1話
「ここは···」
目が覚めたのは森の中。
ただ鳥のさえずる声だけが聞こえてくる。
頭が痛い。
しかし、目を閉じる前の記憶はちゃんと残っている。
「俺は確かに建設現場で作業を終えて…」
「工具を全部整理して…」
「安全帽を脱いだ瞬間に…」
「人々の声に上を見上げたら…」
「頭上に鉄筋が落ち…」
どういうことだ。
それが落ちたのに、生きているのか?
その時手に何かが触れる。
これは···
「ツールボックス…?」
自分が毎回管理していた作業場のツールボックスだ。
ただ、なぜか大きさがはるかに大きいが…
その上に小さな手紙が一つ。
「おはよう、水谷 · 夏樹君。 あなたは異世界に転移しました!わぉ★
私はあなたが元々住んでいたところの神です。
単刀直入に本論だけ言えば、あなたが死んだその所がよりによってこの世界に通じる次元の亀裂がある特異な所でした。」
「ところでそこであなたが死ぬことになった瞬間、あなたの魂がその亀裂に吸い込まれてしまったのです。下水口の穴に吸い込まれる髪の毛のように。」
「その時から次元の規則上、異世界に渡った魂は転移した世界の所属と認められ、異世界の存在になります。
こちらの世界の神様が、あちらの世界で、どうせ死んだ人がここでもずっと魂として過ごせるのは可哀想だと、いまこうして復活させておきました。」
「これからどう生きていくかは自分で分かってください。とはいえ何も知らないまま生きろというのは少し薄情だからあなたが最後に持っていた道具を一緒に転移させました。」
「とにかくだから頑張ってください!テヘッ★」
手紙が読み終わると同時に手紙が燃えるように消滅する。
「‥‥本当にこれで終わり?」
異世界って、本当に?
トラックに轢かれたこともないのに?
それに普通こんな事が起こったら直接会って説明してくれない?
チートスキル一つくらいはプレゼントしてくれるでしょ?
頭の中は複雑だが、一つしてみたいことがある。
本当の異世界なら、それもえきるかな。
見る人もいないから恥じることなく叫んでみよう。
「ステータスオープン!」
手を前に広げながら叫んでみる。
そして!
何も起こらなかった…
「お願い!何でもいいから出てくれ!いざそんなに叫んだのにこんなに何も出ないとやっぱり恥ずかしいって!」
当然、こう叫んだからといって、何かが変わるわけではない。
一度頭に熱が上がって冷めるので、考えが整理される。
とりあえず持っているものを確認してみようか。
まず服は、白いティーシャツに作業服ズボン。
前に着ていた服装そのままだ。
そしてツールボックス。
各種工具を入れておく保管箱である。
ただ、元々のツールボックスはこれほど大きくはなかった。みた
本来のツールボックスなら重さはさておき、片手でも持ち運べるサイズだ。
だが、このツールボックスはほぼ1メートル以上のように見える。
開けてみようか。
そしてツールボックスを開いてみる。
その中には
「‥本当に工具ばかりだね。」
各種ハンマー、のこぎり、釘、レンチ、スパナ、ドリル、ドライバーなど。
平凡なものばかりだ。
ただ、管理が行き届いているのか一様にきれいでつやつやしている。
今のところこれを持っていたとしても、何かをすることはできない。
それはともかく, これを持ち歩くことができるかな。
と考えた瞬間ツールボックスがもともと知っていた小さなサイズに減る。
「なんだ?!どういう原理なんだ?ところで、今さっきツールボックスの中にはなんかすごく大きいなハンマ一もいたけど、あれはどうなったんだ⁈」
驚いてツールボックスに触れると、また大きなサイズに戻った。
「一体これはどういうことだ?」
また小さくなったらと思うと小さくなった。
今度はそのまま持ち上げてみる。
「軽い…」
とてもツールボックスとは思えない軽さだ。
これならコンビニのビニール袋のように持ち歩ける。
驚いた心を落ち着かせ、また周りを見回す。
本当に静かな森の中だ。
ここにいたとしても、分かるようになることはもうなさそうだ。
まず、食べ物も探さなければならないし、さらに人がいるかどうかも探さなければならない」
一方向を定めて前に進むことにする。
森を歩いて10分ほど経っただろうか。
まだここが異世界という感じを与えるものはない。
木や草はずっと見えるが、あれが異世界だけにある種なのかは知らない。
こんなことを考えると、ふと怖くなる。
「もしかして後でお腹がすいて実みたいなものを食べ間違えたら死ぬんじゃないの…?毒が入ってたりして…」
と思ったときに前から悲鳴が聞こえる。
「人か?!」
悲鳴というのは考えもせずに人の声というだけでそこを向く。
そのように行ったところには。
RPGゲームをすると、よく見た服装で座り込んでいる人と、その人を取り囲んでいる緑色の肌のゴリラたち。
「っていうか、あれ、オーク?」
考えてみれば緑色の肌ゴリラだなんて。
あるわけがねだろ。
見ると手には棒も持っている。
しかも装身具のようなものも着けていて。
そして装身具はかなり白い。
まるで骨で作られたような···
「人?!、どうしてここに?」
日本語?か?
マントにフードをかぶった人が夏樹を見つけたらしい。
「あの...ここがどこなのか…」
「逃げろ!俺が時間を稼ぐから!」
だがオークたちも夏樹のことを見つけて夏樹の方を眺める。
「まさか···」
「ウオオオオ!」
オークが夏樹の方に飛びかかってくる。
びっくりしすぎたのか、ただ後ずさりばかりしているなつき。
結局は転んでしまう。
「クオオ!」
オークが夏樹のあたまをたたきつける。
夏樹が反射的にツールボックスを頭上に上げる。
「攻撃を検知。今から攻撃モードに入ります」
ある声とともにオークが押される。
まるで強力な何かになぐられたように。
「攻撃モード?なんだそれ!ていうかだれが話しているんだ?!」
「これからツールボックスを解放します。ご希望の工具を選択してください。」
「工具って、今の状況で···。」
考えてみれば武器として使えるものがないわけではない。
ハンマー、トップ、マチェッテはもちろん、他のものも振り回すだけで武器になる。
「このままやられるよりはましだろう。じゃあ、マチェーテを。」
「確認しました。」
それとともに夏樹の手にマチェーテが握られた。
「なんだよ、なんで取り出してもいないのに俺の手にナイフが!」
「攻撃モードに入るとツールボックスとあなたの手の間に収納空間がつながります。攻撃モードが終わるまでは、いつでも工具を取り出して交換できます。」
「なん原理だ…」
言い終わる前にさっきのオークが夏樹のところに飛びかかってくる。
もう一度頭をたたきつけようとして、棒を頭の後ろに上げたまま飛びかかる。
これに対応してじっと立っている。
「何してるんですか?! 避けてください!」
フッドの冒険家が叫んでいるが,立ったままにいる。
そしてもう一度棒が振り下ろされるが、
そこには何もない。
「工事現場の経歴をなめるな!」
土方をすると、いやでも筋力が出て、目ざとくなる。
さっきの最初の攻撃でわかった。
一匹だけなら避けられない水準ではないということを。
隙を逃さずマチェーテでオークの腹を切る。
そして、
「クグァグァン!」
風を切り裂く音に続いて轟音が聞こえる。
気が付いたら、オークはもちろん、後ろのオークまできれいに真っ二つになっていた。
もちろん、その後ろに立っていた木々も。
轟音は木が倒れてから出た音だった。
「????!!!!」
自分でやっておいて驚く夏樹。
「なんだ?!何が起こったんだ!」
しかし夏樹よりもっと驚いた人がいた。
周りのオークが倒れ、体が血まみれになってしまったフードの冒険家。
座り込んでいなかったらきっと自分も…
そんな思いにそのまま気絶してしまう。
「すみません、大丈夫ですか?!」
今の状況を分析する時間ではなさそうだ。
まさにフッドの冒険家に駆けつける。
すでに周りはオークの血でじめじめしている。
もし傷がないか確かめるため、血まみれのマントをはがしてみる。
その中にあるのは。
「女?それにこの耳は…」