上。」


 カイサルは、バレットとルルティア、俺との最後の挨拶を終えると用意していた馬に跨り、帝都がある方向へと馬を進める。


 三人はその姿が見えなくなるまで手を振っていた。



ーー


 

 「ロキ、上にある箱からミスリルを取ってくれ。」

 『わかった』


 時は流れ、俺は七歳になった。

 あれから【鎖の狩人】からの接触は特になく、比較的平和な毎日が流れた。


 バレットは、学院に通うために帝都の方へ行った。

 ルルティアは令嬢教育も増えて、今では北部の令嬢友達とお茶会を開いたりしている。


 俺はというと、この2年間で屋敷内で勉強するべきことがほとんど終わってしまった。

 魔術、剣術、算術、その他学問もろもろ。

 

 そして、当然の事ながら持ち前の優秀さと、二年前のパーティの事が参加していた貴族を窓口に広がり、俺は「北部の神童」と呼ばれるようになったそうだ。

 これは、ルルティアがお茶会仲間から聞いた情報だ。

 そのせいで、既に帝都では俺の婚約者の席争奪の動きがあるらしい。

 これは、フラムベリカから聞いた情報だ。


 あの後、こちらから手紙を認めフラムベリカと新しい取引をした。

 それは、追加で【錬金術】のレポートも書くから、色々な要望に応えてほしいというものだ。

 二つ返事でOKされた。

 いまは、帝都の情報や必要に応じてドラクルスから【錬金術】の素材を送ってもらっている。

 姉がどこに定住しているかは分からない。

 どこに住んでいるのか聞いたことがあるが『秘密だ』と言われた。

 しかし、必ず手紙は届く。


 現在俺は、屋敷地下に俺専用の研究室を作ってそこで作業をしている。

 案外、作るのは簡単だった。

 土魔法で掘り進めて、後は【錬金術】の【融合】で堅い鉱石と混ぜ合わせるだけだったからな。

 この二年で、使える魔法の数も増えた。

 一般的な魔法もほとんど使えるし、【錬金術】と【従魔術】のレパートリーも増えた。


 その中で俺は何をしているかっていうと、ルルティアとワグ、そして新しく従魔になった悪魔猿(ディアマンク)のロキと一緒に作業している。


 ロキについて紹介しよう。

 一言で言うなら、猿だ。

 異世界従魔の定番であるスライムとかフェンリルとかドラゴンとかではなく。

 猿だ。

 赤みがかった黒い毛に、眼がクリクリしている猿だ。


 カイサル達が領都に帰ってから、約半年後に孵化した。

 卵から猿が生まれるとは、さすが異世界と思った。

 従魔契約は滞りなく成功した。

 その後、直ぐに魔力切れでぶっ倒れたが。

 生まれたばかりの魔獣に魔力をごっそり持っていかれたとは、かなり情けない気持ちになる。

 

 名前は北欧神話の神からとった。

 いたずら好きだったからだ。

 俺の部屋に初めて連れて行った時に、部屋の中の物を全てぶちまけた。

 俺が寝ている間にだ。

 生後三日とかだったと思う。

 

 書庫の図鑑で悪魔猿の生態に関するスケッチを見た。

 正直ちょっと怖かった。

 プロレスラーみたいな体に、くるみ割り人形と悪魔(ディアブロ)の民族仮面が合わさったみたいな顔をしていた。

 ロキもいつかあんな風になるのか。


 とにかく、そんなこんながあって現在俺は、自分に相応しい武器の製作に取り組んでいる。

 そう、銃を作ろうと思っている。


 正直言って銃は嫌いだ。

 簡単に誰でも人を殺せてしまうからな。

 それでも、魔力の少ない自分が、周りの人間をどんな圧力からも守れるようになる為には、自分の前世の知識を総動員した結果、銃という安直で残虐な結論に至ることしかできなかった。

 しかし俺が作るのは、火薬で銃弾を撃ち出すものではない。

 魔法を撃ち出すものだ。

 これについては、少しこの世界の魔法について説明したほうがいいだろう。


 魔法の基礎は、【感知】【循環】【発現】【複合】【特異化】これは前に言ったとおりだが。

 今回説明するのは、魔法の発動方法だ。

 魔法の発動方法は二つある。

 【詠唱式】と【陣紋(じんもん)式】だ。


 【詠唱式】は言わずもがな、これまで一般に使われてきた手法だ。

 詠唱を用いて、魔法のイメージを固め魔法を行使する。

 そして、【陣紋式】こいつが今回の目玉だ。

 簡単に言うと、魔法陣を使って魔法を行使する方法だ。

 

 まず【魔郭(まかく)

これは魔法陣の一番外側の丸の部分だ。

 この部分で魔法の制御を行う。

 形を変えることで制御効率が上がると言われいるが、長い歴史を経て丸の形に収まったらしい。

 

 次が【魔経路(まけいろ)

 これは魔法陣の中に書かれる八芒星とか星形とかの模様だ。

 これは、魔法陣内に魔力を通す役割を持っている。

 これの形を変えることは、次のモノとセットになってくる。


 三番目の【魔章(ましょう)

 魔経路の模様の空白部分に書かれる詠唱文だ。

 これで、その魔法の種類・等級を決める。

 そして、これはさっき説明した魔経路の形と密接な関係がある。

 

 例えば一番簡単な初級魔法。

 ナーベリックが使った【火弾(ファイアバレット)】の場合は

 ー火の精霊の理を受け、火球を成し、目の前の敵を、打倒さんー

 この四節で構成される。

 この場合、魔経路の形は十字手裏剣のような形だ。

 その魔経路の空白部分に書かれる【魔章】が、上の詠唱文。

 

 魔法の等級は一節増えるごとに上がっていく。

 初級は四節、

 中級は五節、

 上級は六節、

 豪級は七節、

 精霊級は八節、

 竜級は九節、

 神級は十節。

 大体、中級を使えればその日の食べ物には困らない。

 上級までなら、就職には困らない。

 豪級は、国に仕えることができ。

 精霊級は、国と戦うことができ。

 竜級なら、国を興すことができると言われている。

 神級は分からない、初代皇帝であるゴルべギウス・キング・オルトウェラがそうだと言われているが、大昔の事だし真偽は確かじゃない。

 そりゃあ、大国の創始者だし見栄を張りたいのは当然だよな。

 

 とにかく、等級を上げるなら魔経路に用いる形の角を一つ増やす必要がある。

 

 最後に【魔臓核(まぞうかく)

 魔法陣の中心に描く核のようなものだ。

 これにどれだけの魔力を込められるかで、その魔法の威力が決まる。

 等級により最低必要量の魔力は決められているが、その上限は決められていない。

 つまり、下級魔法でも、上級相当の魔力を込めれば十分に対抗することができるということだ。

 

 簡単にイメージするなら人間にとって、

 【魔郭】は肌で【魔経路】は血脈【魔章】は骨と筋肉【魔臓核】は心臓と言ったところか。


 さて、ここまで説明したはいいが【陣紋式】は、ほとんど現代に普及されていない。

 それはなぜか、複雑すぎるから、工程が多すぎるから、めんどくさいから。

 時間が掛かる【陣紋式】よりも、詠唱省略や無詠唱でも使える【詠唱式】のほうがいいに決まっている。

 今では、冒険者が非常事態に備えてスクロール式の魔法具を備えている程度だ。

 

 魔法の歴史は戦争の歴史でもある。

 魔法技術が発展するごとに戦争のレベルも上がって行った。


 前世でもそうだ。

 最初は石を投げていた。

 それが弓になり、銃になり、爆弾になり、兵器になっていった。


 魔法も、初めからどこかの歴史まで【陣紋式】が使われていたが、どこかで誰かが気づいたんだ。

 もっと早く撃てば、もっと相手を殺せると。


 そうやって、廃れていった技術の一つがこの【陣紋式】魔法なんだ。

 いまでは授業の一環に流し程度で言われるレベルだ。


 しかし、俺はこの技術に希望を持っている。

 この技術を、俺の魔道具に運用することができれば、魔力量の少ない俺でも上位の等級魔法が使えるようになることになるだろう。

 というのも、この【陣紋式】の魔法は前もって準備をすることが出来る。

 事前に準備することで、戦闘で余計な魔力を使わないで済むからな。


 その技術と、銃が何故繋がるのかという話に戻ろう。

 まず、【陣紋式】を施すのは銃の本体ではなく、その銃弾の方だ。

 【錬金術】により加工された、ミスリル銃弾の底部分に魔法陣を彫り込む。

 ミスリルは魔力をよく通すから、銃弾を魔法の媒体として撃つ!


 っていうのが俺の想像。

 実際ここまで実験は進んでいない。

 どうやって、ミリ単位のミスリル銃弾に魔法陣の刻印を彫るのか、そこが問題になってそこで行き詰っていた。

 

 と思ったが、その問題は案外簡単に解決した。

 

『変形』


 俺の特異魔術『錬金術』で覚えた『変形』の魔術さえあれば、簡単に刻印を施すことができる。 

 いやあ、我ながら名案だと思ったよ。

 これなら、俺の成長で手がデカくなっても、問題なく作業を行える。

 それにこれなら『変形』の魔術練習にもなるしな。 

 魔術は使えば使うほどその練度が上がって、使う魔力消費も少なくなる。

 少ない魔力で戦う俺にとって『変形』の魔術は奇襲戦法に使える良い魔術だ。

 此奴の練度を上げておくだけでも、覆せる戦況が増えるかもしれない。 

 

 兎に角、使う使わないにせよ練習しておいて悪いことは無い。


 そうこうしていると、一人の小さなお客さんが地下の部屋にやって来た。


 「ユークリスト様、お夜食を持ってきました!」


 スティアはこの二年でかなり変わった。

 まず髪が伸びたな。

 出会った頃は、乱雑に切られた髪を短く切りそろえたベリーショートって感じだったが、今では肩のあたりまで蒼い髪がきれいに伸びている。

  

 最近知ったことだが、スティアは俺の二つ上だ。

 つまり、ルルティアと同い年だ。 

 少し、ルルティアに似てきた気がする。

 元気があって、明るく、時々変な言葉遣いをする。

 正直言って、かなりかわいい。

 高校生の頃、一週間だけオーストラリアから留学生が来たことがあったけどその感覚に近いな。

 いまだに人見知りは続いているが、そこがまた良い。

 他の人には見せない、俺だけに見せる顔があるってやつ。

 自分が、この子の人生において重要な存在だと考えると少し興奮する。

 と言っても下世話な意味ではない。

 9歳の子に発情するほど初心じゃない。

 

 ワグは相変わらずだが、大人の男ってやつになっている。

 顔立ちも段々と、凛々しくなっている気がする。

 ワグは今年で19になる。15で家の騎士団に訓練生として入ってきたからな。

 俺と一回り違う。

 その態度も少しだけ変わってきているように思える。

 前は、誰に対しも無愛想だったが。

 今は、屋敷内の使用人達などとは、軽い挨拶ぐらいはしている。

 少なくともここの敷地内に、ワグを東部民だと言って蔑む人間はいない。

 俺の銃開発にもワグが意見を出してくれた。

 彫師を屋敷に呼ぶことを考えてくれたのは彼だ。

 俺とスティアは、屋敷の外の事を知らないから、外の世界を知るワグの意見は貴重だ。

 

 もちろん俺も変わった。

 身長は同年代の奴らに比べたら、少し小さいらしいが、永久歯も生え始めたし。

 ………………実際あんまり変わってない。

 

 いや、まだ成長期前だし!

 もう少しで俺のうはうはイケメンライフ始まるし!

 仮に始まらなくても俺にはスティアがいるし!


 そろそろ現実に戻ろうか。


「ありがとう、スティア。そこに置いといて、もう遅いからスティアも休んでいいよ。寝不足は乙女の天敵だよ。」

「いーえ!私もユークリスト様とご一緒します。ユークリスト様は、ここ最近ずっとこの部屋で過ごして、ルルティア様も心配しています!」

「心配してくれて嬉しいけど、今は研究が忙しいからね。ルル姉には明日の朝食の時に言っておくよ。」


 そう、俺は自分の勉強が一通り終わった折に、カイサルから許可をもらってこの研究室にこもっている。

 7歳にして引きこもりかとも思うが、そこまで不健康な生活は送っていない。

 一日一回はワグとの訓練の時間を取って体を動かしてる。

 一度、魔闘術を教えてくれと言った、ワグは感覚派だったらしく、俺に教えることができなかった。

 

「ユークリスト、今日の稽古は身が入っていなかったな。最近はずっとそうだ。引きこもってるのがいけないんだ。」

『あるじ、ぼこぼこ』


 おっと、ワグ先生からダメ出しが来たぞ。

 ロキは晩飯抜きだ。


「悪かったね、魔道具製作の方に夢中になってたんだ。」

「そうか、それで。その武器は出来たのか?」

「もう少しだと思うんだけど、正直まだ分からないよ。」

「そうか、出来た時の約束、忘れるなよ。」

「もちろん、忘れるわけないだろ。」


 ワグは最初この地下室に籠ることをごねた。

 だから、出来上がる武器がいかにやばいかをプレゼンした結果。

 製作が完了したら、一騎打ちをすることで互いに合意した。

 だから、ワグは俺との稽古が終わっても、隣に作られた訓練室で鍛錬をしている。

 「俺も面白いものを見せる」と言っていた。

 『あの時の顔が一番怖かった』ー----ユークリスト談。


「ユークリスト様、今日の夜食は私が作りました。奥地に見合いましたか?」

 

 お口って言いたかったのかな。

 彼女はたまに、イントネーションがおかしくなる。

 それにしても、スティアは本当に料理がうまい。

 料理がまずいドジっ子キャラじゃなくてよかった。

 いや、会話にはドジっ子が発動しているな。

 今日のというか、最近の夜食は北部でとれたミルクを使ったシチューだ。

 ミルクが濃厚なのか、前世で食べていたものよりいい気がする

 

「おいしいよ、スティアは料理が上手だね。」

「えへへ~。おかわりありますから、シャンシャン食べて下さいね!」


 これは、じゃんじゃんだな。

 俺にパンダを食べる食癖は無い。

 

「シャンシャンってなんだよ?じゃんじゃんだろ?」

「ふんっ、ワグにはおかわりあげない。」

「……………悪かった。」


 どうやらワグもスティアの料理に胃袋をつかまれたらしい。

 ごはん抜きといえばワグはおとなしくなる。

 

「それじゃ、今日はこれで終わりにしよう。続きは明日やろう。」

「はい!」

「わかった。」


 食事が終わり、俺たちはそれぞれの部屋に戻る。

 着替えて私室に戻った俺は、ベッドに向かい布団の中に入り眠りにつく。



ーー


 

 眠りについた数分後、見る夢はいつも一緒だ。

 俺は、辺り一面海水しか見えない海に、体だけ浮いている。

 島もない、船も、鳥も、魚も、俺以外のモノはいない。

 途中で、体が沈んでいく。

 必死で体を動かす。

 魚の気配はない、それでも藻掻く事を止めることが出来ない。

 海の中に何か知るかもしれないという恐怖が、俺を掻き立てる。

 藻掻き続けていると、遠くからこちらに何かがやってくるのが見えた。

 きっと助けが来たんだ、あれが来るまで持ち堪えれば俺は助かる。

 それは次第に大きくなり、輪郭を表しだした。

 

「やめろ、やめろ、来るなああぁあああああああああああ!」


 それは俺の腕を掴むと、迷うことなく海の中に潜っていく。

 抵抗は出来ない。

 目の前に広がるのは、唯一闇だけ。

 俺は沈んでいく。

 二年前、俺が初めて殺した名前も知らない男と共に。


「あぁああああああああああああああああ!!」


 ここで目が覚める。

 いつもと変わらない。

 

『あるじ、つらい?』


 ロキが心配している。


「いや、大丈夫だよ。怖い思いをさせたね。」

『あるじ、ずっとへん。ロキこわい。』


 ロキの頭や首を撫でて安心させようとするが、ロキにはここ最近これに付き合わせているせいかかなり怯えさせてしまっている。

 

「大丈夫だよ。解決するからね。」


 この言葉も何回目だろうか。

 ロキの顔から心配の色が一切褪せない。



 さっき言ったことは撤回しよう。


 実際あんまり変わっていないって?

 いや、一番変わったのは俺だ。


 この一年間俺は、

 心的外傷後ストレス(PTSD)障害に苦しめられている。


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