聖女おねだりする
ラギアン王国北部の隅に建っているとある一軒家にノルン達はやってきました。
ラギアン王国を取り囲む外壁のすぐ近くという事もあり、住宅はそんなに多くなく、草原に囲まれています。
「ごめんください」
ドアベルを鳴らしノルンが声をかけると、中から30代後半位の女性が出てきました。
「おや。誰かと思えばノルンじゃないか。久しぶりだね。元気にしてたかい?」
「はい。お久しぶりです。ケイトさん」
「今日はいったいどうしたんだい?」
「実はケイトさんにお願いがあってきました」
「私に?」
「はい。私の友人の師匠になってあげてほしいんです。ルフィア、こちらへ」
ノルンがシルフィアーナ姫を呼ぶと、姫は王族らしい作法で自己紹介をしました。
「シルフィアーナ・ステラ・レガウスと申します。以後お見知り置きを」
「ケイト・アーガスです。……ってもしかしてレガウス王国の第2王女様!?」
「は、はい。そうです」
「ちょっと、ノルン!!なんで私なんかに王女様を会わせるのさ!?」
「ケイトさんが一番適任なんですよ。なんていったってレイリィ姉様の剣の師匠でラギアン王国一の女性聖騎士だったのですから」
ノルンのその言葉を聞いて、シルフィアーナ姫は尊敬と憧れの目をケイトさんに向けます。
「なんと!!そのようなすごいお方とは……!!」
「よしてくれ。もう5年も前に引退した身だよ」
「まだ、5年しか経ってませんよ。ケイトさん」
「騎士を結婚引退して息子を産んだおばさんなんかに今更、王女様の剣術指南役なんて無理だって」
「そこを何とかお願いします。ルフィア、ちょっと待っててください」
ノルンはケイトさんを家の中に押し込み、玄関の扉を閉めます。
「ねえ、お願い!!ケイトおねーちゃん!!ぼくの一生のお願い!!」
「そんな事言われてもさあ……。ニコルを産んでから剣を握ってないし、ニコルも大きくなったからそろそろパートなりなんなり仕事を始めようかって思ってるんだよ」
ケイトさんはノルンが赤ちゃんの頃からの知り合いなので、ノルンは素をさらけ出して彼女におねだりします。
「ケイトおねーちゃん、お仕事探してるの?」
「ああ。ここは借家だし、貯金を貯めてマイホームを建てようって旦那と話してるんだ」
「それじゃ、ぼくがケイトおねーちゃんを雇うよ!!」
「ノルンが?私を?」
「ふっふーん。これでも聖女だよ?冒険の旅で手に入れた宝物とかいっぱい持ってるんだから!!女騎士一筋だったおねーちゃんがなれないウェイトレスしたりとか、お店のレジ係とかするよりは、ずーっと高いお給金出せるよ?」
ノルンが胸を張ってそう答えると、ケイトさんがノルンにデコピンをしました。
「いったーい!!」
「子供がませた口を利くんじゃないよ。ノルンから金なんか取れるかい」
「むーっ!!ぼくもう子供じゃないもん!!」
「はいはい」
「ねえ、おねがーい!!ルフィアはやっと出来たぼくの友達なの!!魔法が苦手だから剣の腕を磨いてみんなを守れるようになりたいって、ぼくそんな頑張り屋さんのルフィアの力になってあげたいの!!」
「……まったく。しょうがない子だよ。ホントに」
ケイトさんはノルンの頭をくしゃっと撫でると優しい顔で笑いました。
「一応どんなもんか見てはあげるけど、姫に才能がなさそうならこの話はなしだよ?」
「ありがとう!!ケイトおねーちゃん!!」
「やれやれ。私も甘いな……。剣を持ってくるから外で待ってな」
「はーい!!」
ノルンは玄関の扉を開けると、シルフィアーナ姫に声をかけました。
「ケイトさんが指導してくれるそうです」
「本当か!?」
「ええ。ただし、それなりの力を見せないとこれっきりだと言われました。弟子にしてもらえるよう、がんばってください」
「わかった!!恩に着るぞノルン!!」
ノルンのその言葉にシルフィアーナ姫が張り切っていると、木剣を2本手にしたケイトさんが家から出てきました。
「それじゃ、姫様。家の裏の草原でお手並みを拝見させてもらいます」
「よ、よろしくお願い致します」
「ケイトさん。私はこの子達の魔法訓練をしますので、ルフィアの事、よろしくお願いします」
「あいよ。とりあえず、一時間後にここに集合な」
「はい。それではルフィア。がんばってください。リィちゃん。アイちゃん。私達はこちらで訓練しますよ」
「「はい!!ノルンお姉様!!」」
ノルンお姉様と言う二人の言葉を聞いて、ケイトさんはおかしそうに笑いました。
赤ちゃんの頃から知っているノルンが二人にお姉様と呼ばれたのが、ツボにハマったのでしょう。
ケイトさんに笑われたノルンは、姫と妹二人に背を向けて歩きながら、むーっと頬を膨らませるのでした。
早めにつづきを書いていきます




