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ナスタチウムの決意  作者: ゆうま
ルート③
18/53

ルート③3日目夜

6名が会議室Bの指定された席に座る


「今日は俺からひとつ良いかな」


全員が了承の返事をする

昨日は信頼度に甲乙をつけるのは無理だと全員が言った様なものだが、無意識の内につけてしまうものだ

毎度ここに苺との信頼の差が見える様に思える


「本当は昨日聞くべきだったんだけど」

「前置きは良い。用件を言え」

「そうだね、ごめん。俺が確認したいのは、昨日鴬が話し合いに参加しない理由を話したときに鴬が言った考えの人が他にもいるか、だよ」


全員で生き残ったペナルティを避けたい

1人で生き残ることを目標とする

この2種類のはずだ

ここに「ただこのゲームを楽しみたいという者」が含まれていないのが鴬だな

でもこのメンバーでは苺以外にそういう人物はいないだろうし、そういう素振りを見せない限り誰も指摘しないだろう


「それはどっちだ」

「どっちでも良いよ。自分の目的のためなら人を殺しても構わないと考えている、という点ではどちらも同じだからね」


手を挙げたのはナンバーとブルー


「…………昨日、守りたい、言った。……そのため、殺す、決意、ある」


ナンバーが前まで「最終日に全員が生き残っていたらひとりを本名で指名する」と言っていたのはカモフラージュだと分かってはいた

性格や能力のあまり分かっていない現時点であからさまな嘘を吐くのは避ける必要がある

だが、今回ここで明確に言葉にする必要はあるのか?


「苺が一昨日言った「殺されたくないなら殺すしかない」って、それは守りたい自分以外の誰かにも言えることだからね。ナンバーの気持ちが分からなくはないよ」


今回ナンバーはウサギより先に発言したことによって自分の言葉で意志を言ったために「誰かを守る」という目的を全員知っている

だから最終日以前に本名で指名する可能性があることを隠さなくても良い

逆にこれは「守りたい人」がそもそもここにいなかったり、気付かなかったり、危険が迫っているとナンバーが認識しなければ安全だということにもなる

危険よりも安全をアピールしたかったのか、相手に決意を伝えたかったのか、それとも他への警告か


「ブルーはどうなのかなん」

「俺は鴬と同じ考えだ。6人で生き残って失いたくないものがある。だから最終日に6人生き残っていれば本名が分かっている誰かを本名で指名する」

「鴬もそういうことだよね」

「そうよ」

「苺はあんなことを聞いたくらいだから積極的に参加するのかと思ったけど、どういう考えなのかな」


その場の全員の視線が苺に集まる


「負けたくない人がいるんだ。だからもしその人がこの中にいると分かったらその人にだけは負けない。分かってから準備してちゃ遅いでしょ?それだけだよん。基本的にはゲームに積極的に参加する気はないかなん」


苺の答えは変わらない…か

流れが違って、全員の発言が違う中、一語一句違わない

それは、嘘の可能性が高いと考えざるを得ない

今回は昼間のやり取りが関係してくるかと思ったがそうでもないらしい


「分かった。俺も出来ればゲームには参加したくないな。ウサギはどうかな」

「全員で生きて帰りたい。あんなもの、なくなってしまえば良い」


誰ひとりとして生き残りや指名成功の報酬について触れなかったことも変わらない

俺はそれだけが本当に不思議で仕方がない


ホースが言った「こんなゲームに巻き込まれる立場」の人間が城野歩の様に、なになの権力争いに参加する様な者を指すと仮定すると金には困っていないはずだから納得はいく

だが鴬は「それ」とは無縁だとホースは言っていた

金に目がくらんだとなると本名が分かった者から指名していくと思われる可能性を考えて黙っていたのか?

なんとなくだが、それは違う気がする


「つまり6人で生き残ったときのペナルティを受けたいってことなんだね」

「そこまで切望しているわけじゃないけど、なくなっても構わない。それならみんなで生きて帰ろうってこと」

「理由は少し違うけど、同じ目的の人がいて良かったよ」

「勘違いしないで。私はただ「どっちでも良い」だけ。自分が生き残りさえすれば他には興味がないから積極的に参加する気がない。そう言ったの」


ここはホースと良い関係を持っておくべきなんじゃないか?

それにこれは「自分の身が危険だと感じたら迷わず本名で指名する」と言っている様なものだ

ウサギはどういう意図があって言っているんだ


「ホース以外はその考えのはずだよね。綺麗な言葉で誤魔化さないでちゃんと言ったら?」

「そうだな。最終日前に自分が死んでちゃ俺と鴬は意味がない。なんせ失いたくないものがあるってことは帰りたいってことだからな」

「そうね。帰りたいから、そのためなら本名で指名することもあると思うわ」

「苺だって、自分が死んだら負けたかどうか分からないよね」

「うん、そうだねん。勝利に犠牲はつきものって考えの人もいるし、ウチは自分がそうじゃないって言える自信がないからねん」


ゲームが動く可能性が増すのは嬉しいことだ

だが、なんのつもりだ


「そういうことだけど、ホースはそれでも絶対に誰も本名で指名しないの」

「うん。俺は誰のことも本名で指名しないよ」

「理由は」

「後悔していることがあってね。それに関わっている子がここにいると思っているんだ。俺はその子に指名されるのを待つよ」

「罪悪感から解放されたいからってその子に多分裁かれることのない殺人の罪悪感を背負わせる気なの」

「そういうつもりじゃないよ。それなら…そうだね。もしその子がいて、俺が気付いたとするよ。そうしたら俺はその子にそのことを伝える。その次の晩、俺が生きていたらその子を本名で指名する。その子以外は絶対に指名しない。どう?」

「…………気味が悪い」


ナンバーが表情を変えたのは、もう3周目にもなるのに初めてだ

…そうか、これはウサギなりの優しさだ

全員それなりに人を殺す覚悟があるがお前はそれを分かっているのか、と問いかけた

だがホースはその優しさに意図的に応えなかった

それが「気味の悪さ」を演出している


ホースが「あんな雑多な情報で個人を特定出来るはずがないから少なくともひとりは知り合いのはず」と今回含め3度共言っている

それを全員が気付いていたとするなら「本名で指名出来る」ことを前提に話しが進んでいることも理解出来る

全員が最も少ない犠牲で自分の目的を達成することを望んでいる

つまり、全員金のことなど端から頭にない


「たまに言われるよ」


困った様な笑顔を浮かべる


「だろうな…」


ブルーがため息と共にしたコメントに誰もなにも言わない

料理を運ぶとしよう

そういえば前回、前々回は2日目に俺が部屋に入ってからこの会話がされていた

3日目にずれ込んだことで俺がいないという状況が生まれ、ウサギの指針を聞いて終わっていた話し合いが続いた

順番が変わったために話し合いが長くなったことや、もう少し突っ込んだ話しをしたことでなにか変わったのだろうか


「せーの」


今日も部屋に入って話しかけられることはなく、食事も無言のままだった

掛け声はホース

前回と同じく視線で押し付け合いをしていたらホースが突然言った

5人が慌てて位置的に指しやすい者を指して名前を言う

全員がその手を自分の意志で下すと映し出された映像を見る


ホース 好きな動物:馬

ブルー 家族構成:父・母

ナンバー 好きな色:カーキ

苺 誕生月:7月

ウサギ 趣味:紅茶

鴬 好きな数字:4


「ひとつ良いかな。これはすぐに済むから」


こんなときでもホースは笑顔だ

なにを言うかなど、この流れなら誰にでも分かる


「鴬、俺はきみの本名を分かっているよ」

「アタシもよ…」


鴬が悲し気に俯く

ホースは殺されても仕方がないと思うほど、いや、殺されたいと思うほど、後悔している

でも鴬はそんな相手のことをこんなゲームに参加しなければきっと、殺したいとも思わなかっただろう

前回は嫌悪感を持って対峙していたのは一体なんだったんだ


「考え直してはくれないのね」

「そうだね。それに鴬が俺の指名に成功すれば少なくとも鴬とブルーが動く理由がなくなるよね。そうすればナンバーと苺の心配も減るんじゃないかな。とても良い案だと俺は思うよ」


ホースの笑顔は崩れない

ナンバーと苺が自分の指針を「心配」と言われたことに少し反応する


「どちらにしても、鴬が俺を殺さないなら俺が鴬を殺すから条件は同じだよ。でも俺は生きて帰ろうとは思っていない。鴬は生きて帰りたい。どうすれば良いのかなんて、すぐに分かると思うけどな」

「…………復讐、ただの殺人、鴬、理解。……だから、嫌。……でも、帰りたい。……ホース、ずるい」

「随分鴬の肩を持つんだね」

「…………みんな、分かってる。……僕、言う、気持ち、分かる。……復讐、ただの殺人」


ホースが周囲を見回す

対峙している鴬とその少し近くにいるナンバー以外は扉付近にいて距離を取っている

これまでの状況とは打って変わってホースが孤立した


「…………これ、答え」

「そっか。でも俺の考えは変わらないよ」


ホースが距離を取っている3人の方へ歩き出す

ウサギが肩をびくりと震わせるとブルーが手を引いて扉から遠ざける


「それじゃあまた明日、ここでこの時間にね」


扉を開け笑顔で去って行く


「ブルー、ありがとう」

「あ…手、悪い」

「ううん。ありがとう」

「青春なら他でやってよねん」


茶化す様に言って部屋を出る


「悪いな」

「きっと場を和ませようとしただけだよ」

「そうだな…。戻るか」

「うん。そうだね」


ブルーが扉を開けて譲るとお礼を言って出て行き、自身も出て行く

残されたのは鴬とナンバー

まさかナンバーが守りたいのは鴬なのだろうか

そうなら随分表立って行動するんだな


「…………鴬」

「ありがとう」

「…………どうする、つもり」

「少し考えるわ。きっとホースの気は変わらないからアタシが覚悟を決めるだけよ。殺すのか、殺されるのか」

「…………本当、殺される、思う」

「うん。だからこそ、あの子はあの人が好きだったのよ」

「…………2人、違う。受け止める、必要、ない」


鴬が優しくナンバーを抱きしめる


「優しいのね。あなたが傷付く必要なんてないのよ。でもありがとう」

「…………殺す、守れる?」

「それはあなたの考え方次第よ。でもアタシは救えることはあっても守れることはないと思うわ」

「…………僕、もう一度、考える。……鴬、結論、持ってる。……でも、悩んだ」

「ありがとう。ナンバーは守りたい人が守れると良いわね」

「…………うん」


身体を離すとふわりと笑った

その表情の変化はとても小さなものだったけど、ナンバーの偽りのない笑顔だと分かった


なんだか分かった気がする

2人はお互いのことを知らない

でも2人は分かり合っている

これが今後に関わって来ることは間違いない


気が付くと監視カメラの映像は消えていて、2人の姿は自室のある棟のエレベーターの前にあった

4日目昼誰に会いに行くか

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