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占戦術学校の愚か者ども  作者: 蒼骨 渉
第一章 サテラプレティツィガーレ占戦術学校一年生前期
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第一章0 開幕は鎮魂歌とともに

 今日は大占戦術大会。

 それは占戦術師を目指す者ならば誰もが憧れる夢の舞台。


 サテラプレティツィガーレ占戦術学校に通う生徒等が、その学び舎で学び得た占いと占戦術の技術を競い、戦い、その年一番の占戦術師を決める大祭典だ。


 フラムソール王国で開催される祭典の中で最も大きな祭典であるため、国王は勿論のこと、観覧席には多くの有権者が将来有望な占戦術師を見定めておこうと目を光らせている。

 故に、大会に出場する生徒にとってこの大占戦術大会とは単に占戦術を競うだけでなく、自らの将来へと繋がる大事なアピール場でもあるのだ。


 コロッセオの模したドーム状の会場は開演前だというのに既に観客で埋まっており、今から行われる一年決勝と三年決勝の試合を今か今かと待ち詫びていた。

 だが、会場の空気はいつもと様子が違っていた。

 それもそのはずで、今回の大占戦術大会は前代未聞の決勝戦を迎えていたのだ。


「おい、アビ=ウェイトってどこのどいつか知ってるか?」


「は、知るかよウェイトなんて。それよか重要なのは、決勝に男子生徒が上がってきたってことだろ? これまでに男子生徒が決勝に来たことは一度もねーんだからよ」


「まぁ、毎年アクアルーナの娘が一枠持って行くからな。必然的に男の確立は減るわけだが・・・・・・その奇跡が一度に二つやってきたってんだから、今年は波乱な予感がするぜ」


 そう彼等が口を揃えて言うように、今年の決勝戦には一年生と三年生ともに男子生徒が勝ち上がっており、それは過去四十七回行われてきた大占戦術大会で一度も無い異例の事態だった。


 会場内は同じような話題で騒然としており、『ついにアクアルーナが負ける日が来たか?』『これからはついに男の占戦術師の時代だ!』など、不穏な予想や歴史的瞬間が訪れる期待などが交錯していた。


「さぁて皆さん、大変お待たせしましただゼェ!」


 突如会場にマイクアナウンスが入った。観客はそのコールで静まりかえる。


「おほん。昨日今日と二日に渡って行われてきた第四十八回サテラプレティツィガーレ占戦術学校大占戦術大会も残すところ二試合となってしまいました――――――が、まだまだ燃え尽きちゃーいねーよなお前等!? お手洗い、小さい子のおもり、手元のポップコーンはちゃんと食べ終えてるかああぁ!?」


 マイクマンが煽る度に観客も合いの手の雄叫びを入れる。しばらくその応酬が続き、会場が温まったところでついに待ちわびていた時は訪れる。


「お前等最高だゼェ! これから行われる決勝戦、一瞬たりとも目を離すんじゃねーぞ! それでは選手の入場だゼェ!」


 ハウリングを起こすくらいの声量でマイクマンは選手入場を告げた。その合図を受けて競技場には二人の生徒が姿を現す。


「まずは向かって東側、誰も知らない聞いたことも無い凡人中の凡人。入学試験では最下位と早々にして崖っぷちに追いやられたが、その崖を掴んで離さない凄まじい執念と根性はまさしく愚者なり! 飛ぶ鳥を落とす勢いでこの大舞台に上り詰めてきたダークホースは、初の男子決勝進出と初優勝のW偉業を成し遂げられるのか!?

 愚かなる挑戦者、アビ~~~~~~~~~、ウェ~~~~~~~~~イト!!」


 褒められているのか貶されているのかなんとも微妙な選手紹介。

 観客席からは拍手と耳の痛いブーイングが半々で聞こえてきていた。

 占術女性特別協会と呼ばれる、ざっくり言うと「占い師には女性の方が優れているため男性の占い師は要らない」という思想の教団も存在するくらい占術界は女尊男卑が主流なため、予想通りの反応である。


『やっぱりお前、相当嫌われてるよな』


『別に僕が嫌われてる訳じゃ無いだろう。それよりもう少しだから黙って待ってて』


 耳元に囁かれるように聞こえてくる声に、アビは口を開かずに応じる。この二人の会話は他の者には聞こえていないようだ。


「続きまして西側、こちらはもう説明不要でしょう! 

 冷静沈着、無情冷酷、雪と鉄の(スノーアイアン)魔女(ノア)の異名を持つ、絶対王女アクアルーナ家の令嬢。皆さんご存じ、ノア~~~~~~アクアル~~~~~~ナ~~~~~~~」


 絶妙な巻き舌で呼ばれるその名を知らない者は居ない。

 ここサテラプレティツィガーレ占戦術学校の創設者であり、現在もなお学校長を務めるアクアルーナ家は、占術の祖と呼ばれるくらい占術に優れた血筋だ。フラムソール王国が占い師を起用するきっかけとなったのも、このアクアルーナだと史実では語られている。

 過去に開催された大占戦術大会の優勝者、その全員がこの家の娘である。


 拍手喝采、大歓声が響く中、無名の男子であるアビ=ウェイトと有名な絶対王女ノア=アクアルーナは対峙する。


「最後の相手が貴方だなんて、つくづく運命とは皮肉なものね」


 先に声を出したのはノアだった。彼女は胸の前で腕を組んだまま鋭く冷たい目でアビを見据える。


「どうだろうね。これが本当に運命ならそうかもしれないけど――――。でも、まさかノアとこんな大舞台で戦うことになるなんて、入学した当時は夢にも思ってなかったよ」


「それは同感ね。入学した時点での私とあなたとの間には天と地ほど差があったもの。そも、こうして対面してもその差が縮まったとは露ほども思わないけれど」


「あははは・・・・・・。まぁ、運も実力のうちって言うからね」


 ノアの厳しい言葉に苦笑を漏らすアビ。

 確かに彼女の言う通り、アビとノアの本当の実力差は入学時と殆ど変わっていないだろう。それを向かい合っただけで感じ取れるノアの霊力――――いや、瞳には感心せざるを得なかった。


 だが、事実としてアビはこの決勝の舞台に足を運んでいる。

 その点を彼女はまぐれや偶然、もしくは皮肉な運命という言葉で述べたのだろうがそれは見当違いだ。

 これは予め定められていた運命。つまりは宿命だった。

 おそらく今はアビ自身もこの場を自分の身に憑いた七十七人の霊の仇討ち程度でしか認識していないだろうが。


「その運も確かな実力の前には手も足も出ないことを思い知らせてあげる」


「悪いけど、僕には負けられない事情があるんだ。例え手も足も出なくても、この身に宿る霊体で君に勝ってみせるよ」


 霊体には手や足という概念が無いから関係無いと、アビは風刺の効いた切り返しで応じた。

 その態度にノアはぴくりと口元を引き上げるも、それ以上の追白はしなかった。わざわざ口車に乗らずとも、実際に相手の膝を折れば良いだけの話だからだ。


「それでは両者、準備は宜しいかな?」


 二人の間に立つ審判が確認を取り、両者とも無言で頷き返した。


「準備が整ったようだ、それじゃあ始めるゼェ! 大占戦術大会、一年生決勝、アビ=ウェイトVSノア=アクアルーナ。占戦術名は周知の通り【シンクロニシティ】一本勝負。  

―――――――――太陽と月に誓って(アストラーレ)!」


 マイクマンによって試合開始が宣言された。それと同時にノアも勝負の宣言を口にしようとするが――――


「アストラッ・・・・・・・・・・・・!?」


 ノアは対戦相手の男子生徒が全く自分のことを見ておらず、また開戦の誓いの言葉すら発しようとしないことに驚き、喉を詰まらせた。


「ごめんねノア。本当は僕も自分の力で君と戦いたいんだけど、そうもいかないんだ」


 アビは下を見ながら、ノアには聞こえない声量で呟く。

 その表情はどこか悲しく、後悔しているようにも見えた。

 しかし次の瞬間、彼の纏う雰囲気は一変する。


「約束の時間だアクレイ。君たちの無念を晴らす報いの一矢を投じる時だよ」


 アビは最後の言葉を残し、そして自分の体を中に宿るアクレイに託す。

 入れ替わりのタイミングでアビの体は骨が抜かれたかのように脱力し、再び全身に力が入ると同時に今度は風貌が変化を遂げた。


 真っ黒な髪は毛先から徐々に雪のように真っ白に染まり、柔らかく優しい目はギリと吊り上がる。鋭く伸びた犬歯は血を吸う夜の悪魔のように、爪は死神の提げる鎌のように婉曲していた。

 ただ見た目の変化よりもっと恐ろしかったのは、全身からドロドロと湧き出ている青白いオーラ――――それは占戦術師が占戦術師たる由縁、霊力という魂の力だ。


 その気色の悪い凄まじい霊力を感じられた者は決して多くない。見える者、感じられる者にはハッキリと分かる変化だが、そうでない者、特に一般人には「様子がおかしいな?」程度にしか思えない繊細な変化なのだ。


 もちろんノアはその変化をバッチリと視認できていた。だからこそ余計に、目の前の人ならざる何かに戦慄していた。


「ク、クキャ、クキャキャキャキャキャキャアッ! ああぁ何年、いや何十年待ったことか。この日のために俺たちは泥臭くこの世に残り続けて来たんだ。あぁーうめぇ、うめぇぞ! 息を吸うってなんて爽快なんだ。――――ほんと感謝するぜーアビ。これでやっと俺たちの仇、憎きアクアルーナの女共をぶっ潰せるぜ!」


 そう叫びながら、己の手指を動かし身体の感触を確かめるアクレイ。彼がこの身体を使うのは三回目だった。


「さぁて、始めようか。我らが同朋へ捧げる鎮魂歌(レクイエム)を」


 大占戦術大会一年生決勝。そのファンファーレは悪魔の狂笑によって掻き消され、その笑い声は波乱を奏でる魔笛となった。


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