16.side:ライ
「はあ……。俺はいったい、どこで間違えたんだろう……?」
旅人や近隣住民が集うこの料亭兼宿屋で、俺はテーブルに突っ伏しながら深く溜息をつく。
この俺、ラインハルト・レオスはこの料亭兼宿屋に宿泊してるのだ。
勇者になる前からここに世話になってるので、凱旋後も好きでここに宿泊している。
その内ちゃんとした住居を用意しないといけないのだが……。
「やれやれ。勇者殿とノルンの仲がどうなったか、気になって戻ってきてみれば、随分と辛気臭い顔をしてるじゃないか」
一度ガリアス帝国に帰ってから、またこのラギアン王国に戻ってきたガリアードが、テーブルを挟んだ俺の前の席に座りながら、美味そうに酒を飲み干す。
「ちょっと、ガリア。飲みすぎよ」
ガリアードの隣の席に座ったレイリィが、ガリアードをそう嗜める。
「……仮にも、この王国の姫君と隣国の皇帝陛下が、護衛も付けずにこんな所にいていいのか?」
共に戦った仲間達にそう尋ねると、二人共別に問題ないと答えた。
いや、大有りだろ……。
この二人にどうこう出来る相手なんて、そうはいないとは言ってもな。
まあそんな事はどうでもいい。
「はあ……。最近はいい感じだと思ってたのになあ……」
ノルンとの距離も初めて会ったあの頃に比べて、ぐっと近付いたと思ってたのに……。
「ああ、もう!!男の子でしょ!!シャキッっとしなさい!!シャキッと!!」
レイリィが俺の態度に業を煮やして、テーブルを叩いて俺にそう叫ぶ。
「レイリィ、落ち着け。落ち着け」
ガリアードがどうどう、と彼女を嗜める。
「ライ。こういう時は酒だ。酒を飲め」
酒を勧めてくるガリアードに俺はきっぱりと答える。
「酒は二十歳になってからだ。勇者としてルール無視は出来ない」
俺はまだ18だ。
「やれやれ。つまんねえ野郎だな。男同士酒を飲みながら、腹を割って話す位いいだろうに」
「私もいるんですけど?」
「おっと、そうだったな。すまんレイリィ」
そんな二人の仲睦まじい様子を見せつけられながら、俺はノルンの事を思い浮かべる。
王様への謁見で王様が俺に姪っ子との見合い話を持ち出した時、ノルンは泣き出してしまった。
あれはきっと、そういう事なんだよな……。
ノルンも俺の事、想ってくれてるんだよな?
謁見の最中でなかったら、すぐに追いかけて抱きしめたかった。
ノルンの涙を拭ってあげたかった。
あの時、ノルンに何もしてあげられなかった自分を殺してやりたい……。
しばらくライ視点になります。