悪党達の本性
ーー千年前、邪神ドルディバイアを討ち滅ぼすべく、神々によって作り上げられた神剣へと、その身と力を宿した神聖獣アルバライザー。
千年の時を経て、その力と意識を宿した神剣に力の大半を残したまま、その意識だけを神剣から分離させたアルバライザーの新たな肉体が今、ぼくの魔力で構成された。
現世に干渉しその力を行使する為の新たな肉体を得たアルバが、復活の雄叫びを上げる。
白金に光り輝く獅子の如きその姿は、正に最強の神聖獣と呼ぶのに相応しい姿だった。
「……アルバ。上手く行った?」
「うむ。ノルン、よくやった。おかげで我は新たな肉体を得る事が出来た。これでこれからは我も勇者ラインハルトとリライザと共にノルンを守る事が出来る」
アルバの頬に手を伸ばしアルバに触れてみる。
暖かくて力強い魔力が伝わってくるのを感じた。
「これでまた、小さい頃みたいに一緒にいられるね」
「……そうだな」
ぼくがアルバにそう言って笑うと、アルバは優しい目でぼくの目を見つめながらそう答えてくれた。
「あ……」
体中の力が抜けていき、ぼくはその場にぺたんと座り込んでしまう。
「大丈夫か?どうやら魔力切れを起こしてしまったようだな」
「うん……。そうみたい……」
前に魔力切れを起こしたのは、邪神ドルディバイアとの決戦で、グレートラインハルトを初めて作り出した時だったっけ。
つまり今回、グレートラインハルトを作り出した時と同じ位の魔力を使って、アルバの肉体を作ったって事になるのかな?
それかぼくが弱体化しすぎたのかもしれないけど。
「今のアルバはぼくが乗れる位の大きさなのに、魔力切れを起こしちゃうなんて……。小さくされたせいで魔力まで弱くなってるのかなあ……」
「いいや。違う。ノルンの魔力量は小さくなる前と変わっていない。それに我の肉体は必要に応じて大きさを変えられる。ただ単に我の新たな肉体を構成するのに膨大な魔力を必要とする為、魔力を使い果たしただけだ」
「そうなんだ」
それってつまり、今のアルバはグレートラインハルト並の力を秘めてるって事だよね。
いったい、どれくらいの力を持ってるんだろう?
自分で契約しておいてなんだけど、皆目検討もつかないや。
「千年前、光の聖女ノエルの魔力を持ってしても、我に新たな肉体を作り出す事は叶わなかった。ノルンよ。今の自分の力を誇るといい」
「あはは……。ありがと……。でも今がこの有様じゃすぐには脱出出来ないね……」
「だからさっき言っただろう。この国を脱出するのは今はやめておけと。我との契約で魔力を使い果たすのはわかっていた。それに我が現世に干渉出来るようになった今、いつでも簡単にこの国を脱出出来る。今は失った魔力を回復させるのだ」
「うん……。なんだか、すごく眠い……」
もう今にも意識が飛んじゃいそう……。
「今はゆっくりと休むといい」
アルバはそう言ってぼくの背中に回り込むと地面に座りその姿を消す。
姿は見えなくなっても、アルバはぼくのすぐ側にいてくれる。
ぼくは見えなくなったアルバに少しだけもたれかかると目を閉じた。
傍目には座って目を閉じてるようにしか見えないはず……。
サァーっと穏やかな風が吹く庭園のバルコニーで、ぼくはアルバにもたれかかりながら束の間の休息を取るのだった……。
☆
アルバと契約した翌日。
ぼくは光の上級精霊シャインを通じて、この城塞都市ガルフのお城の中を偵察していた。
『アスモデール公爵夫妻。貴公達に預けた聖女の様子はどうだ?』
この国の第一王子リードヴィッヒがアスモデール公爵に尋ねる。
『はい。もうすっかり我が子として振る舞うようになりました』
『そうか。なら聖女の再教育をしっかりと行うように。何しろアレは未来の国母になるのだからな』
『はい。お任せ下さい。必ずや殿下の伴侶として相応しい令嬢として育ててみせます』
『うむ。期待しているぞ』
公爵と夫人の言葉にリードヴィッヒが満足気にそう告げるとアスモデール公爵夫人が謁見の間を退出する。
残されたリードヴィッヒはニヤニヤと笑いながら独り言を呟いた。
『ハハハハハ!!こうも事が上手く運ぶとはな!!聖女もこの世界もすべてこの私の物だ!!ククク……。身も心も私の物になった聖女の姿を見せてやったら、あの勇者はどんな顔をするのだろうな?いつか聖女の作る巨人の力で、奴を嘲笑いながら握り潰してやる日が楽しみだ!!』
愉快そうに笑うリードヴィッヒを見て心底不快な気分になった。
「……気持ち悪い!!」
シャインを通じて今回の黒幕であるリードヴィッヒを見ていて思わず鳥肌が立っちゃった。
以前、邪神討伐の旅でだーりん達とこの国に訪れた時、リードヴィッヒにやたら絡まれたのを思い出した。
国を上げて支援をしてやるから婚約者になれとしつこかったっけ……。
あの時のぼくはまだ13才だったし、だーりんへの恋愛感情とかもまだ持ってないお子様だったけど、それでもあの人の婚約者になるのは絶対嫌だった。
リードヴィッヒは背が高くて顔も美形の部類ではあったけど、ぼくの好みじゃない。
というか生理的に無理!!
ぼくの事を見る目とか蛇みたいで嫌。
それに確かあの王子はもうすぐ30才だったはず。
何が悲しくて、自分の2倍の年月を生きてるおじさんのお嫁さんになんかならなきゃいけないのさ。
多少顔が良かったとしても、身分と顔しか取り柄のないロリコンが相手なんて絶対に嫌!!
アレのお嫁さんにされたおぞましい未来を想像してしまい、ぼくが顔をしかめて身震いしていると、シャインを通じて怒号が聞こえてきた。
「……なんだろ?」
シャインに様子を見てもらうと、お城の外で兵士達と市民達が睨み合っていた。
「……何?クーデター?」
シャインを通じて耳を傾けると、どうやら市民達は重税を強いられ今日食べる物にも困っているみたいだった。
「あっ!!」
抗議に来た市民達が兵士達に暴行を加えられ、次々と捕らえられていく。
目を覆いたくなるような凄惨な暴行現場に吐き気がする。
ぼくは風の上級精霊ウィンダムを召喚し、ガルフ国の様子を調べてみる。
農村や市街、ありとあらゆる場所で力なき人々が虐げられていた……。
おなかを空かせて泣く子供達。
自分達の分を子供達に与えた事で弱っていく大人達。
略奪を繰り返し我が物顔でのさばる兵士達。
「ひどい……」
国中の様子を調べていると10才位の男の子が、真っ昼間から街中でお酒を飲んで、酔っている兵士の携帯食を盗んで走り去る現場を見つけた。
酔っていておぼつかない足取りの兵士を振り切って、男の子は無事に逃げ切った。
そして狭い路地を抜けた男の子は、スラム街にあるボロボロの小屋に入っていくと、中にいた自分より幼い男の子と女の子に兵士から盗んだ携帯食を与えていた。
幼い弟妹に食べ物を与えた男の子は、弟と妹の頭を優しく撫でてから、また外に出かけていく。
スラム街から富裕層が住む区画へ辿り着いた男の子は、周囲を見回しながら歩く。
どこかの家の使用人が食料品の入った袋を持っているのを見つけ、背後から近付いていたその時だった。
男の子はお城の方から走ってきた馬車に轢かれそうになった。
御者が慌てて馬を静止し間一髪男の子は轢かれずに済んだけど、馬車から降りてきた貴族が護衛の騎士に命じて男の子に暴行を加えだした。
聞くに堪えない暴言を吐きながら、年端もいかない子供に暴行を加えさせているのは、アスモデール公爵夫妻だった。
お待たせしました。




