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29.さよなら

 「ノルン……。メモラ修道院からの迎えが来ましたよ」


 まだお日様も登ってない早朝。おばーちゃんがぼくの部屋にやってきて、お迎えが来た事をぼくに告げる。


 「……はい」


 ぼくは必要最低限の荷物と、腕輪に変形させた女神の杖だけを持って、長い間使ってきた自分の部屋を出た。


 「……本当に修道院に入るの?」


 おばーちゃんが心配そうな顔で、ぼくに問いかける。


 「もう、決めた事だから……」


 修道院に入ると決めたその日の内にぼくは以前、旅の途中で立ち寄った修道院に早文を出した。

 伝説の女神の杖を手にした聖女が、修道院に入るのはあちらにとってはとても光栄な事らしく、わざわざこちらまで迎えに来てくれるらしい。


 飛行船ならすぐに着くけれど、今回は聖女の修道院入りと言う事で、馬車を使っての道中、関係各所に巡礼をしながらメモラ修道院に向かう事になった。


 ーーあれからライ様には会ってない。


 何度もぼくを訪ねてきてくれたけれど、すべて理由を付けて帰ってもらった。

 ライ様だけでなく、レイリィおねーちゃん達とも会わないようにして、ぼくはこの日を迎えた。

 会ったら、決心が鈍るから……。


 「お祖母様、今まで育てていただきありがとうございました。これから、私はこの身を一生、神に捧げて生きていきます」


 迎えに来てくれた修道院の使いの人達の前で、おばーちゃんにそう言ってお辞儀をした。

 おばーちゃん、こんなぼくをここまで育ててくれて、本当にありがとう……。

 向こうに着いたら、お手紙書くからね。


 「……ノルン」


 何か言いたげなおばーちゃんに背を向けて、馬車に乗り込む。


 「それでは聖女様」

 「はい。よろしくお願い致します」


 御者のおじさんにそう答えると、馬車がゆっくりと走り出した……。


   ☆


 護衛に雇われたらしい数人の冒険者達に守られながら、ぼくを乗せた馬車がラギアン王国からどんどん遠ざかっていく。

 目を閉じると思い出すのは、ライ様との冒険の日々の事ばかりだった。


 「……未練がましいよね」


 ぼくはぼそりと自嘲気味に呟く。

 あれから何時間位、馬車に揺られていただろう。

 何も考えないようにしてるのに、どうしてもライ様との思い出ばかり思い出しちゃう……。


 「ぎゃあああああああっ!!」


 馬車の中でずっと俯いて物思いに耽っていたぼくの意識は、突然聞こえた悲鳴によって現実に引き戻された。


 「ひいいいっ!!助けてえええ!!」

 「畜生!!なんだってまだ悪魔がいるんだよ!?……ぐあああっ!!」


 外から聞こえた悲鳴に慌てて馬車から飛び出すと、御者のおじさんも、護衛の冒険者も、修道院から迎えに来てくれた人達もみんな倒れていた。

 みんなの状態を見ると、腕をもぎ取られた人、心臓を貫かれた人、首をへし折られた人と、皆酷い状態だった。


 「……っ!?皆さん大丈夫ですか!?今お助けします!!最高位回復魔法エクス・ヒール!!」


 まだ息がある人達と、可哀想に死んでしまった人達全員にまとめて、女神の杖を手にして最高位回復魔法エクス・ヒールを使う。

 その場に倒れてる全員が眩い光に包まれ、一瞬で怪我の全開回復と蘇生が完了した。


 「うう……あれ?失くなった腕が元に戻ってる……」

 「私は確かに心臓を貫かれ殺されたはずなのに……」

 「これが……聖女の奇跡……なのか……」


 全員が無傷の状態で、困惑しながら起き上がる。


 ーー良かった。間に合った!!


 あと少し遅れてたら、肉体から魂が分離し完全に死亡して蘇生出来なかった。

 女神様から授かった最高位回復魔法エクス・ヒールはあらゆるダメージを修復し、死後3分以内なら死者をも蘇生させる事が出来る。

 ライ様達と一緒の時はライ様達は勿論、一般人さえ誰も死ななかったから、蘇生に使った事はなかったけど、上手く行って良かった。


 「くっくっく……。流石は聖女よ……」


 声のした方に振り返ると、そこには一体の悪魔が立っていた。

 尖った耳まで裂けた口に、ギザギザの歯。

 血のような赤色の黒目のない吊り目に、全身が毒々しい黒紫色の肌をした、人間サイズの悪魔。

 この邪気にぼくは覚えがあった。


 「邪神ドルディバイア……。勇者様が倒したはずなのに、どうして……?」


 ぼくが振り向いたその先には、浮遊城塞で確かにぼく達が倒したはずの邪神が立っていた……。

いよいよ終盤に入りました。

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