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第4話 寛解への道(1) ~認知療法~

 ラパツィンスキ様が私を訪問してくださって1週間後。

 侍女のワンダがまた唐突に言った。


「本日から姫殿下には護衛魔導士がお付きになります」

「えっ? 私には護衛騎士が付いているじゃない。それに加えて護衛魔導士ってこと?」


「はい。皇帝陛下のご沙汰にございます」


 は~っ。お父様も何と過保護な……。

 ということは、あの方よね……また迷惑をかけてしまった……。


「今見えられたようですよ」とワンダが言うと護衛魔導士が姿を現わした。予想どおり、ラパツィンスキ様だった。

 私は第一声で謝罪の言葉を発した。


「ラパツィンスキ様。私のような役立たずのために、ご迷惑をおかけしてしまいました。申し訳ございません」


 ラパツィンスキ様は、何でもないかのように爽やかに答える。

「謝罪には及びませんよ。私が陛下に無理にお願いして護衛魔導士のポストを作り、ねじ込んでいただいたのです。

 それに姫殿下には過剰にご自分を卑下なさる癖がおありのようですね。これは少しずつ修正していきましょうね」


 そうは言われても、私としては罪悪感を覚えてしまう。


 ラパツィンスキ様は、私の罪悪感に気付いているのか、かまわず粛々と話を進める。


「今日は認知療法というものをやってみましょう」


「認知療法?」

「お渡ししたメモと一緒にワークシートがあったでしょう?」


 ああ。そう言われればあった気がする。

 けど、やり方がよくわからなくて放置していたのだった。

 時間は有り余っていたというのに……


 それは気がかりな出来事について、その時の感情を把握し、認知を把握し、認知の歪みを見直し、見直し後の感情を再確認するというものだった。

 私はラパツィンスキ様と一緒に侯爵家の末娘とお兄様がトラブルを起こした件について実践してみることにした。

 私の病のトリガーとなったあの件だ。


 ラパツィンスキ様が誘導してくれる。


「まずは姫殿下。出来事が起きたときの感情を思い出して書き込んでみてください」

「そうね。公爵令嬢に深く同情し、心が張り裂けんばかりだった。それに明日は我が身ではないかととても心配したわ」


 ラパツィンスキ様は話を進める。

「では、そのとき姫殿下は、どのように認知されていたのでしょうか?」

「彼女が夜会を初体験だということにもっと配慮し、私が上手く立ち回っていれば、このような事件は防げたのではないかと自分を責めたわ。それにもともと苦手だったお兄様をより怖く感じたわ」


 ラパツィンスキ様は話を続けた。

「続いて、姫殿下の認知を見直してみましょう。まずは、この出来事において第一義的な責任を負うべきものは誰だと思いますか?」

「それは失言をしてしまった令嬢本人だけれど、年若いし、初めての夜会だったわけだから、情状酌量の余地はあると思うわ。もちろん、それを笠に着てはいけないのだけれど……」


「確かにそのとおりですね。では、次に責任のあるのは誰でしょうか。一般論として考えてみてください」

「それは令嬢の身内の人たちだと思うわ。その人たちが初めての夜会だということを踏まえて慎重に令嬢をフォローしていれば、そもそも失言は防げたかもしれないし、失言してしまった後も、兄上に情状酌量を願い出ることもできたはずよ」


「では、(ひるがえ)って、皇太子殿下についてはどう思いますか?」

「そうねえ。相手は年若い令嬢な訳だから、その失言を真に受けて激怒するというのは、大人げがないわね。だから我慢しろとは言わないけれど、目上の者としては、失言を角が立たないように指摘して反省を促すのが紳士的な対応だと思うわ。

 そういう意味では、私がそういう方向で仲裁に入った方が良かったのかしら?」


「そこは、一般論から言って、目上の者が諭すのがベターでしょうね。妹から諭されるというのは、皇太子殿下も気まずいでしょう。結果として、皇帝陛下が仲裁に入られたのですから、それはそれで正解の行動だったのですよ。

 後は、この教訓を踏まえて、皇太子殿下が以後の行動を修正できるかどうかですね」

「なるほど、確かにそう思うわ」


 そしてラパツィンスキ様は総括に入る。

「では、これで姫殿下の認知の歪みは明らかとなりました。改めて歪みを認識してみて、今の感情はいかがでしょうか?」

「今ので私が必要以上に自分を責め、必要以上にお兄様を恐れたことがよくわかった。その意味では、気持ちがずいぶんと楽になったわ」


 なるほど、確かに私には過剰に自分を責める認知の歪みがあるようだ……。

 私は目から鱗が落ちる思いだった。


「1回では効果はたかが知れているので、今度から気になる出来事があったときは、このワークシートを書いてみることを続けてみてください。しばらくは私もお助けしますが、最終的にはお1人でできるようになることが目標です」

「はい。わかりました。やってみることにします」


 私はふと思った。

 「認知療法」などと言う言葉は聞いたことがない。もし宮廷医師が知っていることであれば、とっくに実践しているはずだ。

 ラパツィンスキ様は、なぜこのような知識を持っているのだろう……?

お読みいただきありがとうございます。


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