19.かわいいあの子
出会い編です。
片手にバスケットを引っかけ、小さな仔猫を抱いた女の子が、額から血を流してる俺を見て、慌てて回復魔法をかけ怪我を治療してくれる。
暖かく優しい癒やしの光を浴びながら、目の前の儚げで可憐な女の子に見惚れていると、腹の虫が大きく鳴った。
俺が腹を空かせている事に気づいた彼女は、俺に持っていたバスケットを差し出して言った。
「あ、あの。もしよろしければどうぞ。私が作った物なので、お口にあわないかもしれませんが……。ご迷惑をおかけしたお詫びに受け取ってください」
そう言って俺にバスケットを渡すと、女の子は俺に何度も頭を下げて去って行った。
残された俺はバスケットの中に入っていた弁当と、飲み物が入った水筒を見て夢中になって食べた。
女の子の物だから量が少な目だったが、空腹を紛らわすには丁度良かった。
とても美味しい弁当を食べ終わり、水筒のお茶を飲み干してから、水筒に書かれた名前に気がついた。
ノルン・フォルシオン。
それが俺の上に落ちてきた天使の名前らしい。
その後何とか日雇いの仕事を見つけた俺は幾らか稼ぐ事が出来た。
ただ、仕事をしてる時も、休んでいる時もずっと、ノルンと言う名の女の子の事が、頭から離れなかった。
どうにか懐に余裕が出来た俺は、彼女にバスケットと新しく購入した水筒を返そうと思い、彼女を探し始めた。
あんなにかわいい子なら、誰かに聞けば居場所がすぐわかるかもしれない。
そう思いとりあえずたまたま俺の近くを散歩をしていた老人に、彼女の特徴を話して駄目元で尋ねてみたら、あっさりと居場所がわかった。
どうやら彼女は、ミリシャル神殿を管理している、高名な聖女の孫娘らしい。
居場所を突き止めた俺は早速、彼女に会いに行った。
「こんにちは。先日はお弁当ありがとう。とても美味しかったよ」
そう言って、弁当の入っていたバスケットと新しく購入してきた水筒を渡すと、彼女は俺に微笑んでくれたのだった。
「旅人さんはどこから来られたんですか?」
バスケットと水筒を返した俺は、年齢の割に丁寧な言葉遣いをする彼女と他愛もない世間話をした。
何気ない会話の中で彼女、ノルンが13歳で俺の3つ年下である事、祖母に育てられていて、神官見習いの身である事などを知った。
ふと、修道女でなく神官なら、普通に結婚出来るなと思ってしまった。
俺はどうやら、このかわいらしい女の子の事が、気になって気になって仕方ないらしい事をこの時自覚した。
もうちょい回想続きます。