瘡蓋
大きく振りかざした薙刀を彼はいとも簡単に避ける。激しく振り回される刃と共に舞っているかのように実に優雅だ。柊羽の余裕さに苛立ちを覚え、動きは更に俊敏になる。それでも彼は顔色ひとつ変えることなく余裕を貫いた。何度も何度も振りかざしては避けられ、を繰り返した。途中から僕は記憶がなかった。しばらくして、柊羽の声が降ってきた。
「初めてにしては上出来だね、でもそろそろ時間かな。」
契約時と変わらぬ笑みを浮かべながら彼は言った。息は全く切れていなかった。すると、薙刀はいきなり桃色の煙に包まれ、勢いよくカッターナイフに戻ってしまった。髪の毛も、元の黒髪に戻っていた。左手首に目をやると血が固まり、瘡蓋になっていた。すると突然一気に力が抜け、その場に座り込んでしまった。なんだか気分が悪い。その上鈍い頭痛がした。
「これで仕組みは分かっただろ?まあ、まだ分からないことは出てくるだろうけど、それは今度な。」
「余計、分からないことだらけなんだけど…。」
立ち去ろうとする柊羽を引き止めるかのように言葉を紡いだ。彼は振り返り僕の顔をじっと見ながら、にこやかに言った。
「それは、後から分かるよ。」
柊羽はじゃあな、と手を振りながら神社の階段を下りて行った。彼の後ろ姿を見つめながら手にしているカッターナイフを残り少ない力で握りしめた。左手首はまだ痛むが、この痛みが魔法少女になれたという証でほんのり嬉しかった。
しかし不思議だった。自分の意思とは全く別に身体が動き、途中から理性を失ったようだった。それに、軽々と振り回していた薙刀だって軽いものじゃない。もちろん僕にはそのような筋肉は備わっていない。次から次へと出てくる疑問が出てくる。しかし残された体力はほとんど無く、家に帰るという選択肢を選ばざるを得なかった。