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復活の刻

 「お嬢様。風が出てきましたしお屋敷にお戻りになられませんか?」

 「……もうちょっとここにいる」

 「承知しました」


 ロマリアを追い払って、庭園のバルコニーで椅子に座り目を閉じながら、ぼくは意識を集中させる。


 「ーー我が声に応え現し世に現れ給え。召喚(サモン)


 ぼくの放った力ある言葉に答え、実体を持たない風の上級精霊が受肉し、ぼくの目の前に現れた。


 「はじめまして。ぼくはノルン。これからよろしくね。あなたの名前はウィンダムだよ」


 緑色の大きな鳥の姿をしたウィンダムが一声鳴き、ぼくの足元に着地する。

 ぼくがウィンダムの頭を優しく撫でると、ウィンダムは目を細め返事を返すようにまた一声鳴いた。


 「流石だな。まさかたった3日で全属性の上級精霊を召喚するとは」

 「アルバ」


 アルバが姿を現すと、ウィンダムは目を見開き慌ててその姿を消してしまった。


 「あ……。アルバを見て逃げちゃった……」

 「別に構わない。ノルンが我を召喚出来るようになれば、我しか使う必要がなくなるのだからな」

 「そうなの?」

 「最強の神聖獣を使えるのにわざわざ格の劣る精霊達を使う理由などあるまい」


 アルバはぼくにそう答えると、器用に前足で頭を掻く。

 ぼくはそんなアルバの頭に自分の小さな手をそっと乗せる。


 「……どうした?」

 「かまってほしいのかなって」

 「何故そう思う」

 「ワンちゃんとかがかまってほしい時にする仕草をアルバがしてたから」

 「我を犬畜生と一緒にしないでくれ」


 アルバはそう言って視線をぷいっと横に向ける。


 「もしかしてぼくが触れるの嫌だった?」

 「嫌だとは一言も言ってない」

 「それなら良かった。ねえ、アルバ。ぼく、そろそろここから逃げようと思うんだけど」

 「今はまだだめだ」

 「どうして?」

 「まだノルンは精霊魔法をマスターしていない。それに今のノルンはその首飾りに込められた神聖魔法封じの力と、この屋敷周辺にかけられた神聖魔法を封じる術で神聖魔法が使えなくなっているからだ」

 「防御陣(プロテクション)。あ、ホントだ。神聖魔法が使えない……」


 ……でも、この位の封印なら自力で破れそうな気がする。


 「自力で封印を破ろうとするのは今はやめておけ。敢えて我の力も加えて今はノルンの力を封じているのだからな」

 「どうして?そもそもなんでアルバはぼくの力を封じたの?」

 「今のノルンは幼い子供の体だ。幼子の体力でどうやってここから逃げる?魔力はともかく体力がなさすぎるだろう」

 「う……」


 アルバの言うとうりだった。

 洗脳されて幼児化してるふりをしながら、試しに外を走って今の自分の体力を測ってみたら、あっという間にヘトヘトになっちゃったんだ。


 「ノルンの力を敢えて封じたのは、神聖魔法を封じた状態なら我の声が届くかと思ったからだ。結果は見てのとうりだ。ノルンが精霊魔法を覚え、我を顕現させる事が出来るようになれば、今後は今回のように不覚を取る事もない。今の我にはノルンに危害を加えようとする者達を排除してやる事が出来ないからな」

 「アルバ……。ありがとう……」

 「ああ」


 ぼくは椅子から飛び降りると、アルバの大きな体に抱きつく。


 「……だーりん達、どうしてるかなあ」


 誘拐されてからもう10日経っていた。

 誘拐された日の前日、ぼくはだーりんにわがままを言っちゃったんだ。

 お仕事をしてるだーりんが、急におやすみを取れなくなっても仕方ないのに……。


 『ずっと前から約束してたのに!!なんで約束してた前日になってからお仕事引き受けちゃったの!?』

 『本当にごめん。でも俺はまだ新米だからさ。他の人達の手前俺だけ2日も休む訳にはいかないんだ』

 『そんなの知らないもん!!』

 『ノルン。ラインハルト様にも立場と言う物があるのですから……』

 『だってリライザ!!新年を迎えてからだーりんてば、ずっとお仕事ばっかり!!』

 『5月の連休は絶対大丈夫だから。だから今回はごめん』

 『もういいもん!!ルフィア達と出かけてくるから!!』


 なんで毎日疲れて帰ってくるだーりんにあんな事言っちゃったんだろう……。


 「もう10日も経ったのに、だーりんが迎えに来てくれない……。ぼくの事、もうどうでも良くなっちゃったのかな……」


 アルバに抱きつきながら、思わずそう口にしてしまった。


 「そんなことはない。ラインハルトは今もノルンを取り戻そうとしている。他の者達も皆同じだ」

 「……ホント?」

 「うむ。この国は世界が邪神の脅威に晒されていようと、ずっと鎖国していたような自分勝手な国だ。それはノルンも良く知っているだろう」

 「うん……。世界中の国々がぼく達に協力してくれたのに、この国だけは頑なに力を貸してくれなかったよ」

 「リライザがノルンの居場所を大まかに特定しても、ノルンを取り戻す為に彼らがこの国に入るのは容易ではないのだ」

 「一歩間違えば侵略行為と見なされるってこと?」

 「そうだ。だから我を使い、ノルンは自力でこの国を脱出しなければならない」


 アルバの力を借りて、この国を脱出する。

 そうしないと、だーりんに会えない。

 だーりんだけじゃない。ルフィア達もきっとぼくの事心配してるはず。


 「……アルバ。お願い。ぼくに力を貸して。だーりん達の元に帰りたい」

 「我はいつでもノルンの味方だ」

 「ありがとう。アルバ」

 「ノルン。契約を」

 「うん。ーー我、ノルン・フォルシオンは精霊王シェイドの名の下に契約を誓う。我と共に在り我と共に征く。我が生涯の友、その名は神聖獣アルバライザー!!」


 ぼくの全身から魔力の光が噴き出し、ぼくの目の前で光の奔流となってアルバに吸い込まれていく。

 ぼくの魔力が変質していき、アルバの現世での新たな肉体を構成していく。

 ぼくだけに見え、ぼくだけが触れる事の出来るアルバが受肉して、この現し世に顕現する。


 「ガオオオオオオオオンッ!!」


 神剣アルバライザーにその身を宿し、肉体を失っていた神聖獣アルバライザーが今、ここに蘇った!!

 

次回、ノルン誘拐犯断罪編。

忙しくて更新が思うように進まなくてすみません。

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