40.あなたと共に
「ぼくとだーりんが……」
ノルンはそう呟くと、目を輝かせて言った。
「すごいすごい!!だーりん前世も勇者様だったんだ!!」
ノルンが嬉しそうにはしゃぐ。
それを言ったら、ノルンだって前世は聖女、と言おうとした所でノルンの泣き顔を思い出す。
輪廻転生があるなら、必ずしも前と同じ性別に生まれ変わる訳ではないんだよな……。
「あ、でもアルバライザーは喋らないね?」
「残念ながら、長い時を経て彼の疑似人格は失われてしまいました。今は神剣としての力のみが残っている状態なのです」
「そっか……。でも色々納得出来たよ。なんで、だーりんがアルバライザーを抜けたのか。なんで、ぼくがあなたを手に出来たのか、ね」
「はい。私達神器は魂の契約をした方にしか、絶対に扱えませんから」
「そうなんだ。でもすごい偶然だよね。ぼくがおばーちゃんの孫娘でパパの子じゃなかったら、きっとリライザを手にする事なんてなかったもん」
ノルンはそう言って腕輪型のリライザを撫でる。
「偶然ではありません。そういう運命だったのです」
「運命?」
「はい。私はアルバライザーに守られながら、彼の作り出した女神像の中でずっと、輪廻転生を繰り返すあなた方を見守っていました。あなた方は様々な時代、様々な世界に何度も何度も転生してきました」
俺達は黙って、ノルンとリライザのやりとりに耳を傾ける。
「転生した先でその生を全うし、再び新たな生を受け、新たな人生を生きていくあなた方を私はずっと見守っていました。ですが、主様がこことは違う世界に生を受けた前世で、次元の狭間に封印されていた邪神ドルディバイアが、あなたの存在に気付いてしまったのです」
「……」
ノルンは真剣な表情で、リライザの言葉に耳を傾ける。
「最初の主様聖女ノエルの施した封印を完全に破るには、封印を施した者を殺してその魂を捧げないといけないのです。それは本当に偶然の出来事でした」
「……」
「あなたを乗せた飛行機に雷が当たったその時にほんの一瞬だけ、次元の狭間に極々小さな穴が開いてしまった。復活の時を虎視眈々と狙っていた邪神はその小さな穴から、あなたを乗せた飛行機の機関部にほんの少し、干渉をした。そのせいで飛行機は墜落してあなたは命を落とし、邪神が蘇ってしまったのです。不完全な形とはいえ、現世に蘇った邪神は闇に潜み、ずっと失った力を補うべく、残された力を増幅していたのです」
……それで邪神が蘇ったのか。
そして、力を取り戻して世界を滅ぼす為に、悪魔達を生み出し破滅の為に動き出した、とそういう事か。
「私は蘇った邪神ドルディバイアが、あなたの魂を取り込む前にこの世界へと逃しました。そしてあなたはノルン・フォルシオンとして、新たな生を受けたのです」
「そうだったんだ……。ぼく、なんにも知らなかった……」
「それは仕方のない事です。本来であればあなたはあちらの世界でその生涯を全うし、再び輪廻の輪に還るはずだったのですから」
「うん……。でも、前世で最後に悲しい事が起きちゃったけど、前世は幸せだったし、今もとっても幸せだよ。ありがとう、リライザ。ずっと見守ってくれてて」
「どう致しまして。私はいつでも、あなたと共にあります」
「あ、そうだ。あともうひとつ教えて。どうしてぼく、前世の記憶があるの?」
「前世の記憶が残っているのは、不慮の事故死からの急な転生の影響です。本来なら死んだ者は輪廻の輪に還る事で、すべての記憶を失い真っ白な状態で転生するのが、輪廻転生と言う物ですから。今回の前世の記憶の件については、イレギュラーな事故と言う事になります」
「……うん。全部わかった。ありがとう。ぼくもう全部吹っ切れたよ!!」
そう言って、ノルンは清々しい表情で笑う。
ノルンが過去を振り切れたのなら、良かった。
「なあ、さっきから何の話をしてるのかさっぱりなんだが」
「私達にもわかるように、説明してくれる?」
ガリアードとレイリィが至極最もな台詞を吐く。
「あ、うん。えっと、どこから話そうかな……」
ノルンは少し考えながら、二人に説明を始めた。




