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学部長の襲撃

 アーシュラが落ち着いたところで、四人全員は島の中心にある事務局棟へと向かった。

 事務局棟には庶務関係の各種手続や島内の一般生活、治安などを管理する組織が入っている。事務局棟は石造の四階建で、最高階は魔法学部と煉丹学部各々の学部長室と校長代理室、そして校長室が置かれている。

 アーシュラは迷うことなく事務局棟に入っていき、校長室の前に立った。校長室は木造で二メートルほどの扉があり、蔦草の彫刻をあしらった金色の取手が付けられている。アーシュラは当然のように取手を引き、ほとんど力を入れずに扉を開いた。

「とりあえず私の部屋で休もう」

 アーシュラの声に従い、残りの三人も室内に入る。窓のあるべき場所は銀色の板で覆われており外は見えない。正面には重厚な机があり、机上には「魔法学園長」と書かれた銀色の名札が置かれていた。壁は二面とも本棚となっており、左側が魔法学、右側が煉丹学の本で埋められている。また、机の背後には統魔学と雑多な本が置かれている。部屋の中心にはちょうど四人分の応接セットがあった。

「君たち座りたまえ」

 アーシュラは言って自分の右隣にマルクを座らせる。ダナはアーシュラと向かい合わせに、グレタはマルクと向かい合わせになって座った。だがグレタは学園長の席の背後にある本を読みたいのか、視線がそちらにばかり行っている。アーシュラは苦笑しながら声をかけた。

「もし興味があるなら、あとで本は貸し出しもできるよ。もちろん、君の能力次第だけどね」

 グレタは顔を輝かせて早速読みたい本を言おうとする。しかしそれをダナが遮った。

「やはり本当に、貴女はアーシュラ校長なのですね。この校長室はこの百年間、誰も開けることも破壊することもできなかった部屋ですから」

「信じてもらえてうれしいよ。でも、百年も経ったとはね」

 言ってアーシュラはマルクに視線を走らせると、頬を染めて視線をそらした。そこでマルクは問いかけた。

「アーシュラ大魔導師、なぜ貴女は彫像などに? 何かの陰謀にでも当たったのでしょうか」

 アーシュラはうつむいてうなり、そして顔をあげる。ずいぶんと情けない顔だ。

「君たち、お願いだがここだけの秘密にしてもらえるか?」

「もちろんアーシュラ大魔導師のお願いなら当然ですわ!」

 中身も聞かずに安請負いする辺り、グレタは魔道士の資質はあっても女王の資質は足りないかもしれない。アーシュラは三人から視線を逸らしつつ、ぼそりと言った。

「薬の蒸気で蒸すだけでなんでも表面が石化する煉丹薬があるんだが、間違って床に落としてしまってね」

「ずいぶんと当時の学園の皆さんは冷たくありませんこと? 彫像として管理するだなんておかしいですわ」

「そこが残念なことに、生物まで石化する方法は煉丹学にも魔法学にもないうえに、私も前日に統魔学の実験中に偶然できただけなんだよ」

 つまり、大魔導師アーシュラすら合成したばかりの薬なので、誰も見破れなかったということか。大魔導士ゆえの痛恨の失敗という運の悪い話だ。だがそれも、ダナとグレタにとっては素晴らしいことに見えるらしく、二人とも目を輝かせた。

 会話が途切れたとき、扉を叩く音がした。アーシュラはすぐに立ち上がって扉を開けようとした。

「校長、お待ち下さい!」

 ダナが叫んだが一歩遅く、アーシュラは扉を開いてしまう。するといきなり魔法杖が差し込まれ、爆炎が放たれた。

「アーシュラ様!」

 グレタが叫び声をあげ、ダナはとっさに水魔法を扉に浴びせる。

 アーシュラは後ろに転がって立ち上がった。二つ結びの右側が焼け落ち、右腕の袖も燃えてなくなっているが本人は傷一つない。

「元気な老人がいるようだね。生まれは私よりずっと下なのだろうけど」

 ダナはむしろ、アーシュラの低い声に怖さを感じる。これは逆らって良い相手ではない。

「今さら校長の復帰など、国際関係も考えれば問題でしかありませぬよ」

 部屋の中に二人の男が入ってきた。一人は魔法杖をつき、枯れ木のように細い白髪頭の男だ。もう一人は道着のような服を着た、筋肉質で中年の男だ。

「魔法学部長と煉丹学部長……」

 ダナは憎々しげに呟く。だがアーシュラはせせら笑って両手に力を溜めた。左手には先ほどより巨大な黒い炎、右手には青龍がとぐろを巻く。

「そしてこれを混ぜてみる」

 アーシュラが両手を打ち合わせると、漆黒の龍が室内に現臨した。龍は大口を開けて暗黒の霧を口から漏らし、その霧が触れた絨毯は音もなく融解する。

 アーシュラは龍を二人にけしかけようとした。だがそれより早く煉丹学部長がグレタを引き寄せて首を抑え人質にした。

「ロマナ帝国皇女を害したとなれば外交問題は必定、やってみれば良いさ」

「お前のような奴が学園の頂点にあるのか! 百年でどれほど腐った!」

「腐敗は結構! 魔法学部長、お願いしますよ」

「任せておけ」

 動くに動けなくなったアーシュラに、魔法学部長は嫌らしい笑みを浮かべながら光の槍を五本放った。ダナもグレタも泣きそうになりながら目を閉じる。

「マルク君、マルク君なんてことを!」

 アーシュラの叫び声が響いた。マルクがアーシュラの前に立ちはだかって槍を代わりに受け止めていたのだ。

 黒龍はその隙に学部長二人を襲って弾き飛ばして抑え込み、両手両脚を闇色の杭で床に縫い付けていた。アーシュラは冷たい視線で二人を指差し、口と目を完全に闇の霧で塞いだ。

 アーシュラはマルクから光の槍を抜くと懐から丹薬入りの小瓶を取り出してマルクに振りかける。するとマルクの全身が輝いて全ての傷が何事もなかったかのように消えてしまった。

「神丹薬……お伽話だと思っていたのに」

「奇跡のような効果ですわ」

 二人の感嘆に、アーシュラは一瞬だけ冷たい視線を走らせたのち呼気を確かめる。眉をひそめたのち、マウストゥマウスの人工呼吸を行う。数回ののち、ようやくマルクは激しくむせて息を吹き返した。

 アーシュラはマルクをしっかりと抱きしめて泣きじゃくった。

「君はなんてことをするんだ。私は最強の大魔導師だよ? 任せておきなさい。絶対に、絶対に犠牲になんかなっちゃ駄目なんだ。私の犠牲になるなんてこと、何度も繰り返さないでくれ」

「すみません、先生。もう二度とは」

「謝る必要はないよ。私が百年後を知らずに安易にしていた私が悪いんだ。だから君にこんなことを繰り返し」

 言ってはっとした表情に変わり、体を離した。だがそれでも膝をついて両手を握って話を続けた。

「そうだ。今は百年後だったね。君は、マルク君、だったね」

 マルクははい、とうなずくと、自分の唇にそっと人差し指を触れる。とたんにアーシュラは顔を真っ赤にしてうつむいて言った。

「ごめんね。あれはそう、医療行為だからね! そうノーカウントだよ大丈夫! 医療行為だからね!」

「もちろん命を助けてもらっていますし、今は全然元気なので」

「ばかなことを言ってはいけない。君は呼吸が止まったのだよ。今日は無理をしてはいけないよ。何なら今日は一日中、私が全部看病してあげるから!」

 とんとん、とアーシュラの肩をグレタが叩いた。顔をしかめて振り向くと、グレタが何事かささやく。するとアーシュラは慌てた様子で手を離すと立ち上がり、変な笑顔で言った。

「ままままあ、とりあえず今日はゆっくり休んでくれ」

 マルクは素直な笑顔でうなずき、再びアーシュラは頬を染めた。

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