43.何かが切れるような音が聞こえた気がした
「ーーえ?リライザ、今なんて言ったの?」
「ですから、主様の前世は普通に女の子です」
「うそ!!だってパパがぼくに言ったもん!!のぞみはホントは男の子なんだよって」
「そう言われましても。私はあなたが毎回生を受けたその時から、今までずっと見守ってきましたが、主様が男性として生を受けた事は一度だってありませんよ。前世も前前世も前前前世も更にその前もすべて女性です」
伝説の女神の杖のその言葉にノルンは混乱しながら、ガリアードとレイリィを問い詰める。
「だって、だってパパ言ったよね!!のぞみが5才になってすぐ、ホントはのぞみは男の子なんだよって!!今は付いてないけど、大きくなったら生えてくるんだよって!!」
ーー待て。
なんだそれは。
俺はガリアードの野郎をジト目で睨みつける。
「え、あ、それは、その、だな……」
「もう!!あなたが馬鹿な嘘つくから!!のぞみが本気にしてたじゃない!!」
「うそ、なの……?」
ノルンが呆然とした表情で尋ねる。
「あ、ああ。実は、エイプリルフールの嘘だったんだ……」
ガリアードが情けない顔で下手に出る。
「……エイプリルフールってなに?ぼくそんなの知らない」
「のぞみはまだ小さかったから、知らなくても仕方ないわ。エイプリルフールと言うのはね、1日だけ嘘をついてもいい日なの」
「……どうしてそんな嘘ついたの?」
ノルンがわなわなと震えながら問い詰める。
「それは、その……。のぞみの5才の誕生日を迎えてから……」
「うん」
「4月になったし、大きくなったら何になりたいって、聞いてみたんだ」
「それで?」
「そしたらのぞみはこう言ったんだ。おっきくなったらブレイブレッドのおよめさんになりたいって」
「で?」
「ほんのちょっと前まで、おっきくなったらパパのおよめさんになるーって言ってくれてたのにさ」
「ふーん」
「テレビのヒーローのおよめさんになりたいなんて言い出すから、パパ悔しくて」
「それで嘘ついたの?」
「ご、ごめんよ、のぞみ。でものぞみがすごくショックを受けて大泣きしちゃったから、すぐに嘘だってパパ言ったんだよ?ホントだよ?」
「……」
「……はあ。この様子だとそのフォロー通じてなかったみたいよ?あの日私が仕事から帰ってきたら、のぞみが私に抱きついてわんわん大泣きしたもの。パパの嘘だからねって私が何度慰めても、パパはうそつかないもんってずっと泣いてたんだから。専業主夫でただでさえ一緒にいる時間が長い父親に、そんな嘘つかれたら素直なこの子が信じちゃうって、どうして気付かなかったのかしらね?このバカ亭主は」
ノルンがぷるぷるとその小さな肩を震わせ、レイリィが前世の夫の愚行にため息をつく。
「その、なんだ。ごめんね、のぞみちゃん」
ガリアードが片手を顔の前に持ってきて、軽い口調で謝る。
ぶちィッ!!
ーー何かが切れるような音が聞こえた気がした。
「防御陣まぐなむ!!」
「ぶべらっ!!」
ノルンの放った防御陣コークスクリューパンチがガリアードをぶっ飛ばした。
ミリシャル神殿の出入り口の大扉を粉砕して、ガリアードが外へ吹っ飛んでいく。
「ぐおあああ……」
顔面をぶん殴られたガリアードが涙目で起き上がると、ガリアードの視線の先には、目に涙を溢れさせたノルンが仁王立ちしていた。
「ぼくが……ぼくが……!!どれだけ泣いて悩んだと思ってるのぉぉぉっ!!」
さっきの一撃よりもっと巨大な防御陣ぱんちが、ミリシャル神殿前の大広場の空を覆い尽くす。
あ、こりゃガリアード死んだな。
合掌。
「ま、待てのぞみ!!パパが悪かったから!!」
「娘にホントは男の子なんだよなんて、ウソつくようなパパはぼくにはいない!!ぼくのパパはノルンのパパだけだもん!!」
ノルンは泣きながら、巨大な防御陣ぱんちを、全力全開で振り下ろす。
ラギアン王国に凄まじい地震の振動と、隣国の皇帝の絶叫が響き渡るのだった……。
まあ、その、なんだ。
悩みが消えて良かったね、ノルン……。
次回、エピローグに入ります。
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普通のTSを期待されてた方、ごめんなさい!!




