ルート①4日目昼
4日目昼会いに行く人物:鴬
昨日ホースとナンバーが言ったことは合っている
「あいつら」…ホースが言ったところの「運営」の言う通りにしか動けない俺は「殺し合い」にこそ参加していないが「ゲーム」という大枠には参加している
何故なら、夕食会のときだけが「ゲーム」ではないからだ
ホースがした様に昼間に誰かと接触して情報を引き出したり交換したり、協定の約束をしたり、そういうことをすることも重要だ
このホテルに入った瞬間から「ゲーム」は始まっている
だから城野歩は死んだんだ
俺が昼間会いに行ける人物の選択肢はもうひとつしかない
ホースがブルーに会いに行くかもと言ったから会いに行く人物にまで制約がないと考えているのかと思ったが、それに対する苺のからかいとその苺への返答が気になる
今日会いに行った人物によってなにか特定されてしまうのではないか
そう怖くなってしまう
一応会いに行かないという選択も用意されてはいるがここで動かないわけにもいかないだろう
だが今回の参加者、頭の回転が少なくとも悪くない者と慎重な者が多い…というより鴬以外はどちらにも当てはまるかもしれない
鴬は周囲に合わせているため今のところ慎重な様に見えるが頭の回転は速くない
周囲に合わせているというのが慎重ということになるのなら、鴬も慎重ということになるが、鴬の「合わせる」は力のある者が良いと言った物をただ肯定するだけの様な、そんな「合わせる」だ
ホースの支配人の言葉を一旦忘れるという提案に最初に苦言を呈したのは鴬だが議論が発展しない早い内に発言をして「話し合いに参加している感」を出したかっただけの様に思う
実際鴬は全員が発言する場面か話しの早い段階でしか発言をしていない印象がある
ホースや苺になにか吹き込まれていたり、俺からの接触があったら知らせる様に言われていたり、色々な可能性は考えられる
だけど鴬には全員が敵であることを再認識させる必要があるし、そうすれば少しも考えずにただ従うことはないだろう
「あ、こんにちは」
鴬がびくりと肩を震わせて振り返る
「こん…にち、は」
振り向いて更に俺の恰好に驚いた様子だ
なにせ俺はちょっとした害虫駆除の装備をしている
「がさごそと小さな音がしていたのでネズミかなにかが出たのかと思ってしまいました。鴬様だったのですね。失礼しました」
「音だけっていうのは本当なんですね…」
ただ微笑みを返す
否定することは当然出来ないし、肯定すれば嘘になる
嘘は極力少なくするべきだ
しかし鴬の今の考えは随分と短絡的だ
映像を見ることが出来れば言うことの出来る台詞だと気付いていないのだろうか
ただ、それは参加者全員にも言えることではある
映像と音声の2つがあって「聞いていた」と言うのは嘘ではない
だが彼らは映像を――いや、俺と同じで誰も映像については触れなかっただけだ
確かにブルーは「聞かれている」とは言ったがそれは映像について視野に入れていないと断定する材料にはならない
ただ言わなかっただけというのは俺と同じだ
鴬以外がそれに気づいているとすれば、どうなる?
「人が死んだ場所。殺し合いをしなくてはいけない場所。こんなところで考え事ですか?」
「昨日ここでみんなが言ってたことを整理してたんです」
「わたくしを懐柔する話しですか」
「違います。無理だと最初から思っていたのでそれはどうでも良いんです」
「どうして無理だとお思いになったのですか」
鴬にも一応考えはあるらしい
いや、そう言っては失礼か
俺は鴬に考えてもらうことを期待して全員が敵だと認識させに来たんだから
「あなたには恩を返すべき人がいる。だからゲームの最中に「運営」に逆らうことは出来ない。それが昨日言ってた必死に参加者を救おうとした人、ですよね。あなたはゲームの生き残りなんじゃないですか。なにを手に入れられるか、なにを失ってしまうか、それが書いてあっても無事に家に帰れるなんてどこにも書いてない」
俺を睨み付ける様に見て一気にまくし立てる様に言う
鴬がその考えに至った経緯は多分、家に帰りたいという気持ちから気付いて、スクールカーストを気にして学校生活を送る者の勘なのだろう
「そう思われるのは個人の自由ですので否定はいたしません」
「そうやって誤魔化すんですね」
「では今鴬様がなさった問いにYesかNoで答えればわたくしの質問に答えていただけますか」
「分かりました」
やっぱり鴬は詰めが甘い
質問の数を確認、固定しなかったのはミスだ
だがそれよりももっと重要なのは「今した質問がなにか」を確認しなかったことだ
「答えはYesです。わたくしは誤魔化しております」
「あなた最低ね」
俺がゲームに勝つため、仕方のないことだ
なんと言っても俺には勝利条件が分からないんだからな
「誉め言葉として受け取っておきます」
嫌そうな顔を向けられる
「では質問に答えていただきましょう。ここでなにを考えていらしたのですか」
「随分とざっくりとした質問ですね」
「はい、わたくしには「YesかNoで答えられる質問」等の条件はございませんので」
顔を逸らして深呼吸をするとぱっとこちらを見る
表情はここで見る普段通りだ
これが心を落ち着かせる方法なのだろう
「ナンバーはブルーが本名だと言った名前でブルーを指名した。その理由を「自分が最終的に生き残ることが最優先だから」と言ったわ」
「はい、聞いておりました」
「でもそれなら一昨日の夜ウサギが話し合いに参加しようと思った理由のとき「生に執着する気持ちはない」って言ったのに対して同じ理由だと言ったのはおかしいわ」
確かにそうだ
だが思えばナンバーは単語でしか話さないため各々が補完して会話をしている
ナンバーがどういう意味でどこまで「同じ」と言ったのかは分からない
「アタシの解釈が間違ってるのかもしれない。だけどナンバーは多分、誰かに気付いて、その誰かを守ろうとしたんだと思う。だから少し矛盾がある」
「なるほど。それでどうやって問い詰めようかと考えていたわけですか」
「違うわよ」
大きなため息を吐く
「相手が誰なのか考えてたのよ」
「その相手を指名すれば場が乱れるだけだと思いますが」
「馬鹿ね。アタシの目的は最高5人で生き残ることよ。指名させるように仕向けるに決まってるじゃない」
最高5人ということは自分が生き残っていて、全員が生き残っていないという条件ならどうでも良いということか
意外と冷たいんだな
「表立って動けばもしナンバーに名前が知られた場合指名されてしまう可能性がある。それにアタシそういうの得意じゃないのよ。だから誰かにって思ったけどそれがその相手なら意味がないじゃない?だから考えてたのよ」
意外と考えてるんだな
だけど相手がなんの見返りもなしに協力すると思っている辺り、甘いな
目標がどうであろうと危険な目に合わずに達成出来るのが一番だ
それにもしナンバーが守ろうとしているのが自分なら本末転倒だ
「なるほど。理解出来ました。ですがお気付きでしょうか」
「なにをですか」
「誰が誰を指名どの程度で出来るのか分からない以上、鴬様が今夜指名されることもあるはずです。ナンバー様が誰かに気付いていらっしゃるのなら、他の誰かが鴬様に気付いていないとも限りませんよ」
「でしょうね」
気付いていたとはこれまた意外だ
「ではその計画は破綻しているのではありませんか?」
「いざとなれば手はあるわ。だけど自分で人を殺すのは最終手段よ」
「それは指名に成功する可能性の高い人物を1名以上見つけているという意味でしょうか」
「そう言ったつもりだけど?」
確かに俺と鴬は互いの質問に答えると約束をした
でもここまで詳細に語る理由はなんなんだろうか
適当なことを言って誤魔化したり部屋から出て行ったりすれば良いのに
「アタシの質問に正直に答えてくれたのなら、それが誰なのか教えても良いわ。もちろん本名の方じゃないわよ」
「質問を聞いてから決めても?」
「分かったわ」
俺に旨い話し過ぎて怪しい
「どうして今日アタシに会いに来たの」
「たったそれだけを知るためにこれからのゲームが不利になるかもしれないことをされると言うのですか」
「アタシには重要なことなのよ」
「ですがあなたたちは俺がゲームに参加していると思っている。勝利条件を知らないのにどうして情報を与える様な真似を」
薄く優しい笑みを浮かべる
意味が分からない
「あなたのそういうところが嫌いじゃないからよ」
「確かに、黙って答えれば良いだけのことではありますが。でも俺は、出来るだけ皆さんに死んでほしくないんです」
「これではっきりしました。あなたは自分の勝利条件を知らない。生き残りが出来るだけ多い方法で自分が勝とうとしてる。図々しいのよ。負けたくないだけならまだしも、勝ちたいならなにでも犠牲にしなさいよ」
スクールカーストで生き残るということはそういうことなのだろうか
分からないが、鴬のことを随分見くびっていたことだけは確かだ
「答えるの?答えないの?それとも答えられないの?」
「答えられません」
彼女たちが言うところの「運営」のことを言うわけにもいかない
だが俺が今日鴬に会いに来たのは「選択肢に残っていたから」だ
明確な理由がない以上、中途半端に答えて探られるのは避けたかった
「そう、分かったわ。アタシが心当たりのある人物はホースよ」
こいつ馬鹿なのか?!
「答えられないなんて、あなたも正直者ね。それにこれだけ話しを聞いたんだから見返りは必要でしょ」
俺の答えとは関係なく言うつもりだったということか
この子、思ったよりも図太くて頭が良いのに馬鹿なんだな
そういうヤツは嫌いじゃない
「参りました」
「正直者ね。好きよ」
微笑みとそんな言葉を残して部屋を去る
こんな状況でこんな立場のヤツにそんなことを言えるなんて、嫌な子だ