19話 告白
エレナさんといつものギルド酒場へやって来た。やはり高難易度のものが多い。
しかしそれ以上に内容が入れ替わっていることに驚く。つまり高難易度のクエストをクリアする連中がいるということだ。
ギルドのクエストは場所に関わらず全て共通のためどこの連中などは特定できないが…
その中に目を惹かれる依頼書があった。
「この人魚ってなんですか」
人魚と言ったらえっちぃ格好をした可愛いお姉さんをだろう?あれを討伐なんて心が痛みそうだ…
「人魚も知らないのか?人魚は凶悪だ。確かに見た目は美そのものだが、男をその美貌で誘惑して、巣へと連れ帰り、男に卵を孕ませ、卵が孵り終えたらその男の性器を食う」
「何それ怖い」
「だろうな。女の私には分からない怖さだが…これにするか?」
「エレナさんは、鬼ですか?まぁ良いですけど」
2人で笑いながら生半可な気持ちで受けてしまった。後に地獄を見ることになるとも知らずに…
人魚討伐の依頼を受け、ケルン大森林の中心あるハム湖に行った。水の透明度が低く濁った水は、ドブの匂いがして最悪だった。
「匂いがキツイな…」
「そうですね…」
かなり臭かったが、人狼であるエレナさんは鼻が利くだろうし、もっと臭く感じているのだろう。
(この匂いなんとかならないか?)
【紫陽草はすり潰すととても甘い香りを放ちます。それを液体状にして服につけては?】
木の器を作成!その中にハイドランジアを液体状にして物で満たす。
【作成中……完了しました】
手に木の器が現れその中に紫の液体が入っていた。匂いを嗅ぐと、臭いと思えるほど甘い匂いがした。
だが、ドブの匂いよりはマシだ。
手ですくいローブのフード部分に染み込ませた。
「エレナさん、これよかったら使いますか?ドブの匂いよりマシかと…」
「なんだこれは?」
エレナさんは木の器に顔を近づけ匂いを嗅いだ。そして手ですくい服に染み込ませていた。
「少しはマシになった。ありがとうなアスタ」
「いえいえ」
その時だった、何かの気配を察知した。
【3時の方角に、二匹の人魚と思われる生物を発見】
「エレナさん人魚がこっち側にいます」
「わかった」
そういうと、エレナさんは拳を握り締め、突撃してしまった。
「ちょっ!」
急いで刀を構え後を追うと、そこには二匹の人魚の死体があった。
「すごいですね!」
「こいつらは、少数では弱いからな」
前にアテナにステータスを覗いてもらった時に知ったが、エレナさんは僕ら4人より全然強かった。エレナさんがいるだけでとっても心強い。
【さらに20匹ほどの人魚を確認。おそらく巣です】
「ついて来てください。巣を見つけました」
「盗賊系の職業もとっているのか?本当に多彩なことができるな.....わかった」
さっきは良いところを見せられなかったので、今度はエレナさんより早く人魚のところへ突撃した。
しかし目に入ってきたのは地獄のような光景だった。口から管を通され、お腹を大きくして、逆さに吊られた全裸の男が10人ほどいた。
「いっ…痛い!痛い!痛い!」
1人の男の管が外れ叫んでいた。
見たくもない光景だ。
今まさにその男から人魚の赤ちゃんが生まれたのだ。
【熟練度が一定に達したため[強靭な神力]を獲得しました】
気が動転していたが、アナウンスとともに少し落ち着いてきた。
それでも相変わらず見るに耐えない光景だ…
人を殺すことに躊躇いが無い僕でも、思わず嘔吐してしまった。
「あ、あれは私でも辛い…アスタ戦えるか?」
後から追ってきたエレナさんが、その光景を見て気を使ってくれた。
【熟練度が一定に達したため[強靭な精神力]のレベルが上がりました】
【熟練度が一定に達したため[強靭な精神力]のレベルが上がりました】
【熟練度が一定に達したため[強靭な精神力]のレベルが上がりました】
4回ほどアテナのアナウンスを聞いたところでやっと動けるようになった。
「すいません。もう大丈夫です」
「よし・・・いくぞ!」
「はい!」
人魚は数匹程度では正直ゴブリンほどの強さしかない。
しかし人魚が持つアルティメットスキルが厄介だ。その名も[群集]
このスキルは、アテナ曰く同じスキルを持つ者同士のステータスをどんどん加算するという者だ。
例えば体力が100の[群集]を持つ奴が100匹いれば体力はカンスト値の9999になるというものだ。とても強力なスキルだがその分範囲も狭い。
〈火球!〉
〈狼雷〉
個々は相変わらず弱く、その割に経験値も美味しいが、数が以上に多かった。
「アスタ畳み掛けるぞ!」
「はい!父なる聖剣!」
〈雷吐息!〉
夕方ごろまで戦闘が続いた。
その間に約200匹ほどを討伐した。
エレナさんがいなければ負けていたと思う。
それほどエレナさんは強かった。
体力も魔力もかなり減ってしまったが、そのおかげでまた色々と強くなった。
まずレベルが40まで上がった。
それに対してエレナさんは3レベルほどしか上がっていなかった。
元のレベルの差だろうか?転生者の特権なのだろうか?後者だと仮定した場合は、優遇できないと言っていたあの馬鹿悪魔の説明が間違っていることになる。しかし嘘をつく必要性もないだろうし.....
手っ取り早く強くなれるし悪くは無い。
それに火球もレベル3まで上がり、人魚が使っていた魔法の水球とスキル水斬撃を獲得した。
一番大きかったことはレベル40になった時に獲得したスキル[傲慢]だ。
獲得する経験値の増加し、魔法やスキルを覚える確率が上がるというもの。嫉妬と合わせれることで破格の性能だ。
さらに50匹ほどではあるが素材として確保できた。
苦労に見合った成果を得られた感じだ。
「帰りましょっか」
「ふぅ・・・そうだな。さすがに疲れた」
ギルド酒場に戻る頃には、すっかり夜になっていた。
酒場では、ザック達3人もいた。そこに合流して夕食を取ることにした。
全員揃って良かった。隠すつもりだったが、やっぱり言う必要性がある。
今日エレナさんとデートして、またデートしたいと思った。次はあそこに.....あれをやろう.....と考えが次々浮かんでくる。
ザックとも、また男2人だけでクエストやったり、馬鹿なことして笑い合ったりしたい。
メロやココとももっと仲良くなって、色々なことをしたい。
4人のことを考えれば考えるほど決意が揺らぐ。僕は魔王にならなくてはいけない。
「なぁみんな。聞いてほしい」
「ん?どうしたアスタ?そんなに改まって」
「この世界は後四ヶ月もすれば滅びるんだ」
言いたくはなかった。
嫌われる覚悟はできている。
結果的にこのパーティーを追放されたとしても。
僕は世界が滅ぶと伝えた。
「何言ってんだ。もう酔っ払ってんのか?」
「そうだ!そうだ!」
みんな冗談だと思い笑っている。
どうすれば伝わるのか…
「真剣な話なんだ。僕は転生者で別の世界から来たんだ。おかしいと思わなかったか?この世界の常識を全く知らない僕を。この街の名前は知ってても、この街が属している国の名前すら知らない。理由は七ヶ月ほど前に、来たばかりだからだ」
つい感情的に話してしまった。
こんなことで伝わるわけがないのに。
「そうだったのかぁ〜」
しばらく全員が沈黙した後に、ココが口を開いた。
「今までめっちゃ大変だったじゃん!アスタはすごいね!」
「そうだな。敬服するよアスタ」
「わ、私ならすぐ諦めちゃうかも…」
「俺なら簡単に世界救えるけどなっ!」
何故こんな簡単に信用してくれるのだろうか。
「なんでこんなこと信じれるんだ…?」
「は?お前がこんなに必死に言ってるんだ。本当なんだろ?一回は冗談かと思ったがな!俺たちは仲間だろ!」
「ザック…」
「みんなもそうだろ?」
「そうだ!」
「あぁ」
「はい!」
こんな仲間は、僕にはもったいないと思う。
和やかな雰囲気になったが、これで終わりじゃない。
本当に話さねばいけないのは、止める手段だ。
「それでさ、世界が滅ぶことについて…」
「やっべ!!アスタの言った通りならもう時間ねーじゃん!アスタどうすれば良いんだ!!!」
「ザック。今そのことについてアスタが話そうとしているだろう。黙って聞くべきだ」
エレナさんは冷静で、こちらの気を察して話が進められるようにしてくれた。
「食い止める方法は今のところ一つしかない。大声では言えないから全員近づいてくれ」
僕は机の真ん中に顔を寄せ、小さな声で真実を伝えた。
「人間の数を減らすこと。つまり大量に殺してしまうこと.....だ」
人間を大量に殺して、モンスターを増加させ自然をより豊かにすることで世界のバランスを取り戻す。
それができなければもう時期、この世界は終わるのだ。時間を伸ばすためにも前者を遂行する必要がある。
「ほ、他にないの?」
「これは断言できる。ない」
転生時に、あの悪魔が言った通りそれ以外の手段が無いのが現状だ。アテナからも改めて断言されたし。
「だから僕はこのパーティーを抜けるよ。とても短い時間しか一緒に入れなかったけど、楽しかった。ありがとう」
「待てよ!なんで今なんだ!」
「ザック…僕は、4人とも大好きだ。だからこそ…これ以上一緒にいると抜けられなくなる。大好きなお前らを、これ以上危険な目に遭わせられない…」
「アスタ。席をはずせ」
ザックはいつになく、真剣な表情だ。
「あぁ。本当に世話になった。ありがとう」
「何言ってるんだ。二時間後、昨日泊まった宿屋に来い」
「は?」
「分かったか」
「あ、あぁ」
どうなるのだろうか…
もしかしたら殺されるかもしれない。
だが、見知らぬ者に殺されるなら彼らに殺される方が良い。
不安と恐怖で心が支配され、結局宿屋の前で二時間座り込んでいた。
「待たせたな」
緊張から、何も言葉が出ない。
「ついて来い」
どこに連れて行かれると思ったら、昨日の泊まっていた部屋だった。
そこに他の3人が座っていた。
「アスタ。俺たち4人で話し合った結果…このレグルスのリーダーになってもらうことにした」
「……は?」
何を言っているのだろう。
訳がわからなかった。
「アスタ1人に辛いこと背負わせる訳ないじゃん!仲間でしょ?」
ココの言葉でようやく理解することができた。
「め、メロも、エレナさんもそれで良いのか?」
「みんな分かってるのか?人を虐殺する結果になるんだぞ?相手は武器を持った悪党じゃない。無抵抗な善人かもしれない。無垢な子供も…」
「アスタ!!私たちも簡単な気持ちで決めた訳じゃない。それ以上言うのは無粋だぞ」
「あははは…それ言われると刺さるなぁ」
ココは言葉が詰まり少し涙目になっている…
「っ!」
「それで良いか?アスタ」
こんな展開になるなんて考えても見なかった。正直居てくれるなら心強い。というか本音は一緒にいたい…いて欲しい…
「いいのか…?」
「俺たちはもう覚悟を決めたんだ。あとはお前次第だ」
「なら…条件付きだ。辛くてやめたい場合はやめてくれて構わない。もし僕が間違ったことをしてると思ったら僕を殺してくれて構わない。どうだ?」
「俺それでいいぞ。まぁお前を殺すなんてあり得ないけどな」
「私も構わない。右に同じだザック」
「わたしも構わないよ!もう腹は括った!大魔王にでもなんでもなってやる!」
「アスタは、世界を守るために一人でする覚悟だったんですよね?事情を知らない人からすれば、当然だけどアスタを恨む人も多いと思いま。だからこそそんな辛いこと一人で背負わせるなんて真似はさせませんよ!」
「分かった。なら、よろしくお願いします」
僕は深く頭を下げた。
『こちらこそ』
「そうとなればこの5人のパーティーだけという訳にいかないな?」
「あぁ。相手は世界中だからな。それに勇者の存在もある。個人的には指輪を預かった勇者と戦うのは不満だが。覚悟はできているから気にしなくていい」
「ここは新リーダーであるアスタに委ねましょう!指示をお願いします」
みんなの覚悟を無駄にする訳にいかない。
「そうだな。とりあえずは勇者と戦えるように、この5人の強化だ。強化をこの一ヶ月半で行う。苦しいだろうが耐えてくれ!」
「軍隊に関しては僕に任せて欲しい。そのサポートはメロに頼みたいのだけど…?」
「任せて!」
「ありがとうな」
「よし堅苦しい話したら疲れたぞ!今後の方針も決まったし、また飲みに行こう!たまには別のところで!」
みんなと出会ったのは運命なのかもしれない。世界を救う為に僕は…いや、僕らは魔王になるんだ。
まだまだ続きます!
次のお話もよろしくおねがいします!




