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二の砦の目前に迫った魔の森、出来ればもうひとたび距離をかせぎたかった。しかしそれが他領ならめんどくさい事になる。王国の制度は知らないが、過去の経緯から他国に逃亡するのが正解のような気がする。
「影丸、おまえは魔の森に対する王宮の意向をさぐれ、5人連れていけ、無理はするな」「はい、しかし男爵様は如何されるのですか?」「今は逃げる手段もある。もう少しこの魔の森で暮らしてみたい。しかし拠点にするなら砦より街の方がまだ防御がしっかりしている。無理なら僕も隣国にいって商会を立ち上げる」「分かりました。ではごめん」
ペガサスに騎乗した80人の騎馬隊は上空から男爵屋敷のある街の状況を偵察する。以前とたいして変わらない。魔獣も入り込んでいない。街の広場に全員が着陸する。「街の防御壁を確認して破損しているところはすぐに直せ」修理に五カ月掛かった。破損の状況から前よりも強度をあげたところも多く、修理というよりも建て直しといった方があっている。千人規模の街に80人とは少し寂しい。僕の生活に、やかたに5人来てもらった。勿論、凜は奥さん待遇で来てもらったけど。まだカラダの関係は無い、でもその内・・・。
街の訓練場では厳しい訓練が連日行われた。勿論僕も参加している。僕が彼らに望むのは忍者の技術だ。殺気を殺したり、あらぬ方向から殺気を飛ばしたり、遁走術、変装術、精神魔法系の影縫い、影走り、諜報活動、暗殺術、いろいろな技術を確立したい。
街の防衛に以前造った重機型ゴーレムを24台をまた作った。整地目的の構造で簡単な疑似自我しかない。砂魔法を使った整地を主に行う。攻撃も出来る。灰色狼ゴーレムも多数。特に地上戦における灰色狼との連携強化を重点にした。忍者の世界では灰色狼のことを忍犬という。
僕がこの街に戻ってきた理由はただここが今の僕にとって快適であるということ。僕一人なら食料など、わけがない。衣類も面倒くさいなら商会に頼めばよい。孤独感もない。奥さんもいるし、100人の仲間もいる。魔獣の出現には波があるようだ。大勢で押し掛けてきたら一時空に逃げればよい。前回みたいに青息吐息で全滅覚悟で戦う理由は無い。
今日も訓練で汗だくになって、館の温泉にはいる。生きている気がする。凛が薄物を着てかいがいしく洗ってくれる。麻のひとえなので官能的だ。街は完全に森に囲まれている。もう街道の痕跡もない。壱の砦、弐の砦は魔獣の攻撃にも、経年劣化にも耐えられるよう作り変えた。街から砦までの魔獣を回避しながらの進軍訓練につかったりしている。
僕はアバター3体を使って魔獣の森の探検にはまっている。僕自身は出ない。安全な館で凜の側にいる。ペガサスは上空で隠密を使って隠れている。魔獣3匹に対して僕はアバターゴーレム一体をおとりに使い、2体で一匹を始末させた。おとりがすぐに帰ってくる。木の上で待機していたアバター2体が飛び降りざまもう一匹をしとめた。おとりは隠形を使って姿を木立の影に隠す。一瞬魔獣は戸惑う。その一瞬で勝負は決まった。3体のアバターの攻撃により息絶える。
5匹の魔獣がすぐに来る。まったくこの魔獣の森は無限に魔獣を生み出す器官のようだ。アバター3体がすぐに弓を取り出し弦を引き絞る、限界まで絞ったところで矢が出現し、放つと同時に魔獣の眼球を貫く。魔獣の眼球がはでに飛び散り3匹が倒れる。2匹は何があったかまだ認識していない。魔獣が戸惑った瞬間、生き残った魔獣の眼球に痛みが走った。アバター一体は不測の事態に備えている。
魔獣のコロニーがあった。50匹はいる。3体は認識したとたん矢をはなった。3匹が倒れた。次の矢をはなった。また3匹が倒れる。3回目の矢を放って場所を移動した。今度はバラバラに立ち位置をとって矢を同時に放なつ。魔獣は大混乱に陥った。アバター3体は常に移動している。アバター3体はてんでに魔獣の影に隠れる。影より矢を連射する。最後まで魔獣は攻撃者を認識できないまま全滅した。
王都で影丸は王宮に忍び込んだ。王宮の人の立ち入らない部分を拠点として、6人は仕事に勤しんでいる。いつのまにか王宮の人間が行方不明になり、影丸たちがその人間に成り代わっている。行方不明になった人間がその後どうなったか誰も知らない。影丸たちはだんだん大胆になっていく。王宮に個室をもらい、付け人もつけられる。傲慢不遜にふるまい、どんどん権限を拡大させていく。いつのまにか宰相を顎で使う立場になっている。だれも不思議に思わない。
男爵邸に影丸より密書がきた。国より僕が辺境伯に任じられる。魔の森の拡大によって影響を受けそうな土地の接収を許可する。周囲の貴族に魔の森の対策に限り強権を振るえるとある。????。僕は影丸に魔の森に対する王宮の方針を探れと言ったんだよ。辺境伯に任官なんてやだよ。第一、魔の森の拡大など人間に止められない。
男爵邸に全員を集めて会議が行われた。あるじ様、今回の会議はどのようなことを決めるのですか。緊急の会議にとまどっている。僕は馬鹿たれの影丸の密書を皆に見せた。どうすればいい?だれも何も答えられなかった。
僕は何も見なかったことにした。その日、凜が妙に弱弱しく無防備に見えた。気が付いたら雪も欺くような真っ白いからだに美しい黒髪が床いっぱい投げ出されていた。周囲には凜の着ていた衣服がみだれ散っている。僕は、僕は何をしたのだ。
僕はアバター5体をひき連れて魔獣の森で狂ったように剣を振るっている。僕ひとりの意識が6人に分かれ、6人がはっきりと互いを認識している。たとえば無意識に5本の指を動かしそこになんの違和感も無いように6人が12の視覚を共有している。聴覚も、臭覚も、そして第六感といわれる意識の根幹までも共有している。
王宮に対する返事は出さなかった。答えられるわけがない。影丸も王宮より戻ってきた。ただひとつ変わった事があった。王宮が骨の髄から魔獣の森の現実を知ったのだ。だから何か出来るとも思えない。
僕は凛に結婚を申し込んだ。




