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第20話 ホラント王国内戦と新しい国王

 魔王軍が去って平和が訪れるかに思えたホラント王国であるが、国民たちの期待は無残に打ち砕かれた。


 魔王軍がホラント王国に侵攻した際、国王フリードリヒⅡ世とその一族は女子供から老人に至るまで皆殺しにされていた。


 このため、魔王軍が撤退した後、王の遠縁を主張する者が何人も王位を僭称し、互いに争い始め、内戦を繰り広げたのだ。

 一難去ってまた一難となったホラント王国の民は、多大な損害を被りながらも、これを見守るしかなかった。


 そして、約半年後、ディーター・フォン・ヴァスマイヤーという男が勝利し、正式に王位を表明した。


 だが、今度こそ平和が訪れると期待したホラント王国民は、またも裏切られることになる。

 ヴァスマイヤーは戦争には秀でていたが、政治的能力は皆無だったのだ。


 彼は、国民に重税を課すと、贅沢の限りを尽くした。


 挙句の果てに、美女狩りまで始める始末だ。

 国内の町や村で一番の美女を宮廷に差しだせというのである。


 これには、ついに国民も堪忍袋の緒が切れた。

 国内各地で暴動が発生し、軍隊も少しでも良心のある者は、これに味方した。


 ヴァスマイヤーは、反乱軍の猛攻に城を追われ、ついには部下たちにも見放されて、単身で逃亡しているところを、近隣の村人たちに発見された。そして、怒り心頭に達していた村人たちに寄って(たか)って撲殺された。


 反乱軍の有力者たちは話し合いの末、ラパツィンスキ様に白羽の矢を立てた。

 もはや血筋ではなく、魔王軍から国を救ってくれた救国の英雄こそ、国王に相応しいというのが結論だった。


    ◆


 ホラント王国の反乱軍が立ち上げた臨時政府からラパツィンスキ様本人とベルメン帝国皇帝のもとへ、王に招請する文書が届いた。


 ラパツィンスキ様は直ちに皇帝に呼び出された。


(ちん)としては、其方(そなた)のことを手放したくはないのだが、ホラント国民の気持ちも痛いほどわかる。其方の気持ちの方はどうなのだ?」

「他国のこととはいえ、苦しんでいる民たちを放置しておくのは、見るに忍びません」


「其方がそう言うのであれば、仕方あるまい」

「恐れ入ります」


「しかし、このようなことになるのであれば、早々に其方に帝位を譲っておくべきであったな」

「また、そのようなお(たわむ)れを……」


 ラパツィンスキ様のホラント国王就任の知らせが帝国内に伝わると、帝国臣民は落胆した。

 彼らの間では、ラパツィンスキ様の帝位就任に対する熱はまだ冷めていなかったのである。


    ◆


 ラパツィンスキ様のホラント国王就任の知らせを受けた私は、意気消沈していた。


 たった1週間離れていただけで、あれだけ寂しい思いをしたのだ。

 相手が国王ともなれば、そうそう簡単には会えなくなる。


 その夜。

 ラパツィンスキ様が私を訪ねてくださったとき、彼の胸にすがって泣きに泣いた。


 引き留めたかったが、私の我が儘だということはわかっている。

 多数のホラント国民と私一人の幸福を天秤にかけたら答えは明確だ。


 どんな理不尽でもいいから、彼を引き留める(すべ)はないものか?

 私は必死に考えたが、結論が出ることはなかった。


 ラパツィンスキ様は泣きじゃくる私を無言で抱いて慰めてくれていた。

 私は泣き疲れ、いつしか彼の腕の中で眠りについたようだった。


 翌朝。

 目が覚めると、私は着替えもせず、普段着のまま、ベッドの上でラパツィンスキ様の腕に抱かれていた。


「ごめんなさい。私……」

「お目覚めになりましたか……気分は……いいはずはありませんよね」


 泣き腫らした瞼が重い。今の私はさぞかし酷い顔をしているだろう。こんな顔を見られてしまっては、恋も冷めるのではないか?


 でも、この際、それもいいかもしれない……。

 少し自嘲気味の自分がいた。


「一晩中抱いて慰めていてくれたのですか?」

「私の決断が招いた結果ですからね。せめてもの罪滅ぼしですよ」


「そんな……」

 私の我が儘のために……申し訳ない……。


「もう……会えなくなるのかしら?」

「立場的に頻繁にというのは難しいでしょうね。でも、なんとか口実を見つけて会いにきますよ」


「本当よ。約束だからね」

「では、約束の(あかし)としてバルツを置いていきますよ。引き続き可愛がってやってくださいね」


「ありがとう……」


 そして、私は生まれて初めて自分から求めてキスをした。


    ◆


 あの日。

 ラパツィンスキ様は、早々に身一つでホラント王国へと出立して行った。


 あっけないようにも思ったが、身支度に時間をかけているようであれば、その間も私の心は千々に乱れたのではないかと思うと有難くもあった。


 早いもので、あれから半年……。


 私の心は相変わらず覇気がなく、沈んだままだったが、ラパツィンスキ様に教えていただいた様々なことを実践し、気鬱の病はなんとか再発せずに済んでいた。

 これにはバルツの存在も大きかった。


 そんなとき、驚くべき知らせがもたらされた。


 魔王軍侵攻と内戦により、荒れ放題となっていた国土の復興に目鼻立ちがついたホラント王国から私への婚姻申し込みの使者がやって来たのである。

 もちろんお相手はラパツィンスキ様だ。


 これを聞いた私は目が覚める思いだった。


 そもそもラパツィンスキ様と私が結婚できない理由は、ラパツィンスキ様の身分問題だった。

 彼が国王となった今、王族どうしの婚姻となれば何の問題もないではないか。


 が、私はふと思った。

 救国の英雄に加え、「聖女」と呼ばれる第1皇女をホラント王国にとられてしまう帝国臣民はどう考えるだろう……。


 それにベルメン帝国の次期皇帝はどうなる?

 あの腹黒大公が思惑どおり摂政(せっしょう)になってしまうのか?


 ラパツィンスキ様との婚姻はうれしかったが、帝国に後ろ髪を引かれる思いがする私がいた。

お読みいただきありがとうございます。


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