1 王宮を追い出されて
砂魔法使い
20220902
僕は砂魔法しか神より与えられなかった。一応僕も王族の一員であるが、名ばかりの王族である。王位継承権も名前ばかりのものである。どこかの国に人質としておもむく価値もない。だいたい父親である王の顔も僕は知らない。
王宮に半ば幽閉された状態で育った僕は、友人も親身になってくれる人もいなかった。と言っても周りは僕のことなど無関心。ただ王の子供というだけで行方不明になったら困るだけだ。事故や病気で死亡するなら構わない。逃亡や王宮の外に出るのが困るのだ。だいたい王は行きずりの身分も知らない女性の美しさに、一瞬我を忘れいっときの劣情のおもむくままに襲ったのだ。その時生まれた僕のことなどとっくにわすれている。母も僕の出産のとき息を引き取った。父は母の名前も知らないだろう。
僕は王宮の片隅の砂場で砂魔法を一人で練習した。誰も僕には関わりたくない。時間はたっぷりあった。砂で小動物の栗鼠やネズミゴーレムを作った。僕の強い想い故か、ゴーレムは意思を持ってくれた。僕の思いを忖度して動いてくれた。いや僕の思いがゴーレムを動かしているのか。僕にはわからない。どうでもいい。僕に甘えてくれるゴーレムが可愛い。
やがて五感を共有することが出来た。僕は外の生活を知る手段を持った。ゴーレムは魔法素子マナを周囲より摂取して活動している。僕はいろいろな能力を時々にゴーレムに求めた。隠密能力、追跡能力、地図化能力、自己修復能力、自己学習機能、不思議なことに僕のゴーレムはそうした能力を身に付け始めた。言い忘れたが僕のゴーレムは砂から出来ている。だから追い詰められたら一瞬に砂の形状に戻れる。
僕は強くなるための師を強く求めている。ネズミゴーレムが城の騎士訓練所で武術の訓練風景を目撃した。僕はネズミの五感を通して食い入るように練習風景を眺めた。練習相手が欲しい、教えてくれる人が欲しい。僕はその日から人型のゴーレムを必死になって作り始めた。最初はいびつな物であった。それでも隠密、地図化、追跡の能力は持たせた。だれかに見られたら大ごとになる。迷子になっても困る。僕のゴーレムなので主人である僕の位置、そしてゴーレムの位置は互いに分かる。
訓練が始まった。ゴーレムの力を僕の身体能力にして互いに打ち合う。周りを小動物型ゴーレムに監視させて技術の向上に繋げようとした。多くのゴーレムと五感共有した状態で人型ゴーレムに戦いを挑んだ。いや正確には人型ゴーレムの五感も共有した。こんな状態で練習に成るのかと思う人もいるだろうが、これこそ練習だ。技術を知らない素人が、自分の方法で戦い方を学ぼうとしている。人の持たない力を使いこなさなければ戦いにならない。
僕は自分の将来を悲観している。このまま王族としていられるわけがない。僕は兄弟の顔も知らない。質素な小屋のなかで生かされているだけだ。食料もたまに忘れられることがある。催促するとめんどくさそうに、ありあわせの物を出される。力を持たないと、きっと、とんでもない将来が待っている。僕の時間はほとんど人型ゴーレムとの訓練にあてた。そして残りの時間は計算と文字の一般教養にあてた。近くに貴族の学校がある。僕は小動物ゴーレムを紛れ込ませて、最低の基礎教養を学んだ。
ゴーレムは常に改良した。より人間に見えるように、動物に見えるように。格闘術や武器術も小動物ゴーレムによる訓練場の監視により、その五感を通して学ぶことが出来た。ようは僕は一般の騎士程度の能力は年相応に身に付けたのだ。
僕は人型ゴーレムの女性型の開発に夢中になった。誰でも異性に興味を持つ時期はある。発情期というらしい。人との接触の機会の無い僕は女性型ゴーレムを作ることにした。いままでの膨大な研究成果をもって砂魔法でゴーレムを作った。僕は作り上げたゴーレム達を人間の社会で生活させた。得る物は多かった。人間と見分けのつかないゴーレムの開発は僕を夢中にさせた。誤解無いように言っておくけど僕は科学者ではない。砂魔法使いだよ。
得る物は多かったて?そうだよ、人間と変わらないゴーレムの開発は、僕だって人間社会で生きていけるということだ。武器になる。女性型ゴーレムを多数作り王都で働かせた。最初は接客業からだ。つまり水商売。そこでゴーレムに人間を学ばせた。男性型ゴーレムを作り民間相手の傭兵団を作り、みかじめ料をとった。暴力団ともいう。このまま王都の裏社会の顔役になろう。
女性型ゴーレムにも疑似的羞恥心はある。羞恥心は特に繊細に作った。それは人間以上に異性や同性にセックスアピールとなる。体もそれに反応する。羞恥のより身体が硬直したり、或は弛緩したり、青くなったり、赤くなったり、震えたり、叩かれたら萎縮したり、恐怖のあまり泣き出したり、うずくまったりと反応を返す。女性型ゴーレムを接客に指名した客は異性であり、同性であっても、彼女が人間であることは疑わない。
男性型ゴーレムも疑似自我を有している。事に当たり果敢であること、誠実であること、女性や弱者に優しいこと、正義と人間の命を軽んじないこと。そして恥じらいや図々しさ、臆病や勇気、他人を思いやる気づかい、協調性、リーダーシップなど、あらかじめ用意されたものの中で言葉と感情発露、動作として相手に返す。ときには暴力として。
王が退位する直前に僕に男爵位を与えてくれた。完全に忘れ去られたわけではないらしい。辺境の魔の森の全域が僕の領土である。魔の森の外れに小さな屋敷をもらった。その屋敷で小さくなって一生暮らせということだ。自給自足出来るように畑と牧場が付いている。事前に家畜と野菜の苗や種などが用意されている 。
誰もが魔の森が人間の領地だと思っていない。あそこは隣の国との境だ。高山が続くので魔獣が隣国に行くことは無い。魔法素子マナが濃く森に立ち籠り魔獣が住む土地だ。人間は多分住めない。魔法素子マナにより人間の体が侵されるのだ。
僕は王都の外れに小さな屋敷をゴーレムに買わせた。そこが僕の王都における秘密の商売の拠点だ。ゴーレムを使った裏社会の商売をしている。経営責任者もゴーレムだ。僕は馬車を買って魔の森に同行するゴレームとともに王都を出た。
「魔の森まで約30日間掛かります」女性型ゴーレムの凛が予定を述べる。護衛も馬もみなゴーレムだ。人間なのは僕だけだ。しかし人型ゴーレムもゴーレム馬も人間と動物と誰もが思う。王都で長い間、風俗業と暴力団をやりながらゴーレムの改造に励んだおかげで、誰もがゴーレムと思わない。僕は凛の美しい肢体を着衣の上から愛撫しながら思った。凜は恥ずかしそうにうつむく。こういった仕草も人間の女性にしか見えない。
護衛隊長が馬車に報告に来る。「男爵様、山賊です。数30名」「殺せ」僕は即座に命令する。あらかじめ飛行型ゴーレムが30匹、馬車の周りの状況を調査している。即座に護衛隊50人が山賊狩りに向かう。
護衛隊の弓兵が間合いに入ったとたん合図もなく一斉射撃をする。ゴーレムの命令系統は昆虫ににている。個々のゴーレムからすべての情報を受け取って瞬時に考える。考えたことがそのまま命令・実行になる。ここで山賊がゴーレム軍に大打撃を与えても、人間のように陣列が崩れる事は無い。僕を殺さなければ、いつまでも陣列を組み替えて戦いは続く。
山賊の拠点が発見された。戦いのとき幾人かの山賊をわざっと逃がしたのだ。「大変だ、戦いは負けた、全滅だ」逃げ帰った山賊が大声でわめく。拠点は昔の砦の跡地であった。「馬鹿な、30人もいたんだぞ」「敵は50人、めっぽう強い」山賊たちは大慌てだ。そこに灰色狼の群れが飛び込んできた。次々に男たちの喉仏を食い破る。山賊の拠点から慰め者として捕まっていた女達や襲われて捕虜になった商人達が見つかった。金銀財宝が発見された。もちろん灰色狼たちはゴーレムである。
先触れを次の街まで出して、山賊退治と捕虜となっていた人々を預かっていることを知らせる。街の警備兵が確認のため現場にゴーレムの先触れとともに来る。
「これは見事です」街の警備隊は山賊の体に刺さっている矢をみて感心した。ほとんど全ての矢が急所を打ち抜いている。事情聴取は捕まっていた商人や慰み者になっていた女性などもいるので、あとは警備隊にまかせて出発した。事後処理として街に数人の男性型ゴーレムが残り、報奨金などをもらった。男爵位の紋章があるので問題ない。
男爵一行の泊りはほとんど野宿である。自我を持たないゴーレムを宿屋に泊めることに、なんの意味を見出せない。もともと王宮が僕を追い出したのは、僕が不要な人間であると判断したからである。一応男爵位と魔の森といえど領地を与えたことから、すべての清算が終わったと思っている節がある。街でゴーレムを宿屋に泊めて散財してかっこをつけても、僕にはメリットがない。
ずいぶん古ぼけた屋敷である。魔獣の森がここまで酷くなる前に、ここに街があったとのことだ。取りあえず僕の休む部屋と最低限の掃除をして、かしらであるゴーレムと打ち合わせる。開口一番僕は「街を作るぞ」といった。ネズミ型ゴーレムと栗鼠型ゴーレム、鳥型ゴーレムに森の調査をさせた。始めたのがこの近辺の魔獣の退治である。徹底的に駆除した。食料になる魔獣は僅かでいい。食べるのは僕ひとりだから。
木材を切り出し、建物の建設が始まった。僕は砂魔法でゴーレム作りに勤しんでいる。一日1体のゴーレムを砂魔法でつくる。ゴーレムは24時間開墾作業である。ゴーレムは見た目も話した感じでも人間だが、質問したことにあらかじめ用意した答えを返すだけの疑似自我しか持たないロボットのようなものである。
僕は魔法素子の濃度の濃いこの土地の砂でゴーレムを作ることに喜びを感じている。ゴーレムの中核を担う魔方陣はすでに僕の頭の中で出来上がっている。あとは強力な魔獣の魔石に魔方陣を念写するだけだ。砂魔法を発動すれば、魔方陣は自己修復魔法により僕が思い描くゴーレムを勝手に作りだしてくれる。魔石が破損しない限り再生は繰り返される。
開拓者型ゴーレムを作り続ける毎日に飽きたころ、幹部ゴーレムから王都の商会と男爵領を繋ぐ定期便の話が出た。早速飛行型ゴーレムを改良して幾つか試作してみた。最初は小荷物ぐらいから始まった。王都に魔法素子燃料チャージ用の設備を設けて、途中2か所ある中核都市にも同じものを設けた。しかし男爵領には作る必要は無い。なぜなら男爵領自体に他の場所の何倍もの魔法素子マナの濃度のガスが漂っているからである。男爵領にいる限りゴーレムはチャージ用の設備に繋がれているようなものだ。そして折角定期便が立ち寄る中核都市がふたつもあるなら、そこにもゴーレム運営の商会があっても良いと考える。ただ残念ながら商会の営業内容が男性型ゴーレムによる暴力団と女性型ゴーレムによる風俗店に限定されていることだ。男爵は決して商人としての才能があるわけではない。どちらかというと単純作業がむいている。
僕はいま一生懸命考えている。王都から魔の森までの街道の商品の運搬で収益を出せないか?折角王都から魔の森の男爵領まで商会の拠点が4つもあるのだから。男爵領に特産品があれば何とかなるのではないか? たぶん地下資源に手をつければ・・、もし黄金を産出したら国が黙っていないような気がする。何もかも取り上げられる未来が見える気がする。いま僕がトラブルに巻き込まれていないのは、みんながゴーレムについてよく知らないからだと思う。ゴーレムは戦争にも使える。寝る必要も無い。人間が要らなくなる。怖い。
僕はもう一つの可能性を考えた。商会運営に僕の名前は出していない。今後も出さない方が良い。僕の名前は王宮において汚点でしかない。それでも形だけの男爵位をさずけてくれた。隠れて生きていけ、といったところか。商会の運営も幹部ゴーレムの名前になっている。今後王宮が滅びるまでこの状態を保とう。商会の名前も出していない。外部から見ると個々の店が協力しあっているといったところか。商会といった存在はみえない。
王国にある10の中核都市全てに商会の支部を設置した。業務内容も相変わらず風俗店と暴力団である。王都と男爵領をつなぐ鳥型ゴーレムを使ったネットワークは頻繁に行き来して商会にはなくてはならないものになった。商会の出店計画は世界規模になってきている。男爵家方に明らかに過剰な資金はすべて送金した。臆病な僕は有り余る現金がトラブルの元になるのをおそれたのです。
男爵領の開拓は日進月歩で進んでいる。王より賜った屋敷は完全に修理が完了して、1000人規模の街が造られた。これよりさらに森に向かうと人間では身体的に支障をきたす。魔素濃度が生物の限界値を超えて高いのだ。しかしゴーレムには関係ない。開拓型ゴーレムは地下資源を発掘調査して地図に書き込む。10人が最小単位となり人が立ち入ったことのない深い所を探検する。僕は五感を共有して疑似的に探検に同行している。




