7話
「あれ、エミリーちゃん、久しぶりだね。」
「久しぶりだね、マリ。」
「あれ、男がいっしょに?おやおや…」
「変な想像はやめてくれる?」
「ちぇっ、面白くないね。それで今日持ってきたものは?」
「…絶対怒鳴らないでくれ?」
「何かすごいものでも得たの?」
「それ取り出してください。」
「オープン」
ツールボックスとともに空間を埋め尽くすキングコマンドーが現れる。
「エ、エ、エミリちゃん?!」
「後で説明してあげるからいったん全部両替してくれ。」
「そんなこと言える事態じゃないじゃん!これはキングコマンドでしょ?
こんなことが現れたのも大変なのに、これをエミリーちゃんが?!ていうか、どこから出てきたの?!」
惑乱する顔のマリー
そんなマリーをエミリーは責め立てる。
「早く変えて。後で『灰色のカモメ』に来て。そこで全部説明してあげるから。」
「ほえ…」
うつつを抜かして金を持ってくるマリー。
「キングコーマンド一個体のお値段である金貨70枚です…」
「……たった今口から何か半透明なのが抜けていたけど?!」魂なのか?魂なのか?!」
「それは後で会って聞いてください。一応ここから早く出ましょう。」
大急ぎで建物の外に出る。
「なんでこんなに慌ててんだ?もうちょっと余裕があっても良いんじゃない?」
「あなたはあほですか?金貨70枚ですよ!」
「そう言っても…俺が異世界人であること忘れた?」
エミリーが俺の手を引いて話す。
「冒険者といっても名前だけ冒険者であって、半分チンピラなやつらも多いんです。そんなやつらがこんな大金を見たらどうなりますか?」
「いくらなんでもあんなに人が溢れるところで戦おうとするはずがねだろ。」
「なら、私がどうしてそこから出てきたと思うのですか?」
「…法ってこの世にはいない?」
ある程度走って立ち止まるエミリー。
「ふぅ、これくらい来たら大丈夫でしょうね。」
「君の言うとおりなら、追っ手がいるかもしれないじゃない?」
「そんな心配はないですね。」
そう言いながら耳をぴくぴくさせる。
「この耳はただこういうものではないんですよ。追っ手がついたら音である程度区別することができます。もちろん私と似たような実力者の場合ですが。」
そう言われるとほっとする。
「お金が入っても喜びきれないなんて、ムカつくね。」
「さあ、もういいから早く今日の勝利を祝いに行きましょう!こんなにお金ができたので私がおごります!」
「へぇ、どうした?ケチな君が…」
「こんなにお金ができたらわたしにも余裕ができますからね。」
「くぅ、やっぱりお金を使うときは使う…」
うん…?
前を走っていたエミリーの肩をつかまえる。
「ちょっと待って。」
「どうしたんですか。」
エミリーは振り向かずに話す。
「そうだね。お金ができたのは確かだな。それもたくさん。でもさ。」
「まるで君のお金のように話しているね?キングコマンドーを捕まえたのはおれなのによ?」
「まさかこうしたら適当に見過ごすと思ったんじゃないよね?」
エミリーはゆっくり顔をそむける。
「そ...そんなはずがないじゃないですか?」
「汗がすごいね。目の焦点も合わないんだけど?」
「...すみません!殺さないでください!」
「人を人殺しにしないでくれる?」
結局即座に配分を決めた。
50枚の金貨にエミリーが金貨20枚。
「けち...半分にもならないね...」
「てめえが言うことか。」
ある程度歩くとまた繁華街に出だ。
「さっき言った灰色のカラスだったか、そこに行くの?」
「カラスじゃなくてカモメですよ。」
再び惹かれて歩くと、カモメの形をした看板が見える。
「私の行きつけの店なんです。」
これといって昨日の酒場と変わったことはなさそうだ。
簡単に食べることを注文して
「乾杯!」
「くぅ、さっそくもう一杯注文しましょうか。」
「本当にお金ができたらやたら使うタイプだな。一体どうしてそんなにお金に執着するんだ?」
「こうやって落ち着くまでは、お金のせいで苦労してたんですよ。その時からの習慣のようなものです。以前はこうじゃなかったのに。」
「ここが故郷じゃないの?」
「私の故郷は別のところです。事情があってこんな所に住んでいるんだけど.」
「その事情って?」
「個人的な事情ですから。もうちょっと親しくなったらお話しします。」
「なんだよ、金貨を20枚もらっておいてそうするのかい?」
「見つけた!」
音のした方にはマリーという子が来ている。
「マリー?!どうやってもう?」
「一体何のことなのか気になってたまらなくて。それで頭痛だと仮病を使ってさぼったの。」
「あいかわらずめちゃくちゃだね…」
そして、すぐになつきの方を振り向いてあいさつをする。
「初めまして、マリですよ。よろしくお願いします★」
「俺はなつき。よろしく。」
「なんだよ、何でそんなに親しいふりをしてるの?」
エミリーが不満そうにマリーに問い詰める。
「いや、挨拶程度で…。」
なつきがあきれたように言うと、マリもにやにや笑う。
「そうそう、エミリーちゃん。過剰反応してるんじゃない?」
「君がこんな風に男にくっつくのは初めてだからこうするんじゃないの。」
「ふふん、これくらいの男は見逃すのが間抜けじゃん。」
この言葉にエミリーがびくびくする。
「ど…どういう意味かな?」
「D級のエミリーちゃんが一人でキングコーマンも捕まえてくるわけがねじゃん。そういうことはこの男が捕まえたんじゃないの?」
「くぅ…!」
「ふふ、正解みたいだね。」
そしてなつきの横に椅子を引いてきて座るマリー。
「キングコマンドーを一人で捕まえられる強者なら、男としては最高でしょ?それに性格が悪いエミリーちゃんとも一緒にいてくれる包容力まで持っているとは…最高じゃん!」
「それ以上言ったら殴られるわよ!?」
なぜか、当事者はほうり出したまま、2人きりで話している。
その間に注文した食べ物は来た。
「さあ、とりあえず食べながら話そうぜ。」