何の成果も出せなかったね♡side:ライ
ノルンの趣味で誕生した無敵の戦闘巨神シンセイジュウオー。
その圧倒的な力で俺達は巨大人造人間を撃破した。
跡形もなく粉砕した巨大人造人間の中から引きずり出した、ジェイガンとか言う名の魔術師をシンセイジュウオーの力で首から下を石像に変え、魔力をすべて奪い取り無力化させると、地面に落とした。
「ぐえっ!!」
足元から地面に突き刺さったジェイガンが無様な悲鳴を上げる。
俺とノルンは光り輝く球体状の結界に包まれながらシンセイジュウオーの胸部に位置するアルバライザーの額から、足元へと降下していく。
やがて光り輝く球体が消え去り、俺達が地面の上にゆっくりと降り立つと、シンセイジュウオーの巨体が光を放ち、元の大きさのアルバライザーへとその姿が戻った。
「ノルンーっ!!」
俺がノルンに声をかけようとすると、ノルンのお父さんがものすごい勢いで駆け寄ってきて、俺を押し退けすっかり小さくなってしまった愛娘を抱き上げ、矢継ぎ早に捲し立てる。
「大丈夫か!?怪我はしていないか!?」
「パ、パパ、苦しいよぉ……。怪我なんかしてないから離してぇ……」
父親の腕の中で抱っこされるのを嫌がりノルンがもがく。
「どこも怪我をしてないなら良かった……!!心配してたんだぞ……!!」
ノルンのお父さんが本気で心配そうにそう言うと、ノルンは大人しくなって顔を伏せ口を開く。
「パパ……。心配かけてごめんなさい……」
「……ノルンが無事で良かった。もしノルンに何かあったら、天国のママにパパは顔向け出来なくなる所だった」
「うん……」
抱き上げられたままノルンがしょぼんと申し訳なさそうに謝ると、ノルンのお父さんは優しい表情でノルンにそう言うのだった。
「ノルンー!!」
レイリィ達もこちらに向かって駆け寄ってくる。
ノルンはお父さんの腕の中から笑顔でその小さな手を振る。
皆が誘拐されたノルンの無事を確認して、ようやくほっと一息ついた所で、今回のノルン誘拐事件の黒幕がボソボソと愚痴を言っているのに気付き、俺は視線を向けた。
「畜生畜生畜生……。こんなはずがない……。これは何かの間違いだ……」
地面に投げ捨てられて腰まで地面に埋まったジェイガンが、敗北を認められずにぶつぶつと愚痴る。
「……おい、こいつの顔。たしか二年前の男爵令嬢誘拐事件の指名手配犯じゃないか?」
年上の同僚達のひとりがそんなことを口にすると、ノルンのお父さんがノルンを抱いたまま近付いて、ジェイガンの顔を確認してから俺達に言った。
「……そうだ!!こいつはシューベル男爵令嬢が誘拐された事件の指名手配犯だ!!」
ノルンのお父さんがそう叫ぶと、ノルンが年下の友人の顔を見て言った。
「リィちゃんの誘拐事件の指名手配犯?」
「ああ。当時、シューベル男爵令嬢を誘拐した実行犯とは別に、人払いの魔法を付与した魔導具を用意したり、裏で暗躍していた指名手配犯だ。当時、誘拐の実行犯三人が男爵令嬢を誘拐して人払いの魔導具を使い潜伏していた取り壊し予定の廃教会が謎の崩落をした時に、我々聖騎士団が実行犯三人と、瓦礫に埋まってたこの男を確保したんだ。実行犯と接触しようとして巻き込まれたんだろうな。その後、移送中に忽然と姿を消してしまい、国際指名手配になっていたんだが……」
ノルンのお父さんがそう説明すると、ノルンは顔を逸らしながら言った。
「へぇ〜。そうなんだ」
ノルンのお父さんは二年半前、ノルンがこっそり神殿を抜け出してわざと誘拐され、誘拐犯達の潜伏先だった廃教会を防御陣ぱんちでぶっ壊して誘拐犯達を生き埋めにしたことを知らない。
当時は気づかなかったが、ジェイガンもあの廃教会の崩落にしっかり巻き込まれてたんだな……。
「謎の崩落、だと……?今の会話で全部繋がったぞ……。貴様がそのメスガキの親か……。いったいどんな育て方したらそんなガキに育つんだ!!」
ジェイガンが騒ぎ出すと、ノルンのお父さんは剣を抜きジェイガンの眼前に付き出す。
「貴様ごときに俺の子育てについてごちゃごちゃ言われる筋合いはない!!」
「ふざけるな!!あの日、貴様の娘が依頼人と落ち合う教会をなんの躊躇いもなく!!崩落させたせいで!!俺がこの国まで落ち延びて成り上がるにどれだけ苦労したことか!!」
「悪党の苦労なんぞ知るか!!……待て。ノルンが廃教会を崩落させた、だと?」
ノルンのお父さんは片手で抱っこしたままのノルンに視線を向けて問う。
「ノルン。どういう事だ?」
ノルンはぷいっと顔を逸らしたまま、ジェイガンに聖杖モードにしたリライザを突き付けて言った。
「ジェイガン!!口からでまかせを言っても私と父の絆を傷つける事なんて出来ませんよ!!」
ノルンのその一言で、その場にいる全員が無言でノルンを見る。
沈黙が流れる中、ジェイガンが呆れたような悔しそうななんとも言えない顔と声で呟いた。
「……こんなのが聖女とか」
ーーぶちっ。
何かが切れるような音が聞こえた。
「……ねえ。さっき戦った人造人間ってあなたの研究の成果なんだっけ?」
ノルンがお父さんの腕の中から飛び出して、地面に降りてジェイガンに尋ねる。
小さくなってて、俯いているノルンの表情は見えない。
「そうだ。俺の力を。俺の研究を認めなかった連中を見返し、認めさせる為25年もの月日を費やした成果だ!!」
「へー。25年もがんばったんだー」
ノルンは顔を上げ、ジェイガンの顔を見上げると、にっこりと天使のような笑顔で口を開いた。
「25年もがんばってきたのに、何の成果も出せなかったね♡」
……ひでえ!!
「こ、こ、こ、このメスガキがああああっ!!」
「だっさいセンスのよわよわ兵器しか作れない無能とか♡とっても無駄な時間の過ごし方♡ざーこ♡ざーこ♡」
「うがああああっ!!馬鹿に!!するなあああ!!」
「馬鹿になんてしてないしー♡哀れんでるだけー♡」
「こ、こ、こ、このクソガキがあああ!!人様の努力を馬鹿にしやがって!!親の顔が見てみたいわ!!」
ジェイガンが顔を真っ赤にして半泣きでそう叫ぶと、ノルンのお父さんが冷ややかな目で、ジェイガンの顔面を鷲掴みにした。
「見たけりゃ今後の取り調べで好きなだけ見せてやる。二度と研究とやらが出来るとは思うなよ」
メリメリとジェイガンの頭を締め上げながら、ノルンのお父さんは言った。
あまりの激痛にジェイガンが大人しくなると、お父さんはノルンを見下ろしながら言った。
「……ノルン。帰ったらお説教だぞ」
「えぇ〜……。はーい……」
普段ダダ甘のお父さんが本気で怒ってる様子に、ノルンはしょんぼりしてそう答えた。
「……余計な事言うから!!」
二年半前の事を蒸し返された事に腹を立て、ノルンが失神してるジェイガンを蹴っ飛ばす。
「いったーい!!」
アルバライザーの力で石化してるのを蹴っ飛ばしたせいで痛かったのか、ノルンが蹴っ飛ばした足を持って、涙目でぴょんぴょん飛び跳ねる。
そんなノルンを見て俺達は思わず笑ってしまう。
涙目のノルンの襟首をアルバライザーが咥えて、ひょいっと背中に乗せると、ノルンはアルバライザーの背中からうーと唸りながら涙目で俺達を睨むのだった。
お待たせしまして申し訳ありません。
次回バカ王子断罪編です。




