2
ピンポーン
ジリリリリリ
隣同士のインターホンを同時に鳴らす。
「なんか楽しい。ねぇ、お兄ちゃん。もう一回」
「やらないよ」
ぷくっと膨れた那美の頬をつつくと、それと同時に【黒瑞】のインターホンがまた押される。
ピンポーン
「そんなに鳴らさなくてもわかってるって」
「えへ」
那美は頬に指を突き立てられたまま扉から顔をだした葛実に手をふる。
「おはよう。カズミちゃん」
「おはよう」
「おはようございます。お世話になります」
親同士が挨拶をしていると隣の家からゆつなが顔を覗かせた。
「おはよ…」
眠そうなゆつなに那岐は眉間に皺を寄せる。
「もしかして今起きた?」
「いや、さっき」
「寝坊か」
「とも言う。うー眠い」
欠伸を噛み殺しているゆつなに那美が笑った。
「車で寝ればいいよ」
「ナミが煩くて寝れないかもな」
「静かにしてるもん」
「さあ、どうだか」
3列シートの後ろに那美と葛実を乗せ、那岐とゆつなは真ん中に乗り込む。
「それじゃあ出発するよ」
「はーい」
「運転よろしくー」
「安全運転でお願いします」
走り出した車の適度な揺れと、前日までの疲れで那岐はゆつなより先に寝入ってしまった。
目を覚ますとそこは山だった。
「あ、お兄ちゃん起きた」
「おはよ」
「…ここどこ?」
くねくねと走る道は車がすれ違うのが困難なほど細い。目的地はこんな山を越えて行くところではなかったはずだ。
「迷ったんだって」
「何で?」
「わからない。気付いたらこんな山に入ってた」
「カーナビは?」
同じく起きたばかりで眠そうなゆつなの声に運転していた父親が地図を持った手で頭を掻く。
「昨日壊れたんだよね」
「じゃあケータイで…あ、ダメだ圏外だ。ナギは?」
意味ないのに携帯を振っているゆつなを横目に鞄を漁っていた那岐は目的の物が見当たらないのに首を傾げた。
「ケータイ忘れたかも」
「なにそれ」
「充電したまま置いてきたみたい」
「なにやってんだ」
「まあ、迷子にならなきゃ大丈夫か」
とはいえ、今が現在が大丈夫ではない。
「父さん達のケータイは?」
「圏外よ」
ゆつなの携帯会社は山では電波が届きにくいと有名なのだが、両親のも圏外では諦めるしかない。
「まあ、道はどこかに続いてるんだし、このまま行けばどこかに着くよ。ほら、すべての道はローマに通ずって言うし」
ゆつなの格言紛いに後ろの2人が首を傾げる。
「ゆーくん。それどういう意味?」
「そのまんまの意味だよ」
「わかんない」
「ローマって?」
「えっと…ナギ、めんどくさい。パス」
解答を押し付けられた那岐だが答えるまで那美に捕まれた襟首が解放されないのを悟った那岐はゆつなを睨みながら答える。
「昔、ローマ帝国っていう大きな国があって、全部の道がそこに繋がっていたっていたってこと」
「じゃあこの道ずっと行ったらローマに行けるの?」
予想していた葛実の言葉に那岐はあっさり答える。
「ムリだと思う」
「え、何で」
那岐の言葉に食いついたのはゆつな。
「頑張れば行けるって」
「島国を舐めちゃならんで」
「今の文明の時代こそ舐めるな、だ。飛行機は空の道だ」
「じゃあ行ってきて」
「意味わかんない」
言い合いをしている2人を尻目に父親は車を走らす。
道は一直線で、枝道もUターンする場所もない。
「まあ、遊園地はダメかもしれないけど、ドライブでもいいか?」
「えーっ」
「ヤダー」
「ナミ、煩い」
耳元で叫ばれ、耳を塞ぐ。
「何もないよりはいいだろう」
「ヤダヤダヤダー」
「どうせ、クラスの皆に遊園地行くって自慢したんだよ」
頬を膨らませてそっぽを向くのを見ると図星らしい。
「楽しみなのはいいけど、自慢はほどほどにね」
「お兄ちゃんのバカー」
「え? 何でオレに…」
「気分だもん」
「気分で叫ばないでくれ」
曲がりくねってあまりスピードのでない道を走る車は賑やかである。