ぼっち聖女
「うん。美味しい。今日のお弁当は我ながら美味しく出来たなあ…」
麗らかな午後の日差しの下。ノルンはベンチに一人腰掛け、お弁当を食べています。
「いい天気だねえ」
「そうですね」
学園の敷地内にある芝生にレジャーシートを広げて、お弁当を談笑しながら食べている他のクラスや他学年の女子生徒達を見ながら、昼食を食べ終わったノルンと私は日光浴をします。
「みんな毎日毎日食堂に行かずにこうやって、お外でごはん食べたらいいのにねえ。お日様の下でごはん食べるのもいいものなのにねえ」
「そうですね。ですが学園寮に住み込みで留学されてる方達ばかりのようですし、ノルンのように毎日お弁当を作って持ってくるのは難しいんでしょうね」
ノルンのクラスにはお姫様が4人に公爵令嬢が8人、侯爵令嬢が5人在席しています。
皆さん昼食は学園内のカフェテリアでとられています。
「ノルンもカフェテリアに行ってみてはどうですか?」
「もう席の場所が決まっちゃってるし、今更ぼくの席なんてないよぉ……」
「別にカフェテリアの席はそれぞれの指定席と言う訳ではないじゃないですか」
「それはそうだけど……。でも、みんなお姫様だとか、公爵令嬢だとかそういうのがついて回るから、もうどこの席もほとんど指定席みたいになっちゃってるし……」
入学初日とそれから他に数日、お昼時のカフェテリアを覗いた所、当人達が望む望まないに関わらず、高位貴族のご令嬢や王族の方々とその他の身分の方々で、席が綺麗に別れていました。
「それにぼくが行くと、まるで腫れ物を扱うみたいに扱われるし……」
ノルンの言うとうり、この世界を救った聖女であるノルンは別格の扱いでした。
クラスメートは勿論、教師でさえ必要な事以外話しかけてきません。
流石に皆さん挨拶はしてくれますが、当たり障りのない物ばかりです。
『おはようございます』
『おはようございます、聖女様』
『……』
『あの……?なにか御用でしょうか?』
『いえ、良いお天気ですね』
『そうですね』
『……』(か、会話が続かないよお…!!)
『では、私はこれで』
『あ…はい……』
今朝もこのようなやりとりがありました。
シルフィアーナ姫だけは気さくに挨拶をしてくれはするのですが、昼食時や放課後はすぐに教室を出ていってしまう為、中々仲良くなれるチャンスが巡ってきません。
私が観察する限り、彼女が1番ノルンと仲良くなれそうなのですが……。
「……ねえ、リライザ。ぼくもう学校やめたい」
「まだ入学してから一週間しか経ってませんよ?」
「だってえ……。もう友達作るの無理な気がするんだもん……」
ノルンがそうぼやいていると、ノルンの存在に気付いた女子生徒達が口々にノルンを褒め讃えます。
「あれが聖女ノルン様……」
「なんて可憐な御方なんでしょう……」
「あんなに儚げで可憐な方なら、勇者様でなくても守ってあげたくなりますよね……」
ノルンがにこりと愛想笑いをして見せると、女子生徒達はノルンのかわいらしさに魅了され、夢見心地で去って行きました。
「……どうせなら直接話しかけてくれればいいのに」
ノルンはぼそっと呟きます。
自分から話しかければ良いのに、こういう時は臆病というかなんというか……。
このままだとずっと、ぼっち聖女のままですよ?
そんなこんなでノルンが傍目には物憂げな表情で、実際には何も考えずにお昼の休憩時間を何をするでもなくぼうっと過ごしていると、一人の女子生徒がおずおずと話しかけてきました。
「あ、あの……聖女様……」
「はい。何かご用ですか?」
「あ……お昼休みをお邪魔して申し訳ありません……」
「いえ、お気になさらず。それでご要件はなんでしょうか」
話しかけてきたのはノルンよりも少し背が低く、やや幼い印象のかわいらしい女の子です。
両手を胸の前で組みながら、もじもじしているのを見るにあまり人と話すのが得意ではなさそうです。
「わ、わたし、2年前に聖女様に誘拐犯から助けられた者です……」
2年前と言うと、ノルンがアルバライザーを手に入れようとして、わざと誘拐犯に捕まった時の事ですね。
『2年前に誘拐犯……?そんな事あったっけ?』
『ノルン。まさか忘れたんですか!?あなたがアルバライザーを手に入れようと目論んで、お祖母様が入浴してる隙にこっそり神殿を抜け出して、わざと誘拐された時の事ですよ!!』
『ああ!!そーいえばそんなことあったね!!』
廃墟とは言え、教会をひとつ瓦礫の山にした事を忘れるなんて……。
「誘拐犯達に誘拐されて泣いてたわたしを聖女様が逃してくれたあの日の事、ずっと忘れてません!!ずっと、ずっと、お礼を言いたかったんです!!」
ノルンよりも年下らしい女の子はノルンにそう思いの丈をぶつけてくるのでした。
これはもしかしたら、ノルンのお友達候補が現れたのかもしれませんね。
さてさて、どうなりますことやら。
つづく
おばーちゃんは長風呂。




