アルバライザーとリライザ
「あれがあの二人の本性……」
ぼくに対して、優しい親のふりをしてはいたけれど、どこか冷たく感じたのは間違いじゃなかった。
ぼろぼろになって泣いてる男の子を見て、汚い物を見る目で笑う二人を見てぼくはもう、我慢の限界だった。
「我が声に応え現れいでよ!!神聖獣アルバライザー!!」
ぼくの声に応えアルバがその姿を現す。
「ノルン。行くのか」
「もう我慢出来ない!!あいつら全員ぶっとばしてやるんだから!!」
「そうか。ノルン、まずはどうする?」
「決まってるよ!!まずは罪のない人達に暴力を振るってる兵士達全員ぶっ飛ばす!!」
「ならまずはリライザを召喚せよ。ノルンが力ある言葉で呼べばリライザはどこからでもノルンの元にやってくる」
リライザにそんな機能があるなんて知らなかった……。
でもリライザが手元にある方が絶対に都合が良いはず!!
「わかったよアルバ。ーー我が手に来たれ!!聖杖リライザ!!」
ぼくの力ある言葉に応え、聖杖モードのリライザがぼくの目の前に瞬間移動してきて、その姿を現した。
「ノルン!!良かった!!無事だったので……どうしたんですか!?その姿は!?」
幼い姿になったぼくを見てリライザが驚きの声を上げる。
「リライザ!!話は後回しだよ!!」
ぼくはリライザを手に取ると、魔力を集中させる。
拉致されてからずっと身に着けさせられていた、神聖魔法封じのペンダントが粉々に砕け散り、地面の上に落ちていく。
異次元ポケットから祝福のローブを取り出して羽織ると、祝福のローブは今のぼくの幼い体に合わせて、サイズが幼児サイズへと変化した。
「行くよ、アルバライザー!!」
ぼくが伏せてくれたアルバの背中にぴょんと飛び乗ってそう告げたその時だった。
「……聖女様!!聖女様への数々のご無礼の罰は必ずやお受けします!!ですがどうか、どうか、この国の力なき者達をお救い下さい!!」
背後から現れたロマリアが、その場に土下座をして額を地面に擦りつけながら、ぼくに懇願してきた。
ロマリアもまた、被害者なのかもしれない。
でも、今はゆっくり話している時間はない。
「顔を上げて下さい。ロマリア。女神ミリシャルの名において、私が必ず虐げられてる人々を救ってみせます」
「聖女様……」
「短い間でしたがお世話になりました。貴女に女神ミリシャルの御加護があらん事を」
ぼくはロマリアにそう告げると、アルバに声をかける。
「行くよ。アルバ」
「うむ。心得た」
ぼくを乗せたアルバが天を駆ける。
ロマリアに見送られながら、こうしてぼく達はアスモデール邸を後にするのだった。
「ノルン。空を飛んでいるが怖くないか?」
「大丈夫。アルバに乗ってるからか、全然怖くないよ!!」
かなりの高さを飛んでるのに、不思議と全然怖くなかった。
アルバが一緒なら、絶対に落ちたりしないって安心出来るからかな?
「ノルン!!聞きたい事が沢山あります!!何故小さくなってるんですか!?それにこの生き物はいったい!?」
何がどうなってるのか知らないリライザが、ぼくの手の中から矢継ぎ早に質問してくる。
「その質問には我が答えよう。だが口で説明するのも面倒だ。我の見てきた物を見せてやるからそれで理解せよ」
「な……っ!?」
アルバの額が一瞬光を放ち、続けてリライザが一瞬光った。
「ーー貴方は……。本当にアルバライザー!?貴方、私と同じ疑似人格じゃなかったのですか!?」
「そんな事を言った覚えはない」
「……ええ。そうでしたね。貴方はいつだって素っ気なかったですからね」
「ねえ、もしかしてアルバとリライザって仲悪いの?」
「別にそんな事はない。昔のリライザは今のように人間のような受け応えが出来なかったから、そんなに話す機会がなかっただけだ」
「そう言われてしまうと返す言葉もありませんが……。とにかくノルンが無事で良かったです」
どこかバツの悪そうなリライザに向かってぼくは苦笑いしながら答える。
「こんな姿にされちゃったけどね」
「リライザよ。反省せよ。一時とはいえ、そなたがノルンから離れなければこんな事にはならなかった」
「それを言われると返す言葉もありません……。ですが、ノルンが四六時中一緒なのを嫌がるので……」
「流石にトイレにまでリライザを連れてくのはやだ……」
ぼくが助け舟を出すと、アルバは呆れたような様子で言った。
「……何の為に休眠状態があるのだ」
「「あっ」」
リライザに見られたくない事をする時はリライザを休眠状態にすればよかったんだ……。
全然思いつかなかった……。
「無駄話は終わりだ。着いたぞ」
ガルフ国の郊外にあるグリアモール領から、市街地の上空にあっという間に到着した。
「ーーアルバ。リライザ。行くよ!!」
「うむ」
「はい」
リライザが光り、ぼくに着地の衝撃が伝わらないように防壁を張ると、アルバが急降下する。
ズウウウウンッと重い衝撃と共に舗装された地面が砕け散り陥没した。
グリアモール公爵の命令で、男の子を暴行していた騎士を見つけてぼくは叫んだ。
「防御陣!!」
光輝く防御陣の壁が倒れている男の子の眼前に展開し、クズ騎士の振り下ろした拳を跳ね返す。
鋼鉄の何十倍も硬い防御陣の壁を思い切り殴りつけたクズ騎士の拳が砕け、クズ騎士の悲鳴が周囲に鳴り響くのだった。




