ルート③3日目昼
3日目昼会いに行く人物:苺
昨日の夕食会は前回、前々回と全く流れが違った
苺に会うと決めたのは良いが、苺は読めないところがある
他人に興味がないだろうと思っていたが毎度最初の話し合いについて2日目に聞くのは苺だ
苺が聞かなくても誰かが聞いただろう
だが、毎度苺が聞くということが問題だ
ナンバーが言った「守りたい人」について見当もつかない
前回、前々回とあったやり取りでブルーとホースの役割が変わった理由も分からない
ウサギの発言が多かったのは単に流れだろう
鴬の態度の変化もウサギを擁護する者が多かったからと考えれば納得出来る
苺は特に変わりない、そんな印象だ
今日会ってなにを話すのか、まだ決めていない
だが、足は苺が待っていると思われるレストランへと向かっていた
「こんにちは」
「お食事中でしたか。失礼しました」
レストランの席に座って料理の乗った皿が目の前にあれば時間的に少し遅くてもそう考えるしかない
前は珈琲を飲んで待っていたんだし朝が弱いわけではないだろう
「このお皿を片付けたら食事を終えるところだったんです。少し話しませんか?」
「わたくしでよろしければ」
良い機会ではあるがなにを話すのだろう
今までの様にこのゲームの目的についてだろうか
「良かった。じゃあ座って下さい。流石に自分が座ってて相手が立ってるっていうのは居心地が悪いですから」
前回、前々回は俺立ったままだったけど、なんか企んでるの?
そんなにコロコロ言動変えないでよ、分かんないじゃん
俺にとっては一緒に座った方が居心地悪いんだけど
「どうしたんですか?」
着席しない理由が思い付かず、言う通りに着席するという選択をしてしまう
ここで断っても大してなにも変わらないと思うけど
「あなたはクイズの答えを知ってるの」
「え?」
「あなたはクイズの答えを知ってるの」
聞こえなかったわけじゃないから
なに言ってんのって思って素で聞き返しちゃったわ
「あなたはクイズの答えを知ってるの」
どうやらこれ以外言うつもりはないらしい
冷静に考えれば「各々の本名を知っているか」という問い以外にないだろう
だがそれを聞いてどうするのだろうか
「お答えしかねます」
「あなたはヒントを把握してるの」
「それもお答えしかねます」
ヒントは公開される情報のことだろう
俺と取引でもしようと言うのだろうか
「分かりました。ありがとうございます」
なににも答えていないが、答えないことが答えになる場合もある
今のは多分大丈夫だろう
「多分みんな気付いてますよ。幼い頃の知り合いか、人を介した知り合いが最低1人はいる」
「さて、どうでしょうか」
「ウチ、小学校低学年くらいの頃すごく仲の良かった子がいたんです。でも転校して以来会ってなくて。あの頃ウチらは言葉にしなくても分かり合ってた。でも好きな数字とか動物とか色とか、そういう言葉にしないと分からないことって案外知らないなって思ったんです」
急になんの話だ
神妙な面持ちで幼少期の話をされても困る
「もしあの子がここにいたら、ウチに気付いてくれるんでしょうか。もしあの子がここにいたら、ウチはいつあの子に気付けるんでしょうか」
そんなことを聞かれても困る
俺は誰が誰とどういう関係かはおろか、誰がどういう人物かも知らないのだから
「そんなこと言われても困りますね。すみません」
素直な苺怖い…
なに、新手のドッキリ?
「どうしてこんなことをしてるの」
またこの口調
この口調のとき目がカッて開いているのに、目に生気がなくて虚ろで怖いんだよ
「それもお答えしかねます」
「分かりました」
にっこりと笑う
これまで見たことのない表情だ
「部屋に戻ります。お皿、お願いしますね」
「かしこまりました」
振り返らずにレストランを出て行く
「なんだったんだ…」
思わず呟いていた
基本的に良く分からなかったが、分かったこともある
ナンバーが守りたいのは苺だ
はっきりと「守りたい」とナンバーが発言したからなのかは分からないが、今回明らかに態度が柔和になっている
恐らく苺もさっき言った仮定から推測して見当は付いていたのだろう
そしてナンバーの発言
俺はその発言をしたとき「守りたい者」がそもそもいない場合、と考えた
だが、ある程度の確信がなければそんな発言するはずがなかった
常に周囲にアンテナを張っていて、危険があれば本名で指名してくると全員が認識してしまうのだから
だがメリットがひとつだけある
その相手に自分は味方だと伝えることが出来ること
それが同時にデメリットでもある
相手がナンバーを「どうでも良い」と思っている場合だ
だがこの苺の態度を見るとそうではない様で良かった
たったひとりを思ってしたリスクのある言動が報われないなんて、悲しいじゃないか




