ルート①2日目夜
6名が会議室Bの指定された席に座る
「ひとつ確認したいことがあるんだけど、良いかなん?」
誰もが肯定も否定もしない
「答えるかは質問を聞いてからってことで良いのかなん?」
それにすら返答はない
用心深く相手の出方を窺っているホースとブルー
興味のなさそうなナンバーとウサギ
不安に思っていることを必死に悟られない様にしている鴬
「今日の10時からの話し合いに参加したか不参加だったかと、その理由が知りたいなーって思うんだけど、駄目かな?」
提案した苺を含め4名が周囲を見渡す
鴬と目が合ったことに嬉しそうな表情をする
「ねぇ、うぐい――」
「それを知ってどうする気だ」
「みんながどんな考えでこのゲームに挑むのか、それが知りたいんだ。いくらなんでもルール違反で死にたくないからって理由で夕食会に参加している人を指名したくないからねん」
発言を邪魔されたことに不服そうな顔をしたが小さくため息を吐いただけでなにも言わなかった
鴬に話しを振れば答えることを2人とも分かっていたのだろう
「それは名前を知ることが出来れば指名するということか」
「違う違う。全然違う名前だって指名されれば誰だってドキッとするでしょ?それだけだよん」
ブルーが訝し気な視線を向ける
「納得が出来るわけではないが説得はされてやる」
「じゃあブルーからお願いしても良いかなん?」
「俺は参加していない。理由は意味がないから。ただそれだけだ」
不機嫌そうな態度は変わらない
どうして意味がないと思ったのか、それも重要だとは思うが根掘り葉掘り聞くと分かっては次も答えにくいだろう
しかも次はウサギだからもっとシンプルな回答である可能性もある
いちいち突っ込んだ質問をしていてはキリがない
「参加しようとした。でも誰もいなかった」
「それは嘘だよ」
「もしかして、10時10分くらいにはもう部屋に戻った?」
「そうだよ」
「それはごめん。寝坊して10時15分に部屋を出た」
「そう言われると嘘だと言えなくなるね」
ホースが苦い顔で笑う
もし2人以上集まっていたなら15分で解散したとは思えない
だから「誰も集まっていなかったと思った」ことを否定は出来ない
だけどホースも普通10分で部屋に戻るか?
誰かが来ると期待していなかったのなら十分にあり得る時間かもしれないが、鴬の参加はあの流れではほぼ確定だったはずだ
むしろどうして鴬は参加しなかった
「最後まで残る自信はない。出来れば死にたくはないけど、生に執着する気持ちはない。だから脱出する人の手助けが出来れば良いと思って」
ちらりと見られた鴬がさっと視線を逸らしてから前だけを見て言った
「アタシが参加しなかったのはルールを読んだからよ」
「もしかして1人で生き残ることを目標にするつもりなのかなん?」
「違うわ。だけど6人全員で生き残って失いたくないものがあるのよ。だからひとりで生き残ろうとする人を否定することなんて出来ないわ」
あれだけなんとか逃れ様としていたのにそれをお前が言うのか
余程大切なものなんだろうか
「誰かがアタシと同じように考えてるかもしれないし、誰かはもう、ひとりで生き残ろうとすることを決めてるかもしれない。そう思ったら行けなかったのよ」
「鴬は来るんじゃないかと思っていたから…でも今ので納得出来たよ。疑心暗鬼になるのは当然だよね」
一先ずホースに受け入れられたことで安堵の表情を見せる
「分かっているとは思うけど、ウチも参加してないよん。理由はブルーと同じ。意味がないと思ったから」
「俺は参加しようとしたよ。もし鴬に参加する気があるなら時間より前に待っていそうだと思ったんだ。だから誰も来ないと思って10分で部屋に戻ったんだ」
「…………ボス、強かった。……時間、過ぎた。……ごめん」
ナンバーの発言に全員が言葉を失う
その静寂を破ったのはホース
「つまり参加する気はあったけどゲームをしていたら時間が過ぎてしまっていたってことかな」
「…………そう」
「参加しようと思った理由を聞かせてくれるかな」
「…………ウサギ、同じ」
若干協力的な時間にルーズなヤツと非協力的なヤツしかいないのか
「ちなみに、行こうとした時間は何時だったのかな」
「…………10時半。……一応、行った」
「その時間ならウサギと鉢合わせすることもないだろうし今のところ矛盾はなさそうだね。苺は満足出来たかな」
「うん。みんな答えてくれてありがとねん」
話し合いは終わった様子だし料理を運ぼう
それにしても苺があんなことを聞いたのは俺の発言のせいだろうか
それともゲームに積極的に参加する気だからだろうか
だが後者だとしても「みんなの意見」を大切にする様なヤツには思えない
ああいうヤツはいつだって、世界は自分を中心に回っているんだ
「俺はここからの脱出やゲームに参加しない方法を探すことを諦めたよ。仮にウサギとナンバーが時間通りに来ていたとしても積極的に意見を出すことはないだろうしね」
部屋に入ってから話し始めたということは俺がどこかで見聞きしていることを前提にしているのだろう
妥当な考えだ
話し合いに誰も来なかったことで、と言わないのは2人に対する優しさだろうか
それなら後の言葉はないはずだ
ならばどの程度監視出来ているのか確認するためと考えるのが妥当か
「鴬が言った考えの人はいるのかな」
「それはどっちだ」
「どっちでも良いよ。自分の目的のためなら人を殺しても構わないと考えている、という点ではどちらも同じだからね」
手を挙げたのはナンバーとブルー
意外な人物が挙げたことに5人は驚いている
「…………最終日、6人、生きてる。……誰か、殺す」
「鴬もそういうことだよね」
「そうよ」
「俺もだ」
「苺はあんなことを聞いたくらいだから積極的に参加するのかと思ったけど、どういう考えなのかな」
その場の全員の視線が苺に集まる
「負けたくない人がいるんだ。だからもしその人がこの中にいると分かったらその人にだけは負けない。分かってから準備してちゃ遅いでしょ?それだけだよん。基本的にはゲームに積極的に参加する気はないかなん」
前半の普通の言葉遣いと真剣な表情が苺の本気度を表している様に思えた
だがそれも計算の可能性があると俺は思っている
恐らくホース、ブルー辺りはそれを危惧しているだろう
ただ、現段階では苺の発言を否定する材料はない
「分かった。俺も出来ればゲームには参加したくないな。ウサギはどうかな」
「全員で生きて帰りたい。あんなもの、なくなってしまえば良い」
料理が揃うと全員が無口になって食事を始める
ゲームのことを話す気にはなれないだろうし、かと言って世間話でもして自分の本名がバレるのを防ぎたい
当然の心理だ
俺は部屋を出て監視カメラで様子を見るとしよう
全員が語ることになった各々の方針をまとめると鴬、ナンバー、ブルーは全員が生き残ったときのペナルティを受けたくない
だからどうしてもと言うのならひとりに犠牲になってもらおうって考え
ホースは確かに失いたくはないけれど、誰かを殺すなんてことは考えたくないって感じかな
苺は発言が嘘の可能性もあるから、どんな方針なのか決めるのは尚早
表立って動いても不自然に思われない理由なのにゲームには参加したくないと言っているんだから矛盾している
…と決めつけるのも尚早だ
ウサギは逆にペナルティで失うものをなくしてしまいたいと思っているから全員で生き残ることを望んでいる
これは脱出する人の手助けをしようとしたことと矛盾しないし、本当だと考えても差し支えないだろう
ただ、状況によって考えは変わっていく
ウサギがひとり犠牲の考えになっても、積極的に参加する様になっても、不思議ではない
不思議なことがひとつある
全員が生き残りや指名成功の報酬について触れなかったことだ
高校生が500万1000万という金額を提示されれば目がくらむものだ
それなのに全員がお金の話しは一切しなかった
それがなにを意味するのか、きちんと考える必要がある
「掛け声は必要かな」
気付けば全員が食事を終えていた
「少なくともホースは止めておけ。罪悪感が増すだけだ」
「ありがとう」
ブルーがわざとらしく大きく息を吸ったのを合図に全員が誰かを指し示して名前を言う
全員がその手を自分の意志で下すと映し出された映像を見る
ホース 好きな色:ブラウン
ブルー 将来の夢:プロ選手
ナンバー 好きな数字:偶数
苺 好きな動物:大型犬
ウサギ 家族構成:母
鴬 好きな動物:鳥類
しかし全員誰にもなにも言わずバラバラに部屋を出て行った
監視カメラの映像が消える
今夜の夕食は少し手抜きだったから誰かの最後の晩餐にならなくて良かった
明日はなにを作ろうかな
3日目昼誰に会いに行くか
鴬 ホース