表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
公爵家五男の異世界行脚  作者: ナカタクマ
第1章~暁の産声~
11/63

第9話:垢肌の少年と黒髪の少年

さっき確認したのですが。

ついに、初めての評価とブックマークがつきました!!

名前も知らない読者の方ありがとうございます。

他にも感想とかいいねとかも、よろしくお願いします。

舞い上がっているので、調子に乗っています。

この感謝を伝えきる、語彙力があればいいのにと心から思います。

本当に本当にありがとうございます!

 

 ーワグ視点ー


 故郷を事で覚えているのは、辺り一面緑の草原と家族の顔、夜の踊り、自分の名前。

 そして、血の海の中に居た事。

 この日の事は、今でもはっきり覚えている。

 

 「子供に罪はない。」


 俺に上等な布を被せた男がそう言っていたらしい。

 言葉はわからなかった。

 後に、男はこの辺りで一番偉い奴だと知った。

 自然と、そいつは親の仇だと思い始めた。


 そいつは俺を、自分の縄張りにある施設に預けた。

 そいつは、一年に一度だけ俺の様子を見に来た。

 そこに居たのは、俺と同じぐらいの年齢の奴らだった。

 そいつらと俺の肌の色は違っていた。

 

 数日と立たずに、施設で一番体のデカい奴が俺の元へ来た。

 そいつは俺に、「やばんじん」と言った後、殴りかかってきた。

 当然、返り討ちにした。

 何故か、敵の倒し方は体で覚えていた。


 自分が何故やばんじんと言われたのか、言葉が解るシスターに聞いてみた。

 シスターは言葉を濁し、俺を街に連れ出した。

 街は今まで見た事の無い物がたくさんあって、少しわくわくした。


 シスターは俺を、臭くて暗い路地に連れて行った。

 そこには、俺と同じ肌の奴らがいた。

 

 シスターは俺を、でかい家がある場所に連れて行った。

 そこには、俺と同じ肌の奴らがいた。


 シスターは俺を、街外れの墓地に連れて行った。

 そこには、俺と同じ肌だった奴らがいた。


 俺は、そいつらの誰よりもいい服を着ていた。

 

 彼らはいったい何なのか、シスターに聞いてみた。 

 シスターは答えてくれなかった。


 言いようの無い何かが俺の中に入ってきた。



 言葉が理解出来るようになった時、俺は領内にある学校に行った。

 孤児院の子供は、一定の勉学ができるまでそこに通わされる。


 俺と同じ奴はいなかった。

 俺以外の奴らは、全員敵に回った。

 

 この頃には、家族の顔は忘れていた。


 ここでも野蛮人の言葉を聞いた。

 向かってきた奴らは、全員返り討ちにした。

 自分から殴ったことは無いが、その度に大人の連中は、俺を追い出そうとした。

 しかし、何故か追い出されることは無かった。


 学校の授業で、自分のルーツを知った。

 生まれ、育ち、言語、他の奴らとは全く違うことを。

 『その褐色の肌は垢に汚れた、汚れた種族。』

 その授業をした先生は、俺のことを睨みつけながら授業を進めた。

 他の奴らも、授業が終わったら俺を睨んでいた。

 それからの俺は、俺を見る奴らを見る目が変わった。

 その目には、明らかな嫌悪感が宿っていた。

 しばらくして、俺は顔色を見ればその人間の感情が視えるようになった。


 

 孤児院を出て、塒と飯が保証されている公爵家の騎士団に入った。

 大した理由はない。

 ただ、心の隅にあったのは、ガキの頃にシスターに連れて行って貰った、路地裏と屋敷、そして墓地にいた俺と同じ奴ら。

 あれ以来、あそこには行っていない。

 いつか自分もああなってしまうと、あんな風になってはいけないと、その恐怖から逃げるように、俺は訓練生になった。

 俺に向かってくる連中のレベルが上がった。

 だが、全員の顔に嫌悪感があるわけではなく、一部の人間だけだった。

 普通に話しかけてくる奴もいるし、俺が使う体術を珍しがって近づいてくる奴もいた。


 

 その時だ。

 あの気色の悪いガキが、俺の前に現れた。

 もう一人のガキに人形のように抱えられているのに、その顔からは何も視ることができなかった。

 あの日以来の、言いようの無い不安が俺の中に入ってきた。

 この日の事もきっと、生涯忘れる事は無いだろう。



ーー



 ーユークリスト視点ー


 「はあぁ、疲れた。」


 あれから二日経った。

 現在俺は、敷地内に併設される舞踏会(デビュタント)用のホールに来ている。

 北部閥の貴族たちが集まって催されるだけに、かなりでかい。

 

 この二日間、ワグを騎士にするための作戦をいくつか考えた。

 

 後ろにワグを連れることで、他の貴族達に広く喧伝する、広告塔(プロパガンダ)作戦。

 

 トラブルを起こして、自分で解決することで尊敬を得る、自作自演(マッチポンプ)作戦。


 無い頭を絞るだけ絞って出た作戦を、すべて却下した。


 ワグは帝国人に、特に貴族に対して無条件に懐疑的だ。

 そんな事をしても、いずれバレることは火を見るよりも明らかだ。

 それに、これから一生の付き合いをしようって相手に、後ろ暗い思いをしたくない。

 

 今日の俺は煌びやかなブローチがポイントの舞踏会スタイルだ。

 ちなみに、天道虫のブローチじゃない。


 ワグも、欧州の近衛兵を思わせる公爵家騎士団の制服を着ている。


 スティアは、現在勉強のために裏方の仕事の補佐に回っている。

 初めは『俺と一緒がいい』と駄々を捏ねていたが、オリバに連行されていった。

 スティアの教育には、彼女自ら手を挙げて志願してくれた。

 厳しくも、思いやりのある教育で、二人の関係は日に日に向上しているように思える。

 それに彼女は天翼人(アティカルス)だ、隠すつもりはないが、見世物にするつもりもない。

 彼女の心が下世話な衆目に耐えられるようになるまで、公的な場は避けたほうがいいだろう。


 もちろん、帝国内にも亜人はたくさんいる。

 そのほとんどが、冒険者や商人、剣闘士。

 根無し草の流浪人としての生活を送っている。

 彼ら彼女らはあちこちを放浪している為、危険自然区域(レッドエリア)付近の街に点在していることが多い。

 

 しかし、天翼人(アティカルス)となると話は変わってくる。

 しかも、ここは北部だ、隣には聖教国がある。

 今は、非常事態になった時、俺が彼女を守ることはできない。

 せめて、時間が欲しい。

 彼女のためにも、俺のためにも。


 

 話は会場に戻るが、パーティはすでに始まっている。

 北部の貴族と、一部の大商会幹部。

 先日俺を誘拐したアルクシア商会は、その責任を誘拐した本人と、その上司に擦り付けたが、当分北での商売は難航するだろうから、貴族のご機嫌取りのために幹部が一人参加している。


 「ユーリ!どお、このドレス可愛いでしょ!」

 「そうだね、とっても綺麗だよルル姉。」

  

 今日のルルティアは瞳と同じ蒼色のドレスで決めている。

 スカート部分には、金糸で百合の花の刺繍が施されている。

 マジでこの人、外見だけはいいんだよな。

 その後ろには、騎士制服を着たグロリアと、ブライズメイドのようなドレスを着たエリーゼが控えている。

 ドレスを褒められて、姉は誇らしげに上機嫌だ。

 

 「ふふん、そうでしょ!ユーリもとってもカッコいいわよ。」

 「ありがとう、ルル姉。それじゃあ入ろうか?」


 ルルティアの手を取り、パーティ会場へ向かう。

 パーティでは、まず下級貴族や商人、次に上級貴族。

 そして、そのパーティを主宰するホストが、通常一番最後に会場に入る。

 大体その時点で会場の扉は閉じられ、後から来たものは入れてもらえない。


 既に、俺とルルティア以外の家族は全員会場に入っており、俺たちが入ると全員揃うことになる。

 扉の前にいる衛兵の前に着いたところで、


 「すみませぇ~ん!まだ、まだ待ってくださ~い!」


 それは、こちらに向かって、一直線で全速力で走ってきた。

 グロリアとワグは一瞬で声がした方に構えを取り、エリーゼは俺とルルティアを庇うように前に出る。

 このあたりの教育はしっかり行き通っている。

 しかし、その備えは取り越し苦労で終わった。

 走ってきた男は、こちらに行き着く前に、盛大にすっ転んだ。

 シルク○ソレイユ仕込みだと疑われるほど、盛大に。

 驚いているルルティアを放り、グロリアとワグの間を通り、男の方に備えていたハンカチを差し出す。

 

 「はい、大丈夫?」

 「はい、ありがとうございます。あてて。あっ!まだ、会場は閉まっていませんね。よかった、上司から遅れるなと散々くぎを刺されたというのに、お見苦しいものをお見せしました。公爵家の子息子女様方に、ご挨拶申し上げます。もう少しお話ししたい所ですが、続きは会場でどうぞよろしくお願いします。」


 男は、寝癖が解けていないような雑な髪形に、ガリ勉君を思わせる丸眼鏡。

 シルクのシャツに、外套気味のロングコートで身を包んでいる。

 苦笑いでハンカチを受け取ると男はゆっくり立ち上がると、その十倍の速度で口を動かし、早々に挨拶を切り上げ甲斐甲斐しく礼をすると、会場の方に入って行った。

 嵐が去ったように呆気に取られたが、俺たちは気を取り直して会場に入る。

 途中で、ワグの方を振り向き互いに目が合った。

 

 「僕を守ってくれたね。」

 「………反応しただけだ。」


 にやりと笑う俺に、無愛想なワグ。

 少し、眉間に皺を寄せて、まだ男が去って行った方向を睨みつけている。

 

 ワグに気を取られて忘れていたが、今日は俺のパーティデビューの日だ!

 貴族っぽいイベントに、胸が高鳴る俺ガイル!

 


ーー



 会場に入った俺達には、直ぐに会場中の視線が注がれた。

 ひゅっと、胸の内が浮くような感覚に包まれる。

 盗賊との死闘を経験してなお、大衆からの注目は前世の時から苦手だ。

 前世で、高校の生徒会選挙に無理やり出されたときにスピーチをした時もこんな感覚だった。

 俺たちは足を進め、会場の中央部分まで歩いていく。


 「おお、あれが三男のユークリスト様か!?」

 「黒髪に碧眼、噂は本当だったな。」

 「既に、祝魔の儀を済ましているようだぞ。」

 「誘拐されたと聞いたが、すっかり元気そうだ。」

 「おい、後ろの騎士はナベロ人か?」


 方々から、俺に対する評価のような品定めのようなささやきと、後ろのワグについて話す声が、聞こえてくる。

 東部民族は帝国人から、ナベロ人や、放牧民など呼ばれている。

 それにしても、まだあるだろ?

 ぱっちり二重とか。


 部屋の中は、想像通りの舞踏会といった様子だ。

 天井の中央には、凝った装飾が施されたシャンデリアが部屋の中を照らし、その周囲に等間隔で円状に小さなシャンデリアが配置されている。

 部屋の脇には、食事が用意されたテーブルがあり、お盆に酒を注いだグラスを乗せた使用人達もいる。

 壁には歴代の当主達の肖像画が掛けられている。

 校長室みたいだな。


 トーラス・フラムベリカはそれぞれ自分の元に来た貴族たちの相手をしている。

 バレットはというと、娘を紹介されているのか、同い年ぐらいの令嬢を連れた貴族のおっさんと話をしている。


 俺達が向かう先では、カイサルとマリアンヌが待っていた。


 カイサルはシンプルな貴族としては一般的な服装。

 余計な装飾にも施されていない。

 まさに、素材の味で勝負しました、と言わんばかりに質素というよりも洗練されている。

 白Tとジーンズでデートが成立してしまう美丈夫。

 この人なら例え、素っ裸でも正装になってしまいそうだ。


 マリアンヌも派手なドレスやアクセサリーではない、身に着けているものは一目で高級品だとわかる。

 ドレスは、ボディラインを強調しつつも厭らしく見えない。

 アクセサリーも、一つ一つは小振りで小さいが、その色と輝きは統一され、天井のシャンデリア・地上のマリアンヌといい勝負だ。

  

 周囲の注目が、俺とカイサルに集中する。

 俺は少し緊張気味に微笑むと、カイサルは俺の背中に支えるように手を当て客の方を見渡した。

 誘拐事件以来、カイサルは過度なスキンシップをしなくなった。

 俺への愛情が薄れたのかと思ったが、どうやら違うらしい。

 俺を見て微笑むときの顔が、妙に意味深というか感慨深そうというか。

 口説かれてるのかと思ったが、どうやら違うらしい。

 

 「さあ、みなさん紹介しましょう。私の三人目の息子。ユークリストです!さあ、ユークリスト皆さんに挨拶を。」


 挨拶を促された俺は、一歩前に出る。

 他の貴族からの注目が集まる中、俺は習った通りに、右足を下げ右手を心臓に当てながら礼を取る。

 口上は習っていない。

 子供の歌舞伎役者ってこんな気持ちなのか?

 

 「グリバー家が三男。ユークリスト・スノウ・グリバーと申します。皆さん、ようこそわが家へお越しくださいました。どうぞ、今宵は楽しんでいかれてください。」


 大体この辺りが及第点ぐらいだろうと思っていたが、そうでもないらしい。

 あたり一帯静まり返っている。

 そんなにまずいことを言ったのだろうか?

 大人たちが頻りに互いの顔を見合わせている。

 

 パチっ、パチっ、パチっ。


 水面に水を垂らすように広がる音の中心を見ると、先ほどのシル○ドスピンを決めた男がこちらに拍手をしていた。

 男に続くように他の者たちも拍手を始める。

 その音でこちらの声が聞こえなくなった頃。

 

 「自己紹介ぐらいで良かったんだが、さすがユーリだね。」

 「えっと、はい。」


 もっと簡単で良かったらしい。

 ともあれ、俺の貴族として初めてのお勤めはこれで終了した。



ーー



 グラスの酒がなくなるように、時間は過ぎていく。

 俺の元にはいろいろな貴族が来た。

 娘を紹介する奴、捏ね手で挨拶する奴、その他ETC……

 全員に共通する点は、ワグを二度見したことだ。

 

 「ふう、疲れたね。」

 「………」

 

 相変わらず不機嫌そうだ。

 そりゃそうだろ、今夜は(パンダ)の護衛だ。

 ほとんど、見世物のような状態で我慢してくれているだけましだな。

 

 悲しいことに、今の俺にはこの男の心を動かす術を持ち合わせていない。

 そして、今夜が最後のチャンスだ。

 何か、何かないのか。

 

 命懸けの戦いを経験をしたから、一皮剝けて成長できたと思った。

 しかし、中身はほとんど変わっていないのが現実だ。

 これが、殺しの魔力か。

 自分が強くなったと錯覚してしまう。


 「………一つ、質問がある。」


 初めてワグの方から俺に話しかけてきた。

 しかも質問だ、俺に興味を持ってくれたのかな?

 肩越しに振り返りながら、


 「ユークリスト・スノウ・グリバー。五歳。男。右利き。好きな食べ物はコーンとミルクのスープ。嫌いな食べ物は無い。特技は上半身の関節を外せること。好きな言葉はなんくるないさー。特異魔法に適性がーー」

 「質問がっつっただろうが。」

 「いやほら、せっかく質問されるんだから。分かることは教えとこうかなと。」

 「…………ふん」

 

 つまらない質問で会話を終わらせたくないから、とりあえず自分のプロフィールを並べてみたが、そんなことを聞きたい分けではないらしい。

 

 「それで、何が聞きたいの?」

 「…………お前はいったいなんだ?」

 「?……………質問の意味が解らないな。」


 人間とは何か、死とは何かみたいな哲学的な質問か?

 確かに、その質問は今の俺にぴったりだと思う。

 今の俺は転生者だしな。

 でも、どうやらワグの顔を見る限り、そういった意図のある質問ではないらしい。


 「ワグの目からはどう見えるの?」

 「………お前は、気色悪いガキだ。」


 この野郎、言うに事欠いて気色悪いだと!

 よーし表に出ろ!

 俺のピカピカつるつるボディを見せつけてやる!

 疚しい所なんて一切ない。

 その背中に一切の逃げ傷なしってやつだぜ。

 

 気を取り直して、話を進めよう。


 「なら、それが正解だよ。」

 「………………どういう事だ。」

 「人は自分の目で見た世界がすべてなんだよ。俺がその質問にどう答えようとも、ワグの中での俺とその俺が言った答え何て大して違いは無いだろ。」

 「………それもそうだな。」


 納得したように、頷く。

 えっ、まさかこれで終了!?

 哲学的な返しで終わるだけか?

 いや、まだだ、まだ俺の中で会話のスカッシュは終わっていない。

 よくよく見たら、ワグも物足りなそうな顔をしている。


 「それじゃあ、俺からも質問いいかな?答えてくれたら、また俺に質問して良いよ。」

 「そうか……うん、何が聞きたい?」

 「ナベロ語で馬鹿やろうって何て言うの?」

 

 それから、俺たちは短い時間だったが会話を続けた。

 休日の過ごし方や、兵舎での生活、戦闘訓練方法、訓練で苦しかったこと、俺の家族やスティアの事。


 ワグはいくつかの質問を終え、満足したのか『十分だ』と言って、護衛の位置に戻ってしまった。


 大分時間がたったと思ったが、あまり時間はたっていない。

 授業と部活の時間は何とやらだな。


 そうしていると、成金趣味のような恰好をした男がこちらに近づいてきた。


 「失礼しますぅ。ユークリスト様。私、コルメロ・トンジャーブと申します。陛下より伯爵の地位を授かっておりますぅ。」


 薄ら寒い頭。

 潰れた鼻。

 張り付いた薄ら笑い。

 下っ端らに蓄えた脂肪。

 眩暈がするほどの宝飾品。


 人は第一印象で、その人間の八割が決まるというが、この男に関しては十二割だろう。


 「これはトンジャーブ伯爵。どうぞよろしくお願いします。」


 軽くあいさつを交わす、この後「ではこれで」で終わるのだが、こいつはそうはならなかった。


 「いやはや、素晴らしい。先ほどの挨拶にも、このコルメロ感激いたしました。公子様は、公爵家の名に恥じない気品を兼ね揃えられていらっしゃる。黒い御髪に緑の御目、さぞや公爵様のご寵愛を受けているのではとお見受けします。しかし……………。」


 オペラ劇の役者のように、わざとらしく誇張された褒め殺しにかかったコルメロは話を切ると、俺の後ろに控えていたワグの方に視線をやる。


 「それはいけませんなぁ、公子様のような方が連れるのに相応しくありません。それは、我が帝国にとっての害です。それを連れて歩くことは、あなた様の品格を貶め、延いてはお父様の名声にも泥を塗る事になりましょう。」


 コルメロ張り付いた薄ら笑いは見る影もなく、より醜悪に、より下卑た顔でワグの方を見た後、俺の方に如何にもあなたの為に言っていますの顔をしてくる。

 話題が移ったのか、動向をうかがっていた周りの貴族たちの視線がこちらに集中している。

 ワグは先ほどの会話など無かったかのように、眉間に皺を寄せている。

 そんな、様子にコルメロが反応する。


 「なんだ、生意気な目をしおって!?野蛮人風情が、私は客人だぞ。やはり、あんな処で育った者は皆、獣以下の畜生ばかりだな!公子様見ましたか?これの目は最早、人間の目ではありません。私めに命じて頂ければ直ぐに不敬罪でこれを引っ捕らえて見せましょう!いや、こんな者に人間の法を科すだけ無駄だ、今すぐこの場で切り捨ててしまいましょう!。」


 コルメロは、自分に注目が集まってきたのを自覚したのか、その物言いは段々と大きく、芝居がかった言い方に変わり、とうとう弁護士ドラマの主人公よろしく大声を張り上げた。

 ナチュラルハイだな。

 これが罷り通ると思ってしまうから人種問題って怖いよな。


 周りの注目は完全に俺に集まっている。

 カイサルはこちらに来ようとしているが、それをマリアンヌに止められている。

 トーラスとフラムベリカは、こちらを見守っている。

 バレットは、ジャジャルディと何やら心配そうに話している。

 ルルティアは…………ダメだ、こっちを見ているけど口の中ぱんぱんにお菓子を詰め込んでやがる。

 

 さてと、こいつの意図はわかる。

 誰の後ろ盾もない真っ白な俺に取り入りたい、この場で存在感を示し北部での発言力を上げたい。

 まあ、そんなところだろ。

 しかし、それとこれとは話が違う。

 今のワグは仮にとはいえ俺の騎士で、こいつはそれを侮辱した。

 俺の優先順位に照らし合わせるならば、今の一番はワグだ。

 俺がワグを口説ききれなかったように、物事は過程と結果が伴わないことがある。

 それをこいつにも教えてやろう。


 「つきましては、このコルメロが公子様にぴったりの騎士を見繕いましょう。いかがでしょうか?」

 

 こいつ完全に自分に酔ってるな。

 しかし、会話の主導権をこちらに引き渡した。

 これで、こいつは詰みだ。


 俺はワグに笑いかけるように目配せをする。

 『あの時の顔が一番気持ち悪かった』ー----ワグ談。


 「伯爵の言いたいことはわかりました。」

 「おお!ではーーー」

 「その前に一つ。彼の名前はワグです。ワグは幼いころから領都で育ち、騎士入団試験も正規の手段で合格しました。」

 

 にかりと笑いながらワグを紹介する俺に、何を言うかという顔で見るコルメロ。


 「公子様はまだ幼いのでご理解されないかと存じますが、獣は何処で育とうと所詮獣です。騎士団の件にせよ、公爵様の恩情にすぎません。」

 「つまり、そういう事ですよね。」

 「……………はい?」


 俺の言ったことに全員が反応する。

 これから何が起こるのか全く分かっていない顔だ。


 「父は恩情さえあれば、国の軍務卿という重要な地位に就きながら、獣と同然の者に騎士団入団を許す。獣にも劣る無能だと、伯爵は言いたいのですよね。」

 「「「「「「「なっ!!!!!」」」」」」」


 突然の爆弾発言に一同が、戦慄する。

 自分の発言が地雷を踏み抜いたのを、自覚したのかコルメロは、額汗をかき酷く狼狽している。


 「なっ!何をおっしゃいますか公子様。私は、公爵家の為を思って申し上げたのに、その様に取られてしまうとは心外です!いやはや、公子様にはまだ早すぎる内容のお話だったようですね。」

 「それだけではありません!!」

 

 確かに、このままでは言い逃れられてしまう可能性が高い。

 だからここからは、少し熱量を上げてプレゼンをしよう。

 

 「彼は今、僕の騎士です!父は僕に騎士を選ぶ権利を与えてくださいました。そして公爵である父が下した決定に、伯爵は有ろう事か侮辱を加えて口を出したのです。この件に関して、騎士への侮辱は僕への侮辱、僕への侮辱は父への侮辱!」

 「そっそんな………」


 少しだけ感情的に熱弁した御かげで言葉に説得力のようなものが出る。

 まわりの人間が俺の話に聞き入っているのが解る。


 「そして!帝国筆頭騎士(ペンタゴン)への侮辱は、そのまま皇帝陛下への侮辱と同義!!すなわち、国家反逆罪となってもおかしくない!」

 「なぁに!!」


 言い表せない言葉が、伯爵の口から出てくる。

 大衆も、まさか皇帝の名前が出てくるとは思っておらず、事の深刻さを自覚したらしい。

 そりゃそうだ、路上の喧嘩が世界大戦に発展したようなものだからな。

 ナチスの存在を知っていれば、セルビア人もサラエヴォで大人しくしていただろう。


 「騎士(サー)ワグ!」


 ここで、後ろに控えているワグにスポットライトを当てる。

 こいつもかなりストレスが溜まってそうだし、ガス抜きが必要だろう。

 ワグは自分を巻き込むなと言った顔で俺を見る。

 しかし、俺はやめる気はない。

 

 「国家反逆罪の刑罰は!?」

 「…………首謀者は即死刑、血縁者全員奴隷落ちです。」

 「ではまず、首謀者の死刑からだ。」

 「…………」


 ワグは周りを一瞥した後、ゆっくり俺の横を通り過ぎ伯爵の前に出る。


 「そっそんなばかな!?こっ公子様。これは、これは誤解なのです。私は決して、決して公爵家を軽んじているわけではなく!!」


 コルメロは後退りながら、最後の弁明を始める。

 その姿は、殺虫剤を掛けられて悶え苦しむ、昆虫の様だ。


 「こっ公爵様!!どうか、ご子息を御停めください!きっと、先日の事件がご子息を変えてしまったのです!!このコルメロは変わらずあなた様へ偽りのない忠誠を誓っております!なので、どうか、どうかご子息を!」


 俺に取り付く島がないとわかると、直ぐにこの場の絶対権力者に泣きついた。

 

 「悪いけど、伯爵の言う事よりもユークリストの言う方が説得力があるね。」

 「そっそんなぁ………あっ。」


 カイサルも止めない。

 俺のやることを最後まで見たいのか、それともカイサル自身も誘拐事件の、俺への影響を見たいのか。

 会場中央に向かって逃げようとする伯爵を、追い詰めるように歩み寄るワグ。

 と、その後ろの俺。

 中央の突起に躓いた伯爵が、その場に蹲る。

 

 「だれか、だれかいないのかぁ!!」


 返事は帰ってこない。

 代わりに、褐色の死神の足音が会場を木霊する。

 伯爵は味方が居ないことを悟ったのか。


 「ふっ、ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 発狂した。


 「私は、陞爵した伯爵だぞ!貴様等の様に、ただ生まれだけを食い潰して生きてきた連中とは違う!!私は努力してこの地位を手に入れたのだ!血筋だけが取り柄の無能に頭を下げて生きてきた!それをお前の様なクソガキと、そこの獣風情に奪われてたまるかァ!!」


 これが最後の残りっ屁ってやつか。

 もう死ぬんだから、最後に言いたいことを言ってやるという気概が、こちらまでビンビン伝わってくる。

 ポイ○ンだな。 

 言いたいことも言えないこんな世の中じゃ~。


 「黙れ。」


 そう短く言うと、ワグは腰に差した短剣を抜き、騒ぎ立てるコルメロに近づく。


 「黙れだと!貴様誰に口をきいぎゃっー-」


 顔を突き出して睨み付けるコルメロの顔面にワグの拳が強襲する。

 コルマンは顔面を手で押さえ付けながら蹲る。

 周囲は、殴られたコルメロを見て痛ましい表情をする。


 「…………主を侮辱された。」

 

 周囲を見渡し、そう口にするワグ。

 大義名分の為とはいえ、俺に対して主という言葉を使ってくれて、ちょっと嬉しい。


 「ひっ……!」

 

 すっかり怯えたコルメロは完全に、虐待された子犬のようになっている。

 

 「ワグ…………」

 「………はい。」


 ワグは伯爵に向けて持っていた短剣を突き立てて、コンパクトに振り下ろした。



 それは、そのままホールの床に突き刺さった。

 床にはコルメロの血の代わりに、生暖かい液体が広がっていた。

 血とその液体の共通点を上げるなら、どちらもコルメロの体内から出た事だ。


 「うわっ………」


 どこかからか、そんな声が上がった。

 伯爵は白目を剥いて失神している。



ーー



 それからは、公爵家の騎士がやってきて伯爵を回収して行った。 

 貴族の連中には、驚愕よりも恐怖の方が残ったらしい。

 俺に近づいてくる貴族はいなくなった。


 兄姉達は俺の方に近寄り、大丈夫かどうか心配してくれた。

 カイサルとマリアンヌは少し誇らしげな顔をしていた。


 後から聞いた話では、あの豚野郎は北部の人間よりも、中央寄りの人間だったらしい。

 だから、俺が豚野郎を公衆の面前で叩き潰したことは、北部の人間にとって好都合だったらしい。

 カイサルからも『余計な手間が省けた』と言われた。


 現在俺は、ホール二階のバルコニー部分で、馬車に乗って帰って行く貴族達の姿を眺めている。

 ワグも一緒に。


 「これでパーティも終りだから、ワグもこれで俺から解放されるね。」

 「…………」


 グラスを片手に、後ろに立っているワグに話しかける。

 この二年間色々なことがあった。

 彼との淡く切なく美しい思い出が、グラスの中を駆け上る泡の数だけ思い出される。

 

 何て事は無く。

 基本的に俺がワグの所に押しかけて、無視されるというのがテンドンだった。

 何て事は無い、ありきたりな日常だった。


 「最後に一つ、質問がある。」


 彼にも何か思うところはあるのか、少ししみじみした空気になっている。

 

 「なに?」

 「なぜ俺に、あの男を殺させなかったんだ?」

 「なんだ、そんなことか?」

 「何?」

 「あの場であの男を殺しても何にもならない。仮に殺したとしても残るのは、残虐な公子が手持ちの猛犬を焚きつけて、伯爵を殺させたって事実だけだからね。」


 というよりも俺の指示で、ワグに人を殺してほしくなかった、ていうのが本音かな。


 「それに、善人にとって死ぬことは罰になるけど、悪人にとって死ぬことは救いにしかならない。あいつは、これから眠るたびに今日の事を思い出し苦しみ続けるんだ。それだけで、俺は十分だよ。俺の騎士を侮辱したんだ、死ぬだけじゃ済まさない。」

 「……………やっぱり、気色の悪い奴だな。」


 ガキから、奴に変わった。

 昇進したと思っていいのかな?


 ワグは踵を返し、ホールの方に戻っていく。

 さてと、慌ただしい一日が終わった。

 とにかく今直近の問題は、誰を専属騎士にするかだ。

 明日あたり、アルマンに掛け合ってみるか。

 それとも、別の奴を掘り当てるか。

 

 「ユークリスト様、失礼いたします。」


 後ろを振り返ると、ソレイユが立っていた。

 足音を立てずに、ここまで近づいたのか?

 いや、ただ影が薄いだけだろう。


 「まだ帰ってなかったのですか?屋敷の門が閉まれば、今度は敷地内から出られなくなりますよ。」

 「いやぁ、これは手厳しい。帰る前に公子様に挨拶をと思いまして、こうしてまいった次第です。」


 幸の薄そうな丸い眼鏡の奥からは、さらに幸の薄い笑顔がある。

 男は、襟足部分をポリポリと搔きながら、面目なさそうに苦笑う。


 「さて、公子様。」


 どうせこいつも、つまらない口上でも述べるのだろうか。


 「私、アルクシア商会の。」


 ?アルクシアって確か俺を誘拐した商人のー--。


 「ナーベリックと申します。」

 「ッツ!!」

 

 一瞬、体が硬直する。

 は!?今こいつなんて言った。

 俺は反射的に【変形】の魔法で手に持っていたガラスで簡単なナイフを作る。

 男の方に身構えると、既にそこに、奴の姿は無かった。


 「さすが公子様ですね。初めて魔法が使えるようになったのがつい先日だというのに、もう上達しているではありませんか?やはり、私の目に狂いはなかった。ところで商品は気に入りましたか、御父上にも伝えましたが、あの子に関してのいざこざは、すべて私の方で片づけますのでご安心ください。」


 既に俺の後ろに回っていたナーベリックは、前と同じローブの姿に戻り、バルコニーの脇に設置してある椅子に座り込んでいる。


 「別にお前が何をしようと、スティア(あの子)には指一本触れさせないぞ。」


 短剣を身構え凄んでみるが、いまいち迫力が足りない気がする。


 「まあ、貴方ならそうするでしょうね。それに先ほどのショーも大変見事でした。この不肖ナーベリック感激で涙が、おっと失礼。」

 

 わざとらしく、目元を拭う。

 よくもまあこんな薄っぺらい言葉が、次から次にすらすらと口から出てくるなあ。

 前世の友人も言っていたな、『0.01ミリの方が気持ちがいい、大丈夫破れないって。』そいつは、2年の前期で消えてしまったが。

 つまり信用性がゼロって事だ。


 「それで何をしに来たんだ。」

 「先ほども申した通り挨拶にですよ。」


 何を言っているんですかと言わんばかりに、こちらを見る。


 「うそだろ?」

 「本当ですよ。それに、ここはあまり好きではありません。厄介な犬が居ますからーー」



 ナーベリックからほんの少しだけ殺気が漏れる。

 かなり気持ち悪い。

 あの時の盗賊たちが、可愛い三つ子の赤ん坊に見えてしまう。

 恐怖で足が竦んでしまいそうだが、こいつの前でだけは弱いところを見せてはいけないと本能が警鐘を鳴らす。

 

 ホールの方向から、こちらまで一直線に向かってくるものがる。

 それは、俺に直撃する寸前で進路を変え、衝撃による加速を利用してナーベリックを襲撃した。


 ナーベリックはそれを左手で受けると、条件反射的に右手の貫手で襲撃者に反撃を放つが、そこには既にに襲撃者の姿は無い。

 というのも、俺の位置が変わっていたのだ。


 あの一瞬の攻防で俺の体を、鮭の卵を扱うように繊細に移動させたのは、今宵限り専属騎士の称号を受けた、褐色の肌の少年だった。


 「ワグ……」

 「素晴らしいですね、体術だけなら私以上でしょう。一応、お名前を伺ってもよろしいですか?」

 

 ローブの中からナーベリックの笑みが零れているのが分かる。

 ワグは俺の方を振り向いた。

 今まで見た中で一番いい顔をしてる。

 宛ら、少年漫画の師匠キャラが主人公を逃がすための殿を務めるときの顔だ。

 おい待て待て!お前にそんなの望んでいないからな。

 

 ナーベリックの方を振り返る。

 一瞬の間が開く、走馬灯のように長く感じる。

 ワグの眉間に皺がない、代わりに新しい何かが、彼の中に宿ったようだ。

 

 「我が名、ワグ・ソトゥン。ユークリスト・スノウ・グリバー、唯一人の騎士。」

 「………へぁ?」

 

 何が起きたか分かるか?

 いや、俺にはわかる。



 ワグ・ソトゥンが俺の仲間になった。


評価とブックマーク。

良いねと感想、よろしくお願いしまーす。

お読みいただき誠にありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ