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聖女、勇者を見送る

 「やっぱり冬といえば鍋だよねえ」

 「そうだね。まさか、この世界で湯豆腐を食べられるなんて思わなかったよ。すごく美味しいよ。ノルン」

 「だーりんが喜んでくれて良かった♡いっぱい食べてね♡」


 美味しそうに湯豆腐を食べるラインハルト様をノルンは嬉しそうに見ています。

 冬といえばやはり鍋ですね。

 心も体もぽかぽかです。


 「それにしてもこの世界にも豆腐なんてあったんだ。知らなかった」

 「そのお豆腐はね、ぼくがこーたパパに教わって作ったんだよ」

 「マジで?豆腐って手作り出来るんだ……。知らなかった……」

 「こーたパパは何でも作れるからね。おばーちゃんが知らないあっちの世界の料理を色々教えてもらったの」

 「そうなんだ」


 ノルンが自分の前世を男の子だと思いこんでいたあの1件以降、勘違いの原因を作ったガリアード陛下は、ノルンに前世の料理知識をすべて教える約束をして、ようやく許してもらえました。

 時間を作ってミリシャル神殿にやってきては、ノルンに料理を教えています。


 「だーりんはお漬物とか好き?」

 「漬物?特別好きってほどでもないけど、食べられるものなら久しぶりに食べてみたいかも……って、もしかして?」

 「ふっふーん。今ね、梅干しとたくあんを漬けてるの。出来たらお味噌汁と焼き魚と一緒に晩ごはんに出すから楽しみにしててね」


 ノルンが得意気に胸を張ってそう告げると、ラインハルト様は素直にノルンを賞賛して喜びます。


 「おお!!すごいよノルン!!楽しみだなあ。それにしても漬物かあ……。まさか、このRPGみたいな世界で漬物が食べられる日が来るなんて……」

 「あーるぴーじーってなあに?」

 「あっちの世界で人気があるテレビゲームのジャンルの事だよ」

 「そうなんだ。ぼく知らなかったよ」

 「まあ小学生くらいから遊べるようなゲームだからね。基本的に文字ばっかりのゲームだし」


 そんな会話をしながら、二人は湯豆腐を食べ終わりました。


 「それにしても、漬物の材料とか道具とか良く手に入ったね」

 「あっちの世界にある食材や調味料はこっちにもあるよ。こっちだっておんなじ人間が生きてる世界だもん。道具だってなければないで似たようなのを代用すればいいし。漬物石もうちの倉庫にちょうどいいのがあったからそれ使ってるの」

 「へえ……」

 「例えばねえ……。リライザとアルバライザーが隠されてた女神像がね、壊れても捨てられずにうちの倉庫に保管されてたんだけど、頭の部分が漬物石にぴったりの重さだったの」

 「……えっ?」


 ノルンが笑顔で言い放ったその言葉にラインハルト様は思わず硬直しました。


 「えぇ……。い、いや、いくらリライザの封印が解かれて壊れたとはいえ、女神像の頭を漬物石にするのはどうなんだろう……」

 「だーりんもリライザとおんなじ事言うんだね。リライザとアルバライザーを隠して封印するって役目は終えたんだから、もうただの瓦礫だよ?それにあの女神像、ミリシャル様や他の女神様にも全然似てないじゃない。もしミリシャル様や他の女神様そっくりだったら、流石に漬物石になんてしないよ。似てないってことはあれは女神様の像じゃないの。だから問題なし!!」

 「う、うん……。そうだね……」


 いったいどこの世界に壊れたとはいえ、女神像の頭を漬物石にする聖女がいるんでしょうか……。

 しかも、全然悪びれる様子もありません……。

 ここは少しお灸を据える必要がありますね。

 主を正すのも私の役目です。


 「……ノルン。あの女神像はあなたが言うとうり、ミリシャル様や他の神々を象った物ではありません」

 「ほらね。リライザもこう言ってるよ」

 「あれはあなたを象ってるんですよ。ノルン」

 「……えっ?」

 「正確にはあなたの始まりの前世である、光の聖女ノエルを象った像です。長い年月の間にいつしか聖女の像ではなく、神剣の女神像と呼ばれるようになりましたが」

 「……で、でもあの女神像って結構、歳行ってない?」

 「それはそうですよ。三十代後半のノエルを象っているのですから」

 「……」

 「つまりノルンは、前世の自分の石像の頭を漬物石にしてる訳です」


 少しは自分の行いを反省してください。

 いくら記憶がまったくない、何代も前の前世の自分を象った石像とはいえ、漬物石にするのは嫌でしょう。


 「……自分の石像の頭なら、尚の事問題なし!!だーりんに美味しいお漬物食べさせてあげるほうが大事だもん!!」


 ……全っ然!!

 反省してくれません!!

 どうして、こんな子に育ってしまったんでしょうか……。

 どうして……。


 「う、嬉しいよ、ノルン……」

 「だーりん♡」


 ノルン……。

 流石にラインハルト様もちょっと引いてますよ……。


 「そ、そうだ。言い忘れる所だった。ノルン。俺、明日からサオルマーサ国に外征に行く事になったんだ」

 「サオルマーサって、たしかここからだと飛空船でないと行けない、海の向こうの山に囲まれた国だったよね。サマルオーサに何かあったの?」

 「なんでもオーガキングが率いてるオーガの群れが向こうの村々を荒らして暴れ回ってるらしいんだ。しかもヒュドラを従えてて、サオルマーサの騎士団も手を焼いてるらしくてさ、俺に救援要請が来たんだ」

 「そうなの?じゃあ、ぼくも一緒に行ったほうがいい?」


 ノルンの同行の申し出にラインハルト様は首を横に振って言いました。


 「いや、ノルンは学校があるし、今回の相手程度なら俺だけで大丈夫だよ」

 「でも……」

 「大丈夫だから。幸い住民は全員避難済みで死人とかの人的被害はまだ出てないし、向こうの騎士団ががんばって食い止めてるっていうから。生誕祭の夜までには帰ってくるから待ってて。生誕祭の夜は一緒に過ごそう」

 「……うんっ♡」


 生誕祭とはこの世界のクリスマスのような物です。

 元々は女神ミリシャルの誕生を祝う行事でしたが、長い年月の間に恋人同士で過ごしたり、家族でパーティーを楽しむイベントになりました。

 ノルンとラインハルト様が恋人同士になってから、初めての生誕祭がもうすぐやってきます。


 「ところでオーガの集落はどの辺にあるのかわかってるの?」

 「その辺は調査済みだって。ちょっと入り組んだ山の中だって話だけど…。まあ、オーガ程度すぐに討伐出来ると思うよ。だから俺一人で充分」

 「そうなんだ。ぼくも一緒ならグレートラインハルト出して、オーガ達の集落を山ごと踏み潰して終わりなんだけど……。だーりんがそう言うなら今回はお留守番してるね。早く帰ってきてね。だーりん」

 「う、うん……。速攻で片付けてくるから……」


 たかがオーガごときで、他所様の国の地形を変えようとしないでください……。


 ーー翌日。


 「いってらっしゃーい。早く帰ってきてね、だーりん」


 ラインハルト様はサオルマーサ国の救援要請に応え、ノルンに見送られながらラギアン王国を後にするのでした……。

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