2 男爵領
男爵領の魔の森は成長してます。
男爵領
20220904
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男爵領の開拓は面白い。前回の開拓型ゴーレムとの探検に味を覚えた僕は忍者型ゴーレムを開発した。男性型忍者ゴーレム5人、くのいち型ゴーレム3人、全員で魔獣の森の中心まで探検である。僕も五感を共有した状態で、屋敷から動かず気持ちだけ同行する。今回は薬草の調査である。人間が立ち入ることの出来ない場所だ。巨大な蜘蛛がうようよいる。透明な粘液を絡めた糸を網のように投げ広げてくる。忍者隊はそこから一歩も進めず探検は失敗した。怖かった。
女性型ゴーレム30人男性型ゴーレム50人が王都及び中核都市の商会の標準人員構成となった。僕の経済基盤は商会の収入だけで十分である。
しかし男爵領は異なる。この森は成長している。このままでは領は10年で森に喰われる。とてつもない研究結果が森の管理者から報告された。「何をすれば食い止められる」僕の声は震えていた。開拓型ゴーレムとの1次探検は興味深いものであった。忍者ゴーレムの2次探検は成果も無く、死の恐怖以外何もなかった。僕は逃げようと思った。
街の管理者から提案があった。「男爵様の魔法で森の木を伐採出来ないでしょうか」「僕の魔法は砂魔法だよ?」「砂はやすりと同じです、刃を薄くして円盤状の回転刃をイメージしてください」
「考えてください、森は中心から放射状に成長しているんですよ。男爵屋敷と街を守るだけなら、出来るかもしれない。僕らは街の行政機関を中心に放射状に森をくい止めたとします」僕に言われなくともみんな分かっている。他の部分で森は成長していく。気が付かないうち街は森の中に取り残されていく。ここまでの街道も無くなるだろう。それなら商会を世界展開して僕らは常に安全な場所に移動し続けた方がいい。
会議は現状認識といった意味では有意義だった。そして今は近眼的な視点で対策しよう。僕の魔法にみな期待しているのだ。僕は森の管理者の見ている前でひたすら砂魔法の新しい研究に着手した。その間も開拓型ゴーレム300人による森の伐採はおこなわれている。期待されているのはわかる。でも泣きたくなる。なぜみんな僕の意見に賛成しないのだろう?
ゴーレムの作成と魔法の研究がまた僕の日課になった。ゴーレムに魔法を使わせることは出来ないか? 僕は自分の砂魔法の研究と同時にゴーレムに魔法を使わせることに夢中になった。
森の木に向かって土魔法で砂鉄で薄刃の円盤を作り高速回転で飛ばした。また別の機会ではダイヤモンドの粒子を立木の根元に近い部分でドーナツ状に高速回転して木を削り倒した。ダイヤモンドは魔の森には豊富にあるのです。砂のなかにも砂として存在するわけです。
魔石に書き込む魔方陣も寝る間も惜しんで研究します。「ご主人様、風呂が湧きました」凜が薄物を身に纏って呼びに来ます。いちどリラックスしてすべて忘れてしまった方が良いのです。僕はいそいそと風呂場に向かいます。浴場は大きくてふたりで互いの体を洗いっこします。僕は風呂場で思いつきました。「ゴーレムが魔の森を離れがたく思っているのは、濃厚な魔法素子に原因があるのかな?」僕はこの考えはあっていると思います。それならこの領は大事にしないといけない。
風呂場は僕の憩いの場所です。凜との思い出がいっぱい詰まっています。僕はゴーレムの発想を変えました。現在日本で言うならば、超高度AIを搭載した砂塵刃と砂塵渦巻を武器とした重機型ゴーレムです。僕の魔法で一人ちんたらやっていてもラチガアキマセン。これを増産して魔の森の境界を現状のまま固定します。開拓型ゴーレムもあと10000体必要です。そこまで広大な森なのです。僕は覚悟を決めたのです。この森の境界を守ることが凜を守る事なのだと。しかし問題もある、僕の寿命の問題だ。一日ゴーレム一体しか作れない僕に死ぬまで作業しても時間が足りない気がする。
難しい事は分からないので、僕は凛と格闘技の練習をする。プロレスごっこだ。忍者隊ともやったが僕はひどい目にあった。しかし体術の練習にはなった。
今度は密室で凛とやってみる。素人の凜とやって練習になるか疑問だったが、とんでもない、忍者隊とやるより断然有意義だった。薄手のワンピース姿で来た凜を僕は後ろから脇の間に両腕を入れて固めた。もだえる凜の姿は煽情的だった。勝負は無制限一本勝負、僕が勝利を宣言するまで凜の負けは認めない。半裸になった凜のあられもない姿に僕も困惑する。さすがこれ以上は無理だ。僕は声高々に勝利を宣言する。
魔の森の管理者は僕の立会いの下、魔の森と街の境界に杭を円状に打ち込んだ。この杭の中が我々が死守すべき生活の空間である。全員が事の重大性をなっとくしている。僕の作り上げた重機型ゴーレムも数が12台になり、男爵屋敷を中心に時計の数字よろしく12に分かれて進軍した。僕は館の近くに新たに建てたゴーレム制作用の作業場にいて、自分の分身つまりアバターを作ろうとしている。ゴーレムと五感を共有するのもありだが、自分だけの意識で動ける分身が欲しい。アバターを数台作成して今は同時に稼働して試運転の最中である。一匹の魔獣オーガーを3体で取り囲み攻撃が出来たら無敵である。
森に分け入るとすぐに魔獣オーガーが威嚇してきた。僕もアバターゴーレムを操作して開拓型ゴーレムを指揮しながら、自身もまた武器を取り戦った。戦いは長期戦になり、泥沼化してきた。僕は指揮官だ。無様な戦いは出来ない。なんとかゴーレムをまとめ上げ、一対複数の戦略を取ることが出来た。戦いが終わって冷静になると恐怖で体が動かない。ゴーレムに抱えられるようにして帰路についた。これが毎日続くのか。僕は凛を抱きしめて震えていた。
男爵屋敷の定例会議で商会を周辺の国にも立ち上げることに決定した。僕はもろ手をあげて賛成した。男爵領がつぶれたら国外に逃げるしかない。王宮は僕を保護してくれないだろう。それどころか、王宮はこの領を管理する僕の責任を問うだろう。それが僕に男爵位を与えた目的じゃないのか。
ゴーレム達にとっては魔素の濃厚なこの場所が重要なことは分かっている。しかし僕は怖い。会議で森の開拓には偵察隊、戦闘隊、開拓隊、救護隊の4隊に分けることにした。いずれの隊も戦闘は避けられない。偵察隊には僕もアバターゴーレムで参加する。戦闘隊は文字通りの魔獣との戦闘である。これにも参加したい。僕も強くならなければ王宮にも魔獣にも殺される。救護隊はよくわからない。たぶん遊軍か?
ゴーレム兵士10体の小隊を組んで、僕は森の浅い部分を円周上に調査している。すでに度重なる会議で森の拡大をくい止める事は諦めた。最近の計画では①館を中心とした街と畑、牧場の死守。②街道と砦の死守。この砦の数と街道の長さは将来増える事が確定している。③森からの脱出の手段の確保、おもに僕に飛行型ゴーレムをつくれといっているようだ。出来るかなぁ?
森の浅い所にゴブリンの大集落があった。ゴーレム10体の小隊では荷が重い。激戦になった。少しづつ追い詰められていく。300匹はいると思はれるが正確な数はわからない。僕も何匹殺したか覚えていない。一人が足をとられた。「たすけろ!」僕は思わず叫んでいた。忽ちの内にゴブリンは倒れた兵士に群がりはじめて山となった。やがて兵士の魔石が砕けて死んだ。味方の兵士は何も出来なかった。
帰路の脚は重かった。ただ逃げるだけで精一杯だった。こんな浅い森の外周部に化け物がいるなんて。部下の兵士が肩を貸してくれた。ときどき10匹程度のゴブリンが行方をさえぎった。戦闘は夜をつぎ朝まで続いた。街に帰ったときには生き残りは僕と肩を貸してくれた兵士の二人きりだった。




