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聖女の見た夢

 「んん……」


 閉じていた目を開くと、知らない天井と良く見知ったその顔がぼくの視界に入った。


 「良かった。お姉ちゃん、目が覚めたんだね」

 「んん……。ふあ……おはよぉ……。リィン……」

 「おはよう。お姉ちゃん。もう体は大丈夫?」


 従姉妹のリィンがぼくの体調を気遣って心配そうな顔をする。


 「リィン。あれからどれくらい経ったの?」

 「丁度一晩過ぎた所だよ。今は朝。お姉ちゃんもしかしてまだ、魔力の回復しきってない?」

 「ううん。大丈夫だよ」

 「そう?それなら良かった。お姉ちゃん、昨日は魔力切れ起こして倒れるまで、この村の人達を癒やして回ったの覚えてる?わたし、すっごく心配したんだよ」


 そうだった。度重なる魔物達の襲撃で傷ついて疲弊していた、この村の男性達や病気の老人と子供達を神聖魔法で治して回ったんだっけ……。


 「心配かけてごめんね、リィン」

 「ううん。お姉ちゃんが大丈夫ならそれでいいの」


 かわいい妹とそんな会話をしながら、彼女が用意してくれた水の入った桶で顔を洗い着替えて一緒に部屋を出る。


 「おはよう。もう回復したのか?」


 宿の1階に下りると、幼なじみのシルフィが声をかけてきたので返事を返す。


 「シルフィ。おはよう。もう大丈夫だよ」

 「お姉様。あまり無茶なさらないでくださいまし」

 「ごめんね、アイル」


 もうひとりの幼なじみが膨れっ面で文句を言ってきたので素直に謝る。

 四人で注文して運ばれてきた質素な朝ごはんを食べながら、今後の予定を話し合う。


 「この村を出たら、ポルトの街に向かうんだったか」

 「うん。そこで船に乗って、隣の大陸に行くの。はあ……。めんどくさいなあ……」

 「お姉様はホントに面倒くさがりですわね……」

 「そうだよね……」

 「だってえ……。そもそも、ぼくに神託を下すとか神様もどうかしてると思うんだよねえ……。ぼくはただの神官見習いだよ?なのに聖女として世界を救う勇者を探せ、だなんて。今でもあれは夢だったんじゃないかって。そう思うよ……」

 「そうは言っても、私達も神託を受ける場面を見てるからなあ……」


 祖父母と両親の五人家族で普通に暮らしてただけなのに、ある日実家の教会で日課の礼拝をしていたら神様から神託を受けた。

 女神ミリシャルの神像が光り輝き、ぼくに向かって名指しで神託してきたんだ。

 心技体を兼ね備えた勇者を見つけ出し、聖女として共にこの世界に光をもたらせ、と。

 その時に授かった数々の神聖魔法と加護のおかげで、聖女として傷ついた人々を助ける事が出来るのだけど。

 ……どうして、ぼくなのか?

 自分が選ばれた理由がさっぱりわからない……。


 「絶対、神様の人選ミスだよ……。ぼくに聖女なんて務まるわけないもん……」

 「まあ、確かに一理ある言い分ではあるな。こんなおてんば娘なのに聖女なんてな」

 「たしかに。後衛職なのにやたら前に出たがるのも困りものですわよね。聖女が杖で魔物に殴りかかるとかどうなんでしょう……」


 ぼくのぼやきにシルフィとアイルが遠い目をしながら、失礼な事を言う。


 「むーっ!!二人共ひどいよお!!」

 「で、でも、お姉ちゃんは困ってる人達を放っておけない性分だよ?誰かが困ってると絶対に手を差し伸べるもん。昨日だって魔物に襲われて怪我をしたり、病気で苦しんでたこの村の人達を魔力切れで倒れるまで癒やして回ったもの。心が優しいお姉ちゃんは聖女様にぴったりだとわたしは思うよ」


 リィンだけがむくれるぼくをフォローしてくれる。

 流石ぼくの妹!!

 ……ちょっと照れくさいけどね。


 「まあ、リィンの言うとうり、困ってる人々を見れば必ず助けようとするその心と、癒やしの力は認めるさ。だから神様も聖女に選んだんだろう」

 「そうですわね。ですから、魔物との戦いの時にむやみやたらと前に出ようとするのはやめてくださいな。あなたに求められているのは、前線に出ることではないのですから」

 「そうだよ。お姉ちゃん。魔物と戦うのはわたし達の役目だから」

 「でも……」


 剣士のシルフィと付与術師のアイルと魔法使いのリィン。

 三人はいつだって、ぼくを守ろうとその身を危険に晒してきた。

 ぼくに魔物達と戦う力がないから……。

 だけど、ぼくを心配して着いてきてくれた幼なじみ達だけを戦わせて、自分だけ後ろで見てるだけとかそんなのやだ……。

 怪我をしても治せばいいって訳じゃないもん……。

 例えきれいに怪我を治せるとしても三人に痛い思いをしてほしくない……。


 「でもじゃない。私達を盾にするみたいで気が引けるのはわかる。だが人には得手不得手があるんだ。私達には私達の役割があるように聖女には聖女の役割があるんだからな」


 シルフィのその言葉にアイルとリィンが頷く。


 「……うん。ありがとう。シルフィ、アイル、リィン。三人共、ぼくの使命に付き合う必要なんてないのに……。一緒に着いてきてくれて……」


 神託を受けたのはぼくだけなのに……。

 ここまで着いてきていつも守ってくれてありがとう……。

 ぼくがそうお礼を言うと、シルフィがやれやれといった表情でぼくに言った。


 「水くさいことを言うな。私達は友達だろう?ノエル」

 「そうですわよ。ノエル姉様。私達四人は生涯の友です」

 「二人の言うとうりだよ。それにわたしもお姉ちゃんの力になりたいの」

 「……ありがとう」


 三人の気持ちに思わず、涙が溢れる。


 「ああ、ほら。もう泣くな。ノエル」

 「ノエル姉様は本当に感受性が高い方ですわね。……だからお慕いしてるのですけど」

 「お姉ちゃん、はい。ハンカチ。もう泣かないで」


 優しい幼なじみ達に囲まれて、ぼくは彼女達と出会えた事に心から感謝した。

 ぼく達四人はずっと一緒。

 今までも。

 そして、これからも……。


   ☆


 ーー窓の外から聞こえてくる小鳥達のさえずりにぼくの意識が覚醒する。


 「ん……。ふああ……」

 「おはようございます。ノルン」

 「おはよう、リライザ」


 枕元に置いたリライザに返事を返してぼくは半身を起こす。


 「……あれって前世の夢、なのかな」


 夢の中に出てきた三人の女の子達はルフィア達にそっくりで、ぼくの事をノエルと呼んでた……。


 「……ねえ、リライザ。ぼくって何度も生まれ変わってるんだよね?」

 「はい。そうですよ」


 リライザがこう言ってるんだから間違いないよね。

 だったら、あれは前世の夢なんかじゃないよね……。

 ぼくは何度も何度も生まれ変わってるのに、何代も前の前世であるノエルの記憶なんて残ってる訳ないもん。

 初めて同年代の友達が出来て、リライザが良くノエルの事を口にするから、あんな夢を見たに違いないよ。

 うん。きっとそうだよ。


 「さてと。着替えて朝ごはんとお弁当作らなきゃね」


 だーりんがいなくてももう、日課になってるしね。

 今日も楽しい1日になるといいな。

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