表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
78/94

破戒の光

 闇のオーブがノルンの手によって私に装填されると、闇のオーブは黒紫色に光り輝き、その秘めた力を解放します。

 ノルンの周囲を取り囲むように、黒紫色に光り輝くオーラが天まで伸びていきます。


 「良かった!!間に合ったわ!!宮廷魔術師団は総員最高火力をあの竜へ!!増幅中級爆炎魔法ブーステッド・バーストフレア!!」


 ラギアン王国宮廷魔術師団とノルンのお父様を含めた聖騎士団を率いて駆けつけたレイリィ姫が、神器の力で最高位にまで威力を高めた攻撃魔法を宮廷魔術師団の魔術師達と共に、空中のグリアモスに発射します。

 30名ほどの精鋭魔術師との連携攻撃がグリアモスに直撃し、ダメージを与えることには見事成功しました。

 ですが、グリアモスの傷はあっという間に塞がってしまいます。


 「そんな!?ウソでしょ!?」


 流石にレイリィ姫も驚きを隠せません。

 いくら高位の竜とはいえ、最高位の攻撃魔法を受け即座に再生など本来ありえない事です。

 想定外の事態に狼狽えているレイリィ姫達にノルンは叫びました。


 「みんな下がってて!!こいつはぼくがやっつけるから!!」


 ノルンは私をまるでバトンのようにくるくると回しながら、闇のオーブの力を引き出す為の祝詞を口にします。


 「ーーウィンクル♡ウィンクル♡ルルラピア♡ルンリルアイシルルルラピア♡まじかるハートでメイクアーップ♡」


 ふわりと宙に浮かんだノルンの全身が薄紫色の光に包まれ、身に着けていた衣装がすべて光の粒子に分解され、ノルンは生まれたままの姿になりました。

 どこからともなく謎の白い光が差し込み、未来の旦那様にしか見せてはいけない女の子の大切な場所をガードします。

 ノルンの爪先から順に光の粒子が覆っていき、先程まで着用していた物とはデザインの違う新しいブーツや衣装を形成していきます。

 最後にノルンの髪に髪飾りが装着され、ノルンは私をくるくると右手で回し終えるとそのままビシッと斜め右下に振り下ろし、ピースサインをした左手を左目の上に持ってきてポーズを決め、ウインクをして宣言しました。


 「まじかるフェアリープリティーノルン参上♡悪〜い相手は、神に変わって神罰よ♡」


 黒をベースに白いフリルが沢山あしらわれた、まるで子供向けテレビアニメの魔法少女のような衣装に身を包み、ノルンは決めポーズを取ります。

 ノルンが行った今の一連の行動と言動にシルフィアーナ姫もノルドさん達聖騎士団の皆さんも、魔術師団の皆さんも目を見開き、口をあんぐりと開けて呆然としています。


 「お、お姉様……。その衣装すっごくかわいいです♡ね、アイラさん」

 「え、ええ……。本当に良く似合ってますわ……♡ね、姫」

 「あ、ああ……。なんと言うか……。似合ってはいるな……」


 ノルン信奉者であるリィナさんとアイラさんは、今の魔法少女姿をしたノルンをうっとりした目で見ますが、シルフィアーナ姫は流石に困惑した表情でノルンを見てます。

 見た目だけは超絶美少女のノルンですから、このような衣装も良く似合ってます。

 ですが、当の本人は……。


 「ーーいやあああああっ!!やっぱりこんな格好恥ずかしいよおおおっ!!」


 自分の今の姿に赤面して、ものすごく嫌がっていました……。


 「あー……。そういえばあの子、魔法少女アニメとかを見るの、前世ですごく恥ずかしがってたものね……」


 遠い目をしながら、レイリィ姫が呟きます。

 前世のノルンは男の子向けのヒーロー番組は平気なのに、いかにもな女の子向け番組は恥ずかしがって見ない子でした。

 どっちも子供向けなのだから平気だと思うのですが、本人は恥ずかしい呪文を口にしてぶりっ子みたいな言動と行動をする魔法少女アニメが、見ていて恥ずかしいらしいのです。

 前世も今世も見た目のせいで、周囲の近しい大人達からいかにもな服やら絵本やらを与えられた経験も、ヒーロー物大好きな本人にとっては屈辱らしいのです……。

 ですから、ノルンは闇のオーブを使いたがりません。


 「魔人王様(変態ロリコンやろー)のバカああああっ!!なんでこんな余計な機能付けるかなああっ!!」


 ノルンは魔神王ベルクローグ様への不満をぶちまけます。

 かつてノエルがその生涯を終えた後、闇のオーブはその危険性から魔神王様に回収されました。

 そして時は流れ、邪神ドルディバイアが復活し長い旅の果てにノルンは魔神王様から、闇のオーブと加護を授かりました。


 ーーそこまでは良いのです。


 問題は魔神王様が戯れに自身の一部を人間として、別の世界に送り込んだ事があったのです。

 そこで魔神王様はアニメという文化に触れ……。

 ハマってしまいました。

 元々かわいい女の子が大好きで、更に美少女アニメにハマってしまった魔神王様は闇のオーブをアップデートしたのです。自分好みに……。


 「これじゃ、ぼくがぶりっ子みたいじゃないのー!!うわーん!!」


 先程の恥ずかしい祝詞も決めポーズもすべて、危険な闇のオーブの力を解放するためのアンロックキーです。

 あれをやらないと闇のオーブの力を解放出来ません。

 そして今、ノルンが着てる衣装は魔神王様が女神ミリシャル様と一緒にノルンに似合うよう、あーでもない、こーでもないとデザインした渾身の一品物です……。


 「キ……キ……」


 暴走して自意識がないはずのグリアモスがノルンに視線を向け、口を開きました。


 「キガ……フレ……タカ……?」


 気が触れたか。グリアモスは確かにそう言いました。

 自意識のない巨大な死霊と化したはずのグリアモスさえ、ノルンが取った行動にツッコミを入れたくなったのでしょうか……。


 ーーぶちぃっ!!


 何かが切れたような音が聞こえました。


 「ぼくだって好きでこんな格好してるんじゃないやい!!魔導砲(まじかるキャノン)!!」


 ノルンが空中の竜王グリアモスに私を向けると黒紫色に輝く魔法陣が展開され、白い閃光がグリアモス目がけて発射されました。


 「虚無に還れええええっ!!」


 ーーズギュウウウウウウウンッ!!


 ノルンの持つ神聖な魔力が闇のオーブの力で、すべてを討ち滅ぼす破戒の光へと変換され、極太のレーザー光線のように天空を穿ちます。


 「ギャ!?バ……」


 破戒の光に飲み込まれた竜王グリアモスは、一瞬でその存在を消滅させられました。

 ノルンの放った破戒の光はグリアモスを跡形もなく消し飛ばし、尚もそのまま大気圏を突き抜け宇宙空間へと飛んでいきます。

 そして月の隣を突き抜けつつ、月よりも大きな小惑星に着弾してコアを貫き、ようやく消えました。

 コアを貫かれた生物のいない小惑星は、そのまま大爆発を起こしてこの宇宙から消滅しました……。


 「ノ、ノルン……。今、星がひとつ消えましたよ……。幸い生き物のいない星でしたが……」

 「はあ、はあ……。どうだっていいよそんなの!!これだけは絶対使いたくなかったのに!!」


 ノルンはぷりぷりと怒りながら、闇のオーブを私から取り外します。

 するとノルンの全身が一瞬白く光り、元の衣装に戻りました。


 ーー闇のオーブ。


 それは聖女の持つ神聖な魔力をすべてを無に還す破戒の光へと変換する。

 破戒の光はありとあらゆる存在をすべて無に還す究極にして最凶の力。

 この力の代償は3つ。

 1つ目は魔力をすべて破戒の光に変えてしまうため、神聖魔法が使用不可になること。

 2つ目はそのあまりの威力故に守るべき物さえも滅ぼしかねないこと。

 そして、3つ目はノルンの自尊心を著しく傷つけることです……。


 「ノルンー!!」


 シルフィアーナ姫達がノルンの元に駆け寄ってきます。


 「みんな……」


 ノルンは皆さんの顔を見て笑顔を見せると、急に素っ頓狂な声を上げました。


 「ああっ!?やっちゃったあああっ!!1番美味しい部分のお肉とか、ドラゴン・ハートとか取りそこねちゃったあああっ!!だーりんに食べさせてあげたかったのにいぃぃっ!!」


 ノルンはグリアモスを跡形もなく消し飛ばした事を心底悔しがります。

 そんなノルンの様子を見て、皆さんは苦笑いを浮かべることしか出来ませんでした……。

闇のオーブで魔法少女になると、身体能力も向上し、古今東西の戦うヒーローヒロイン全員が持ってる異常な跳躍力と重力制御してるとしか思えない異常に長い対空能力が身に付きます。

ノルンは高い所が怖いので闇のオーブ使用時にはジャンプをしたがりません。

はじめて闇のオーブを使って飛んだ時、ノルンは怖くて泣きました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ