2話
『オーク』を見た時より、もっと異世界だということが感じられる。
とがった耳、きれいな外観に神秘的な感じまで。
「エルフ…かな?」
今のところでは目が開けそうにない。
このまま置いていくわけにはいかないし。
とりあえず負って連れて行こう。
「そしたらこのマチェッテとツールボックスはどうしよう…」
このままこの女を連れて行くと手が縛られる。
しかし、こうしたオークのようなモンスターがまだいるなら、すぐに対応しなければならない。
武器が必要なんだけど···
「戦闘状態が終了したと判断し、それとともに現状に対する判断にしたがって収納空間に自動転移します。」
「わっ、びっくりした?!」
「収納空間にツールボックスが収納されます。また必要でしたら詠唱、「オープン」で収納空間を開けてください。
入れなおすときには『クローズ』を詠唱してください。」
「武器が必要だとの判断によりマチェッテは収納しません。」
それとともにツールボックスが消える。
「ちょっと待って!まだ聞きたいことが…」
言ってみるがツールボックスは現れない。
でも…あんな怪物がいるところでゆっくり話をすることはできない。
とりあえずここを抜け出るのが先だ。
「これ1つくらいならこうすれば大丈夫だね?」
血まみれのマントを体に巻き,マチェーテを腰のところに挟む。
「よし、出発しようか。」
さっき歩いていた方向に、また歩く。
20分くらい歩いたかな?
そろそろ体力が限界だ。
そんな中、前に小川が現れる。
しばらく休むことにしよう。
水を飲んでエルフの顔にも水を振りまく。
これに反応するエルフ。
少しずつ目を開ける。
「おお、目が覚めたね。体調はどう? 」
「ここは…?」
「俺もわからない。むしろ俺が聞きたいんだけど。」
エルフが身を起こす。
「オークたちはどうなったのか…」
「覚えてないのかな?全部死んだよ。」
「全部…?ああ!!」
思い出したようだ。
「確かあなたが変わった刀を振りかざして、それと一緒に巨大な斬撃が起きてオークが全部…」
「頭も大丈夫みたいだね。」
「あなたは誰ですか?一体何をする方なので、そんなにたくさんのオークを」
「そう聞いてもガテン系だとしか言うことがないんだけど…」
「ガテン?初めて聞く地名ですね。」
「いや、魔界や人間界とかではなくなんというか、土方という言葉は知ってるか?」
「...?」
「知らないんだな…」
話が進まない。
これにエルフが考えを変えたようだ。
「思えば命の恩人を前にして無礼でしたね。名前さえ明かさなかったとは。」
「私の名前はエミリー·シエラです。失礼ですが、お名前は?」
「水谷·夏樹。」
「変わった名前ですね。一度も聞いたことのない名前です。」
「俺も君みたいな名前をよく見たわけじゃないけどさ。」
「一応あなたの正体の対することは進まないようなので他のことを聞いて見たいです。」
「ちょっと待って、私もあなたに聞きたいことがいっぱいあるんだよ。」
「それではこうしましょう。お互いに質問を一つずつ交わして答えてあげることで。」
「そうしましょう。」
「それでは私から質問させていただきます。オークをどうやって倒したんですか。」
「このマチェーテで目の前のオークだけ切ったのに、どういうわけかその後ろまで全部切ってしまったんだ…」
「意図的にそうしたのではないんですか?!」
「そういうわけだよ。今回は私が質問するよ。ここは一体どこだ?」
「質問の意味を分かりません。どこなのかも分からないままこんな所にいらっしゃるんですって?」
「俺が質問する番じゃなかったけ?」
「…オベイという国のミネルの森です。」
オベイって。
聞いたことのない国の名前を当たり前のように言う。
やっぱりここは異世界なのか。
「それじゃ、私の番ですね。さっきの質問に答えてください。」
「なるほど。目を開けると、ここにいた。言ってくれても信じられないけど、俺は別のレベルの世界からこっちの世界に移ったような気がする。」
「‥‥真剣に答えるんですか?」
「こうなると思った。でも俺は事実を言っただけだ。」
疑いの目を気にせずに質問を続ける。
「この近くで一番近い町や都市はどこ?」
西に少しだけ行くとパラナムという都市があります。」
最後にお聞きしますが、なぜ私を救ったのですか?その程度のオークが相手なら、逃げるのが当然だが。」
「いや、それが…」
「まさか!私を助けてくれて何を要求するつもりで?!」
「さっき頭にけがをしなかったと言ったのは取り消しだ!やっぱり怪我したんじゃねか!」
「偶然助けてあげただけだ。オークが俺にも飛びかかったので処理しただけ。」
「そのくらいのオークの群れを見ても怖がらなかったということですか?!」
「怖がらなかったというよりは、知らなかったんだよね。
言ったじゃん。 別の世界から来たって。オークと言っても何か実感が来ないんだ。そこまで強力なモンスターとは思わなかった。」
今度も呆れた顔をするエミリー。
オークってこの世界では思ったより強いモンスターなのかな?
RPGゲームでは、ゲームの中程に出てくる まあまあのモンスターなんだけど。
「それでは最後の質問だ。お前が今言った言葉を思えば私がお前の恩人だし、そうすれば恩を返してくれなければならないだろう?」
「やっぱりそんなものを?!」
「勘違いはやめてくれ。もしかして俺と同行してもらえないかな?」
「やっぱりそういうことでしょ?!」
…腰のマチェーテを思わず握る。
「ああ、そんなはずはないでしょう。私を助けてくれた正義感強そうな方が、アハハ。」
「俺が言いたいのは、とりあえず基本的な情報を得るまでは俺を助けてくれということだ。
長くはかからないよ。」
この世界については知っていることが何もない。
文化、経済、法律など。
問題を起こしたくはない。
ならば、この世界の人に助けてもらうしかない。
「嫌なら断ってもいい。こんな怪しいやつの頼みを受け入れるのをためらうのは理解できる。」
「まあ、そうなれば君の恩人は何も知らないままこの世界をさまよい、路上のただのしかばねになるかもしれないが。」
「性格が悪いですね。」
「ごめん、切迫していることを理解してほしいという意味だった。」
「それくらいなら…大丈夫でしょうね。」
「ありがとう!」
「じゃあさっき言ったパラナムに行きましょう。」
エミリーも元気付けられたようなのですぐ出発することにする。
「パラナムまではどのくらいかかるの?」
「歩いたら日が暮れるころには着くでしょう。」
「思ったより近いね」
パラナムに行く道にも質問は続く。
「今さら聞くのも変だけど、今話が通じるんだよね?」
「……あ!そうですね。全然気がつかずにいました。」
「どうやって君が日本語を知ってるんだよ、ってか日本語を基本言語で使ってるみたいだが。」
「日本語ですか? これはゼイペノ語ですよ?」
「ジャパン?やっぱり日本語だろ。」
「ゼ.イ.ペ.ノですよ。といっても、この状況をみるとやはり何か接点があるかも。」
「ゼ.イ.ペ.ノという言語について詳しく話してくれる?」
「申し訳ありませんが、私も詳しくは知りません。古代から伝わった言語なので、その歴史もほとんどなくなってしまいました。」
「そうなんだ…」
「私が申し上げられるのは現在このゼイペノ語がこの世界の公用語ということだけですね。」
それなら少なくとも意思疎通で問題が生じることはなさそうだ。
よかった。
その他にも必要なことをお互いに質問しながら歩いていると、砦が見えてくる。
「着きましたね。パラナムです。」