17.勇者、語る
ノルンが泣き出したあの時、その場にいた全員が王様の提案を聞いて何言ってんだこいつ。と殺気すら放ち、冷たい視線を投げかけたのには驚いた。
まあ、国一番の権力者とは言え、王様とかわいい聖女、どっちの味方をするか聞かれたら、誰だってノルンを選ぶだろう。
娘と妻だけでなく、その場にいた臣下達にまで、何聖女泣かしてんだコラ、と睨まれた王様は涙目になりながら見合いは強制ではなく、俺に他に心に決めた相手がいるなら、その相手との結婚式を行う時に盛大に祝ってくれると、そう言ってくれた。
俺の心に決めた相手?
そんなの、ノルンしかいない。
とは言え、俺はまだ彼女に愛の告白さえしていない。
出来れば彼女の一生の思い出になるような、そんなロマンチックな愛の告白をしたい。
したいのだが……。
「どうしてこう、うまく行かないんだろう……」
この国に戻ってきてから、なんだかノルンの様子がおかしいんだ。
謁見が終わってからすぐにノルンに会いに行ったのだが、ノルンは気分が優れないからと彼女のお婆さんに会わせてもらえなかった。
凱旋パレードも祝勝パーティーもひとまず延期になったが、そんな事はどうだっていい。
「はあ……。俺はノルンに対していったい、何をしてあげればいいんだ……」
ノルンに会いたい。また笑顔を見せてほしい。
「まったく……。いつまでもうじうじと……。だったら優しく抱きしめて、耳元で愛でも囁いてあげればいいじゃないの。少し前のあの子ならともかく、今のあの子なら喜んで受け入れてくれるんじゃないの?」
「……本当にそう思うのか?」
レイリィのその言葉にそう尋ねると、レイリィは笑いながら答える。
「だって、ライ。貴方ノルンの気を引きたくて、ずっとがんばってきたじゃないの」
図星を突かれて俺は言葉に詰まる。
ああ、そうだ。俺はノルンの気を引きたくて、ノルンに俺の事を好きになってもらいたくて、今までがんばってきたんだ。
「……ああ。そうだったな」
「おいおいおい。女の為だけに努力してきたって?本気かよ」
「……悪いか?俺は初めて会ったあの日からずっと、ノルンの事が好きだ。ノルンが俺の事を好きになってくれるなら、なんだってしてやるさ。今までだってそうしてきたんだ」
ノルン好みの男になるべく、勇者らしく振る舞ってきたんだ。
「お、おう……」
俺を茶化そうとしたガリアードにそう答え、俺は手探りでグラスを掴むと中の飲み物を一気に飲み干す。
「あ、おい。それ、俺が頼んだ追加の酒……」
何やらガリアードが喚いてたが、ノルンの事以外正直どうでもいい。
俺の脳裏にノルンのかわいい笑顔がよぎる。
「そうだ……。俺はこんなにもノルンの事が好きなんだ……。そう、俺とノルンとの出会いは一年半前の事だった……」
「おい、レイリィ。ライの奴いきなり語り始めたぞ……」
「まあいいじゃないの。少しくらい聞いてあげましょうよ」
目を閉じれば、今でも鮮明に思い出せる……。
俺とノルンの出会いを……。
ライも男ですし。
次は過去をちょっと描いていきます。