ルート③2日目昼
1日目夜の指名失敗ペナルティとして開示する情報をどれにするか
A B C → C
2日目昼会いに行く人物:ホース
本当にまた同じところから始まった
強くてニューゲームだ
何回出来るのかは分からないが今度こそ勝つ
もし勝てなくても話しかけられた時点で質問すればきっと質問は出来るはずだ
多分「あいつら」ならある程度のことは答えるだろう
今回は2日目にホースに会いに行く
駆け引きの材料を得る前に会いに行ってしまおう、という作戦
あまり作戦という作戦ではないけど
早い段階からホースの部屋がある東棟2階のエレベーターホールの監視カメラを見ていた
今回も展望ラウンジにいる
毎回、毎日展望ラウンジにいるのか?
どこまでも木々が並ぶ光景を見てなにをしているのだろう
飽きはしないのだろうか
「こんにちは」
「こんにちは。こんなところに、どうしたんですか?」
これまでと問いが違うのは単純に俺が掃除道具を持っていないからだ
あれ意外と重いし引っ張り出すの面倒だからもう止めた
「ただの見回りございます。ホース様こそここでなにをなさっているのですか」
「歩いて降りることが本当に無理なのか、確認したかったんです。車で来たとき目隠しをされていたわけではないので景色や道は見ていました。だから無理だと分かってはいるのですが…」
「諦めるのは早計だと考えられていらっしゃるのですね」
「いえ…、正確には「考えていた」です」
ホースは最初友好的に話しをして途中話題を変えてくることが多い
いくら情報の少ない現時点だからと言って油断してはいけない
「途中で道が見えなくなっています。それでは脱出の提案をすることなんて出来ません」
小さく首を振って俯く
「仮に脱出しようとしたとします。この山道を1日で降りるのは不可能ですから野宿しなくてはいけません。野生の動物は必ずいるでしょう。自分の命をかけても守れない可能性の方が高いです」
「ご自分の命をかけて守るつもりが、おありなのですか」
「はい。恥の多い、とまではいきませんが恥ずべき人生でした。人を救えるのなら、それも良いかと思っているんです」
2日目は毎回こんなことを考えているのか?
人のために自分の命を差し出す…
それを美徳考える者は多いだろう
だが実際に行動に移せるかと聞かれると尻込みする者が多いのは事実だ
感覚でしかないが、ホースは本気だ
「ご自分を殺そうと考えている方がいても、ですか」
「はい」
「もし誰かの名前が分かったとしても、ですか」
「はい」
ゆっくりと穏やかに微笑む
「恥の多い、とまではいきませんが恥ずべき人生でした。とさっき言いましたよね。指名されるのなら、そういう運命だったんですよ」
「恥ずべき点がない人なんていませんよ。むしろそう自覚していないことが恥ずべきことです」
「そうかもしれません」
ループした記憶のない者が同じことを言うのは分かる
だが俺には記憶がある
それなのにどうして同じことを言ってしまうのか
その流れになることを避けられないのか
「気付いていますよ」
まさかこの時点で
「なにをでしょうか」
「あんな雑多な情報で人を特定出来るはずがありません。少なくともひとりは「ある程度深い関係」なんですよね。どうして俺に会いに来たんですか」
「偶然ですよ。招待者の基準についてお答えすることは出来ません」
「そうですか」
この時点でホースが気付いているということは鴬も気付いている可能性がある
それでも2人は苺に方針を問われてあんな回答をしたのか
最終日に全員が生き残っていれば指名するけど出来ればしたくない
嫌悪感を持つ相手に鴬はどうしてそんなことが出来る
俺が感じた嫌悪感を持っている、という前提が違うのだろうか
それを感じたとき俺は場を乱さないためだと思ったはずだ
場を乱せば他に自分を分かる者が気付いて指名してくるかもしれない
それを避けるためだと
違うのか?
ホースにだって指名する理由は十分ある
罪悪感から逃れたいとか死にたくないとか
死にたくないというのは今の会話で否定されている様なものだが、もしこれが1回目の1日目なら相手の言葉を鵜呑みにすることはないだろう
俺を欺くための台詞だということも視野に入れるはずだ
待てよ、俺のアドバンテージは今回よりも前の記憶があることだ
なにも「俺の考え方」をしなくても良い
そうか、だから俺は同じことを言ってしまうし、自分の力で流れを大きく変えられないのか
「そう思われたということはどなかた見当が付いている方がいらっしゃるのですね」
「そう考えられても仕方ない質問でしたね」
小さく微笑んで俺を見るがすぐに俯いてしまう
「もし「あの子」がここにいるのなら、それは俺のせいです。俺が巻き込んでしまったんです。本来こんなゲームに巻き込まれる立場の子じゃない」
どうしてホースはそんなことを俺に…
1日目だから警戒心が薄いなんてことあるか?
今までにない流れだ、ここは素直に「俺の考え方」で返事をした方が良いんじゃないか
「お願いがあるんです」
「一先ずお聞きいたしましょう。わたくしに可能でしたら考えさせていただきます」
「ありがとうございます」
前回、前々回よりも態度が柔和だな
裏があるんじゃないかと思ってしまう
「もし俺が指名されてそれが成功したら、その人を守って下さい」
「それは…」
「言い方を間違えました。守る努力をすると、嘘でも良いので言って下さい」
指名に成功、それは死ぬということだ
自分が死んだ後のことを心配しているのか
いや、嘘でも良いということは出来ないということを認識しているのだろう
だが、それでも、「約束を聞きたい」んだ
「ホース様を指名出来るのは先ほど巻き込んでしまったと仰られた「あの子」だけだとお考えなのでしょうか」
「違うかもしれません。でも良いんです。この約束は嘘なんですから」
やっぱり出来ないと思っているんだな
確かに夕食会で誰かひとりを守ることなんて出来ない
だけど
「―――俺には全員を守ってみせるなんて言える技量も頭脳も知識も運動能力も正義感も自信もない。だけど、出来れば全員を守りたい。その気持ちだけは、絶対に嘘じゃない」
「信じます。だから泣かないで下さい」
困り顔に優しい笑顔を浮かべて俺の頬に触れると親指を動かす
それで初めて自分が泣いているのだと気付いた
「あなたにはあなたの事情があって、どうしても今の役目をやらなくてはいけない。それが分かって、だから今の言葉で十分です」
どうしてホースはこんな立場のヤツにまで優しいんだ
例え事情があろうとも、自分たちを殺そうとしているヤツの仲間なんだぞ
「俺は部屋に戻りますね」
「ありがとう。…ごめんね」
「いいえ、俺はなにも。それに、約束してくれたじゃないですか」
にっこりと笑うとエレベーターに乗り込んだ
「でも、俺はきみを殺すよ」
もう誰もいないエレベーターホールに向かって、小さく決意を口にした




