表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ナスタチウムの決意  作者: ゆうま
ルート①
3/53

ルート①2日目昼

2日目昼会いに行く人物:苺

夜中出来るだけ監視カメラを見ていたが全員が部屋を一度も、一歩も出なかった

内線を利用した形跡もない

ルールを確認したあと、全員が誰ともコンタクトを取らなかった

自分だけが動いて変に誤解されるのを避けたかった、たったそれだけの理由で全員が?

この6人、なにかおかしい


このゲームのルールはいたってシンプル

夕食を生存者全員でとり、その後1名を指名して名前を言う

外せば指名失敗、自分の情報がひとつ公開される

当たっていれば指名成功、情報は公開されない


指名に成功した際には賞金が与えられる

1名につき1000万円で、更に生き残って最終日を迎えれば死亡者数×100万円が付与される


全員で指名しないと約束すれば問題ない様に思うかもしれないが、そうはいかない

6名全員で生き残った場合ペナルティがある

個人によって違うが、大切なものが失われると聞いている

対して生き残りが自分のみだった場合、自分がほしいものが手に入る

これも個人で違う様だが、内容は聞いていない

ただ、なにを失いなにを手に入れるか、それを当人は知っている


確かに動くメリットは少ないかもしれない

だが少なくとも鴬は動くと思っていた

ルールには夕食時の指名関連のものしかないのだからホテルを出て行こうと思えば出て行けるからだ

歩いて降りられる山ではないけれど可能性はゼロではないし、ゲームをやって殺す殺されるよりましだと考えてもおかしくはない


鴬が夜中行動を起こさなかったということは仮に話し合いが行われたとしても停滞する可能性が増しただけだ

様子を見に行っても仕方がない

不安要素の多い苺に会ってみるのが良いかもしれない

少し前レストランへ向かっていたから今は食事中だろう

食事の邪魔をするのは悪いしもう少ししてから片付けに行ったのを装って会いに行こう


…と思っていたのに1時間経っても出て来ないから本当に片付けたくて来てしまった

なんでだ


「おはようございます」


苺は俺がレストランへ入った瞬間笑顔を向けて言った

まるで俺が来ることが分かっていたかの様だ


「おはようございます。食後の珈琲ですか」

「はい、待っていたので」


カップを置く、それだけの仕草が妙に優美に感じられた

これが普段の外面用の顔であり、昨日の夕食時の雰囲気は「本当の自分を出している感」を演出する用なのだろう


「なにか御用でしょうか。でしたら内線で――」

「違うんです。なにか用事があるわけじゃなくて、話してみたいなって思ったので待っていたんです。迷惑でしたか?」


危ない、裏がないと思っていたら不覚にもきゅんとするところだった

急に女子高校生っぽいところ出して来るなよ

多分役割がないとこういうキャラが定まらないことをしてしまうのだろう


しかしどういうつもりだろう

これに意味がないとは到底思えない

俺も苺と話そうと思っていたが、苺がそう思う理由が見当たらない


「わたくしも苺様とお話ししてみたいと思っておりました」

「それはゲームの進行役として?それとも」


意味深に言葉を切る

残りの言葉は想像にお任せってか

嫌なヤツだ


「どちらも、でしょうか」

「へぇ意外。ウチみたいなのとは極力関わりたくないのかと思ってたよ」


そりゃ平時の話だ


「でも嬉しいです」


ふわりとごく自然に元気な笑顔を浮かべる

確かに可愛い

だが不思議で、気味の悪い

そう思ってもしまう笑顔だ

苺はこの笑顔をどんな気持ちで浮かべているのだろう


「このゲームの意味を考えてたんです。昨日の夜、ずっと」


そんなもの俺だって知らない

それに知ったからって始まったゲームから逃げる術はない

俺だってこのゲームに囚われている身なのだから


「考えられるのは豪遊たちのお遊びか」


随分と非現実的、フィクション的な考えだ


「有権者が将来の有権者候補の実力を試してるか」


現実的な考えに飛んだな

しかもその答えに行き着くには自分が将来の有権者候補だと思っていなくてはならない

自信があるんだな

それかその立場にあるにも関わらず自信がないからそれを証明したいのか


「政府の極秘プロジェクトとか」


再びフィクション的な考えに戻り、具体性がなくなった

俺の目をじっと見て話しているということは俺が答えを知っているか、知っているならどんな方向か、それを見極めたいのだろう


「どれが一番近いと思いますか?」

「お答えしかねます」


俺だってその答えを知りたい


「そっか、分かんないんだ。分かった。ありがとう」


どうしてその答えに至ったのかきっと考えるだけ無駄だ

このタイプは人の感情というものに対して直感に優れている

どうせ「なんとなく」以外に理由なんてない

あっても確信には至らない小さなことばかりだろう

塵も積もれば山となる…かもしれないが現段階では情報が足りなさ過ぎる


「わたくしがその問いへの解答を持ち合わせていないと考えるのはご自由ですので否定も肯定もいたしません。けれど面白かったのでひとつ忠告…というよりアドバイスをさせていただきます」

「へぇ、聞かせてよ」

「その答えが見つかって、あなたの答えが合っていたとして、それであなたの望みが叶ったとします。でもゲームに勝って、生きて、ここを出なくては、それは意味を成しません。なにかを証明出来たとしても、その結果を知らせることが出来なければ証明出来ていないことと変わりません」

「だから?」

「その興味を他の参加者に向けることをお勧めします。わたくしや運営などに関してはこのゲームが終わった後でも考えることは出来ますが、このゲームに勝つことはこのゲームでしか出来ませんから」


俯いて少し思案するとぱっと顔を上げる


「そうだね。ありがとう」


その笑顔はどこか晴れた様な笑顔だった


「カップお願いね」

「はい。かしこまりました。有意義な時間をお過ごし下さい」

「ありがとう」


レストランを出て行く背中を見送って片付けを始めた

無人で済む様にバイキング形式にはなっているが毎食同じというわけにもいかない

最後の晩餐は夕食だが、彼らの内何人かは――少なくともひとりはここで人生の幕を降ろすことになる

朝食と昼食が同じバイキングだなんて、味気ないじゃないか

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ