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赤ちゃんのさがしもの

作者: 橋 千有

 ママは、泣き声でわかると言った。


 ねむいのか、オムツ交換なのか、それともおっぱいなのか。


 言葉が話せないから、泣き声で教えているんだって。


 そんなのわかるもんか。


 こんなのうるさいだけじゃないか。


 今まで、ぼくのことをいつも抱きしめてくれたママは、今は赤ちゃんばかり。


 ぼくは、おにいちゃんになったんだって。


 おにいちゃんになんてならなくたっていいや。


 パパも、赤ちゃんをいつも抱っこしてばかり。


 ぼくと、怪獣ごっこをしてくれなくなっちゃった。


 お前も抱っこしてみるか?


 パパに言われて、いやだと断ったら、


 赤ちゃんが怖いのか?


 かけっこだって、てつぼうだって、なんでもできるのに、赤ちゃんは抱っこできないのか?


 そういうから、ぼく


 できる、


 と言っちゃったんだ。


 パパは、驚いた顔をして、


 そうか、お前みたいな小さな子が赤ちゃんを抱っこできるなんてすごいぞ。


 そういうから、パパから赤ちゃんをそうっともらった。


 白くてふわふわな着ぐるみにくるまれていたのもあったけど、

 

 やわらくて、


 あったかくて、


 重かった。


 ころげおちそうで、


 右手で下から、


 左手で上から


 抱え込むように、


 抱っこした。


 赤ちゃんはななめ上にあるぼくの顔を


 じーっと、


 じーっと見ていた。


 なんだか、じーっと見られるのがおかしくなって、


 赤ちゃんを見ながら笑ったら、


 赤ちゃんも笑った。


 赤ちゃんが笑ったら、もっとおかしくなって、


 ぼくはもっと笑った。


 赤ちゃんは、ぼくのことが大好きなのよ、


 と、ママが言った。


 ぼくが赤ちゃんを好きになってあげると、


 赤ちゃんはもっとぼくのことが好きになるんだって。


 ぼくは、ママみたいにおっぱいあげられないし、


 パパみたいに、高い高いできないけど、


 ぼくが抱っこしてあげるのが、


 赤ちゃんの一番の栄養なんだって。


 抱っこって、食べられるのかな?


 一番の栄養かもしれないけど、


 重いし、つかれるから、抱っこはもういいや。




 赤ちゃんが寝ている間に、


 ママが買い物に行ったんだ。


 ぼくも行くといったけど、


 赤ちゃんをみていてあげて、


 とママに言われたので、仕方なく留守番したんだ。


 赤ちゃんは、木でできたゆりかごの中で寝てた。


 上からのぞくと、はんぶん口を開けてよく寝てる。


 だからぼくは、ミニカーで遊んでいたんだ。


 そしたら、急に赤ちゃんが泣きだした。


 ママは、買い物に出かけちゃってて、もういない。


 どうしよう、どうしよう。


 ママが前にやっていたことがあったんで、木のゆりかごを少し揺らしてみた。


 ママが揺らしたときは、赤ちゃんはまた寝ちゃったんだ。


 でも、ぼくがいくら揺らしても、赤ちゃんは泣きやまない。


 寝てもくれない。


 どうして?


 赤ちゃんは、どうしてほしいんだろ。


 何かほしいのかな。


 泣き声で何かさがしているのかな。


 ぼくに、さがしてほしいの?


 赤ちゃんのさがしものって何だろ?


 ぼくは、自分が今まで遊んでいたミニカーを、赤ちゃんにあげた。


 でも、赤ちゃんは見向きもしないで泣き続ける。


 どうしよう、どうしよう。


 そうだ、赤ちゃんにって、いろんな人からもらったおもちゃがあった。


 赤ちゃん用のおもちゃ箱を開けてみた。


 黄色や赤や青い色、緑に紫、だいだい色。


 色とりどりのおもちゃがいっぱい。


 どうやって使うのかわからないけど、


 手でつかんだものを振ってみたら


 シャカシャカシャカと音がした。


 ぼくは、赤ちゃんの上で、シャカシャカシャカと鳴らしてみた。


 赤ちゃんは、その音に気付いたのか、閉じていた目を開けた。


 ぼくの手が揺れるたびに音がする。


 シャカシャカシャカ。


 赤ちゃんが泣きやんだ。


 そのおもちゃを少し赤ちゃんに近づけてみた。


 赤ちゃんはそのおもちゃをじっと見ている。


 おもちゃが動くと、赤ちゃんの目も動く。


 これがさがしものかな。


 赤ちゃんの手に、そのおもちゃを当ててみた。


 おもちゃが手に当たると、


 スイッチが入ったみたいに、赤ちゃんの手が閉じた。


 赤ちゃんはおもちゃをつかむと、手を振った。


 シャカシャカシャカ。


 ぼくが振ったときと同じ音がする。


 赤ちゃんは、真剣な顔で振り続ける。


 あれ、あまり楽しそうじゃないぞ?


 そのうち、赤ちゃんはそのおもちゃを放り出しちゃった。


 なんだ、これじゃないのか。


 ぼくは、別のおもちゃを取り出した。


 棒の先に小さな太鼓がついていて、


 太鼓の両側から伸びたひものその先に、丸いかたまりがついている。


 でんでん太鼓だ。


 棒をつかんで、太鼓をまわすと、音がする。


 ポンポンポン


 けっこう大きい音だったけど、


 まわしているうちになんだか楽しくなって、


 これでいいや、って思ったんだ。


 ぼくは、赤ちゃんの上にでんでん太鼓をもっていって、


 太鼓を思い切りまわしてみた。


 ポンポンポン


 その音に、赤ちゃんはびっくりしたみたいで、


 大きな目をして固まっちゃった。


 あれ、これも違うのかな?


 ぼくは、ほかのおもちゃをさがそうと、木のゆりかごから離れたんだ。


 そしたら、せっかく泣きやんでいたのに、


 また、大きい声で泣きだした。


 どうして?


 おもちゃをさがしているうちに、


 なんだか、腹が立ってきた。


 ぼくだって、いっしょうけんめい、さがしているんだ。


 それなのに、どうして、泣き続けるの?


「うるさーい!」


 ぼくは思わず、叫んだ。


 赤ちゃんは、やっぱり泣きやまない。


 赤ちゃんは、言葉を話せないし、わからない。


 でも、ママは言ってた。


 赤ちゃんは、言葉の代わりに、泣き声で教えてくれるって。


 じゃあ、ぼくが赤ちゃんの泣き声をわかってあげなきゃ。


 でも、この泣き方って、何?


 ねむいのかな?


 だったら、起きて泣いたりしないよな。


 オムツ交換?


 ぼくは、赤ちゃんのお尻のにおいをかいでみた。


 べつに臭くない。


 じゃあ、おっぱい?


 でも、ぼく、おっぱいなんて出ないぞ。


 ・・・・・


 あっ、


 わかったぞ。


 ぼくにも、赤ちゃんにあげられるものがあるじゃないか。


 ぼくは、泣いてる赤ちゃんのせなかに手を入れた。


 ずり落ちたりしないように、上と下から、両手でささえて、


 ゆっくりと、ゆりかごから赤ちゃんを抱きあげた。


 あれ?


 このあいだ、抱っこしたときはあんなに重かったのに、


 今はぜんぜん重くないぞ。


 赤ちゃんは、ぴたっとぼくの体によりかかっていた。


 だから、ぼくは力を入れなくても、


 赤ちゃんを抱っこできたんだ。


 赤ちゃんは、じーっとぼくの顔を見上げていた。


 また、じーっとだ。


 じーっと見ているその目には、


 もう涙はたまっていなかった。


 ごめんね。


 赤ちゃん、きみは一番の栄養がほしかったんだね。


 ぼくの抱っこっていう栄養を。


 泣き声がわかったら、


 なんだか、赤ちゃんが大好きになっちゃった。


 赤ちゃんも、ぼくのこと、もっと好きになってくれるかな?


 そうさ、


 赤ちゃんのさがしもの、


 そのさがしものは、ぼくだった。


最後までお読みいただきありがとうございます。

昨年6月以来、実に半年ぶりの投稿です。

今年の冬童話のテーマは「さがしもの」

昨年の「贈り物」は、テーマを物語の奥底にしまい込んでいたので、「え、なんで贈り物?」という読者も多かったと思います。

今年は、ストレートに行きました。

いつか、絵本にできるような童話を書きたいなと思ってたんですよね。

大人だけじゃなく、小さい子も、やさしい気持ちになってくれるようなお話を。

この作品が、少しでもそんなお話に近づけていればうれしいな。

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― 新着の感想 ―
[良い点] おかえりなさい! お元気そうでなによりです。
[一言] あかちゃんが産まれたからって急にお兄ちゃんにはなれませんよね。 産まれてきてくれたあの子とお兄ちゃんと、2人で少しずつ兄弟になっていきましょうね。 そう思わせてくれる作品でした。
[良い点] 良かった(´∀`) 生きるって素晴らしい。
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